戦[機]絶唱シンフォギア   作:椎名 和白

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第一話の覚醒前対話シーンを少し編集しました
一応こっちでも言っておきます

一分遅れた......解せぬ


♯2 撃槍と握る拳と

 

     ♯2 撃槍と握る拳と

 

 

 

 

「嘘......私、シンフォギアなんて初めて見た...!」

 

「そりゃ500年も姿を現したことなんて無いから......見てないのが普通よ...!」

 

 予測不可能の事態

 長らく姿を見せず、反応も示さなかったFG式回天特機装束「シンフォギア」

 昔の文献にしか現れなかった御伽噺の様な存在が、今自分たちの目の前にある

 

「あれがシンフォギア......本当に1000年前の技術力で作り出せるモノなの?あれ」

 

「まるでオーパーツね......櫻井良子はあれほどのシステムを作り出したというの...!?」

 

「うー......もう櫻井良子の再来なんて言われても素直に喜べなくなっちゃったわ......」

 

 カーラは司令室の上段から扉へと向かう

 

「どこ行くの、カーラ」

 

「...私もあの場所へ行くわ」

 

「へー、じゃあ私も行く」

 

 

「えっ、お二人とも危険ですよ!?」

 

「大丈夫よ、それに...あの子と私はちゃんと会って話をつけないといけないから」

 

「そうそう、主にシンフォギアのこれからとかね」

 

「はぁ...でも指揮は誰が取るんですか」

 

「あぁ、それは彼女にでも任せるわ」

 

 カーラが視線を送った先には一人の職員が暖かそうなコーヒーを2杯持っていて、その中の一杯を別の職員に差し入れする場面が映っていた

 

「あったかいものどうぞ......って、なんで皆んな私の方を向いてるんですか...?」

 

 

「.........あの人で本当に大丈夫なんですか...?」

 

「大丈夫、ああ見えて戦術指揮や情報把握能力はこの中で一番よ」

 

 当の女性は周りから向けられる視線に右往左往している

 

「えーと......え、嘘ですよね」

 

「いいえ、本当よ。一時的に指揮権を貴女に譲渡するわ」

 

「えぇ......!?」

 

「任せたわよ友里さん」

 

 その場で棒立ちする友里あかりを残して、カーラと椿は司令室からノイズの発生現場へと急いだ

 

 

「.........そんなぁ...!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦える。戦えてる...ッ!

 

「うぉぉぉりゃああああッ!」

 

 目の前のノイズ目掛けて拳を振るう

 プロテクターに守られた身体はノイズの特性の一切を受け付けず、逆に出力を増して自らの拳を押し通す

 

『そこ、右手を思いっきり引いて!』

 

「こう!?」

 

 琴音が右腕を後ろへ引くと、右腕のガントレットの形状が変化し、パワージャッキが後ろに引かれる

 

『そのまんまブチ当てて!』

 

「はぁぁぁぁッ!」

 

 目前のノイズへと直撃した右腕はガントレットのパワージャッキをパイルバンカーの様に打ち出し、更にその後ろのノイズへとも威力をもたらした

 

「はぁ...はぁ......」

 

『琴音ちゃん、大丈夫!?』

 

「大丈夫......これくらいなら、まだ行けるッ!」

 

『......わかった。それじゃあ、次のステップ行くよ!』

 

 その声を聞くと同時に、ギアから流れ込んでくる様な感覚で、何かの曲のイントロが流れ出す

 

『歌って!』

 

「えぇ!? 私この曲知らないし!」

 

『大丈夫、胸の歌を信じて!』

 

 《撃拳・ガングニール》

 

 流れ込むメロディに合わせて胸に浮かんでくる歌詞を歌い上げる琴音

 その瞬間ギアの出力が明かに上昇し、身体もなんとも言い得ぬ高揚感に包まれた

 

 そのまま聞こえてくる声に従い、自らの四肢を操ってノイズへと対抗する

 

『右脚を高く蹴り上げて、そのまま踵で薙ぎ払って! そう、その調子! 右手を爪みたいに構えて、右足を踏み込ませながら前に押し出すッ!』

 

「てぇやぁぁぁぁッ!」

 

 空気の膜が押し出され、周囲のノイズが吹き飛ぶ

 

『あっ、あの女の子にノイズが近づいてる!』

 

「させるかぁぁぁぁッ!!」

 

 女の子に近づいてきていたノイズを蹴り飛ばす。飛んで行った先で灰となったノイズを一瞥した後、女の子を抱き抱えてその場を走り去る

 

『取り敢えずこの場から離れよう!』

 

「うん!」

 

「...お姉ちゃん?」

 

 少女は突然謎の鎧を纏った琴音を怯えた眼で見つめ、か細い声で琴音の事を呼んだ

 

「大丈夫、君は絶対に死なないし、私が守る」

 

「......うん!」

 

 しかし琴音がさっきと変わらない笑顔を見せると少女は顔を明るくし、琴音にしがみつく

 

『琴音ちゃん、もう少し奥にあるシードを壊せばこのノイズ達は出現を止める筈だよ! もしも不安ならその子を下に降ろしてからでも十分だけど...』

 

「私は大丈夫! 足だけで十分ッ!」

 

 琴音は少女を抱えたまま数体のノイズに踵でのなぎ払いを行う

 そのまま脚部のパワージャッキを巧みに使い周囲のノイズを蹴散らしていく

 

『凄いよ琴音ちゃん! 今まで拳法とか武道とかやってるとこ見た事なかったのに...!』

 

「強いて言うなら...!」

 

 左足でノイズを踏みつけ空中へ踊り出した直後、インパクトハイクを応用した踵落としを別のノイズに打ち付けて周囲のノイズを吹き飛ばし殲滅する

 

「休みの日はアニメ見てご飯食べて寝てた!かなッ!!」

 

 ノイズが飛ばされ、開いた道をひた走る

 琴音にしがみついている少女を振り落とさない様に注意しながら、その状態で出せる全速力を使ってシードを探す

 

『......!あった、あそこだ!』

 

 すぐに琴音は飛び出し、腰のブースターを用いて飛び蹴りを行う

 

「てぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁ

肉体(ボディ)の挙動限界を確認、強制停止術式作動]

      .............ぁッ...!?」

 

 

 突然、琴音の身体が動きを止めた

 

(何......これ...ッ!?)

 

『琴音ちゃんッ!』

「お姉ちゃん!」

 

 そのまま糸が切れた傀儡人形の様に崩れ落ち、琴音は受け身を取る間もなく、身体を地面に打ち付けた

 

 更に不運な事に、周囲には新たなアルファ・ノイズが出現しており、琴音と抱き抱えている少女に向かって進行を始める

 

(ダメだ......身体が動かない...!? けど絶対に、この子だけは逃さなくちゃ............ッ!)

 

 少女は琴音の腕から抜けると琴音とノイズの間に立ち、腕を広げて琴音の事を守ろうとしていた

 

(やめて......私を置いて逃げてよ...!)

 

『どうなってるの...どうして身体が急に...!? ......まさか、急に激しすぎる動きをしたから限界が来た!? 琴音ちゃん! こ...音...ゃん!...う......よ...声.........か...く......てる...!?』

 

(どうして動かないのよ...!!)

 

 沈黙を貫きながら、腕を広げる少女へとにじり寄るノイズたち

 泣きそうな顔をしながらもノイズの前に立つ少女を見て、琴音は自分の無力を痛感し、嘆いた

 

 ノイズが攻撃耐性を取り始め、目も瞑れない琴音の目の前で少女がノイズに貫かれそうになったその時

 

 

 

 

 

「射撃開始!」

 

 

 

 

 

 凛とした声が鳴り響いた

 一瞬も置かずに大量の銃声が唸りを上げ、周辺のノイズと共にノイズシードを破壊する

 

 カケラが散らばり、最終的には砂となったノイズシードには見向きもせずに、一人の女性がこちらへ駆け寄ってきた

 

「よく頑張ったわね」

 

「.........うん...!」

 

 女性は少女の頭を撫でた後、琴音に近づいて身体を起させた

 

(誰...!?)

 

「この子が......シンフォギア装者...まさか貴女だったなんて......」

 

(どこかで会ったことある人......?)

 

 琴音の顔を覗き込んだ女性の顔はどこかあの雪音カイリに似ており、疑問符を浮かべながらも身体を動かせない琴音は、彼女のされるがままになっていた

 

(痛......くはないけど、引きずるのはやめて欲しいかな...なんて......)

 

 どこかに琴音を運ぼうとした女性は一度は琴音を抱き抱えるが一度落としてしまい、しばらく硬直した後、琴音が纏うガングニールのマフラー部分の付け根あたりを持ちながらどこかへ引きずり始める

 

 ふと視線が傾いた先に見えた少女が、女性に向かって話しかけていた

 

「あの、お姉ちゃんをどこに連れて行くんですか...?」

 

「えーっとこのお姉ちゃんはね......私たちの病院? に連れて行って治さないといけないから......えーっと......」

 

「はぁ...あんたねぇ、しょっちゅう姪と遊んでたのに、本当に子供の扱い下手よね」

 

 琴音を引きずっていた女性とは違うもう一人の女性が現れ、少女の目線に合わせるために膝を折って話し始める

 

「このお姉ちゃんはね、ちょっと張り切りすぎちゃって怪我しちゃったんだ、私たちがそれを治すために今からこの子を運ばないといけないから、一回私たちが預かっちゃうけど、良い?」

 

 こくこく、と少女は頷く

 見事に少女を納得させる言い訳を考えた女性は琴音の顔を覗くと険しい顔を見せ、もう一度少女に向き直った

 

「ねぇ君、名前は?」

 

「......紫葉 穂花(しば ほのか)...です」

 

「穂花ちゃんね、お母さんは今どこに?」

 

「......お母さんとは......逸れちゃって...」

 

 泣きそうなのを我慢して話す穂花

 その穂花を見て、女性は琴音を引きずっている女性に何かを話し、もう一度穂花に向き直る

 

「ちょっとお母さんから伝言を預かっててね、私たちについて来てくれる?」

 

 少しだけ躊躇う穂花に対し、女性は少しだけ考えた後言った

 

「貴女のお母さん......詩織さんは私たちと友達なの。お母さんから、家に帰るのはちょっと待ってって言われてるから、私たちと一緒に行こう? もしもどうしても帰りたくなったらお家に行けるからさ」

 

「.........はい、わかりました」

 

 少しだけ悩んで頷いた穂花は、女性に連れられて車の中へ入って行く

 

 

「...さて......この子どうやって運ぼうかしら......?」

 

(もう引きずらないでー!)

 

 声にならない声も虚しく、琴音は引きずられながら穂花が乗った車とは別の車に運ばれて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと......私の声が聞こえる?」

 

 車で運ばれ、どこかの地下に移動させられた琴音は、手術台の様なところに寝かされ、あの琴音を引きずっていた女性から顔を覗き込まれていた

 

「......反応無し...直接脳波から聞き取りましょうか...」

 

 琴音の頭に何かの電極を取り付けた女性は、もう一度琴音に話しかける

 

「自分の名前が言える?」

 

『立花琴音15歳、好きなものはごはん&中華、彼氏いない歴=年齢ですッ!......あれ、喋ってないのに何故か喋れてる!? え、なんで!?』

 

「よかった、脳の機能は停止していなかったのね。私はこの施設の責任者である雪音カーラです、今貴女の声は脳波から直接声を抽出している状態だから、喋ろうと思えばそのスピーカーから声が出る様になってるわ」

 

『...えっ、雪音って...もしかしてあの!?』

 

「カイリは私の姪にあたるわ」

 

 目の前の女性、カーラは一転して真剣な顔になって琴音に問いかける

 

「ところで琴音ちゃん、貴女はどこでその鎧を手に入れたの?」

 

 琴音はハッとして身体を見ようとするが首が動かない事を思い出し、カーラに助けを求める

 

『あの鎧、今どうなってるんですか!?』

 

「今はまだあの鎧、シンフォギアは装着している状態よ、正直解除してくれると調査が楽だけど今の貴女では難しいかもしれないわね...」

 

『うーん...いや、気合ですッ!気合でなんとかなる...はずッ!』

 

 スピーカーから琴音の唸り声が聞こえた瞬間、琴音のギアは瞬時に解除され、胸のあたりに残った赤い光は琴音の中へと入っていき、琴音の胸にはフォルテの様な文様が浮かび出た

 

『ほ...本当にできた......しかも私が思ったら別に頑張らなくてもできた......』

 

「...ギアは装者の思うがままに脱着可能なのね......」

 

『あっ、それで私の身体は今どうなってるんですか!? 全く動かないけど目が乾いたりしないし、喉が渇いたりもしないんです!』

 

 脱力した体制でベッドに横たわっている琴音の身体は、目の輝きこそ保たれているが、顔は無表情で精巧な人形の様にしか見えない

 

『これを伊織が見たら卒倒するだろうな......』

 

「今の貴女は一時的に身体を動作させる機能が停止されてるみたいね、なんでそんなことになったかは知らないけど一先ず貴女を検査にかけるわ。一度私はここから出るけど、暫くしたら戻ってくるから、大人しくしててね」

 

 一度カイリは部屋から退出し、琴音の身体は検査にかけられることになった

 

「椿、スキャンを開始して」

 

「はいはーい」

 

 

 実を言うと2年前のあの日、二人は琴音を保護し、一度この施設に運んでいる

 

「2年前、上が半分強制的に別の病院へ移したおかげで検査できなかったこの子の肉体......ノイズに貫かれても炭化しない秘密、暴かせてもらうわよ...!」

 

 間も無くスキャンが開始され、琴音の身体を緑色の光が包んでいく

 数秒経って結果がモニターに表示されたが、その結果はその場にいた二人の予想を大きく上回るものだった

 

 

 

 

 

 

 

「これって......そんなまさか......ッ...!」

 

「.........チッ......一体誰がこんなこと......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 30分後

 

 

 

 

「............あ...」

 

(あ、喋れる)

 

 スキャンが始まってから今までぼーっとしていた琴音は、身体が動かせる様になっているのを確認してから、身体を起こした

 すると、部屋のスピーカーから琴音とは違うがどこか似ている声のが聞こえて来た

 

『あっ、やっと繋がったよ〜大丈夫?琴音ちゃん』

 

 『声』が直接耳に聞こえたことが予想外で暫く固まっていると、部屋の扉が開き、中にカーラともう一人の女性が入ってくる

 

「琴音ちゃんの脳波から琴音ちゃんとは別の派系を感知したのだけど、大丈夫!?」

 

 焦った様子のカーラとは対照的にずっと考え事をしているもう一人の女性は、琴音を見て更に顔を険しくさせた

 

「あぁ、紹介するわね。この人は椿、金本椿よ。医務員と研究員、開発員を兼員してて、私たちの組織に無くてはならない存在なの」

 

「よろしくね〜」

 

 一変して明るい顔を作った椿へお辞儀する

 

「それで...さっき琴音ちゃんからよく分からない派系が検出されたのだけど......心当たりはない?」

 

「あー...それは多分...」

『私のことかな?』

 

 またもスピーカーから声が聞こえた

 二人揃って似た様な反応をするカーラと椿を見て少しだけ笑いがこみ上げて来たが、そこは我慢する

 

「貴女は一体...?」

 

『私は琴音ちゃんの中に宿ってるもう一つの魂?みたいなものだよ』

 

「あー、もう一つの魂と来たか......」

 

 本当かどうかは別として、琴音の中にもう一つの人格があるのは間違い無い

 

「そういえば、名前とかはあるの?」

 

 2年間も声を聞き続けたが、常に無視をし続けていたために琴音はこの声のことを何も知らないのだ

 

『うーん...名前かぁ......えーっと強いて言うなら......』

 

 

 

『ガングニール...かな?』

 

 

 

 

 その場の全員が息を飲むのが分かった

 この声は、自らの名をガングニールと語った。この言葉が真実だとすれば、言葉を理解し知性を持った聖遺物という未知の事象を前にしているということになる

 

『あくまで強いて言うならって感じだからね、私は確かにガングニールに宿ってるけど、ガングニールが生み出したって訳じゃないから』

 

「そんなこと言われても、聖遺物に意思が宿るということ自体前例が...」

 

『あるよ』

 

 椿の言葉に被せて反論するガングニール

 

『もしかしたら今はもう残されてないかもだけど、私は知っている。あの人は確かにここに宿っていたんだよ』

 

 あの人、とは誰か分からないが

 ガングニールは実感のこもった口調でそう話す

 

「......それで...」

 

 

『prrrrrrrrrrrr』

 

 

 部屋の中に突然着信音が響く

 

「あっ......この着信音は......!」

 

 ポケットの中からバイブレーション中の携帯端末を取り出す

 

「伊織...!」

 

 受信先の名前には「小日向伊織」と書いてあり、琴音は思わず着信ボタンを押してしまう

 

「いお...」

 

『琴音! 今何時だと思ってるの!?』

 

「はひぃ!」

 

 琴音がチラッと部屋の電子時計を見ると、時刻は10時を優に過ぎており、既に門限を越えていることが発覚した

 

「あのー、これには海より深ーい訳がありまして......」

 

 カーラの方を見ると、彼女は首を横に振り『この事は話さないで』と琴音に伝えた

 

『はぁ......琴音が誰かの人助けをしているのは分かるけど...ちゃんと自分を大切にしてよ?』

 

「うっ......うん...」

 

『......今日の琴音はさ、なんか変だよね』

 

「えっ......?」

 

『いつも、本当に危険な場所には飛び込まない琴音が、今日はひったくり犯を捕まえたって聞いた時は肝を冷やしたよ...何かに影響されたか、あの日のトラウマが治ったかは聞かないけど、その人助けは歪な君の自己満足なんかじゃなくて、昔からの君の良いところなんだ。だから...なんて言えば良いのかな.........ごめんね琴音、なんか変なこと言っちゃって...』

 

「......ううん、大丈夫、ありがとね、伊織」

 

『え? 僕なにか琴音に感謝されることしたっけ?』

 

「ううん、何でもない。それで......え?」

 

 隣にいるカーラから突然肩に手を置かれた琴音は、カーラから「少し相談があるの」と耳打ちされた

 

「ちょっとごめんね」

 

 一度電話をミュートにし、カーラからの言葉に耳を傾ける

 

「悪いのだけど......この子を預かって貰えないかしら」

 

  カーラの後ろから顔を出したのは、あの時琴音が助けた少女 紫葉穂花 だった

 

「あの......あの時はありがとう、お姉ちゃん!」

 

「あ......うん。どうしたしまして、穂花ちゃん」

 

 穂花は嬉しそうに微笑んだ後、琴音の手を取ってもう一度無邪気に笑う

 

「どうして、私の方に?」

 

「......それは...後でメールを送るわ。穂花ちゃんの許可も取ってるから、あとは貴女たちの寮で面倒を見てもらうことになるけど......頼めるかしら?」

 

「それは...伊織に聞かないと何とも......私は大丈夫ですけど...」

 

「お願いするわ」

 

 琴音はミュートを解除して伊織に話しかける

 

「えーっとね、伊織、今からもう一人部屋に住み始めるって言ったら...どうする?」

 

「え、どういうこと?」

 

「例えば! 例えばだからね!?」

 

「うーん、それなら......食費とかは仕送りで十分な額が来てるし、ベッドも一つ空いてるから......別に僕は大丈夫だよ」

 

「わかった!言質取ったからね!」

 

「え、ちょっと待って琴音何するつもり!?」

 

「それじゃ!!」

 

「えっ、ちょっ!?」

 

 琴音は伊織のことは気にせず電話を切る

 

「えーっと...okと言うことでいいのかしら......?」

 

「はい!」

 

「あー......なんというか、この子がこんな状況でも元気な理由が分かった気がするわ」

 

 

 

 

『帰りは椿が車を出してくれるから、それに乗っていきなさい。また明日詳細なことを説明するから、次の日の放課後、時間作っておいて頂戴ね』

 

 

「はぁ......」

 

 帰りの車の中で、琴音は大きなため息を吐いた

 

「どうしたの?」

 

「あ...いえ、別になんでも...」

 

 言い淀む琴音に対して、車を運転中の椿は少しだけ笑みを浮かべながら揶揄う様に言った

 

「恋でもなんでも、一人で抱え込むといつかパンクするわよ〜、お姉さんに話してみなさい」

 

「恋ってわけじゃないですけど......はぁ......私と伊織......あの電話で話してた子は、一緒に捨てられた孤児なんです。昔からずっと一緒にいるんですけど、2年前、カイリさんのライブに行って死にかけた時に、伊織ともう会えないって感じがして怖くなったことがあるんです」

 

「そう、あの事件に、貴女もいたのね」

 

 当事者である椿は、琴音のことを忘れたことはなかった

 ノイズに貫かれても炭化しない身体に、恐ろしい程の再生能力、判明すればただただ忌々しい物であったが

 

「その時はちゃんと生き残りましたけど......今日私がシンフォギアに適合した時、その時と同じ感覚がしたんです。伊織と離れていく感覚というか......」

 

「幼い頃から一緒にいる故の感覚ってこと?」

 

「うーん、よく分からないんですよね......だから、って言っちゃなんですが、不安なんです、シンフォギアを纏って戦うことが」

 

「不安......ね」

 

 琴音は車の窓から街灯が眩しい町の景色を覗く

 

「私はただ、学校を卒業しても、大人になっても、お婆ちゃんになっても、伊織と一緒にいたいだけなのに......出来ないって思ってしまうんです。いつか必ず、私か伊織の身になにか良くないことが起こる、そんな風に考えてしまうんです」

 

「......貴女がその伊織くんと平穏に過ごせるかは、まだ分からないけど、貴女には、その平穏を手にできる力がある。それを忘れないで」

 

 その言葉を残した後、椿の雰囲気が一変する

 

「それより......さっきさらっと惚気ていったわね? やっぱり、伊織くんとはそういう関係?」

 

 物凄く楽しそうな顔で琴音に伊織との関係を聞いてくる椿

 

「えっ!? 私と伊織はただの幼馴染で、一緒にいると落ち着くっていうか、匂いが落ち着くっていうか!? ただ一緒にいたいって言っただけで他意は無いですよ!?」

 

「またまた〜、照れちゃって〜」

 

「照れてません!」

 

「叫ぶと更に怪しいわねぇ......!」

 

「だから違いますってばぁ! って、前見てください前!」

 

 一瞬前の車や電柱と衝突しそうになったりはしたが、無事に寮の前に到着し、隣で寝ていた穂花を優しく起こす

 

「穂花ちゃん、着いたよ」

 

「ん...むぅ......ん......お姉ちゃん?」

 

「うん、そうだよ。それで、今日からここが君のお家だよ」

 

「ん......」

 

 椿に礼を言ってから眠そうに目を擦る穂花の手を取って寮のエレベーターに乗る

 この寮は建物自体の見た目は数十年前のものだが、中はリフォームされて新しいものに変更されている

 

 二階にある自分たちの部屋の前に立って、インターホンを押す

 

「はーい、ってこんな時間じゃ一人しかいないか...」

 

 扉を開けて現れた伊織は、少しだけ頬を膨らませて怒った様な様子を見せていた

 

「琴音、人助けはいいけどちゃんと門限は守...って.........?」

 

 しかし、琴音の手を取って目を擦っている穂花を目にすると、玄関の周りを見回して、琴音の腕を引っ張って部屋へと入れた

 

「こっ...こ、ここっ...琴音!? この子誰!?なんで連れて来てるの!?」

 

「あのー、だからこれには深い訳が......」

 

「言い訳は聞くけど、親御さんはどうしたの!?」

 

「それは後で説明するよ、だから、取り敢えずこの子をベッドに寝かせて良い?」

 

「......本当は着替えて欲しいけど、後で布団は洗濯しておくから、寝かせて来て」

 

「分かった」

 

 寮は基本男女別に一部屋二人の二段ベッド付きなのだが、二人は例外で男女混合で同じ部屋に住んでいる。更に二段ベッドの一段を二人で使っているので、一段ベッドが余っているのだ

 

 

「......それで、あの子は一体誰なの?」

 

 穂花を寝かしつけて来た伊織が琴音に問う

 

「...あの子は、今日私が助けた女の子だよ。名前は紫葉 穂花」

 

「それで? なんでここに連れて来たの?」

 

「...それが......あの子のお母さん、詩織さんって言うんだけど、あの子が迷子になってる間に事故に巻き込まれて亡くなっちゃったみたいで......」

 

「え......」

 

「その人の遺言で、『立花』か『小日向』性の女の子に預かってもらってって言ってたらしいの。何かにアテがあったらしくて、私に回って来たんだよ」

 

「そんな......父親や兄弟とかは?」

 

「父親は穂花ちゃんが幼い頃に病死、兄弟はいないって」

 

「それじゃあ......もう一生...」

 

「うん、私たちは物心ついた時から家族はあの家の皆んなだったけど......この子は............」

 

「......わかった。気が済むか、他の引き取り人が来るまで、ここに居てもいいよ。本当なら管理人さんにも言っておいたほうがいいと思うけど......」

 

「あ、管理人さんにも許可は取ってあるよ」

 

「え?」

 

「学校にも連絡が行ってるし、お母さんたちも困ったら頼ってくれだって」

 

「えーっと......僕たちに預ける必要、ある?」

 

 

「いや、一応詩織さんの遺言だから......」

 

 

 

 

 

 翌日、穂花は一度学校を休んでS.O.N.G.の本部へと向かった。なんでも、詩織の友人で、穂花とも面識のある人が穂花の荷物を家から持ってくるそうだ

 

 因みに琴音たちは、いつも通りリディアン音楽院に登校していたのだが.........

 

 

「うわっ、何この人の集まり...」

 

 校門前には大量の人だかりができており、一部はこの学校の生徒でない人間も混じっている

 

「なんでうちの生徒じゃない人もいるの...?」

 

「有名人でも来てるのかな?」

 

 人だかりの中に飛んだり跳ねたりを繰り返している少女と、それを眺めている三人を見つけた二人はその数人のグループに近づいていく

 

「おはよう、裕貴。何が起きてるの、これ」

 

「あー、これか? アイツの叫びを聞けばわかると思うが...」

 

 飛んだり跳ねたりしてる少女...亜美の方へ耳を傾けると、確かに何かを叫んでいた

 

「ちょっ......どきなさいよ! 私だってカイリ様見たいのよぉ!」

 

「えっ、カイリ!? カイリってあの雪音カイリ!? どこ!そこにいるの!?」

 

「落ち着いてコト、まだ来てない。アッキーは場所取りに勤しんでいるだけ」

 

 荒ぶる亜美に感化され荒ぶる寸前の琴音を抑えたのは、無表情で大人しそうな少女の安藤 美咲

 微笑みも落ち込んだりもしない顔だが、二人だけその表情を読み取れる人がいる

 

「安藤さん、顔色悪いね、大丈夫?」

 

 その内の一人が伊織

 常人では通常の美咲と今の美咲を比べてみても全く変わったように感じないだろう。しかし伊織はなぜか分かるらしい

 

「多分美咲はこの騒音に耐えかねているのではないでしょうか?」

 

 美咲の後ろから伸ばした腕で彼女の耳を塞いだもう一人の少女、彼女が美咲の感情を読み取れる二人目の人間、寺島 梨子だ

 

「確かに煩いね......っていうか本当に何があったの?」

 

「知らないの琴音!? カイリ様がリディアンに復帰するのよ!? 私たち、あのお方と学校生活を送れるのよ!! アニメじゃないのよ!!!」

 

「分かった。分かったから!けどカイリさんと私たちって学年違うでしょ!」

 

「そんなことは些細な問題よ!」

 

 亜紀は興奮を収めることなく琴音の両肩を掴む

 

「行きましょう琴音! 輝かしい青春が私たちを待ってるわ!」

 

 抵抗する間も無く亜美に連れて行かれる琴音

 それを眺めていた他4人だったが、近くに黒い車が停まったことでそちらに意識を向けた

 

「あ、カイリさんだ」

 

 そう、その車に乗っていた少女こそが雪音カイリその人だったのである

 

「これ、あんまり叫ばないほうがいいよね」

 

「うん、このまま静かに通り抜けてくれれば、いつかはこの人だかりも解散する」

 

 しかし、そんな考えの四人とは裏腹に、カイリはその集団の中央に自ら歩み寄って

 

「おはようございます」

 

 挨拶した

 

 ごく普通に、友人にするように、挨拶した

 

「.........」

 

 呆気に取られる人だかりの中へ更に歩み寄ると、人だかりがモーゼが割った海のように二つに分かれる

 

「これが......カリスマ...」

 

 美咲さえも呆気に取られたように呟く

 人だかりの前を笑顔で佇むカイリはまるで後光がさしてる錯覚を周りに見せ、ここに居る人は全員彼女の雰囲気に飲まれていた

 

「こんな所に集まっていると登校してくる生徒たちの邪魔だから、ごめんねみんな、これからは控えてくれるかな?」

 

 そのままゾロゾロと去っていく大勢の部外者たち

 しかし相当な人数が去ってもリディアン音楽院の生徒たちで埋まっており、通行の邪魔なのには変わりなかった

 

「うーん、それでも多いな......まあいいや、ここに立花琴音って子いる?」

 

「えっ!?」

 

 琴音の名前が呼ばれたことに驚く伊織

 当の琴音はしばらく頭をフリーズさせ、隣の亜美に頭を少し叩かれ、ようやく手を上げた

 

「君は......確かに面影がある...うん」

 

 カイリは琴音に近づくと、耳元に唇を近づけ

「昨日はありがとうございます、格好良かったですよ」

 と言葉を残して、校舎へと入っていった

 

 カイリの後に続くように校舎に入っていく人たちに取り残されながら、琴音はまた暫く固まっていた

 

「ど、どうしたの琴音...?」

 

 動かない琴音が心配で声をかけて来た伊織に、琴音が一言

 

「生声......耳の近くで......生ASMR......!?」

「............死ぬかもしれない」

 

「琴音!?」

 

 呆然とする琴音を揺らして何とか動かそうとする伊織を置いて、亜美を含む友人たちは校舎へと入っていく

 

 

 

 かくして、戦姫たちの物語は始まった

 

 彼女たちがたどり着く場所が、千年の思いを継ぐものか、それとも全く別のものになるのか

 

 彼女たちはまだ、知る由もない

 

 

 




動き始めた物語は止まらず、放たれた弓はどこまでも鋭く脆い
少しずつ、だが確実に心を癒していく琴音
伊織もまた、変わっていく環境に徐々に違和感を感じ始める

♯3 流星にすれ違う

湧き上がる衝動を持たない少女は
一つの約束を心に立てる
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