戦[機]絶唱シンフォギア   作:椎名 和白

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すみません、今週少し体調を崩してしまってまた遅くなってしまいました......


♯6 想いの行方は

 

 

 

 

 

「ヒナ」

 

 呼ばれただけで身体は私の名前を呼んだ女性へと走る

 

「なに、お母さん?」

 

「お父さんと、何やってたの?」

 

 お父さんと......あれ、何やってたんだっけ

 

「ヒナはいい子ね、きっと立派な防人になるわ」

 

「うん!」

 

 そうだ、私は立派な防人にならないといけないんだ

 その為に、お父さんと...親父と......

 

 

「ヒナ!」

 

 瞬きすると、世界は真っ赤な炎に包まれる

 私は涙を流しながら必死にお母さんの手を握っていた

 

「行きなさい!」

 

「イヤっ!」

 

 お母さんの足には大きな柱が倒れていて、身動きができない。しかもその柱も炎に侵食されつつあった

 

「大丈夫、貴女ならどんな世界へも飛べる。だって貴女は...」

 

 

 

 

 

「私はッ!!」

 

 薄暗い部屋の中、目が覚めた

 辺りを見回しても生活感のない空間が広がるだけ

 

「どこまで行っても......翼にはなれないんだ」

 

 

『立派な、防人になりなさい!』

 

 

「お母さん......私、本当になれてるの...?」

 

 

「尾雛」

 

 寝起きの不快感とは別に、イヤな感覚がする声が聞こえた

 

「......親父」

 

「夜中に叫ぶな、疲れが取れない」

 

「......すみません」

 

「......分かればいい」

 

 昨日、立花 琴音から奪ってきた...もとい、“あいつら”から受け取った青いペンダントを覗く

 

 こいつは確かにシンフォギアペンダントだが、一体なんの聖遺物なのかは私にも明かされていない

 

 

「...私は翼じゃない」

 

 翼のない私に、空は飛べない

 

 だから、今は......

 

 

 

 

 

 

 

   ♯6 想いの行方は

 

 

 

 

 

 

 

「メディカルチェック異常なし、あのイマージュに侵食されてた腕も特に問題は無いわ」

 

「ありがとうございます」

 

 昨日の聖遺物強奪事件から一晩たち、琴音はS.O.N.G.のメディカルルームで身体の精密検査を受けていた

 

「ねぇ、ガングニールさん」

 

『...? どうしたの、琴音ちゃん」

 

「あのシンフォギアペンダント、何だったんですか?」

 

 護衛を依頼されていた聖遺物は中身が一切分かっていなかった

 しかし、そんな謎の聖遺物の正体を風鳴側は把握し、しかもその聖遺物を強奪してきた

 

 見る限りあれはシンフォギアペンダントだったが、風鳴側の目的に何か必要なのだろうか?

 

『分からない。私が知らないってことは、少なくともここ数十年で造られた新しいシンフォギアだと思う』

 

「はぁ......シンフォギアを造れる技術者がこの世界にいたなんて......もしかして私ただの一般研究者なんじゃ無いかしら...」

 

 琴音の身体状態をチェックしていた椿が項垂れる

 

『まぁまぁ...シンフォギアなんてハッキリ言って今の技術力でも異端技術ってレベルだし......』

 

「下手な慰めは要らないよ......」

 

 椿が拗ね始めたので、ガングニールは会話の相手を琴音に戻す

 

『もしあのシンフォギアが生まれたばっかりだったなら、私たちみたいな人格が無いのも肯ける。ただ、何でイマージュが既に搭載されていたのか、とか、琴音ちゃんが持った時になんで私に侵食してきたのかもまだ分からないし、謎が多いことには変わりないんだよね』

 

「ガングニールさんは侵食された時何か変な感じとかしたんですか?」

 

『私かー......いや、特に何もなかったかな...? 別に琴音ちゃんとのリンクが途切れる事もなかったし、絶唱も問題無く歌えたし』

 

 

「あ、そうだ! あの歌、なんなんですか? ガングニールさんが歌うとこう、力がばぁーって溢れてきて」

 

『あー、あれかぁ......うーん、教えるのは問題無いんだけど............良い、琴音ちゃん』

 

 ガングニールは声に真剣味を帯びさせ、琴音に忠告する

 

『私と琴音ちゃんが歌う絶唱は、ちょっと特殊な理由で殆ど代償なしで使えるけど、危険なことには変わりないから、もしもの時だけにしか、使っちゃダメだよ?』

 

「危険?」

 

『絶唱って言うのは、シンフォギアの出力を極限まで上げる歌のこと。その代償としてギアのバックファイアを身体にモロに喰らって、最悪の場合ノイズに襲われた時みたいに身体が灰になって崩れる』

 

「そんな...」

 

『......私たちはそこまで行くことはないけど、普通の装者が使うとそういう危険性が出てくるんだよ......そこで私と琴音ちゃんが必要になってくる』

 

 琴音はまるでガングニールに手を握られているような暖かい感覚を身体の中から感じた

 

『私たちの力は、誰かと手を繋ぐことで真価を発揮する』

 

「それって、どういう」

 

『私たちの絶唱は同じ絶唱の負担を肩代わりできる、私たちはちょっと特殊な身体のおかげで絶唱の代償は相当少ない。純粋な出力だけを抽出できるんだ』

 

「それで、この手が..........あれ、でもそれって...」

 

『あー、うん。装者が琴音ちゃん一人の今の状況だったら、あんまり必要ない知識だったかな...?』

 

 ガングニールが戯けた風に言う

 

「いや、ありがとう、ガングニールさん。雪音先輩や尾雛ちゃんが弓とか剣なのに、私だけ拳の意味がわかったよ」

 

『あ......そっか、なら良かった』

 

 それからガングニールと会話していると、少し離れたところで作業していた椿から声がかかる

 

「そろそろ帰った方がいいんじゃない、貴重な休日の午後を潰したくないでしょ?」

 

「あぁ、そうでした!...あー、でも今日は午後伊織と穂花ちゃんは二人で散歩するって言ってたな...」

 

「ふふっ、ライバルは小学生?」

 

「いやいや、流石に穂花ちゃんはそんなんじゃ......無い...筈.........」

 

 穂花が自分より伊織に懐いていたり、自分の呼ばれ方がお姉ちゃんなのに対して伊織のことは兄さんと呼んでいることを思い出し、どんどん語気が弱くなっていく琴音

 その様子を見て苦笑いをしている椿とガングニール

 その空間に、少し微妙な雰囲気が流れた

 

 

 

 

 

 

「さて、琴音ちゃんはもう行ったかしら?」

 

『うん、行ったよ。ギリギリ伊織くんとバッティングしないかなーって』

 

「そう.........それで...」

 

『琴音ちゃんの、身体について?』

 

「分かってるじゃない......融合症例第一号さん?」

 

 椿は声の聞こえるスピーカーを見つめながら含みのある笑みを浮かべる

 

『......分かってたんだ。私の性格に関しての情報なんてとっくの昔に消されてたと思ってたのに』

 

「実際消されてたわ.........ねぇ、私のもう一つの二つ名、知ってる?」

 

『うーん、私はちょっと知らないかなぁ』

 

「......《機械弄りの全能神(ゼウス)》それが大学時代の私の異名。新しいものを開発するのは並みの研究員程度だけど、既にある機構を改造、解明、復元、削除する事において、人類史上私の右に出る者は居ない...」

 

『なるほど、完全に削除されたはずの情報でさえ、君の手に掛かれば復元も可能ってことか』

 

「それで、あの子の身体だけど......一体誰が『創った』の?」

 

『誰が創ったかと問われると、それは人間としか言えない。私にも詳しいことはわかんない、あの子の家で神獣鏡と一緒に居た筈なのに、気がついたら琴音ちゃんの中に入ってた。それが50年前くらい』

 

「50年前...!?」

 

 琴音は身体も精神も正真正銘の15歳、ガングニールの言うことが事実ならば、少なくとも35年間の空白が生じる事になってしまう

 しかし長い時を存在しているガングニールが、それこそ宿主の時間を数え間違える可能性は少ない。故に考えられることは

 

「放置されていた...?でも、なんで......」

 

『そもそも、琴音ちゃんが何なのかは分かってるの?』

 

「いいえ、分かるのは本当に一部だけ。琴音ちゃんの身体が何かしら人工的に改造、又は生成されたものだってこと」

 

 あの日椿とカーラが見たのは、人工血液で埋め尽くされた血管に、継ぎ接ぎの臓器たち、皮膚を挟んだ奥の筋肉は明かに生きている様子が無く、機械と言った方が正しいかも知れないような琴音の肉体だった

 

「唯一確信を得れたのは、あの子の身体が貴女を原動力にして動いてるってことだけど......あってるわよね?」

 

『まぁ、うん』

 

 ガングニールは歯切れ悪く頷いた

 

「融合症例第三号って定義すべきか、また別の特殊適合事例にすべきか......櫻井了子やエルフナインならどうするでしょうね...」

 

 椿は頭を抱えて自分が片足を突っ込んでいる問題の大きさを嘆く

 

『別に君の定義でいいんじゃないかな? 了子さんやエルフナインちゃんは前例とか気にしなさそうだけど』

 

「それが出来てたら苦労しないわ......っと」

 

 頭を抱える椿の元に、一本の通信が入る

 

「どうしたの?」

 

『ええと、ノイズ反応を検知したのですが......』

 

「カーラには連絡したの?」

 

『いえ、まだ司令には連絡していません』

 

「最初に私に繋げるってことは、何かイレギュラーなことが起こったってこと?」

 

『はい、検知したノイズ反応なんですが、シード反応を検知できないどころか、アルファともベータとも違う反応を示してるんです...』

 

 椿は席を立ち、椅子にかけてあった白衣を羽織る

 

「とりあえずあかりちゃん、カーラに連絡した後にカイリちゃんに連絡......あぁ、まだ肩治ってないのか。とりあえずSYNを準備させておいて、琴音ちゃんを招集するかどうかの判断は私たちがつけるわ」

 

『は、はい!』

 

 通信を切り、メディカルルームの電灯を落とす

 

『行くんだね』

 

「もう少し聞きたいことはあるけど、次の機会に聞くとするわ」

 

 

 

 

 メディカルルームを出て、司令室への道を歩く

 

「............私はシンフォギアの解析を諦めたわけじゃない。いつか絶対に.........」

 

 そう呟いた椿は、怨念とも感じ取れる様な気配を放ちながら廊下を歩いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天羽々斬を肩に担ぎ、一人無人の道を歩く尾雛

 その左手には、いくつかの半透明な結晶が握られていた

 

「.........はぁ...」

 

 

 

 

 

『親父、これは...』

 

『アルカ・ノイズ...所謂セカンド・ノイズと呼ばれるモノを召喚するための結晶だ。どこかでその結晶を地面に叩きつけアルカ・ノイズを召喚し、S.O.N.G.を呼び出せ』

 

『でも親父、ノイズを召喚するってのは...!』

 

『手段は選ぶな、結果が全てだ。立派な防人になりたいのだろう?』

 

『.........はい...』

 

 

 

 

 

「...分からねぇもんだな......」

 

 あの男から渡されたアルカ・ノイズ召喚用の結晶を見つめ、ため息を溢す

 それから肩に担いでいたイマージュをペンダントに戻すと、目を閉じ、歌い始めた

 

 

「絶対に、折れないこと此処に誓う」

 

『歌を』

 

「歌を『大空高く』」

 

 

 幼い頃に歌ったあの日の光景が、空白の歌を補完する

 

(そういえば、イリヤは元気だろうか)

 

 

「絶え間なく吹く向かい風、幾度も晒されながら」

 

 昔、尾雛と仲の良かった1人の少女(『それでも、熱く咲いた)

 彼女が外国へ引っ越してから( 夢が一歩二歩を)会う事はなかったが、尾雛が思い出せる唯一の思い出( 踏み出す勇気をくれる』)として心に残っている

 

「この声に」

『この胸に』

 

 自分の家だった場所が火事に遭う前のことを(「受け継ぐ愛の音は」)尾雛はよく覚えていない(『羽撃いて』)

 

 かつての父親と母親の顔も(「舞い散った」)

 住んでいた家の間取りも(『天使の名残羽根』)

 

「そして今、この背には宿るだろう」

 

 

 いつかの暖かさも(『逆巻く、世界を』)

 

 

 

 

(飛ぶツバサが)

 

 

 

「ッーーーー.........ダメだな...やっぱ歌えねぇや......」

 

 夢見心地な時から現実へ戻される

 空白を埋めていた歌声もそこで途切れ、ただ雑音だけが耳に入ってきた

 

「母さん.....私、頑張るよ」

 

 尾雛は左手に握っている結晶を持ち上げて

 

 

(本当に、私は立派な防人に......)

 

 

 地面に叩きつけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セカンド・ノイズ反応......ってことはアルカ・ノイズ...!?一体誰がそんな危険なモノを!?」

 

 椿が司令室で声を上げる

 

 数百年前、まだS.O.N.G.がある程度の自由を保っていた頃

 多数の密売組織を襲撃し、アルカ・ノイズ召喚のための結晶を殆ど没収、処分したことで、その時点を持ってセカンド・ノイズは消滅したとされていたが......

 

「まだ種が残ってたか...っ!」

 

 カーラは通信機を手に取り、事態をSYNへと報告する

 

「部隊に通達、敵はセカンド・ノイズだと判明した。繰り返す、標的は、セカンド・ノイズだと判明した。部隊の装備品ではセカンド・ノイズの分解力に耐え切れないため、決して被弾しない様に!」

 

『了解』

 

「どうする、琴音ちゃんは...」

 

「......今回も頼むことになるわね」

 

 カーラは浮かない表情で琴音に向けてアラートを送る

 

「アルカ・ノイズを出した人物についての可能性は?」

 

「ここ最近の事件で言うと、やっぱり尾雛ちゃんだろうね。最近のノイズシード発生現場には必ずと言っていいほど居るから」

 

「ここ数日の大量発生も原因を突き止めないといけないし......一体何が始まろうとしているの...?」

 

 大量発生するノイズと、約500年ぶりに現れたシンフォギア装者。きっと重大な何かが起こると、カーラと椿は危惧するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『Balwisyall nescell gungnir tron』」

 

 結局伊織と入れ違いで合流できなかった琴音は、尾雛が現れた可能性があることをアラートで知り、すぐさま現場へ急行した

 

『琴音ちゃん、尾雛ちゃんと会ってどうするつもり?』

 

「会って...話を聞いて.....それからは会ってから決める!」

 

『だよね! それじゃあ行くよ!』

 

 指定された場所を目指して跳躍、暫くの間空気の抵抗を感じながら空を舞い、やがて地面へ轟音を伴い着地する

 クレーターの様に凹んだ地面に向けていた目線を上げ、目の前で数体のノイズと共にこちらを見つめている尾雛へと向けた

 

 

 

「お前そんなことも出来るのか......」

 

 琴音の機動力に驚愕している尾雛を正面に見据える

 琴音は尾雛の周囲に待機している大量のノイズを確認し、拳を握り込んだ

 

「ねぇ、教えてよ尾雛ちゃん、なんでノイズを使ってまで私を連れ去ろうとするの?」

 

「ノイズを使ってまで...か......前も言ったが、私も分からねぇ。だけど、親父が言ってたんだ、立派な防人になるためだって......だから私はお前が必要なんだよ...!」

 

「意味わからないよ! 親父とか防人とか! これが終わった後、しっかり最初から話してもらうからッ!」

 

 

 《撃拳・ガングニール》

 

 

 天羽々斬を握っていない手を前に出し、ノイズ達を琴音へと向ける尾雛

 腕や頭の白い先端を伸ばして攻撃してくるアルカ・ノイズ達の攻撃を躱しながら、どうにか反撃の機会を探る

 

 イマージュである程度強化されているとはいえ、相手は生身の人間。ガントレットで守られたこの拳で殴ってしまうと大怪我は必至、故に琴音はノイズを早急に蹴散らし、手加減を施しながら尾雛の相手をしなければならないのだった

 

「てぇやッ!」

 

 まず真先に琴音が狙ったのは、大型のアルカ・ノイズ

 4種類のノイズの中でもズバ抜けて分解力が高いセカンド・ノイズの種は、大きいモノはそこに存在しているだけで周囲の環境を破壊する。既に周囲が赤い灰になりかけているモノを優先的に攻撃していく

 

 しかし、相手はアルカ・ノイズの攻撃だけでなく、イマージュを使った攻撃も交えてくる

 

「はぁぁッ!」

 

「ぐっ...!」

 

 速度と威力を併せ持った天羽々斬での一撃

 琴音は腕のガントレットで辛うじて防ぐが、衝撃が骨まで響き、痛みに顔を顰めた

 そしてそのタイミングで尾雛はズボンのポケットから何かを取り出した

 

「それは......!」

 

 尾雛が何かを握りしめた瞬間、蒼い電撃が周囲に飛び散り、尾雛の左手にはあの蒼い槍が握られていた

 

「こいつは借り物だ。正規の装者が未だに到着しないからって、私に預けてきたんだ...よッ!」

 

 尾雛は蒼い槍を琴音に向かって投擲、周囲のアルカ・ノイズ共々蹴散らしながら雷を纏った槍が琴音に迫る

 

「正規の装者!? 私以外にもシンフォギア装者が...ッ! いるの!?」

 

 槍を弾き、尾雛を問いただす

 弾かれた槍は琴音の時の様な連撃は見せないが、数回起動を変えながら飛び交い、やがて尾雛の手中に戻ってきた

 

「そうらしいなッ!」

 

 左手に蒼い槍、右手に天羽々斬のイマージュを構えて琴音に迫る尾雛

 周囲のアルカ・ノイズは既にある程度減ってはいるが、それでも琴音への攻撃の手は緩めず、尾雛の隙を縫う様に攻撃してくる所為で琴音は反撃に出られないでいた

 

「くっ、このままじゃ...」

 

『琴音ちゃん、後ろ!』

 

「えっ!? うぁッ!」

 

 いつの間にか背後に回っていたアルカ・ノイズの攻撃が背中を撃ち、無防備に転がってしまう琴音

 

『琴音ちゃんッ!』

 

 顔を上げ、体制を立て直そうとした時、自分の額に何かが押し付けられていることに気づいた

 

 ゆっくりと目線を上げると、自分の額に銃口を向け、引き金に指をかけている尾雛と目があった

 

「.........」

 

 一瞬で自分の状況を理解して心臓がはち切れんばかりに鼓動を早めるが

 

『琴音ちゃん、落ち着いて。ゆっくりと相手の目を見るんだ』

 

 琴音はガングニールの言う通り、自分が陥っている状況から来る恐怖を抑え込んで落ち着きを保ちつつ、しっかりと尾雛の目を見つめた

 

「.........叫んだり、泣いたりしないのか」

 

「.........しない」

 

「自分が陥っている状況が分かってるのか」

 

 琴音は返事をせず、ただ尾雛の瞳を見つめる

 

「...ここにいるアルカ・ノイズにお前を襲わせれば、流石のシンフォギアでも重傷は免れない。それに、私がお前を撃てば、少なくともお前は激痛と一緒に意識を失う。普通の高校生じゃ、それだけでも十分な恐怖だと思うが」

 

「............」

 

「そうか、シンフォギア装者の時点で、普通の高校生じゃないか.........おい、琴音っつたか」

 

「...!」

 

 不意に尾雛が琴音のことを呼ぶ

 琴音が見つめる彼女の瞳には、僅かな嫉妬が浮かんでいた

 

「なんで...お前はシンフォギア装者になれた」

 

『琴音ちゃん、返答は慎重にね』

 

「...私は、なりたくて装者になったわけじゃない」

 

 僅かに尾雛の眉が吊り上がる

 

「じゃあ、なんで戦っている」

 

「私にしか、守れない命があるなら、それで私は戦える」

 

 まっすぐに自分を見つめる琴音に対し、尾雛は不愉快そうに目を細める

 

「なんで......他人の為にそこまでやれる...自分が死んでもおかしくないんだぞ」

 

「だって、私を信じてくれる人がいて、待ってる人がいてくれるから」

 

「答えになってねぇよッ!」

 

 琴音の真横に天羽々斬が振り下ろされる

 尾雛は悍しい目線を琴音に向けるが、それでも琴音は尾雛を見つめ続けた

 

「なんだよその目は...私を哀れんでたりするのか...?」

 

「ううん、そうじゃない」

 

「じゃあなんだよ...なんでそんな目で私を見る...ッ!」

 

 尾雛は琴音の額に更に銃を押し付ける

 銃身から琴音の額の骨の感触が伝わり、琴音の方も少しだけ痛みを感じながらも頭を動かさずに尾雛を見つめ続ける

 

「あなたが、悲しそうな眼をしているから」

 

「ッ...!分かった.........」

 

 尾雛が銃を額から離す

 

「分かった...様な......」

 

 それと同時に彼女は琴音の真横に突き刺さっている天羽々斬を抜き、高く上げる

 

「分かった様な口をっ...私のことを察した様な目をしてっ...言うなァァァァッ!!!」

 

 振り下ろされた天羽々斬は、そのまま行くと琴音の脳天に直撃し、確実に彼女を絶命させる

 しかし琴音は、剣を正面に見据えても、尾雛から目を離さなかった

 

『琴音ちゃんッ!!』

 

 あと少しで直撃する

 そんな所で、天羽々斬は動きを止めた

 

 琴音の顔面を風圧が襲う

 

「ほら、やっぱり」

 

「何が......」

 

「やっぱり尾雛ちゃんは優しい人なんだよ。きっと本心では私と戦うことなんて望んでいない!」

 

 ここぞとばかりに語気を増す琴音の言葉

 尾雛はその気迫に揺らぎ、天羽々斬を持っていた腕を下ろした

 

「分からねぇ......本当に分からねぇ......! なんでお前は私のことを私以上に知ってるんだよ.........お前と戦いたいかなんて、私だって分からねぇのに、なんでお前は確信を持って言えるんだよ!」

 

「...眼が教えてくれた......」

 

「なんだって?」

 

 琴音は立ち上がり、尾雛の眼をじっと見つめて言う

 

「尾雛ちゃんの眼は、私への嫉妬とか、怨念とかより、悲しんでいた。今の状況に、同じ人間と戦い合うことに」

 

 尾雛はじっと目線を合わせてくる琴音

 次第に気恥ずかしくなってきた尾雛は、琴音から眼を逸らす

 

「ほら、私たちって意外と簡単でしょ? 目と目を合わせるだけで分かり合える。あとは手を繋げばもう仲直り」

 

 目線を逸らした先に滑り込み、尾雛に向けて手を差し出す

 

「手...を......」

 

「そう、手を。私が纏うシンフォギアは、誰かと手を繋ぐ為にあるんだから」

 

 左手から銃が滑り落ち、差し出された右手と琴音を交互に見つめる尾雛

 

 銃を握っていた左手を右手の方へと移動させようとして

 

『立派な防人になりたいのだろう?』

 

 やめた

 

「私は...おまえの手を取るつもりは...ない」

 

「そんなこと言わずにっ」

 

 琴音が尾雛の手を引き寄せて取ろうとしたその時

 

  半透明の物体が動いた

 

 

「ッ!」

 

 その事に気づいた時には、アルカ・ノイズは既に尾雛を射程範囲内に入れており、天羽々斬を取るにも既に遅く、尾雛の視界では世界がスローに見えていた

 

(なんでアルカ・ノイズが私に来るんだ!? 召喚したのは私だ、なのに何故私の命令なしで召喚主に襲いかかってくる...?!)

 

 あと少しで自身の身体に白く濁った腕の先がぶつかると言う瞬間

 

 尾雛の視界に映ったのは、さっきまで彼女が命を奪おうとしていた相手の背中だった

 

 

「せぇやァッ!」

 

 薄い山吹色のマフラーを靡かせる後ろ姿は、誰もが子供の頃に憧れる正義のヒーローを彷彿とさせ、尾雛はその後ろ姿をぼーっと見つめながらその後ろ姿に手を伸ばす

 

「尾雛ちゃん、逃げて!」

 

「あっ......」

 

 しかし、琴音の声が聞こえたと同時にあの男の声も流れ込んできた

 『防人になるのだろう?』と

 

 

「...くッ!」

 

 尾雛は天羽々斬と蒼い槍を手に取り、アルカ・ノイズの発生していない方角へと走り去っていく

 

 姿が見えなくなるまでそれを見届けていた琴音は、意識を切り替えて目前のアルカ・ノイズを見据え、ガングニールと会話を始める

 

『尾雛ちゃんを逃して大丈夫だったの?』

 

「大丈夫、だって尾雛ちゃんが親父って呼んでる人が私を狙っている限り、また会えるでしょ?」

 

『ははっ、そうだね』

 

 楽しそうに笑うガングニールの声を聞きながら、アルカ・ノイズに対して一歩力強く踏み込む

 

「いつか尾雛ちゃんと肩を並べることがあるかもしれないけど、私的には尾雛ちゃんには戦って欲しくないかな」

 

『どうして?』

 

 踏み込んだ足を軸にして突進、アルカ・ノイズの群れを次々と蹴散らしていく

 

「あの子は、戦うよりっ、笑ってた方が幸せだと思うんだッ!」

 

『それはあの子の眼を見た感想?』

 

「うん!」

 

 やがてアルカ・ノイズの群れは居なくなり、本部からも帰還するよう命令が下る

 

 帰還後、椿にあんな危険な行為は二度としないよう注意を受けたのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 

 

「ありがとうね、蒼井さん」

 

「ううん、この程度で美味しい食事にありつけるのなら、毎日だって大丈夫」

 

 散歩をしていた伊織と穂花は、道中で一昨日出会った蒼井 美幸と偶然遭遇

 またもお腹を空かせていた様なので、穂花と遊んでもらう代わりに昼食を奢った

 

「そういえば、親御さんはどうしてるの?」

 

「両親は私が小さい頃にテロに遭って死んだ。顔は写真で知ってるけど、声は覚えてない」

 

「あぁ...ごめん」

 

「ううん、大丈夫。もう大して気にしてない」

 

 遊び疲れて寝てしまった穂花を背負った伊織が美幸と雑談しながら家路に着く

 

「穂花ちゃんと遊ぶのは楽しい?」

 

「うん、私も童心に帰れるし、穂花も優しい」

 

 二日も経たずに二人と美幸はすぐに打ち解け、美幸の方も最初の変な敬語も取れていた

 

「家はどこにあるの?」

 

「最近外国からこっちに来たけど、未だにホームステイ先? が見つからない。山奥にあるって言われてるけど、ここら辺は都会の癖に森が多いから分かりづらい」

 

「え、それ大丈夫なの...?」

 

「大丈夫。私は慣れてる」

 

「いや、そうじゃなくて、向こうが心配しない?って」

 

「向こう?......何で?」

 

「何でって......心配だからだよ」

 

「何で心配する?」

 

「いや、それは......うーん.........」

 

 伊織が返答に困りかけていた所で、美幸が別の方角を指差して言う

 

「今日は私はこっちの方に行ってみる。昨日も合わせてありがとう、小日向」

 

「ううん、大丈夫。ご飯食べたくなったらいつでも言ってね、僕たちあっちの方に住んでるから」

 

「うん、もしもの時は頼る.........そうだ」

 

 美幸は去り際に伊織に向けて確認する

 

「私って、必要かな?」

 

「必要......必要ない人間なんていないと思うけど...」

 

「そう......小日向的には?」

 

「うん、必要かな。居なくなると穂花ちゃんも悲しむだろうしね」

 

「そう...満足した。それじゃあまた」

 

 そう言いながら去っていく美幸を見送ってから、伊織は進む

 

 暫くして寮に着くと、自分と琴音が住んでいる部屋から、琴音ともう一人の声が聞こえてきた

 

 穂花を背負っているところを見られるのはまずいかもと思いつつ、玄関の扉を空けて部屋に入る

 

「ただいまー」

 

「あっ、伊織おかえり!」

 

「お邪魔してます」

 

 琴音と一緒にいたのは、最近何かと自分の心に突っかかる雪音 カイリその人だった

 

「あっ......雪音先輩」

 

「それじゃあ私は伊織くんも帰ってきた事だし、そろそろ帰るよ。あとは自分で書けるね?」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

 琴音はカイリに礼を言い、玄関まで見送ろうと追いかける

 

 すれ違おうとした時

 カイリは何かを思い出したかの様に伊織の方へ向いて、何かを手渡した

 

「あぁ、忘れてた。これ、君宛に」

 

「え、なんですか、これ」

 

  伊織が手渡された小さな箱を開けると、その中には小さな結晶が組み込まれた指輪が入っていた

 

「ゆ、指輪!?」

 

「指輪!!?」

 

 伊織が反応すると同時に琴音も反応する

 心なしか瞳孔が揺れている

 

「雪音先輩、これって...?」

 

「なんか私が入ってるクラブ的な所にに何故か届いたモノ、伊織くんに渡せって書いてあったから渡したの、心当たりでもあるの?」

 

「いいえ、全く...」

 

「まあいっか、私は渡したからね。それじゃ、あとは二人の休日を楽しんでねっ」

 

 語尾を少し弾ませながら玄関から出ていくカイリ

 取り敢えず寝ている穂花をベッドに運んでから、リビングへ戻ってくる

 

「そういえば琴音、雪音先輩と何してたの?」

 

「いやー、ちょっとした書類をね」

 

「書類?」

 

「うん、今はちょっと詳細は言えないけど......いや、本当に、本当にちょっとだからね!? もうちょいしたら言えるから!」

 

 琴音のこの捲し立てる様な喋り方がさらに怪しさを増させる

 最近琴音の行動に謎が多くなっていた伊織は、明らかにおかしいと感じ、少しだけ踏み込む事にした

 

「...最近琴音、僕に内緒で何かやってない?」

 

「最近? 何のことかな...?」

 

 分かりやすく動揺する琴音

 昔から琴音は嘘をつくのが苦手だった

 ただでさえ態度で分かりやすいのに加えて、相手が幼馴染だと言うのなら、この状態の琴音は何かを隠していますと宣言している様なものだった

 

「...ねぇ琴音、もしかしてだけど、普通じゃ言えないこととかしてる?」

 

「言えないこと......では無いんだけど...えっと.........」

 

 語気が弱くなってきた琴音に対して、伊織の方は最近溜まっていたよくわからない黒い感情故か、更にヒートアップしていく

 

「ねぇ琴音、僕が心配してること分かってる?」

 

「うん、まぁ...」

 

「じゃあなんで僕に隠すの?」

 

「だから、ちょっとそれには理由があって...」

 

「その理由すら教えてくれないじゃないか!」

 

「それは! だから......」

 

 最後には琴音が縮こまり、伊織が一方的に捲し立てる様になってしまっていた

 ハッとした伊織は、さっきまでの自分の言動を後悔し始める

 

「ごめん、ちょっと熱くなりすぎた」

 

「あっ......うん。ごめん」

 

「何で琴音が謝るのさ」

 

「だって、伊織が怒ったのは私のため...で、それは私が伊織に秘密にしてることがあるからで......」

 

 琴音が次第に声を詰まらせながら言うのを見て、伊織は少し焦り始める

 

「いや、そうじゃない、そうじゃないんだ! さっきはちょっと最近のよくわかんない感情が爆発しちゃっただけで...」

 

「けど、それも私のせいなんでしょ?」

 

「いや、そうじゃない......とも...言い切れない......けど!」

 

 次第に語気が強くなっていく伊織は、またも自分の状況に気づかされる

 

「.........ごめん、今はちょっと冷静に慣れそうにないや...ちょっと頭冷やしてくる」

 

「あ、まっ......」

 

 琴音が止める前に、伊織は玄関から出て行ってしまった

 

 

 

 

 




少女の決意は泡と消え、裏切りと共に潰える
戦うことでしか叶えられない筈の約束と、戦い続けた果ての、もう一つの道
そして誰かに寄りかかられるたび、君は寄り添わずには居られないのだろう

♯7 剣て止まぬ運命のもとに

偽りの姿と記憶では、この向かい風に抗えない。
全てを取り戻し、本当の自分でこそ約束を果たせる。

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