戦[機]絶唱シンフォギア   作:椎名 和白

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戦姫絶唱シンフォギアXVの未来のおはなし

神様も知らないヒカリで歴史を創った彼女たちの子孫は、どんな歴史と歌を語り紡ぐのでしょうか




♯1 深淵の鼓動

「.........」

 

 目前に迫る超常存在、生身の少年は一人での戦いを強いられる

 

「僕が...守らなくちゃ......」

 

 しかし彼の片手には大きな蒼い槍が握られており、少年に一切の焦りは見えない

 

「滅ぼせ、《霹槍》」

 

  【蒼迅・ライトニングジャベリン】

 

 少年が投げた槍は蒼い雷を纏い何度も軌道を変えて超常存在(ノイズ)を駆逐する

 やがて殲滅を終えた少年の視線は目前の焦げた灰溜まりではなく、どこか遠いところを見つめており、少なくとも十分な生気があるようには見えなかった

 

『伊織君、周囲のノイズ反応は消滅したわ。戻ってきてくれる...かしら?』

 

「大丈夫ですよ司令、僕は居なくなったりしません。それより、ここ一帯にシンフォギアや聖遺物の反応はありませんでしたか?」

 

『......残念だけど、どのシンフォギアのアウフヴァッヘン波系も感じ取れなかったわ...ごめんなさい』

 

「そう......ですか...」

 

『......伊織君、辛いのなら無理に出撃しなくても良いのよ?』

 

「本当に大丈夫です。この預かったペンダントも使わなければ宝の持ち腐れですし、それに、今の不安定な状態のS.O.N.Gの部隊じゃ、きっとこの頻度と量は追いつきませんよ」

 

 少年は生気を失っている瞳で虚空を見つめる。誰かの手を掴む様に伸ばした手は空を切り、虚勢を張りながらも戦い続ける

 彼は戦機、壊れるまで歌い、戦い続ける戦機の片割れ

 

「どこへ行ったの、琴音...?」

 

 これは二人の戦機の物語、戦場の中で歌い、輝いた、戦姫と戦機の交響曲(シンフォニー)

 

 

 

 

 

《戦[]絶唱シンフォギア》

 

 

 

 

 

 

 

 二年前

 

 

 

「うーん、やっぱり伊織も来れば良かったのに」

 

 今日は世界中から注目されている日本の歌姫、『雪音カイリ』のツアーライブ初日

 この少女、立花 琴音(ことね)が参加する初のライブでもある

 ライブという未知の領域に足を踏み入れるということで、琴音は今までにないほど緊張していた

 

「けどやっぱりワクワクするなぁ、生で見るのは初めてだから...顔だらしなくなってたりしないかな...!」

 

 会場前を右往左往しながらグッズや展示物の写真を納めていく琴音。やがてホクホク顔で会場入りを果たし、指定された場所へ移動する

 

「やぁばい、ニヤニヤ止まらないよぉ...!」

 

 この瞬間は皆平等、ただ歌姫の登場を待つ一人のファンでしかない

 

「〜♪」

 

 やがてイントロと共に歌声が聞こえ、会場のテンションは一気にマックスへ押し上げられる

 

「「わぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 琴音もその空気と歌姫の声に当てられ歓声を上げる

 荒々しくも繊細な歌声が魅力の『雪音カイリ』は、一族通して高い歌唱力を持っており時には声優、時にはラジオパーソナリティなど声を活かした職業に就く、今代の雪音は原点を辿り歌姫として誕生したと話題になり、その魅力的なルックスからも世界中から番組やラジオへの出演依頼が絶えないそう

 

「〜ッ!」

 

 一曲目が終わり会場が湧き上がる

 琴音も勿論例外ではなく、今までにないほど歓喜に満ちた声を上げ、興奮を撒き散らしている

 

「みんなー!『KAIRI YUKINE LIVE METEOR』へようこそー!!」

 

「「わぁぁぁぁ!!!!!」」

 

「みんな元気だねー!早速だけど二曲目行くよ!準備は良いかなっ!」

 

「「オッケー!!」」

 

「よーし、それじゃあ行くよ!」

 

 二曲目のイントロが入り始める。

 しかしその興奮も長くは続かなかった

 

 

 

 

 

 

 

「ミュルグレスの起動はどう、出来そう?」

 

 銀髪の女性が白衣を纏ったもう一人の女性に問う

 

「うーん、まだ一曲目だからねー、ちょーっとまだフォニックゲインが足りないかなぁ」

 

「でもやっぱり最終的には出来そうなの?」

 

「勿論よぉ、私を誰だと思ってるのー?」

 

 白衣の女性が自慢げに(無い)胸を張る

 

「聖遺物研究の第一人者にして櫻井了子の再来と呼ばれる科学者、金本 椿で間違いないわよね?」

 

「残念、天才が抜けてるわよ、『天才科学者』金本 椿です。そこ大事なんだからー」

 

 頬を膨らませながらも作業はやめない白衣の女性...椿は今、完全聖遺物「ミュルグレス」の起動実験に幼馴染兼自分たちが所属している組織のリーダーである女性と数人の職員の同伴で臨んでいた

 

「そもそもさぁ、特異災害対策本部の私らとはいえ、こんなもん回してくるとはねぇ......聖遺物の特定までしたんなら、わざわざ起動実験こっちに送んなくったっていいじゃないの、ねぇ?」

 

「最近日本政府が聖遺物の軍事転用とかレッドカードギリギリのことをしでかしてるものね...完全聖遺物やシンフォギアに頼らないノイズの対処法とか言いつつも、結局は私たちに権限移してくるし、訳わからないわ」

 

 二人はため息を吐きながら目の前の剣に目を移す

 全体が黒光りしているこの剣はフランスの領事詩『ローランの歌』に搭乗するシャルルマーニュの宿敵ガヌロン伯が持っていたとされる剣「ミュルグレス」

 シャルルマーニュが持つ剣である「デュランダル」が起動したのは998年前、()1()0()0()0()()()になる。歴史書によるとデュランダルは何者かに悪用され、最終的には砕け散ったとされている

 その時期を筆頭にして聖遺物関係の事件や人類の存亡を賭けた事件には必ず『シンフォギア』と呼ばれる戦闘用装束とその鎧を纏う戦姫たちの名前が確認される様になる。以前からその存在は確認できていたが大々的に見られる様になったのはその「ルナ・アタック事件」以降で、その他にも「フロンティア事変」や「魔法少女事変」に関わり、バビロニアの宝物庫の破壊によるファースト・ノイズの撲滅やパヴァリア光明結社の局長、アダム・ヴァイスハウプトの討伐など、目覚ましい活躍を見せたことが記録されている

 

「シンフォギアって言っても、もう500年は適合者も見つかっていないし...態々今そのシンフォギアを引き合いに出してくる必要なんてあるかしら」

 

「やっぱり、私たちS.O.N.G.にはシンフォギア出しとけば何とかなるとでも思ってるのかねぇ...?」

 

 椿たちが所属する組織、「Squad of Nexus Guardians」略して「S.O.N.G.」は超常現象や特異災害への対処を目的として造られた組織で、国連直轄のタスクフォースであった。数年前までは

 数年前、日本の政府の要人たちが何かしらの屁理屈を捏ね国連から「S.O.N.G.」の権利を日本に戻した

 唯一分かる理由は、その更に数十年前から日本各地に現れ出した超常存在が原因であることだけであり、自分たちS.O.N.G.が本当に必要とされているかは彼女ら自身も分かっていない

 

「......ん?何、この反応...」

 

「どうしたの、椿」

 

「.........まさか...」

 

 椿は今まで使っていたコンピュータから目を離し、別の端末に目を向けると、焦った様にもう一人の女性に言った

 

「いけない、ライブステージにノイズシードの反応が出てる!」

 

「そんな!? ライブスタッフに繋いで、今すぐ避難を始めないと!」

 

「...ダメです! 上との通信、繋がりません!」

 

「なんですってッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「......? なんだ...あれ......?」

 

 カイリのステージの後ろに謎の半透明な物体を誰かが見た

 その周りの観客たちも徐々にその異変に気づき始め、しばらくしたらカイリもその存在に気づく。カイリはハッとした表情をした後、大声で叫んだ

 

「スタッフさん、今すぐ避難誘導始めて!ごめんねみんな!今日はちょっと邪魔が入っちゃったからまた今度会おうね!」

 

 混乱したままの観客たちをライブスタッフ達は続々と会場外へ案内する。琴音も頭に疑問符を浮かべながら誘導に従っていたが

 少しだけ、しかし致命的に、その物体に気づくのが遅かったことに気づかされる

 

「...!ダメっ、もう孵化する!」

 

 半透明の物体が輝いたと思った瞬間、周囲に同じ半透明の奇怪な物体が出現した

 その物体は細い矢の様になり観客を狙って飛び込んでくる。注意が散漫していた観客に一人がその物質に触れると

 

「はっ...?」

 

 触れたところから体が炭化し始め、悲鳴を上げる間も無くその観客は灰になった

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 一気にパニックに陥り逃げ惑う観客たちを半透明の奇怪な物体たち『アルファ・ノイズ』は次々と襲い、灰に変えていく

 

「えっ...きゃっ......! いやっ、逃げないと...!」

 

 琴音は暫く停止していた頭を復活させすぐに避難しようと出入り口を探すが、どこも混乱した観客で混雑しており、別の場所を探そうにもノイズと人の波で周りの状況すら上手くつかめない状況だった

 

「どうしよう......どうしよう...!」

 

 半ばパニックになりながらも動ける道を探して進む琴音、しかし前は人波で全く見えず足を蹴られたりしながらも進んでいく

 

 ふと周囲の波が軽くなったと周りを見渡すと、辺りには人間“だった”筈の灰が舞っていた。更に周囲にはここにいる人間全員を灰に変えるには十分な量のノイズが出現しており琴音にはそれだけでも恐怖を植え付けるには十分だった

 

「イヤ...いや、嫌ッ!」

 

 完全に混乱し、とにかくノイズから逃げようと走る琴音、気づけば自分は周囲から孤立し、格好の的になってしまっていた

 

「どうしよう、死にたくない...!」

 

 その場にへたり込み自分の身体を抱き震える琴音は周りの事など全く目に入っていなかった。勿論自分に近づく一つの影の存在にも気づいていない

 その影は琴音のすぐ近くまで近づくと、琴音の肩に触れて

 

「君!そこにいたら死ぬぞ!」

 

 琴音に語りかけた

 琴音よりも背が高い青年は孤立している琴音を見て自分の危険を顧みず助けに来たらしい

 青年は琴音の今にも泣きそうな顔を見て安心させる様に微笑んだ後、琴音の手を引っ張って走り出した

 

「どうにか出入り口までたどり着ければ...!」

 

 しかし青年が走った先にもノイズは現れ、八方塞がりになってしまう

 

「チッ......ねぇ、君」

 

 青年が琴音に声をかけると、琴音は少しだが顔を上げて反応した

 

「今から俺があっちに向かって走るから、その隙に君はあの扉まで走るんだ。いいね?」

 

「でも...それじゃ貴方が...」

 

「大丈夫、俺は簡単に死ななくなってるの、だから安心して」

 

 本当とも思えないが虚構とも思えない青年の発言を問う間も無く青年は走り出し、大半のノイズが何故か青年に釣られて移動していた

 

『ほら、早く走って!』

 

 何処かから声が聞こえた気がしたが、琴音は気にする事なく、出入り口への道を走る

 足元に積まれている人間だった灰を踏むことにまだ抵抗はあるが、今は自分が生きる事で精一杯だった

 最後の数メートル、後少しで自分は生き残れる。そう思った瞬間だった

 

『ッ!危ない!』

 

 自分の肩に、グチャッとした感覚が走る

 次いで激しい痛みが襲い、視界の右端に真っ赤な血溜まりが出来上がった

 

「かッ......あッ.........」

 

 自分の身に何が起きたのかを理解しない内に、琴音は倒れていた。右肩の激しい痛みも気にならず、琴音が思い浮かべるのは一人の友人のこと

 

(あぁ......私、死んじゃうのかぁ.........伊織、泣かないかな....)

 

(......あ...伊織に今日の夜ご飯......最後に聞いておけば良かったかも......あー...また......食べたかったなぁ......)

 

(それで......二人で一緒にお布団で寝て.........明日も一緒に学校行って...まだまだ......やりたいこと...たくさん...あったんだけどなぁ......)

 

「し...にたく......な...い.........じにだ...ぐな...い......よぉ......」

 

 きっと、自分が必ず死んでしまうことは分かっている。そんな時でも最後まで頭を駆け巡るのは幼馴染である『小日向 伊織』の存在だった

 孤児である二人は、孤児院の前に二人揃って捨てられていたらしい。生まれてすぐに捨てられていた様子で、恐らく生まれた時からずっと一緒にいた二人は当然の様に一日中一緒にいることが多かった。

 ふと離れた瞬間、こんな形で別れる事になるなんて思っていなかった。悔しさとやるせなさが胸に満ちていくのを感じる

 

『大丈夫、君が生きたいと思うなら、きっと君の身体はその想いに答えてくれるはずだよ』

 

 さっきからかすかに聞こえていた幻聴が、今度ははっきり聞こえた

 

(でも、きっとこの身体はもうすぐ死んじゃう。やっぱり私は......)

 

『生きるのを諦めないでッ!』

 

(......ッ!)

 

『ここで諦めたら、伊織くんとはもう会えないんだよ? だから、自分を信じて!』

 

「私は......」

 

 聞こえる声が示したまま、琴音は願った

 「まだ生きたい」と

 

「まだ...死ねない......また、伊織に会うために......!」

 

 すると、右端にあった赤い血溜まりがみるみる内に無くなっていき、やがて琴音の身体は暖かい光に包まれた

 

『うん、よく出来ました!流石は私の......』

 

 この声を最後に、琴音の意識は途切れた

 

 

 

 

 

「カーラさん!」

 

「カイリ!」

 

 ライブを突然現れたノイズに台無しにされ、意気消沈していた歌姫、雪音カイリは、地下の実験場から出てきた親族の姿にひとまずの安堵を見せた

 

 実験場で椿の実験に立ち会っていたのは、S.O.N.G.の総司令にして雪音カイリの叔母にあたる「雪音カーラ」であり、ノイズの襲撃に合わせて何故か地下と地上の通信が途絶え安否確認が出来なかったため、こうして上まで上がって来たのだった

 

「カーラさん、被害は...」

 

「......避難先の人数とライブの参加人数を照らし合わせると、およそ4分の1......過半数の観客が、灰になったわ...」

 

「そんな.........私のライブなんかに......来ちゃった所為で...」

 

「...それは違うわ、カイリ。貴女は一つも悪くない......悪かったのは、シードを確認してながら対応が遅れた私たちよ...」

 

 既にノイズの自壊時間は過ぎている。二人と他の職員達が会場内の生き残りを探すべく、会場へと足を踏み入れた

 

「これが全部......人間だったって言うの......?」

 

 会場内は今さっきまで人間だった灰と、自壊したノイズの灰で埋め尽くされていた。その中央、灰に埋め尽くされている床の上に一人の少女が横たわっている

 

「あの子...!」

 

 カイリが少女に駆け寄り少女の身体を観察する

 

「なんで......確かにこの子はノイズに肩を......」

 

 カイリは見ていた。この少女が孤立したところに一体のノイズが突っ込み、その肩を貫くところを

 その時この少女は何故か炭化しなく、肩から大量の血が吹き出して倒れたはずなのだが、今の少女の身体は傷一つない完全な状態で倒れていた

 

「カイリ、どうしたの」

 

「カーラさん......この子は.........この子は...ノイズに、肩を貫かれた筈なんです......この目で見たんです...でも......」

 

「傷一つない完璧な状態...」

 

 もしもカイリが言っていることが正しければ、この少女は人間ではない、又は自分たちが知らない力を秘めている事になる

 

「椿!」

 

「はいはーい。今行くわよー」

 

「この子、本部でメディカルチェックした後、専属の病院に連れて行ってあげて」

 

「この子どうしたの、カーラ」

 

「カイリが言うには、ノイズに肩を貫かれたらしいけど、炭化しないどころか、身体が完全な状態で回復されてるらしいの」

 

「へぇ......それは...」

 

 その後少女はS.O.N.G.の本部へ運ばれメディカルチェックを受けた後、病院へ搬送された。

 

 

 

 

 

「ぁ.........ぃ...ぉ.........ッ! 伊織!」

 

 知らない部屋で目を覚ます。

 病院へ移された琴音は、幼馴染の名前を叫びながら起き上がった

 少し冷静になった後、頭を回す。するとそこには

 

「こ......こと...ね.........琴音ッ!」

 

 今最も会いたい人、幼馴染である「小日向 伊織」がいた

 伊織はそのまま琴音に抱きつき、琴音の存在を確かめる様に名前を連呼する

 

「ちょっ伊織、恥ずかしいって...!」

 

「ごっ、ごめん...」

 

 顔を赤くして琴音から離れた伊織は、興奮を隠しきれない様子で琴音に今までのことを話す

 

 今はあのライブの時から五日経っており、その間琴音はずっと眠っていたこと。あのライブの後、カイリは一時休業することを発表したこと。そして、自分がどれだけ琴音の心配をしたか

 

「ごめん......心配かけちゃったね」

 

「本当だよ、琴音はもう!......でも、帰って来てくれてありがとう」

 

「あはは......うん、ただいま。伊織」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現代

 

 

 

 

 

 雪音カイリのライブをアルファ・ノイズが襲撃し、過半数以上の観客が死亡した事件から2年

 あの事件の後、琴音は一週間で無事退院し、その後もいじめや事故なども無く今年、伊織と一緒にリディアン音楽院に入学することになった

 

 リディアン音楽院は丁度2年前女学校から共学に変わった音楽を専攻する高校で、琴音らが住んでいた孤児院の院長がリディアンの理事長と仲が良いらしく、あの孤児院の子供がリディアンに入学する場合は学費を一部負担してくれるらしいのだ

 

 そして当の二人は......

 

 

 

 

「......よし、まだバレてない...」

 

『いや、これはアウトだと思うなぁ......』

 

 立花琴音は現在、窮地に立たされていた

 時計を見れば既に授業の開始時間は過ぎており、自分の席は一番端っこの真ん中あたり。一歩間違えれば先生にバレてしまう席で、いかに元からいました感をアピールできるかの勝負

 

「大丈夫、私ならやれる。自分を信じて...!」

 

『だとしても......』

 

「大丈夫だぞ立花、全員もうとっくにお前が居ないことに気づいている」

 

「なッ!?」

『ダメだったかぁ』

 

 声がした方に振り向くと、そこには二十代後半といったところの気怠げな教師がプリントの束を丸めて構えていた

 

「あたッ!?」

 

 丸められたプリントの束で頭を軽く叩かれる

 

「どうして!? 私のスニーキングムーブは完璧だった筈ッ!」

 

『いやー、それは無いと思うよ...』

 

「いやだから、最初から全員気付いてたし、後ろから入ってもお前のその頭の変なやつで分かるんだよ」

 

 琴音の頭についてる二つの変なのことアホ毛っぽいものがぴょこぴょこ揺れる

 

「変なのとは何ですか変なのとは!」

『変なのじゃないし!』

 

「あー、もう良いから。で、今日はどんな人を助けてて遅くなったって言うんだ?」

 

「はい! 木から降りられなくなってる猫を助けた後、お財布を落とした自転車乗りの人に走って届けて、最後に目の前でお婆さんがひったくりに遭ったので、その犯人をとっ捕まえました!」

『あと捨て猫も拾って届けたよね』

 

「いや、多すぎるだろ。お前本当に寮から最短距離で来たか!?」

 

「いえ! 色々あって2つくらい駅を越えました!」

 

「本当にどういう道を通ったらそうなるんだよ...」

 

 呆れた顔をしながら教師は琴音に席に座る様促す

 

「期待はしてないが、明日は遅れるなよ」

 

「はーい」

 

 そのままそそくさと自分の席へ移動し、隣の幼馴染に顔を向ける

 

「やっほ、伊織」

『おはよー伊織くん』

 

「やっほじゃないよ琴音、一緒に寮出た筈なのに、なんでいつも色々なことに巻き込まれるの?」

 

「それは私も聞きたいけど...やっぱり困ってる人がいたら助けるのが私のスタンスだからね」

 

「それで授業遅れちゃダメでしょ、まぁ琴音らしくて良いけど」

 

「あぁ、そうだ立花、今日お前補習な」

 

「.........えぇ〜!?」

『.........えぇ〜!?』

  

 

 

 

 

 

 

 

「ほい、OKだ。お前飲み込みはいいんだから、ちゃんと授業時間さえ守れば成績上位も狙える筈だぞ。まぁ、立花はそんなことに興味なさそうだが」

 

「はい!興味ないです!」

 

「元気があってよろしい。気をつけて帰れよー」

 

 補習も終わって、既に大半の生徒が帰っている中、部活動中の友人に手を振りながら下駄箱に向かって廊下を歩く

 

「あ、琴音ー!」

 

「ん?あー、亜美!」

 

 近くの教室から琴音を呼んだのは友人の亜美、中学校からの腐れ縁である二人は、教室の前でハイタッチした

 

「そうそう、琴音は見た? あのニュース!」

 

「あのニュースって?」

 

「雪音カイリのサプライズ復帰!」

 

「......え゛!?」

『......ゔぇ!?』

 

「それにあわせての唐突なシングル発売! リーク情報も全然 なかったから、相当厳重な情報規制かかってたんだろうね!」

 

「えぇぇぇぇぇ!?」

『えぇぇぇぇぇ!?』

 

 

 そこからの琴音の行動は早かった

 最近では主流なオンラインでのダウンロードでは無く、店頭で現物を買う事を大事にしている琴音は近くのレコード屋へ走る

 

「はぁ...はぁ...本当だ、デカデカと貼ってある......! なんで私気づかなかったんだろ!?」

『くぅ...自由に動けないくなっていることをこんなに悔やんだ事はない...!』

 

 店内には「雪の歌姫奇跡の復帰!」と大きなポスターが貼ってあり、入ってすぐにこれまでのアルバムや、サプライズに合わせて発売された新しいシングルが大量に平積みや面陳されている

 すぐさまCDを購入し、家路へと着く

 

「復帰ライブの先行抽選券付きかぁ!これはヤバいですなぁ...!」

 

 ニヤニヤ顔を緩ませ、CDが入った袋を大事に抱えて歩く琴音。

 しかし

『ねぇ、あの女の子って......』

 ふとした瞬間目にした少女の泣き顔が、家路についていた彼女の道を逸らした

 

「どうしたの? 誰かと逸れちゃったのかな?」

 

「......だれ...?」

 

「私は立花琴音。人呼んで黄色いお姉さん」

『あー、黄色いお姉ちゃんは私の呼び方だよー!』

 

「黄色いお姉さん...?あっ......クラスの皆んなが言ってた...」

 

「そう。多分それは私のことだよ」

『ん?お姉さんだからいいのかな?』

 

「わぁ...黄色いお姉さんって本当にいたんだぁ...!」

 

「ふふん♪ それで君は、どうしてここにいるの?」

 

 満更でもない顔をしながら、少女に問う

 

「えっとね...なんか、お母さんに待っててって言われたんだけど、たくさん待っても全然こないからお母さんを探しに来たの、でもお母さんはいないし、たくさん人がいて、えっと......ぐずっ...だからぁ.......えっと...」

 

母親のことを思い出したのか、また涙を流してぐずり始める少女。そんな状況に慣れているのか、琴音は少しだけ困った顔をしながら少女の目線に自分の目線を合わせる

 

「大丈夫、私は居なくなったりしないよ。私と一緒に、お母さん探そ?」

 

「......ほんとうに...?」

 

「うん、もちろん」

 

 琴音は立ち上がって少女の手を握ると、少女の母親を探しに歩き出した

 

 

 

 

「お母さんがどこに行ったか覚えてる?」

 

「あっち」

 

『行ってみよう!』

 

 

 

 

「あれ? いない...」

 

「別の場所を探してみようか」

 

『次はあっちかな?』

 

 

 

 

「あのお店にいるかも!」

 

「よーし、行ってみよう!」

 

『うわっ、人混み凄いね!』

 

 

 

 

「ここにもいない......」

 

「大丈夫、諦めないで探そう?」

 

『だとしてもだよッ!』

 

 

 

 

「あ! 猫ちゃん!」

『あ!今朝助けた子猫だー!』

 

「あぁ、ちょっと待って!」

 

 

 

 

「どこかいっちゃった...」

 

「早くお母さん探すよ!」

 

『元気そうでよかったなー』

 

 

 

 .....................一時間後

 

 

 

 

「.........見つからないね...」

 

「......うん...」

 

 もうすっかり日も暮れ、足も疲れてきた

 

「一回おうちに帰るか、交番に行くか......君はどうしたい?」

 

「.........おうちに帰りたい」

 

「そっか。おうち、どこか分かる?」

 

「...ううん、分かんない」

 

「そっか......そうだ! ねぇ君、今からお姉さんがいいところ連れて行ってあげる!」

 

 頭に疑問符を浮かべている少女を連れて、琴音はとある場所への道を走る

 

 

『......嫌な予感がする...早く私を認めてよ、琴音ちゃん...』

 

 

 

 

 

 

 一方、リディアン音楽院の地下

 無数のモニターと機械が設置されている場所にカーラと椿は居た。あの事件から2年が経過し、S.O.N.G.が所有する部隊は再編成され、姪であるカイリもアイドルに復帰する。相変わらずノイズの出現は検知されるが対ノイズ部隊であるSYNにも強力な戦力ができ、今のところ順調に態勢を立て直せている

 

 そして今日もまたノイズが発生するのだが、いつもと何かが違った

 

「司令、ノイズシード反応、検知しました」

 

「座標は?」

 

「町外れの高台付近にある森林です」

 

「了解したわ。各員に通達、指定したポイントに向かってノイズシードを除去。もし孵化してしまった場合は速かに殲滅せよ」

 

『了解。これより移動を開始、見つけ次第除去に当たる』

 

 早急にSYNを出動させ、ノイズシードの鎮圧にあたる

 ここまではいつもと変わらない。幸い付近に住宅街は無いため、避難警報を出す必要も無い

 ただ彼女は一つ見落としていた。近隣住民がいないとはいえ、そこに人がいないとは限らない。普段の彼女は常に人命を優先してノイズシード周辺の人間へ避難警報を出す、しかし今日に限ってはそれを怠った

カイリの復帰発表で気が緩んだか、運命の悪戯かは知らない。確かなのは、一人の少女に運命の時が訪れようとしていることだけだった

 

 

 

 

「わぁ...!すごい!」

 

 町外れの高台へとやってきた琴音は、夕暮れ時の太陽に照らされる町の景色を少女に見せた

 少女の目は宝石を見ているかのように輝いており、その光景の中から自分が帰るべき家を探している

 

「......あっ、あそこ!私の家!」

 

「おっ、見つかった? どれどれ...」

 

 少女が指差す方向からヒントを貰って、少女の家の場所を特定する

 

「もしかして...あの屋根のおうち?」

 

「うん!それ!」

 

 名残惜しさを感じながらもその場を離れ、少女を家へ送り届けようとする琴音。

『ッ!危険だ、離れて!』

ふと後ろを振り向くと

 

 本来ここにあるはずのないものが目に映った

 

 2年前、突如としてカイリのステージに出現した半透明の正十二面体。今まさにそれが琴音の眼前に出現していた

 

「......ぁ......う......そ......」

 

「お姉ちゃん?」

 

『早くここから離れるよ!』

 

 後ろに少女がいたことを思い出した琴音は、すぐに少女の手を取って走り出す

 それと同時に、後ろで何かが誕生する音が聞こえた

 何度か同じ音が重複し、この場にあの存在『アルファ・ノイズ』が出現したことを確信した琴音は、もう目の前で人が消えるのを見たくない一心で高台から駆け下りようとした

 

「まってっ......もう、足が......、痛い...!」

 

「あっ......でも......!......ダメだ、あそこに隠れよう!」

 

 しかし、少女の足はもう限界に達しており、矢のように飛んでくるノイズから一旦身を隠すために茂みへと飛び込む

 

「何あれ...!?なにあれ!?」

 

「......ノイズ...触れたら......死ぬ」

 

『ちょっ、琴音ちゃん!』

 

「えっ......私、死んじゃうの...?」

 

 少女が目を潤ませながら呟くと同時に、琴音は自分が失敗したことに気づいた。

 もしも困難絶望的な状況の中、目前にある存在が「死」そのものだとして、あの時の自分は冷静さを保てていたか.........否、そんなことはあり得ない。

 

(あっ......この子は、2年前の私と同じだ...死ぬのが怖いのはあの時いやと言うほど分かったのに......なんで同じ目に合わせてるんだ、私は!)

 

 琴音は、少女の肩に手を置くと、少女を安心させる為に笑顔を作った

 

 あの時の自分はあの青年に励まされ、送り出されたからこそ生き残れた。ならば今度は自分が......

 

 

 

 しかし、動かない

 

 

 

 

 恐怖や怯えでは無い、心の底からの拒絶(トラウマ)

 呼吸が乱れ、自然と冷や汗が流れる

 

「お姉ちゃん?」

 

 不安そうな少女の声を聞き、更に追い詰められる琴音

 そこにまた、声が聞こえた

『大丈夫、私がついてる』

 

 その声にハッとした琴音は、震える手を思い切り握りしめ、冷や汗を拭った後、少女に向き直る

 

「大丈夫、お姉さんにまかせて」

 

 少女にそこに隠れているように言った琴音は、自分の中を駆け巡る声に意識を移す

 

 

 

『......ようやく、私の声を聞いてくれたね』

 

「ずっと、貴女のことは認めたくなかった。誰かに言っても幻聴だって言われるし、あの時の所為で、私がおかしくなったように感じるから......それに、私は純粋に貴女が怖い。私の心の中で確かな意思と心がある貴女が」

 

『それでも、2年前のあの時から君は私の声が聞こえている。それは私を君が望んだからだよ』

 

「分かってるよ、2年前のあの時から、貴女は私の中にいて、私の時間を動かそうとしている。弱い自分から抜け出したい自分がきっと貴女を呼んだんだ。それなのに私は、貴女を無視して弱いままの自分でいたがっている。成長のない人でいようとしているんだよ...」

 

『違う、それは違うよ琴音ちゃん。君は今、誰かを助ける為に自分の身を危険に晒している。それだけで、もう君は立派に成長している』

 

「ううん、全然変わってない。今だって物凄い逃げたいし、あの女の子を置いて逃げるなんて最低な考えも浮かんでる」

 

『それを最低と思えるなら、君は大丈夫。誰かを守る為に拳を握れるよ』

 

「そう...かな......そうだね......うん、貴女のことはまだ分からないけど、一緒にいるだけで何故か勇気を貰えるよ......もう私は逃げない、臆病な自分とはもうサヨナラだ!」

 

 

 

 少女をその場に留まらせて、琴音は茂みの外へ出る

 周りのノイズの注目が一斉にこちらへ向くのを感じながら、琴音は震える手を強く握った

『大丈夫、私を信じて』

 その手に暖かさが宿るのを感じて、琴音は握っていた手を解く。そのまま自分の手を胸に当てて、声に身を委ねる

 

『いくよ、琴音ちゃん』

(えっ、何すればいいの!?)

 

『大丈夫、私に任せて!』

(わっ分かった!)

 

「すぅ......ハァ.........」

 

 深呼吸。

 突撃しようと身体を細くしているノイズ達を睨み、琴音の唇は一人でに歌い出す

 

『「Balwisyall Nescell gungnir tron」』

 

 激痛

 琴音の身体の中から何かが貫いてくるような感覚。今までに体験したことがない痛みに、琴音は涙を堪えて必死に声を抑える

 

「い゛だ......っいだい゛.....ぐ...ッ...いだ...ぐ......な゛......い゛ッ!!」

 

『もうちょっとだよ!頑張ってッ!』

 

「な゛い゛で......だま゛るが......ぜっだい゛に......なぐ...もんが......ぁッ!」

 

 自らの内から飛び出した機械の翼から、琴音の全身に様々なプロテクターが装着される

 地を砕く程の強固なブーツ、二本の尖ったパーツが印象的なヘッドギア、そして、誰かの手を握り、繋ぐ為の(アームドギア)

 

 

 

 

 

 リディアン地下のS.O.N.G.基地では、突如検出されたアウフヴァッヘン派系に誰もが息を呑んでいた。初代適合者が現れ約1000年後、500年もの間空席だった戦姫が、遂にその姿を表す

 

「司令! アウフヴァッヘン派系、詳細特定しました。これを見てください!」

 

「これは.........ッ!」

 

 

 『SG-r03 Gungnir』

 

 

「ガングニール、ですってッ!?」

 

 

 

 

 

 

「う゛ぅぅぅ..........ッ!」

 

 頬を一滴涙に濡らし、琴音は顔を上げる。その顔には困惑も何もなく、覚悟を決めた戦姫の表情がそこにはあった

 

 

 

 

 

     ♯1 深淵の鼓動

 

 

 




胸に浮かび、口ずさんだ旋律は、過去からの置き土産か、それともーー
声の導くままに力を振るう琴音、その力の意味を、彼女は既に解っていた

♯2 撃槍と握る拳と

滑らかに動くギアは徐々に軋みを上げ、少女ともう一人の物語は始まりを迎える





はじめまして又はこんにちは、和白です。
極力「戦姫絶唱シンフォギア」の第一話を再現してみたのですがどうでしょうか
文章力がまだまだ足りないので「ふざけてんのかコイツ」ってなる部分があるかもしれませんが、なにぶん私の心は硝子なので、どうか、オブラートに包んで言ってください。私がいじけます
けどよっぽどのことがない限り週一投稿はしますので、どうか1クール分、よろしくお願いします
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