やっぱり週一で1万くらいは辛いな.........
まあただの実力不足だけど
♯4 星降
「雪音先輩...」
鋭くなっていた瞳が元に戻っていく
「誰かを守ろうとする心意気は良いですが、それで自分がやられていては意味がありません」
「......ごめんなさい、私...おかしくなってました」
「次から注意すれば良いですよ、被害を出さない為に行った行動ならば、咎める事は私にはできません。行きますよ、立花さん」
「......はい!」
カイリがベータ・ノイズを貫いた事で、周りのノイズの強度も本来の値に戻った
琴音はノイズの大群目がけて、拳を繰り出す
「くらえぇぇッ!」
拳に当たったノイズは周囲のノイズを巻き込みながら吹き飛び、最後は灰になり消えた
「いけるッ!」
『この調子で行くよ!』
《撃拳・ガングニール》
琴音は歌いながら周囲のノイズを蹴散らし、ノイズシードを探す
カイリも、その手に持つ弓から現れた赤い矢を引き絞った
【SEPULTURA BUSTERRAY】
引き絞られた弓から放たれた赤い矢は青いエネルギーを纏いながらノイズたちへと放たれ、多数のノイズを灰へと還した
「すごい...!」
「今のうちにノイズシードを捜索して、立花さんの援護も忘れずに!」
カイリは部隊にノイズシード捜索と琴音のサポートを命令
そして
「発見しました、ノイズシードです!」
「破壊して!」
ノイズシードを発見したSYNの隊員がノイズシードを破壊したことによって、事態は収束したのだった
「助かりました、雪音先輩...!」
シンフォギアを解除した琴音は、改めてカイリに礼を述べる
「いいえ、本来なら私が先に来るべきでしたのに......私の方こそ、ごめんなさい」
逆に謝られた琴音は少しだけ反応に困りながらも、カイリの持つ弓へ興味を向けた
「この弓って何なんですか...? ものすごく大きいですけど...」
『琴音ちゃん、この弓は......』
『何でお前が説明しようとしてるんだよ』
「!?」
カイリは弓をペンダントに戻して琴音に見せる
「これは私の家に受け継がれてるペンダントの『イチイバル』、大体1000年前に私の先祖が纏っていたと言われるシンフォギアよ」
『そんで、私はそこのバカみたいにこのイチイバルに宿ってる人格ってこった』
『イチイバルちゃーん!』
『バッ、だからくっつくなってッ!』
シンフォギア達の間で何が起こっているかは分からないが、本人達の仲がいいのはわかる
「? どうしたのですか、そんな顔して」
笑いを堪えている様な複雑な顔をしている琴音を見てカイリは少し疑問に思うが、カイリにはシンフォギア達の声が聞こえないらしく、琴音が「なんでもないですよ」と言えば大人しく引き下がった
「それで、さっきの赤い弓は...」
「あれは、椿さんがシンフォギアに掛かっている3億ものロックの内数個を解析して、適合者でなくても扱える対ノイズ用兵装として完成させた『イマージュ』と呼ばれる形態よ」
「イマージュ.........あっ...」
ふと琴音が上を見上げると、空には幾重もの星が煌めき、流れていた
「流星群......」
「あら、そういえば今朝のニュースでやってたわね」
カイリが琴音の方を向くと、複雑な表情で空を見上げている琴音が映った
「立花さん...?」
「あっ、いえ、何でもありません...」
琴音は急いで表情を取り繕うと、カイリから目を逸らす
二人の間に少しの沈黙が流れる
その間二人は空を見上げ、流星群を眺めていた
しかし、その沈黙はシンフォギアの叫び声で掻き消された
『ッ! 上か!?』
イチイバルの声を聞いた琴音が弾かれる様に顔を上げた直後、無数の蒼い剣が琴音とカイリの頭上から降り注いだ
生身のカイリを抱えて、すぐにその場を離脱する琴音
しかし
『まだ来るぞッ!』
頭上から降る剣は止まることを知らず、自分達の頭上を常にキープしながら襲いかかってくる
「止まれば危険だし、ずっと追ってくるし、どうすればいいの!?」
『琴音ちゃん、この技を使ってる襲撃者本人を探すんだ!』
「そっか!」
琴音は剣を避けながら周囲に注意を向ける
そして、その剣の軌道や気配から襲撃者がいる影にいくつかの候補を見つけた
「あそこら辺...雪音先輩! あの辺、撃って下さいッ!」
「了解...!」
カイリは琴音に抱えられたままペンダントをイマージュに変化させ、矢を番える
(......動いた!)
「そこッ!」
「...チッ」
カイリが放った矢は、寸分違わず襲撃者の頬を擦り
体制を崩した襲撃者が落ちてくるのも時間の問題だった
木から落ち、そのまま一回転して地面に着地したのは、自分の身長より少し短いくらいの蒼い長刀を担いだ、青髪の少女
『あれは......先輩!?』
「先輩?」
『あの女の子が持ってる剣は、天羽々斬さんのイマージュだよ!』
少女が立ち上がり、カイリを睨む
「雪音か......てことはさっきの弓がイチイバル...」
「貴女は一体誰ですか? 一見、私たちと年齢はあまり差がないと思いますが」
「私か? 私は......いや、今は私のことなんてどうでもいい。立花 琴音、お前を連れて来いって親父から言われた、大人しくついてきてくれねぇか」
突然、琴音の同行を求めてきた正体不明の少女は、琴音に手を差し出しこっちに来るよう促す
勿論琴音は
「いや、えーっと...寮で伊織が待ってるから......お誘いには乗れないかなぁ...なんて...」
「そうか......なら」
同行を拒まれた少女はイマージュの天羽々斬を構えると、長刀から一回り大きな太刀へと変形させた
「無理やりにでも連れてくぞ」
【蒼ノ一閃】
その剣を振るうと同時にエネルギーの斬撃が発生
周囲の木を薙ぎ倒しながら琴音達の方に迫ってきた
「くっ、えりゃぁぁぁッ!」
後ろにはまだSYNがいて、自分が避ければその人達に当たってしまう
そう考えた琴音はすぐにパワージャッキをセットし、パイルバンカーを繰り出した
「くっ、うぅ...!」
『琴音ちゃん!』
『纏ってる方もバカなのかよ!?』
「はぁぁぁぁぁッ!」
気合で斬撃を押し返し、驚愕している少女を見据える
「ならばこちらも実力行使です...!」
カイリは弓を引き絞り少女へと放つ
少女は飛来する矢を撃ち落とし、そのままカイリへと距離を詰めてきた
「くっ...!」
「はぁぁッ」
驚異的なスピードでカイリに剣を振るう少女だが、その一方でカイリはある違和感に感づいていた
(この太刀筋...滅茶苦茶だけどスピードだけはある......単純な速度と力だけで天羽々斬を振るっているというの......?)
一通り武道の経験があるカイリから見て、少女の太刀筋は肉体の動きに技量が追いついてない様に見えた
(予測することは容易だけど......反撃には出れそうにないわね...)
例えそうだったとしても、驚異的な速度に変わりはなく
カイリ一人では防戦一方だった
「てぇやぁぁぁ!」
しかしこちら側にはシンフォギア装者がいることを忘れてはならない
少女へと接近し、脚撃を見舞う琴音
「ぐッ...!」
天羽々斬の腹で琴音の一撃を受け止める少女だったが、シンフォギアによる攻撃を生身で受ける衝撃は凄まじく、受けとめきれなかった少女は吹き飛ばされて木に打ち付けられてしまった
「がッ......いってぇ.........」
「ねぇ、どうして私を連れて行こうとするの? 理由を教えてよ!」
「...私もしらねぇよ.........どう考えても私が不利か......出したく無かったが......」
少女はパーカーの裏側のポケットから黒い物体を取り出した
本来ならこんな少女が持つべきものでは無いそれは
「銃...!?」
小型の拳銃を右手に構えた少女は、弓に矢を番えているカイリに向かって発砲
先程のカイリの矢と同様に放たれた弾丸は寸分違わずカイリの左肩を撃ち抜き、真っ赤な血を飛び散らせた
「痛っ!」
「ッ、雪音先輩!!」
琴音は肩を抑えて苦しそうにするカイリの方へ向かおうとするが、飛来する弾丸がそれを許さない
そして一発、琴音の右腕目掛けて放たれた弾丸が当たってしまうが、ガングニールのガントレットに阻まれ琴音には軽い衝撃だけが響いた
「やっぱりシンフォギアには効かないか......」
どこか諦めた様な声色で呟く少女は、その場で天羽々斬を構え、薙ぎ払う様に振るった
【蒼ノ一閃】
その衝撃は周囲に砂埃と突風を舞わせ、琴音達の視界を塞ぐ
「っ、待って!」
琴音は砂埃や風を払いながらがむしゃらに少女へと手を伸ばすが、視界が晴れた時、少女はそこにはもう居なかった
「さっきの女の子は、恐らく風鳴元司令の一人娘よ、名前は確か......尾雛ちゃんだったかしら」
少女が去ってしばらく、司令部まで戻ってきた二人を迎えたカーラは先程の少女の正体を知っている様だった
「あの...風鳴って誰ですか?」
「風鳴の一族は、代々この国を守る防人を務めとしてきた一族よ。ここ約1000年間はS.O.N.G.の司令も兼任していたの」
「そんな一族の子が何であんなこと......」
「......数年前、風鳴の一族が住んでいた屋敷が火事で焼失しました。その時から今日まで風鳴の一族は行方知らずだったのですが......その間に何かあったのでしょうか?」
10年前、突如として風鳴邸から炎が燃え上がり、木造建築であった風鳴邸を一晩で焼き尽くした
翌朝住人の捜索に一部のS.O.N.G.職員が立ち入ったが、風鳴邸の中には遺体一つ見つからなかったらしい
故に死亡とはされず、行方不明の扱いになっていた
「その火事があった家の娘が、さっきの尾雛ちゃんよ。でも、あの日何があったのかとか、母親や元司令は生きているのかはまだ不明だけど...」
「でも、尾雛ちゃんは親父に言われたって言ってましたよ?」
「そうなのだけど、温厚なあの人が意味を話さずいきなり攻撃してまで琴音ちゃんを連れて来ることを命令する人とは思えないのよね」
カーラが当時のことを思い出していると、司令部内の時計が時報を鳴らした
「あれ、そういえば今何時......」
ふと気になった琴音は、壁にかかっている時計を見て唖然とした
「じゅっ...十時五十分......!?」
琴音達が住んでいる寮の門限が十時
つまりそういうことである
「まっ.........」
「ま?」
「またかぁぁぁぁぁぁ!」
「何度もすいません......」
またも門限を過ぎてしまった琴音は、椿の車で寮まで送迎されていた
「良いのよ、むしろこれくらいやらせて貰わないと気が済まないわ」
明るく琴音に話しかける椿を他所に、琴音はまた車の窓から街中を眺めていた
「......前に言ってた伊織くんって子、今はどうしてるの?」
「今は......きっと寝てると思います。伊織は規則正しい生活を心がけてますから、だいたい11時には寝てるんですよ」
「そう......穂花ちゃんの調子はどう?」
「私より伊織に懐いたみたいで、よく後ろを着いてってるのを見ます」
「なら良かった」
「え、どういうことですかー」
「いえ、そう意味で言ったんじゃ無いのよ。暗くなったりしてなくて良かったってこと」
「そう...ですね。最近は明るくて良く喋る様になりました」
「.........今日、伊織くんと何かあったの?」
「...どうしてそう思うんです?」
「根拠はないわ。強いて言うなら、なんとなくよ」
「......実は今日、友達と一緒に流星群見に行こうって約束してたんですよ。私はもともと用事があったから、伊織には一人で行っててって言ったんですけどね、伊織、私が帰るまで待つって言ってて......準備中に呼ばれたので伊織が行けなかったなんてことは起こんなかったんですけど、それでも、なんか伊織をガッカリさせちゃったなぁって......」
「うーん、難しい問題ねぇ...でも青春って感じがするわー」
「...ちょっと、こっちは本気で悩んでるんですよ」
「だからこそよ、青春って感じしない?」
「はぁ......」
「......落ち込んではいても、ガッカリはしてないんじゃない?」
「そう...ですかね」
「話を聞くに、そんなことで伊織くんは貴女にダメな印象はつけないと思うわよ」
「そうなら、良いんですけど」
寮の前に停車、琴音乗せてくれた椿に礼を言った
「乗せてくれてありがとうございます」
「良いのよー、寧ろそれくらいしかできないし、積極的に使って」
「いや、そんなこと出来ませんよ! それに、S.O.N.G.の設備とかはほとんど椿さんがメンテナンスしてるんでしょ? もう十分助かってますよ」
「いいえ、それこそ趣味みたいなものだし。それに、貴女から伊織くんの話を聞くのも楽しいしね」
「...じゃあ、その...もしもの時には使わせて貰いますね」
「ふふっ、分かったわ。あ、そうだ、一ヶ月後にまた流星群が来るから、チャンスはその時よ」
最後にその言葉を残した椿は、車に乗り直して去っていった
「一ヶ月後か...」
恐る恐る部屋の扉を開く
部屋の中は既に消灯しており、耳をすませば伊織と穂花の寝息が聞こえてきそうだった
「ただいまぁ......」
暗くなっている廊下を手探りで歩く
「......寝てる...よね」
寝室に入ると、既にこちらも電灯が消されており
二段ベッドの下の段では穂花が規則正しく寝息をたてていた
「......ごめん、伊織」
「...何で謝るの?」
琴音は声が聞こえた方へ咄嗟に振り向く
「起きてたの?」
「ううん、琴音が帰ってきた時に一緒に起きた」
布団に入り、壁の方を向きながら言葉を呟く
琴音はそんな様子の伊織を見て更に罪悪感が湧いた
「ごめん...」
「別に謝ることじゃないよ」
「でも......」
「今琴音が感じてるのは罪悪感? 僕に対しての?」
「それは......」
「...ごめん、意地悪した。もし琴音が何か重いものを抱え込んでいるなら、僕はそれを一緒に抱えたいと思ってる」
伊織が寝返りをうって琴音の方に瞳を向ける
「今琴音が持ってるものは、僕には背負えないもの?」
伊織は琴音を見つめ、本心からの言葉を待つ
対する琴音は、全て伊織に話してしまいたい感覚を覚えるが、少しの意地と、伊織を巻き込みたくないという思いから、曖昧な答えを零す
「それは......言えない」
「そう......」
伊織は少し残念そうな顔をした後、琴音に言った
「じゃあさ琴音、一つ、僕の我儘聞いてくれる?」
「我儘?」
「一ヶ月後にまた流星群が来るんだ。その時みんなでまた流星群を観に行かない?」
『あ、そうだ、一ヶ月後にまた流星群が来るから、チャンスはその時よ』
ふと椿の言葉を思い出した
「あ......えっと...二人が、良い...」
その言葉は咄嗟に出たものか
一瞬面食らった伊織だが、すぐに微笑んで返した
「ふふっ、そっか。なら、二人で行こうか」
「あ......うん!」
伊織はまた寝返りをうって琴音から顔を背けた
「琴音疲れてるみたいだし、お風呂は明日で良いから着替えて寝ちゃって良いよ」
「ありがと、伊織」
琴音は着替えを持って洗面所へと向かった
「二人で、か......ふふっ」
翌日
琴音は昨日の戦いで肩を負傷したカイリのお見舞いに、カイリの家にやって来ていた
「雪音先輩」
インターホンを押してしばらく
中から出てきたカイリは左腕に包帯を巻いており、固定器具が装着されていた
「あ、琴音ちゃん!」
「今日は普通なんですね」
「いいや、あの時の方が普通だよ?」
「じゃあ何でそんな風に使い分けてるんですか?」
「うーん、アイドルとしての私と、S.O.N.G.っていうか、本性の私っていうの?を分けるため...かな?」
「そうなんですか......」
「でもこれ正直疲れるんだよねー」
「じゃあ普通ので良いんじゃないんですか?」
「そう?......なら、遠慮無く」
カイリの二面性を垣間見たところで、家に上げてもらう琴音
部屋は随分綺麗に整頓されており、生活感を出しつつも最低限のものだけが揃っていた
「うわー、綺麗ですねー」
「趣味の部屋は別に用意してありますし、ここは共有スペースですので」
「共有スペース?」
「あれ、後輩ちゃん? カイリの知り合い?」
琴音がカイリの言葉に少し疑問を持つと、少し離れた場所から声が聞こえてきた
そこには少し褐色の肌をもった少女が1人
「ニーナ? 休日のこの時間に起きてるのは珍しいわね」
「カイリが左腕怪我してるっていうのに寝ちゃいられないでしょ?」
「そうね、ありがとう」
「それで...貴方は?」
「あ、私はニーナ・ヴィレーナ。名前と見た目は外人っぽいけど、心は完璧に日本人だから安心して、後輩ちゃん」
「ニーナは私のルームメイトなの」
「へぇ、だからこんなに広いんですね」
一旦ニーナと別れ、カイリの部屋へと案内される琴音
カイリ自身の部屋はベッドが一台と無数のCDとそのプレイヤーが棚に陳列されていた
「これは...凄い......!」
現物を置いておく派の琴音にはこの部屋は正に天国
最近のものから数百年前の物まで様々なジャンルのCDが置かれていた
もちろん時代によってプレイヤーの種類は変わるので、部屋の中のプレイヤーを合計すると、なんと6台にもなった
「こんな昔のもの何処で手に入れたんですか...?」
「私のご先祖様がコツコツ集めていたらしいです、集め始めた時は1人の歌姫の曲を、特に」
ジャンル順に並んでいるCDから更に年代順に遡っていく
すると、一部のジャンルは必ず最初に『風鳴 翼』のCDが並んでいた
「風鳴って......」
「そう、あの尾雛という子の先祖で、私の原点である絶対的アイドル。それが片翼の歌姫『風鳴 翼』」
「雪音先輩の原点...?」
「私は昔、アイドルなんて興味なかったんです。お母さんはSYNの隊長で、そんなお母さんに憧れて色々なことをしました、剣道や弓道、合気道や薙刀道もしましたね...その頃の私は只々強くなりたくて、お母さんの助けになりたくて武道を習っていたんです」
「それでも十分立派だと思いますけど」
「そうですね......ある日、お母さんの本業である声優としての活動中、その場の近くに沢山ノイズが発生して、たくさんの人が犠牲になる事件があったんです」
「それってまさか...」
「はい。
10年前、日本の数カ所でアルファ・ノイズが異常発生した事件
今ではなんらかの要因で非活性状態になっていたノイズシードがこちらのノイズシードの覚醒で活動を再開し、一斉にノイズが出現したと考えられている
「当時はノイズシードのことも分かっていませんでしたから、突然の出現に現場は混乱、お母さんは対ノイズ用の拳銃しかなかったのにも関わらず、数個の予備マガジンだけで対応して15分も持ち堪えたらしいです。結果お母さん以外の関係者に死傷者は無し、お母さんはその時に灰になりました」
琴音は息が詰まるのを感じる
「カーラさんに引き取られた後の数日は憶えていませんが、相当落ち込んでいたらしいです。ご飯もあまり食べないで、力を入れたら折れそうだったと聞いています」
琴音はカイリが面白おかしく当時を語る姿が凄く痛々しく見えた
けれど彼女の語りを止める気にはならず、彼女の言葉を聞いていた
「そんな時にカーラさんが聞かせてくれたのが、翼さんの『空へ...』という曲だったの」
「あれ、その曲って...」
「その棚には無いわ」
「じゃあ、どうやって聞いたんですか?」
「それは...シンフォギアの機能の一つから切り取ったものを、特別に聞かせてもらったの」
「シンフォギアから切り取ったもの? 風鳴 翼さんはシンフォギア装者だったんですか?」
「えぇ、原初の装者の内の1人が風鳴 翼よ。シンフォギアは纏った当人の深層心理から曲を創り出す。ある時に偶然生まれた歌がシンフォギアに残っていて、それを抽出して切り取ったものらしいわ」
「それで、その歌は...」
「......翼さんの歌は、どれも勇ましかったり美しい曲が多いのだけど、その曲だけはどの翼さんの曲の中でも、別の側面というか、弱さを見せてくれた曲だったの」
「弱さ?」
「翼さんは、元はツヴァイウィングっていう2人組で活動していたらしいのだけど、とある日のライブで初代ガングニール装者にして片翼である天羽 奏をファースト・ノイズの襲撃で亡くしてしまったらしいの。その人に対する心情の吐露とかメッセージがその歌で感じ取れて...仲間意識、では無いのだけれど、それだけでも何故か励まされた気持ちになったわ」
カイリは琴音を見つめて言う
「その頃から、アイドルだったり歌手だったり声優だったり、お母さんの表の仕事や、声の仕事に興味を持ち始めたの。風鳴 翼がいるから今の私があって、装者としての風鳴 翼がいるから、今の私たちの環境がある。だからその人は、私の原点」
カイリが話を終え雰囲気を元に戻した後、聴きたい曲があるなら聞いてみても良いと言われた琴音は、数あるCDの中から気になるものを探す
「うーんと......あ、私これ気になります」
「これは......『星天ギャラクシィクロス』...確かに貴女が好きそうな曲ですね」
カイリがCDのパッケージを抜き取ると、それと同時に薄い一枚の紙が落ちてきた
「あら、これは.........この写真、こんなところにあったの!?」
今は珍しい現象写真
カイリが持っている写真を除くと、そこには伊織に似た様な少女や、自分そっくりの少女が写っていた
「伊織...?」
「確かに似てるかもしれませんね、この人たちは始まりの装者たちですよ。これが私の先祖の『雪音 クリス』、その隣が歌姫の『風鳴 翼』」
そしてカイリの指が琴音そっくりの少女へと滑る
「これが、S.O.N.G.の英雄で、約1000年前神殺しを成したとされる伝説のシンフォギア装者、『立花 響』」
琴音は一瞬、ガングニールの声を思い出す
しかしその声は次のカイリの声ですぐにかき消された
「そしてこの人が、立花 響の親友でシンフォギア装者たちの良き理解者であったとされる『小日向 未来』よ」
小日向と立花
その言葉が妙に耳に残り、自分たちとシンフォギア、そしてこの2人との関係を少しずつ感じ始めていた
「琴音......は今雪音先輩の家か......」
伊織は琴音を呼ぼうとして、またあの先輩のところへ行っていることを思い出し、言葉を止めた
「兄さん、顔が怖いよ」
「えっ」
伊織は自分の顔をぺたぺた触り、自分の顔が硬っていたことを自覚した
「あ...ごめん」
「大丈夫、けど兄さんは笑顔の方がいい」
(この子はサラッと格好いいこと言うよな......)
伊織は穂花の言動に若干敗北を感じつつも、続く穂花の言葉に少し考えさせられることになった
「兄さん、お姉ちゃんが先輩のおうちに行くのが嫌なの?」
伊織は暫く言葉に詰まる
(最近、琴音と一緒にいる時間が減ったとは思っていたけど、僕は琴音が雪音先輩と一緒にいるのが嫌......なのか?)
暫く考え続ける伊織
そして
「もしかして僕......」
伊織は自分の持つ少しだけ黒い感情に気付き始めるのだった
闇の奥底で蠢く影は、約束を胸に抱く少女に迫り
これこそが行くべき道だと囁く
静かに動く脅威を知る者は無く。知る時はもう、引き返すことすら許されない
♯5 なお聞こえる深淵の音から
思いと結晶、約束と意地
またひとつ僕は、君が分からなくなっていく