居候している幼馴染が神様になるというので人生計画を見直すことになりました 作:公序良俗。
買い物から帰ってきて漸く晩ご飯にありつけた。ミワも流石に落ち着いたのか普通に箸を進めている。あれだけの高カロリーを摂取したのにも関わらずいつも通りの量の食事を食べているのだ。容器は可愛いから取っておくらしく洗って乾かしてある。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
「寝るにはまだ早いわね」
「食べて直ぐ寝るなよ」
「じゃあ作戦会議しましょう」
「作戦会議?何の」
「トヒのスキルよ。私にあってトヒにないわけないのよ。アマノさんも言ってたじゃない」
「あー」
「せめて私のスキルを受けられるくらいのものを考えないとね」
アマノの説明が終わったあともう一度映像を見直したのだが、これがもうなかなかのもので、画面を操作すると見たいところが見たい距離で見たい角度から見れるのだ。巷には360度カメラというものがあるらしいが、カメラの映像を見ているというよりも自分の手の上で掌サイズの物を観察しているような気分だった。そこで見たミワのスキル…指から放たれた見えないエネルギーの塊。アマノはイメージだと言っていたが、どんなイメージをしたらあんなのが出せるんだ。取り敢えず食事の後片付けをする。その間にミワが布団を敷いてノートと鉛筆を用意する。やる気があるのは結構なことだが、熱しやすく冷めやすい性格のミワ。飽きが早くに回ってこないかが心配だ。
「それでは、第一回『トヒの必殺技を考える作戦会議』を始めます。拍手」
「必殺なのか」
「拍手!」
「わーぱちぱち」
「はあい!という訳なんだけど、何かない?」
「丸投げかよ」
「私が考えてもいいんだけど、それじゃあトヒのものにならないでしょ。それにイメージが大事だってアマノさん言ってたじゃない。自分で考えないとイメージもしにくいでしょ」
「んー、道理だな」
「まあいきなり何もなしでやれっていうのも無茶な話だと思ったからこそ、これがこうしてある訳で」
「お絵描きでもするのか?」
「中らずと雖も遠からずね。文字を書くのよ」
「普通だった」
「そりゃ筆記用具なんだから…」
「まあそうか。で、何を書くんだ?」
「思いついた必殺技の技名、効果を書いていくの。イメージ図なんてのもあるといいわね。後はイメージを固めていって練習あるのみよ」
「ふーん…ミワもやるのか?」
「あ、いや、私は」
「ん?」
急に尻込みをするミワ。これは何かあるやつだ。少し遊んでやろう。
「人にやらせといて自分はしないのか?」
「なんと言うか…ほら、私は既にあるし」
「何もスキルは一つしか使えないって決まったもんじゃないだろう?一緒に考えようじゃないか」
「それは…それはトヒ用のやつだから、私はいいのよ」
「ミワ用のがあるのか」
「え?いや、まあ、うん…」
「見せて欲しいなあ。参考になるだろうなあ」
「そんな…他人様に見せるようなものじゃ…」
「えーと…『こんでんえいねんしざいほう?』だっけ」
「やっぱりそれだったのね…」
どうやらミワ。前々からこういうことを考えてノートにまとめていたらしい。14歳の少年少女の罹患率100%の病に今も尚侵されているようだ。
「親にも見せたことないのに…」
「親が見たら泣くだろ。さ、もうバレてるんだから見せろよ」
「いや…まだよ…まだ全部がバレたわけじゃないわ!絶対に見つからないところに隠してあるもん!」
「めんどくさいなあ…」
この後に及んで何を言っているのか。隠すも何も家主を差し置いてそんなことができるわけがない。内見の際に全ての部屋は細かく確認しているし、家具も実家で使っていたものをそのまま持ち込んだ。この勝負、負ける気がしない。
「取り敢えずここからいくか…」
木を隠すならということで、文庫本なら縦三段奥二列入れることができる本棚と雑誌系が縦に二段入る本棚。B5のノートを文庫本に紛れ込ませることは難しいだろう。雑誌は殆ど買わないが昔に使っていた大きさバラバラの教科書が並んでいるので、隠すならこっちは隠しがいがありそうだ。まあ、ノートがB5ではない可能性もあるが、さっきミワが持ってきたノートはB5だしそのときはそのときだ。
「一応提案なんだが、時間かかるし無かったら無いって先に言ってくれないか?」
「言うわけないでしょ」
「だよな」
結果はハズレ。一冊一冊取り出して中も調べたがそれらしいものはなかった。ミワも「懐かしいわねー」なんて言いながら一緒に見ていたのでそんな気はしていたが。
「諦めなさいよ。見つかりっこないんだから」
「いやなに、この際断捨離でもしようと思ってな。全部ひっくり返す覚悟だ」
「そこまでのものでもないでしょ…」
「まあ言う気がないなら黙って見てろ。今日中に片を付ける」
「ま、精々頑張りなさい」
クローゼットに食器棚、お飾りの鏡台、風呂場の天井裏に至るまで全てを調べたが見つからない。風呂場に行ったときなどミワから「流石にそこには隠さないわよ」と言ってきた。
「もういいでしょ?無理よ。私しか知らないところに隠したんだから」
「あ、わかったぞ」
「え?」
「ここだな」
「化粧台はさっき見たじゃない」
「ちょっと忘れてるところがあってな」
一番下の引き出しを全開。途中で止まるので全部出すことはできないが、構造的にちょっとした空間ができる部分がある。それこそちょうどノート一冊分くらいの。
「あった」
「…」
「普通のノートだな。もっと禍々しいと思ってた」
「なんでわかったの…」
「わざわざ教えてくれたんじゃないか」
「何も言って…あ」
この鏡台も実家から持ってきたものだ。幼い頃は化粧などしないのでただの小物入れとして使っていた。聞いた話だと誕生祝いに遠戚がくれたものだとか。因みにその人とは会ったことはない。
「昔、誰にも見つからないところがあるのって得意げに教えてくれたよなあ?」
「数年前に掘った穴に今更はまるとは思わなかったわ…いいわよ、煮るなり焼くなり好きにしなさい」
「そんなことしたら読めないだろ。ほら、自分で見せれるとこだけ見せろ」
「え?見ないの?」
「人の黒歴史なんか見たくないわ」
「くっ…これが蛇の生殺しってやつなのね…わかったわよ…」
とうとう観念したのか素直にページをめくりこちらに向ける。
「技名『墾田永年私財砲』効果『何か響きがかっこいい。相手は死ぬ』こんなの人に向けて撃ってたのか」
「その節はよくぞご無事で…」
「技名『大火の海神』効果『海で大火事って何か面白い。相手は死ぬ』どちらかと言えば火事場に海神が居そうだけど」
「冷静に考察しないでくれるかしら」
「技名『十七乗拳法』効果『君が!泣くまで!殴るのを!やめない!相手は!』高橋名人もびっくりだ」
「久しぶりに聞いたわよその名前」
「一番何するかわかりやすい技だったと思います」
「だから冷静に講評するのやめなさいよ」
「相手は…何なんだ?」
「あ、多分書き忘れね…ちょっと貸して」
「死ぬんだ」
「必殺技だもの」
そういうものなのだろうか。
「じゃあ1つずつ披露してもらおうか」
「へ?」
「何呆けた顔してんだ」
「なんでそうなるのよ」
「イメージが大事なんだろう?実際に見たらイメージも湧くだろうなあ」
「胸元を見やがって…」
「足だろ」
「仕方ないわね。毒を食らわば、よ」
「なんか悪いことしたのか…?」
ミワのこうげき!
「『墾田永年私財砲』!!」
しかし なにもおこらない
「『大火の海神』!!」
しかし なにもおこらない
「『十七乗拳法』!!」
しかし なにもおこらない
「もうお嫁にいけないわ…」
「なんの参考にもならんな」
「酷い!」
「まあぼちぼちと考えとくよ」
「今日はもう寝るわ…おやすみ…」
「見られたくなかったらそのノートどっかにしまっとけよ」
「どこにしまえってのよ…」
「んなもん知るか。見えなきゃわざわざ探さんさ」
「お腹入れとこ…」
寝間着をまくってノートを腹にあて裾をパンツに入れるミワ。小学生の体操着みたいな格好で布団に入ると頭まですっぽり被ってしまった。明日の用意をして隣に寝転んだころには既に寝息をたてて寝てしまっていたのだが。
翌朝、いつもの時間に起きて隣を見るとミワは腹を出して寝ていた。なかなか残念なやつだとは思いつつもノートには触れず布団から抜け出す。今日は特に何も聞いていないので仕事に行くつもりだ。支度をして昨日買っておいた朝御飯を食べていると匂いにつられたのかミワも起き出してきた。
「おはよ…ごはん…」
「まず顔を洗ってこい」
「どうせまたすぐ寝るし…あれ?トヒ仕事行くの?」
「なんかあったか?」
「別に。行ってらっしゃい、気を付けてね」
「ああ、そういえば、お前も気を付けろよ、それ」
「それ?……あれ、なんで…」
「寝てる間に足でも生えたんだろう」
「…見た?」
「見んわ」
「じゃあ、行ってくる」
「……」
「はあ」
久しぶりの出勤。いや、一昨日は夜遅くまで居たし昨日も一応来ているので大して久しぶりでもないのだが、昨日一日が濃すぎた。社務所に荷物を放り込むと裏手に回って物置からホウキを取り出す。巫女の仕事といえば境内の落ち葉掃きである。毎日掃除はしているのでそこまでゴミは落ちていないが、この季節、山に囲まれた境内には一晩で小さな山ができる程度は葉っぱが落ちている。ある程度ブロックにわけて山を作りチリトリで回収していく。掃き掃除が終わる頃には他の職員も続々と出勤してくる。その中には当然同僚の巫女も居るわけで。
「おはよう、我が妹よ」
「おはようございます、トヨ様」
「おはよう、我が妹よ」
「おはようございます、トヨ様」
「おはよう、我が妹よ」
「おはようございます、トヨ様」
「なんでトヨ姉って言ってくれんのよ!」
この姉、いつまでも妹にベッタリなのだ。
「奉職中ですので」
「ウチはまだ違うもん」
「こちらは1時間ほど前から既に」
「もう!昨日のトヒの仕事、誰がやったと思ってるのよ!」
「はて…思い当たる節が…」
「ウチよ、ウチ」
「ホウキを逆さまに仕舞う人なんて全く思い当たりませんね」
「え、またやってた?」
「はあ…やってましたよ」
「マジか〜」
「まあ、忙しいトヨ様のお手を煩わせてしまったのは確かです。ありがとうございました」
「その種を撒いたのはウチらやけどね」
「全くですよ…そろそろ朝礼です。行きましょう」
「いっけなーい、遅刻遅刻~」
「そのパン何処から出てきたんですか!パンくずが溢れてるので咥えるだけにして下さい!」
普段は普通の人なのだが、家族の前ではどうしてもこういった残念キャラになってしまう、難儀な人なのである。
朝礼といっても1日の流れを確認する程度なので5分もかからない。朝礼が終わると各自それぞれの仕事を始める。巫女にもそれぞれの仕事があり、トヨは拝殿で神主の補助をしている。巫女とはいえ所詮は雇われの身。しっかり働かなければならない。
午前中は石段を登りきったところにある小さな小屋で参拝客の相手をするのが主な仕事である。案内はもちろん、おみくじ御守り、御朱印の授与や祈祷の受付をしたりと色々ある。しかし繁忙期でもなければ朝早くから来る参拝客も稀である。というわけでこの時間はもっぱら内職の時間である。来るべきときに備えて御守りや関連アクセサリを用意せねばならないのだ。巫女になる前からやっていたのでこれくらいは眼を瞑っていてもできる。
「いった!」
流石に眼は開けていないと危ない。
昼前になるとトヨが詰めていた拝殿からご飯を食べにやってくる。
「つっかれた〜お腹空いた~疲れた…」
「まだ半日ですよ。しっかりして下さい」
「いやあ…体力はまだまだ大丈夫やねんけど、精神力がもたんわ…ウチもまだまだよ…」
「お昼、しっかり食べて下さいよ。指導中に体力まで尽きてしまっては元も子もないですからね」
「何言われるかわかんないかんな…」
トヨは昼ごはんを一緒に食べるために来たのではない。昼時といっても来る参拝客はいるかもしれない。受付を閉めるわけにもいかないため時間をずらしているのだ。トヨが食べ終わったので受付を交代する。お昼の時間だ。
「なにそれ」
「何って…昼ごはんだが」
トヨたっての希望で休憩時間は姉妹の関係での会話になる。家を出てからは姉妹でゆっくり話せるのも今となってはこの時間のみになってしまった。
「そういうことじゃなくて」
「笊蕎麦だよ」
「それもわかるけどさ」
「昨日、安かったんだよ」
「何玉買ったのさ」
「6玉」
「相変わらず好きやな…でもそれだけでどうやって食べんのよ」
「職場の冷蔵庫に弁当と飲みものしか入っていないとでも?」
「麺つゆ…麦茶じゃなかったんねそれ」
「薬味もあるぞ」
「まあここはほぼウチらしか使わんからいいけど。音立てて食べんといてよ」
「心得ているさ」
受付に座ったトヨも慣れた手つきで内職を始める。期日までにノルマをクリア出来なければ家族総出で夜を徹して作ることになるのでここでサボろうとは思わない。
「いやーでもさ、ミワちゃんが神様になっちゃったらトヒもどっか行っちゃうんでしょ?1人でここに座って1人でご飯食べて…なんかさみしなあー」
「仕方ないだろ。今まで何年も巫女がやってきたことを急に別の誰かがやるってわけにもいかないんだ」
「そりゃそうなんやろうけど」
「それに今日明日ってわけでもないんだ。そもそもミワが神様になるってわけじゃない」
「昨日あんだけ言っといて…」
「今思うと何もできることがないんだよな。おかんにまんまと乗せられたよ。若気の至りってやつだ」
「あの頃は若かった…」
「そう言わなくていいように努力するさ」
最後の一口を飲み込むとつゆを一気に飲み干す。ワサビのツンとしたのが鼻を通る。これがいいのだがトヨはそれを見て顔をしかめる。七味などは山盛りかけるくせにワサビの辛さは無理らしい。あまりそういうのは使わずに料理そのものの味を楽しむのだがワサビは別である。薬味と追加調味料を一緒にしてはいけない。
投稿開始時点で数本用意していたんですがストックが切れていました。投稿しようと思ったら半分くらいしか文字数がなくて急いで転記しました……果たしてこのままのペースで大丈夫なのか。