と不安になってます
♯3 流星にすれ違う
琴音が穂花を引き取ってから一週間が経過した
その間に、琴音はS.O.N.G.への正式配属が決定。特殊な立ち位置であるが故に、必要な時だけ呼び出されるだけなので、日常面で変わったことはあまりないと言える
それと、穂花が琴音たちの部屋に馴染んできたことも書くべきだろう
最初の数日間は借りて来た猫の様に大人しかった穂花だが、ある日を境に本来の性格であろう明るさを出して来た
伊織と琴音、特に伊織に懐いており、琴音はよく伊織の後ろに引っ付いて歩いているのを見る様になった
因みに琴音はこの現状に少し不満らしい
「伊織は穂花ちゃんの方が良いんだー...」
「いや、そんな事ないよ。ていうか良いって何さ、何に対して?」
「さぁ? 私も分からない」
詰まるところ可愛めの嫉妬である
そして、この一週間で一番大きく変わったことは......
「おはよう。二人とも」
リディアンへの登校中、わざわざ車を降りて二人に話しかけて来たのは、白銀の髪とアメジストの瞳を持つ絶対的アイドルの雪音カイリ。彼女がリディアンに復帰したあの日から、何故か二人はこのアイドルに目を付けられていた
「あ、おはようございます。雪音先輩」
「おっ、おお、おはようございます!」
自然な動作で琴音の隣に並ぶカイリ
琴音の方は少しだけ理由に心当たりがあるが、そういうものが全くない伊織からして見れば、世界的に有名な歌姫が突然自分たちに絡んできた、と見えただろう
だがしかし、伊織には長所であり短所でもある特徴が一つある。それが
「雪音先輩はなんで最近琴音と仲良くしてくれるんですか?」
「うーん、この子が面白そうだから...かな?」
「何か別の理由がありそうですけど...今はそれで良いです」
そう、歌姫とか関係なく、というかほとんど興味ないため
普通に接せるのだ、どんな人間とも
逆に、どんな人間とも普通に接してしまうのだ
「伊織! ちょっ、失礼だよ!首が飛ぶよ!?」
「いや、流石に雪音先輩と話すだけでは首飛ばないよ...」
こう、熱心な信者に見られると結構面倒くさい反応されるのがネックだ
「ふふっ、別に良いよ、琴音ちゃんも私のことは雪音先輩って呼んで?」
「はっ、はい! ゆ、雪音...先輩!!」
カイリはガチガチに固まりながら自分のことを呼ぶ琴音を見て微笑みながら、伊織に問う
「そうだ、今日の放課後、この子借りて良い?」
「琴音をですか? 用件を聞いても?」
「ちょっと乙女の秘密をね?」
人差し指を唇の前に立て、可愛らしくウィンクをする
それだけで大体の人間はKnock outッ!ものだが、何故か伊織には効かない
「うーん......」
カイリの顔をじっと見つめる伊織
負けじとカイリも伊織を見つめ返すが、やがて伊織はカイリから目を逸らした
「悪意はなさそうなので大丈夫です、門限までには返してあげて下さいね」
「やった♪」
「え、まってください、何で真先に伊織に許可とるんですか!?」
「えー、だって伊織くんって琴音ちゃんの執事みたいな感じするじゃん?」
「いやいや、執事なんてそんな」
「なんで伊織は満更でもないの!?」
世界的アイドルと日常的な会話を、先輩と後輩という立場でできるとなると、ファンからすれば眉唾物の状況である
そう、後ろの彼女の様な
「こーとーねー......」
「ひっ!?」
突然後ろから伸びて来た腕が両脇に滑り込んできて、情けない声を上げる琴音
そのまま腹まで指が這わされ、琴音の少し艶やかな笑い声が聴こえてくる
「ふっ...ぅ...ひゃっ、はっ.......あっ...んっ...!?」
「楽しそうだねぇ! カイリ様と毎日毎日登校しやがってぇ!彼氏との登校に推しが加わってさぞ幸せでしょうねぇ、えぇ!?」
女子高生とは思えないほどおぞましい声で琴音の横腹をくすぐり続ける亜美
「かっ、彼氏なんてっ、あっ...いない、よっ、ぅん!」
「いるだろがぁぁ!! 純粋で紳士的で顔も声も可愛くて常にアンタのことを第一に考えて行動する全世界の女子が羨むレベルの彼氏がよぉぉぉ!!」
「亜美さん、僕と琴音は付き合ってないよ?」
「嘘つけやぁ!!!」
暴徒化する亜美を止められず、遂に笑いを抑えられなくなった琴音が亜美の手を掴んで全力の抵抗を始める
「ちょっ、あんた握力強くないかしら!?て、イテテテテテ!?」
「こっ、こっちもやられるだけじゃいけないんだよぉ!」
二人でもみくちゃになって戯れていると、亜美の後ろから更に一人の人影が現れた
「お前は一体何をしてるんだ」
亜美の頭頂部に一撃喰らわせた双子の兄である裕貴は、頭を抑える亜美を無視して琴音に謝罪する
「うちのバカな妹がすまんかった...」
「いやいや、多分私も亜美がこういう状況になってたら同じことやるだろうし...」
「やっぱり自分の状況自覚してるじゃないのぉ!!」
またも戯れあいが始まる前に裕貴が亜美を抑える
「ははっ、仲良いねぇ君たち」
当事者であるカイリが笑いながら言うと、いがみ合ってる二人の代わりに伊織が答える
「二人とも中1からの仲ですからね、良くも悪くも気が合うらしいです」
更に後ろから美咲と梨子の二人が合流したことで、結局カイリを含めた七人で登校することになった
「これは夢......?」
「いいや、夢じゃないよ」
亜美は両手で顔を抑え、空を仰ぐ
「はぁ......さいっこう.........明日私死ぬのかな......」
「それなら私はもう五日分死んでるね」
「はぁ......打ち首にされる......」
「誰にだよ」
「全世界のファン」
そんな恐ろしい会話をしながら歩いていてもカイリのオーラは周りに絶対的な存在感を魅せ、周囲の人目を引いていく
そんなカイリの周りに人が集まってくるのは時間の問題だった
「カイリさん、おはようございます!」
「おはよー」
「おはようございます、カイリ先輩!」
「はーい、おはよー」
人混みに慣れていない美咲が分かりづらく顔を顰める
そのことに気づいた伊織と梨子が美咲を隠す様に動いたことで気づいたか、カイリは琴音に目配せをした後、琴音達から離れていった
「あっ......夢の終わり......」
「美咲に気を遣ってくれたのでしょう、良い方ですね」
「あったりまえでしょ!」
物凄い落ち込んだ亜美の機嫌を一瞬で直した梨子に感心する裕貴
そのままの流れで梨子は話題を変える
「そういえば今夜、流星群が来るそうですね?」
「ん、そうなの?」
「そういえば今朝ニュースでやってたな...」
「そうだっけ」
「琴音も見てたでしょ...」
「それで、それがどうかしたのか?」
「いえ、良ければ皆んなで見に行こうとかと思いまして」
「お、良いわね!」
「俺らは大丈夫だ」
「琴音が間に合えば行くよ」
「えぇ!?良いよ伊織、みんなと行ってきて」
放課後に誘われたのは良いものの、門限までには返すとしか言われていない琴音は流星群の時間に間に合わないのを考えて伊織に自分を待たずに行く様に促すが、伊織は首を横に振る
「いいや。琴音、一人でいるの嫌いでしょ?家に帰ってきて、一人だけじゃ寂しいからね」
更に伊織は琴音の耳に顔を近づけ
「それに、穂花ちゃんの事もあるしね」
と囁いた
勿論琴音は
「ひゃうっ!?」
こうなる
「......なんかムカついてきた」
「なんで!?」
その後しばらく琴音は亜美に追いかけ回されたという......
「さてと.........」
ノイズシードの事後処理に、土地の管理者への報告......その他諸々の事務仕事を終えた椿はあかりから渡されていたココアを飲みながら次の仕事に備えていた
「うーん、甘い。だがそれが良い〜」
『そうだよね〜、私もあったかいココア大好き〜』
椿しか居ない筈の研究室に響く一つの声
「それで、貴女はいつまでここに居るの?」
『うーん、琴音ちゃんが学校終わるまでかなぁ...?』
「ま、良いけど」
何故か研究室に響く『ガングニール』の声を聞き、椿はまた事務作業へと戻る
「貴女って、いつからガングニールに宿ってるの?」
ふと数個の質問を思いついた椿は、ガングニールへと質問を試みる
『丁度900年前くらいかなー』
「暇じゃなかったの?」
『つば......天羽々斬さんとか、イチイバルちゃんも居たしね。暇はしなかったよ、しばらくは錬金術師さんも居たし』
「錬金術師? それに、イチイバルや現在所在不明の天羽々斬にも意志が宿っているの?」
『うん、錬金術師さんは今は何処かに行っちゃったけど、イチイバルちゃんとは今でもたまに会ってるよ。天羽々斬さんは最近連絡取れてないんだよなー』
だんだんと興味が湧いてきた椿は一旦キーボードから手を離し、音が鳴っているスピーカーの方へと体を向ける
「貴女たちシンフォギアは、この世界に一体何体いるの?」
『この国の中では、琴音ちゃんの中にいる私と、カイリちゃんが持っているイチイバル、今は何処にいるか分からない天羽々斬......それと、もう一つ.........神獣鏡が、どこかにいる筈なんだ。微かに気配は感じるけど、それがどこかは分からない。ここにあって、無い様な...近くて遠い様な、変な感覚がするんだ』
「神獣鏡? データベースには存在しないシンフォギアね......それってどんなモノなの?」
『神獣鏡は、シンフォギアを殺すためのシンフォギア。聖遺物も、呪いも、全てを浄化する光を写し出す鏡の聖遺物』
「シンフォギアを殺すシンフォギア.........」
そんなものが何処かに野放しにされている。それを考えただけでも不安が残る
『外国にあるシンフォギアは、アガートラームさんと、イガリマちゃんとシュルシャガナちゃんかな。シンフォギアに限定すると、今のところ七つがこの世界に存在してる』
「七つのシンフォギア......神殺しを行った時の人数と同じね、伝承では六つのシンフォギアと一人の錬金術師って書いてあったけど、本当は全員シンフォギアだったの?」
『ううん、その伝承は半分あってるよ。確かに最初は私たち六つのシンフォギアと一人の錬金術師だったんだ、その後錬金術師が抜けて、み...神獣鏡が入ったんだけど、その時はまだシンフォギアじゃなくてファウストローブだったから、記録されてないんじゃ無いかな?』
「ファウストローブ?」
また椿が知らない単語が出てきた
『ありゃ、その情報も残されてないのか...これはもしかして人為的に情報が消されたのかな......?』
「その線の方が強いんじゃないかしらね、最近の日本は何がしたいのか分からない事だらけだから、そんな事あってもおかしくないわ」
『うわー信用ないね〜』
「だって本当に意味わかんないんだもん。......もう少し話してたいけど、もう琴音ちゃん達、帰る時間じゃない?」
『あっ、そうだね。じゃあまたね〜楽しかったよ!』
「あ、ちょっと待って。最後に一つだけ聞きたいんだけど」
『なに?』
「......貴女は、シンフォギアをどこまで知ってるの?」
『......私は、このシンフォギアの全てを知っている。誕生の経緯から、その瞬間、ロックされている約三億もの機能の全て、今までに搭載された決戦機能や歌の数々、そして、纏った時、その人が何を思ったのか、とかね』
「それじゃあ伊織、カイリさんのところ行ってくるねー!」
「うん、行ってらっしゃい」
琴音を見送り、自分も寮への帰路につく
「はぁ......」
最近、琴音と一緒にいる時間が減った
その代わり琴音は、憧れの人である雪音カイリへと積極的に関わろうとしている
「うーん...なんかパッとしないな......」
寮の扉を開き、玄関へと入る
すると奥からぱたぱた足音が聞こえ始め、やがて一人の少女がこちらに顔を出した
「お帰り、伊織兄さん」
「うん、ただいま。穂花ちゃん」
紫葉 穂花、一週間前に突然琴音が引き取ってきた少女
彼女自身は小学四年生らしく、今週からはちゃんと学校に通っている
「あれ、お姉ちゃんは?」
「琴音は先輩と用事があるから遅くなるって」
「そっか、だから兄さんちょっと元気なかったんだ」
「え?」
言われて初めて自分の顔が少し疲れてしまって様に見えていることに気づく
「あぁ、ごめんね。でも琴音が居ないこととはあんまり関係ない気もするけど...」
「ふーん...兄さんが言うならそうなんだね、ごめんなさい。勘違いだったみたい」
「いや、大丈夫。心配してくれてありがとうね」
洗面所で手を洗うついでに顔を洗い、穂花に構い始める
「兄さん」
穂花がソファに座った伊織の膝の上に乗ってくる。そのまま伊織のことを呼ぶと、して欲しいことを察した伊織が穂花の頭を撫で始める
「ふみゃぁ...」
即行で穂花の顔が蕩け始める
「ねぇ、兄さん」
「何?」
「琴音お姉ちゃんのこと、好き?」
「......そうだね、好きだよ」
「そっか、よかったぁ...」
今は亡き穂花の父親
彼は、穂花に対しての愛情は深かったが、対して詩織さんへ向ける感情は良くはなかったという
小学生に上がる前には病気で死んでしまったらしいが、幼いながらも両親の不仲を感じ取っていた穂花は、偶に2人の仲が気になってしまうのだろう
「じゃあ兄さん、私のことは、好き?」
「うん、好き」
「じゃあ、お母さんは?」
「.........まだ、分からないな」
穂花自身は自分の母親が死んだことを知らない
伊織と琴音は一度、紫葉 詩織に会っていることになっているが、本当は一度も会っていない
顔写真くらいなら見たことはあるが、どんな性格の女性なのかも分からないし、踏み込んだ話をされると彼女のことをよく知る穂花には違和感を生み出してしまう
「......好きになれそう?」
「...そうだね、きっと」
その場に暫くの沈黙が生まれる
「兄さん、次の休みさ、ふらわーに行きたい」
「うん、良いよ」
「いっつもお姉ちゃんたちが食べてる焼きそば食べたい」
「あそこの焼きそばすごく美味しいからね、本当はお好み焼き屋さんなんだけど」
「そうなの?」
「そうだよ、なんでも今の店主が『た〜だいま〜!』...琴音が帰ってきたね、行こうか」
「うん!」
二人揃って玄関の方へと向かう
「お帰り、琴音」
「お帰りなさい、琴音お姉ちゃん」
時間的には流星群に余裕で間に合う時間
あまり穂花を一人で家に残したくないので、四人に事情を説明して穂花も連れて行けるようにする
「流星群かー、楽しみ」
「琴音って天体観測とかしたことないっけ」
「私は確か......小学生のときにそういうイベントに行ったくらいかな...?」
「穂花ちゃんは?」
「私は初めて」
三人で準備を始める
準備と言いつつ、ただ着替えるだけだが
「そういえば、雪音先輩とは何を話してたの?」
予想してた時間より相当早い帰宅だったため、疑問に思った伊織は琴音に聞く
「んー、それがね、雪音先輩とは会ったけど、なんか用事ができたって言ってどこかに行っちゃったんだよね」
「へぇ...」
そろそろ日も沈んできた
いざ家を出ようと扉へ手をかけたとき
無慈悲にも、琴音の持つ端末からアラームが鳴り始めた
忘れてた
「どうしたの? 琴音」
化物を倒す力を手に入れて
「いや、何でもない。ちょっと電話...」
その力を持つ意味を、忘れてた
「.........高台近くの森...」
この力は、必要とされている力
私一人の意思で勝手に振り回せるものじゃない
「......伊織」
「どうしたの、琴音。何かあった?」
「ちょっと、予定入っちゃった」
どうしよう今の私の顔、絶対酷い顔だよ
「......琴音、それは無理やりやらされてる事?」
「...ううん、違う」
「......そっか、深くは聞かないけど、さ...危ないことは、してないよね?」
私の脳裏にノイズに消される人たちの姿が走る
シンフォギアが私の身体を守る鎧だったとしても、一歩間違えば私もあの時の様に死んでしまうことだってあると思う
それでも、私は伊織のためなら
「大丈夫、そんなことないから」
「.........うん、わかった。琴音を信じるよ」
罪悪感が溜まるのを感じる
伊織は私を信じてくれているけれど、今はそれが嬉しくもあり、申し訳なくもある
「それじゃあ、皆んなにはごめんって言っておいて!」
本当に、ごめん
「.........僕には、背負えないもの......なんだね」
「兄さん?」
「いや、なんでもない。琴音は用事ができちゃったみたいだから、2人で行こっか」
「カーラさん!」
『琴音ちゃん、既にSYNが出動してるけどあくまで時間稼ぎにしかならないわ。なるべくで良いから急いで頂戴』
「分かりました!」
人気の無い町の端を走りながら琴音は自分の胸に手を添える
「ごめん、伊織」
『琴音ちゃん......』
「大丈夫...大丈夫.........いくよ、ガングニール」
『う、うん』
『「Balwisyall Nescell gungnir tron」』
あの時の様な痛みは無い
胸の中央からフォルテ記号の結晶が浮かび上がり、装着されたところから身体を包みこむ様にしてにスーツが展開される
一瞬にしてガングニールを纏った琴音は、目的地に向かって跳躍した
「ノイズシードの破壊は失敗した! 全隊後退しながら各自ノイズの殲滅に当たれ!」
銃声が鳴り響く戦場の地
ノイズシードの破壊に失敗したSYNは、シンフォギア装者が到着するまでの間、なんとかしてノイズの進行を食い止める必要があった
「なんとかして装者とイマージュが来るまで持ち堪えろ、絶対に町まで被害を及ばせるな!」
「「「了解!」」」
数歩後退しながらもノイズへと弾丸を当て続けるが、当のノイズは仰反るだけで消滅はしない
「異常な硬さのノイズ......まさかっ、ベータノイッ...!?」
何かを叫ぼうとした隊員の心臓に、ノイズが突き刺さる
ノイズと共に消滅する隊員、その光景を茫然と見つめる少女が1人
「あっ......あぁ......あぁぁぁ!!!?」
ガングニールの適合者である琴音がノイズ出現の現場に向かい最初に目撃したのは、ノイズに貫かれ灰となるSYNの隊員の姿だった
「っ! シンフォギア装者が到着した! あと一踏ん張りだ、行くぞ!!」
「あ......あぁ......」
『琴音ちゃん! しっかりして!!』
琴音の脳裏に2年前の光景が蘇る
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
琴音は無我夢中でノイズを殴り飛ばす
前回のノイズならばそれだけで灰となっていたが、今回のノイズは吹き飛ぶだけ
しかし今の琴音にはそんなこと気にする余裕がなく、気にせずに他のノイズを殴り、蹴り飛ばしていく
「らぁぁぁぁぁぁッ!」
半狂乱状態の琴音は背後からのノイズの攻撃も見切り、反撃へと転じさせる
「お前らはなんでッ、何でいつもいつもっ、私の目の前で、私の大事な時に! そんなことするんだよッ!!!」
八つ当たり気味にノイズに拳を打ち付ける
「装者に続け! 対ベータ用の特殊徹甲弾を装填し、攻撃せよ!」
琴音の前にSYNの面々が出てくる
その時、また琴音の脳裏にあの時の光景が浮かんできた
とっさに身体が動いていた
SYNの隊員たちの前に出ると、思い切り地面を踏みつけ地盤をめくれあがらせ、自分と隊員たちの間に壁を作った
「なっ、どうした!?」
「ダメだ......私じゃまだ守れない...」
『琴音ちゃん、しっかりして!!』
「......あぁぁぁッ!!」
力強く地面を踏みしめ飛び込み、ノイズの一体に脚撃を撃ち込む
そこから流れる様にもう片方の足で蹴り込み、ノイズの身体を掴んだ後、パワージャッキのパイルバンカーで衝撃を送る
そこまでしてようやく一体のノイズが消滅した
灰に塗れた自分の手を握りしめ、また別の敵へと向かう
次の標的を探している時、ふと琴音の目に映り込んだのは、異質な一体のノイズ
「あれは確か...ベータ・ノイズ...?」
すぐにそのベータ・ノイズへと向かい、飛び蹴りを見舞うが
「いっつ...ッ!?」
吹っ飛ぶどころか逆に自分の足に痺れが襲い、反撃をくらって吹き飛んでしまった
「硬い......!」
『琴音ちゃん! 今は一旦引いて、あの人たちに突破口を開いてもらわないと!』
「ダメだよ......誰かが死ぬのを...私はもう見たく無いんだよ...!」
構わずベータ・ノイズへと向かい、また返り討ちに遭う琴音
ガングニールの叫びも虚しく、琴音が誰かに助けを求める事はなかった
「はぁ...はぁ......絶対に...潰す......」
次第に琴音の雰囲気が豹変していき、目元も鋭くなっていく
『もうやめて琴音ちゃん...これ以上やると......』
「これ以上やってしまうと、小日向さんに心配をかけますよ」
「っ! うわっ!?」
凛とした声が聞こえたと同時に、琴音が作り出した壁を貫いて現れた赤い矢が琴音の前にいるベータ・ノイズを貫いた
「貴女は......」
「立花さん、1人で戦うのも良いですが、冷静さを欠いてはいけませんよ」
矢が貫いた穴から出てきたのは、自分の身長よりも一回り大きな『赤い弓』を携えた、雪音 カイリだった
頭を過ぎるは、いつか見た光景
自らの思い出を奪わせないともがく琴音だが、非常な現実に追い詰められていく
やがて訪れる激突に、蒼き剣が月夜に煌く
♯4 星降
戦いの果てに溝は生まれ、少女たちの物語が噛み合いだす
今はまだ、ぶつかる以外の術を知らない