居候している幼馴染が神様になるというので人生計画を見直すことになりました 作:公序良俗。
バベルの塔と読みます。
「そうだ。街を出るんだから折角だしアナイさんに挨拶して行きましょうよ」
「うーん…まあ義理としてはそうだが…こっちではアナイさんは公務員として働いてるわけだろう。急にお邪魔して迷惑にならんかね」
「お昼時に会うんなら大丈夫でしょ。もしかしたらお昼ご馳走になれるかもしれないわよ」
「本当の目的はそっちだったか」
「情報収集のついでだし…」
「まあ観光部門みたいなとこありそうだし中央に行くのも悪くないか」
「やったあ」
というわけで初日以来となる塀の内側へ行くことにする。初日は文字通り右も左もわからないまま取り敢えず歩いていたので何があったかはちゃんと見ていなかったが、キャッシュレス推進なる部署があるなら他の部署もあるはずだ。
「ほんっと迷路みたいね」
通路の整備された城下町とは違い、塀の内側は複雑に入り組んでおり簡単に辿り着けるようなものではなかった。最初に入ったところもまずかった。行くのがめんどくさかったというので初日に使った西門からではなく、一番近かった南門から入ったので見るもの全てが初見なのだ。
「迷子になりそうだわ…」
「というか…これもうほぼ迷子だな」
右も左も前も後ろも白い壁。中央で働く職員達も覚えているのさえ怪しい。せめて俯瞰出来れば分かりやすいのだが。
「せめて上から見たら分かりやすいのにねぇ…」
「…なんでこっちを見るんだ」
「安心しなさい。ちゃんと受け止めてあげるから」
「まさかお前…おい、やめ、やめろぉぉ!」
「そーれ!たかいたかーい」
「ぎゃぁぁぁ!!」
ハンマー投げの要領で上に放り投げられる。以前も似たようなことをされた記憶がある。そのときはまだ脇を抱えて真上に投げる行き過ぎたたかいたかいだったが今回はもう滅茶苦茶である。周囲の建物よりも高く、中央の塔の半分くらいの高さまで上がるとそこから下降。えっと、空気抵抗と自由落下のスピードが釣り合うのは…違う、まずは、え?何すれば良かったんだっけ?ああああああああぁぁぁ…
「そーれおかえり~」
あっという間にミワに受け止められ地面に足をつけることになった。よく怪我ひとつせずに帰って来られたものだ。
「どう?」
「…何が?」
「道は分かった?」
「分かるか!一瞬だぞ!」
「もうちょっと高い方が良かったかしら?」
「そういう問題じゃねえ!」
「ごめんね…高いところ怖かったかしら?」
「いや、恐怖とか感じる以前の問題だから」
「着地は任せなさい。ちゃんと速度と衝撃を殺して受け止めてあげてるから」
「射出をどうにかしてくれませんかねえ!」
「普通のたかいたかいみたいな方が良かった?」
「投げるのを辞めてもらえませんかあ!?」
結局道は分からないままだが取り敢えず中央の塔を目指して歩くことにする。ミワの斜め後方3mをキープしながら。
「なんでそんな離れてるのよ」
「別に」
「……(ズイ)」
「……(スッ)」
「……(ズイ)」
「……(スッ)」
「離れてるわよね」
「気の所為だろ」
「……(スッ)」
「……(ズイ)」
「……(ズイズイ)」
「……(ススッ)」
ミワが一歩近づくとそれに合わせて一歩下がる。一歩下がると一歩近づき、二歩近づくと二歩下がる。
「なんで…」
「また投げられたらたまらん」
「しないわよ」
「いーや信用ならんね。2回も投げられてるんだ」
「……?」
「記憶にないみたいな顔しやがって…」
「記憶にないわね」
「記憶にないって顔しやがって…」
「それより早く行かないとお昼ご飯にありつけないわよ」
「たかる気満々かよ」
「いっその事、お城に向かって一直線に進まない?道がなければ作ればいいのよ」
「塀を突っ切るのか?」
「そんな大事になるようなことじゃなくて、トヒの窓で空中に道を作るの。そうすれば楽ちんでしょ」
「結構大事になりそうな気がするんだが…」
「大丈夫、大丈夫よ」
取り敢えず階段状に窓を展開して塀の上まで登る。ある程度先までの道は見えるがこうして見ても結構複雑な道が続いている。
「じゃあそのまままっすぐ行きましょう」
「了解」
向かいの塀の方へ窓を展開する。下手に踏み間違えて落っこちたら無事では済まない。
「気を付けろよ」
「」
次の塀まで渡り切る手前でミワに声をかけるも返事が帰ってこない。聞こえなかったかと振り向くとまだ一歩も踏み出していないミワの姿が向かいの塀の上にあった。
「どうした?」
「…改めて見ると高いわね」
「そうか?2mちょっとくらいのもんだろ」
「…このスケスケ感が堪らないわ」
「まあスリルは味わえるかもな」
「…怖いから毎ターン地面に下ろしてくれない?」
「人を上空に放り投げておきながら…」
「誰も私を受け止めてくれないじゃない!」
「わかったわかった」
自分で言っておいて怖いのか。でもミワは塀の上や屋根の上くらいならスイスイと歩いていたような気がするのだが。
「これだったらどうだ?」
高さを変えずにすりガラスにしてみる。こうすれば足場から下が見えにくいのでいけるかもしれない。
「…まあまあね」
「どうなんだよ…」
「頑張ったら行けるかも」
「じゃあ頑張れ。変に落ちない限りは大丈夫だから」
「落ちるのが怖いんじゃなくてこの見下ろす感じが怖いんだけど」
「何でだよ…昔は高いところ普通に大丈夫だったじゃないか」
「若気の至りよ」
結局ミワの注文通り階段状に展開することに。高さを変えるだけなので労力は変わらないのだが時間を無駄にしてるような気がする。
塀を一つ、また一つと越えていき段々と中央が近づいてきた。今のところ人を見かけていないのでまだ昼時ではないようだ。この調子で行けばアナイの昼ご飯に間に合いそうだ。
「そろそろ普通に歩くか」
「そうね…その方がありがたいわ…」
「自分で言ったんだろう…」
「自分で言った手前やめたいって言えなかったのよ。今もう身体中汗ビッショリよ」
「無理なら無理ってハッキリ言ってくれれば良かったのに」
「私も大人になったのよ…」
「妙なプライドが身に付いただけじゃないか」
塀の上から見た限り、塔へは迷わずに行けそうだ。しかし目標は塔ではなくアナイの居る場所。何処に勤めているかも分からないため教えてくれる人なり案内板なりを見つけないといけない。
「地に足が着くっていいわね…」
「そうだぞ。公務員みたいな堅実な生活っていいもんだぞ」
「物理的な話よ?」
「なんだ」
「私はこのまま試練に合格して神様になるんだから」
「と言ってもまだ一つしかクリアしてないけどな」
「私、1日に何個もポンポン降ってくるものだとばかり思ってたわ」
「いやいや1日1個でも2ヶ月かかるんだぞ?全国一周して各地で試練をクリアしていくんだからそんなに乱発されると後々味気ないだろう」
「確かにそうね…そう考えると初めの街ってことで試練が一つしかないっても頷けなくはないわね」
「クリアの秘訣は歩くことってわけだ」
「ま、開始早々色々とピンチなんだけどね」
「それを言われるとぐうの音も出ない」
「私はさっきからずっと鳴ってるけどね」
「腹減ってるだけじゃねえか」
ようやく塔の足元へ辿り着く。下から見るとまあそれなりには高い。高天原の鳥居には到底及ばないが。だが異様なことに警備をする者が見当たらない。仮にもこの国の最高機関なのだからそれなりの警備体制は敷かれていて当然なのだが。
「取り敢えず入ってみましょうか。こんな感じのお城は初めてなのよね」
「取り敢えずで入っていいところなのか?」
「通れと言わんばかりに門が開いてるんだから通ってあげないと門が可哀想よ」
「別の人が通ると思うけどなあ」
門をくぐってしばらく歩くと塔の入口が現れる。ここも同じくして警備はされていない。
「閉まってるな」
「呼び鈴とかないのかしら」
「無さそうだな」
「こうなったら力ずくでいくしかないわね!」
「やめろって」
ミワが力を込めて押したり引いたりするものの、扉はビクともしない。
「…開かないわね」
「マジか。そんなに重いのかこれ」
「なんかこう…重いとかそういうのじゃなくて…」
「じゃなくて?」
「んー…招かれざる客…って感じ?」
「ほう…」
「正面が無理なら裏から…」
「一応回ってみるか」
外壁をぐるりと一周する。出入口のようなものどころか窓の一つもない。消防法は守られているのか。
「ダメね」
「上から行ってみるか?」
「無理でしょうね…そんな気がするわ」
「ほう…」
「戻りましょう。私達にはまだ早かったのよ」
やけにミワが素直というかいつものミワではない。塩らしいというか何かを悟った、そういう感じのものである。
「あれね、例えるなら拝殿に居るみたいな気分ね」
「そんなにか」
「それ以上よ。うちは本殿が無いでしょ?それ以上の例えが思いつかないの」
「そういう感じのやつだったのか?」
「そうねえ…遺伝子レベルってこういうときに使うのかしらね。血がざわつくというか」
「ふーん…特に何も感じなかったけどな」
「直接触るまでは何ともなかったのよ。ただ触った瞬間、これはダメ、入っちゃいけないって感じがしたのよね」
「不思議なこともあるもんだなあ…今更か」
「こんな代物が街の中心に建ってるってどんな街なのよ、全く…今更だけど」
「まあ今は他を当たろう。そろそろ人も出てくる頃だろうし」
「そうね…早いとこアナイさんを見つけないとね」
入ってきた門を再びくぐり、取り敢えず西を向いて歩く。ちらほらと歩く人も出てきたので昼時になったのだろう。初めてこの世界に飛ばされて初めて外に出たときが13時頃なので今から1時間ぐらいが勝負だ。
「すみませ〜ん。キャッシュレス推進課みたいなところってどこですか?」
ミワが往く人を適当に捕まえて所在を尋ねる。
「キャッシュレス推進課?聞いたことがないですね」
「そうですか…お手間お掛けしました」
「いえ、お力になれず申し訳ありません」
「すみませ〜ん」
が、キャッシュレス推進課というワードに反応する人は居らず、皆知らぬ存ぜぬばかりである。
「ダメみたいね」
「現物見せた方がいいんじゃないか?」
「その手があったか!」
「なんであるかもわからない部署を尋ねるんだよ」
「わかってたならトヒの方でも聞いてくれればいいのに」
「その現物が無くてな」
「あら~…」
札を見せて担当の部署が入る建物を教えてもらう。聞いたとおりに行くと見覚えのある通りと建物が見えてきた。まさにそこは初めてこの世界で見た景色だった。
「到着!」
「アナイさん居るかな」
「受付のおねーさんに聞いてみましょ」
受付ではいつぞやの受付嬢がポっ〜と宙を見つめていた。もうすぐ休憩の時間でお昼に何を食べるのかでも考えているのだろうか。
「こんにちは〜」
「ひゃ、ひゃい!本日はどうひゃれました!」
「……」
「……」
「…本日はどうされましたか」
「…あ、あの、アナイさんいらっしゃいますか?」
「面会のご予定はございましたか」
「いえ」
「確認致しますので少々お待ち下さい」
何食わぬ顔で業務をこなす受付のおねーさん。突っ込んではいけない雰囲気なのでこちらもスルーして話を進める。
「お待たせ致しました。ただいまアナイは在館しております」
「取り次いで頂けますか?」
「お名前とご用件をこちらに」
「…はい。お願いします」
「では少々お待ち下さい」
受付嬢がチリリンと鈴を鳴らすと奥から子供が出て来る。紙を渡して二言三言交わすと子供はトテテテと奥へ戻って行った。
「雇ってるんですか?」
「ああ、あの子は私の姉の子です。訳あって預かっているのですが私もお仕事がありますから。昼間はここで面倒を見ているんですよ」
「なるほど」
「小さいのに素直でいい子ねえ…」
「ええ、大きくなったら私とここの受付するんだって言って頑張ってます」
「イイハナシダナ-」
「公的機関なのに結構緩いんですね」
「福利厚生も大事な時代ですから」
「なるほど…」
そうしているうちに子供が戻ってきた。着いてこいということだそうだ。受付のおねーさんに挨拶して着いていく。部屋の前に着くとお辞儀をしてまたトテテテと戻って行った。
「ありがとうね~」
ミワが背中に声をかけるとくるりと回ってもう一度お辞儀をして去っていく。
「いい子ね~」
「昔のミワを見てるみたいだ」
「なんでよ」
「昔は巫女の真似事をしていただろう。そういえば絶対に巫女になるんだって言って聞かなかったよな」
「そんなこともあったかしらね…大人たちもわざわざ子供の戯言に付き合う必要なかったのよ。無理だのダメだの言うから意地になってたのよきっと」
「引き合いに出されたこっちはどんだけ肩身が狭かったことか」
「悪かったわよ」
扉の前で思い出話に浸っているとガチャっと扉が開きアナイが顔を出す。
「あの…外で立ち話もなんですし…入りませんか?」
「あ、すみませんお邪魔します…」
「お邪魔しま~す」
はたから見たら客を扉の前で待たせているようにしか見えない。そう思われてはアナイの顔に泥を塗るようなものだ。そそくさと部屋の中に滑り込む。
「どうぞお座り下さい」
「失礼します」
「それで…どういったご用件でしょう」
「近いうちにこの街を出るのでご挨拶をと思って」
「それはそれは、わざわざご丁寧に」
「つきましては少し周辺地域についてお聞かせ頂けるとありがたいのですが…」
「私からどこまでお教えしていいものかわかりませんが…そうですね、お聞きになったことに答えていく形にしましょうか。答えられないこともあるとは思いますが多少はお力になれるかと」
「ありがとうございます」
「そういえば昼食はお済みですか?もしまだでしたら食べながらお話ししましょう」
「まだです!お腹ぺこぺこです!」
「急に大きな声を出すなよ…」
「ははは…では少しお待ちを」
アナイが部屋を出ていく。何か買ってきてくれるのか、もしくは出前の注文をしに行ったのか。とまれ今日の昼ご飯にはありつくことが出来た。
「計画通りね」
「神様に対する態度じゃない」
「何が出てくるのかしら…やっぱりいいものが食べれるんでしょうねえ…」
「ダメだ食うことしか頭にない」
緊張している身体が解れる間もなくすぐにアナイが帰ってきた。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
「わかりました。今行きます」
「ここで食べるんじゃないのね」
「まあ仕事部屋だろうしね」
部屋を出て館内を歩いていると美味しそうな匂いが漂ってきた。なるほど、食堂が併設されているのか。
「ここはうちの館にある食堂です。他の館にも食堂があって民間人や別の館で働く者も食べることが出来るんですよ。それぞれにそれぞれの特徴があるので休日にはグルメツアーなんかも組まれたりしています」
「へえ…」
「まあ私は普段従業員割の利くここでしか食べませんがね。キャッシュレス…この札で割引があるのもこの館だけです」
「もしかして各館の特徴って…」
「はは、これは別枠です。さて、何にしますか?折角ですのでご馳走しますよ」
「いいんですか!?ありがとうございます~」
「ありがとうございます」
さも期待していなかったかの様に振る舞うミワ。かなりの役者仕草だ。
「何にしようかしら…」
「この○○うどんってのは蕎麦に変更出来たりするんですか?」
「出来ますよ。それ系だとお勧めはおろし月見とろろ蕎麦ですかね」
「あ、じゃあそれで」
「ミワさんは?」
「お肉が美味しいのってありますか?」
「そうですね…猪のすき鍋なんかは人気ですね」
「美味しそう!それでお願いします!」
「わかりました。あちらに席を用意させたのでお待ち下さい。私は注文してきますので」
「はい、ありがとうございます」
アナイの示した場所は内庭に面した明るい4人がけ席だった。街の飯屋とは違い内装にも気が使われており雰囲気を楽しむような趣向も凝らしている。
「神都の高級レストランとはまた違った感じねえ」
行ったことがないので知らないが。
「それにしても結構混んでるのね」
「昼時ピンポイントなんだろうな。アナイさんが先に席を用意してくれてなかったら座る場所もなかったかもしれん」
「何はともあれ今日のお昼にありつけた事に感謝ね」
「そうだな」
「お水はセフルかしら」
「さあ…」
勝手がわからないので取り敢えず座っていると湯呑みとおしぼりが運ばれてくる。きちんと3つあるので情報は行っているのだろう。
「お待たせしました。料理が来るまで少し時間がかかるそうなのでその間に話を進めておきましょう。まずお聞きしたかったのですが数日この世界で暮らしてみてどうですか?なにぶん、民間一般人の転送は初めてですから私個人としても気になっていたんですよ」
「今のところはまだ不便を楽しんでいるといったところですね」
「なるほど、ミワさんは?」
「そうですね…手の届くところに娯楽があまりないので自分自身を見つめ直す時間が増えましたね」
「そうですか。本格的に居を構えないと娯楽を楽しむ余裕もないですからね。現代人にとって電気が使えないというのは不便さと娯楽、両方に通じる部分がありますね。私もこちらに初めて来た時は自分の力を全く活かすことが出来なくて途方に暮れていましたよ」
「確か…電子マネーの…」
「未だに物々交換でやり取りが成り立っている現物主義のこの世界でどうやって数字の変化だけで取引が行われていることを理解してもらうかが大きな課題でしたね。最近はようやく一部で普及してきましたがまだまだ道のりは長そうです」
「そういえば思ったんですけど、どの店が対応しているのか外から見分ける方法ってあるんですか?」
「そういった声があるのは承知していましてね…現在検討中なんですよ」
「店先につける何か目印のようなものを配ったりとかは…」
「導入している事業者がまだ少なくそこに対して公金を投入していいのか、という意見もありましてね。最もな意見です」
「アナイさん以外はこちらの住人ですよね?現実世界でも通用しそうですね、その人」
「聞いている限りではそうです。どの時代にも大衆とは違った目線を持つ者もいるという訳ですね」
「なるほど」
人はどうして高いものを建てたがるんでしょうねえ。