戦[機]絶唱シンフォギア   作:椎名 和白

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二週間ぶりの更新失礼します...

地味目のスランプに陥ってました、はい

すみませんでしたぁっ


♯8 陽だまりは鏡面となりて

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

「目を覚ましたらどう伝えとく?」

 

「あー......僕の連絡先伝え忘れたので、僕について何か聞かれたら教えてあげて下さい」

 

 尾雛が静かな寝息を立てながら眠ったのを見届けた後、伊織は琴音と落ち着いて話し合おうと、家へ戻ることにしていた

 

「了解。それじゃあな、琴音ちゃんによろしく」

 

「仲直りしたらまたいらっしゃい」

 

「はい。尾雛のこと、よろしくおねがいします」

 

 そう言って来た道を戻り始める

 しかしその足取りは決して軽いとは言えず、足を進めるごとに不安がのしかかって来た

 

「いや、ここまで来てまた拗ねるのは流石に...ね?」

 

 

 

 カラン

 

 

 

 足に何かを蹴った様な軽い衝撃が伝わる

 石を蹴ったのかと思ったが、それにしては衝撃も音も軽く、不思議に思った伊織は足元を見下ろして今さっき蹴ったであろう半透明の物体を手に取った

 

「.........? なんだこれ、宝石...?」

 

 宝石にしては軽く、ガラスにしては頑丈なその半透明の物体を不思議そうに見つめ、太陽に翳してみたり指で弾いてみたり

 

「よくわからないな......綺麗だけど、別に僕には必要のない物だし.........」

 

 右の人差し指に装着されている指輪を一瞬目に留め、その物体を道の端に置こうとしたその時

 

 ぱちっ

 

「っ、静電気?」

 

 少しだけの光と共に伝わってきた微かな衝撃が、その物体を地面に落とす

 

 その瞬間、今までただの半透明だった物体が濁り始め、周囲に色とりどりな生物らしきモノ達が現れる

 

 それらは無機質な動きで伊織を正面に捉えると、一斉ににじり寄ってくる

 背後を見れば次々に同じ様なものが生成されており、伊織の逃げ道は残すところ陸橋を渡った先の森林だけとなってしまっていた

 

 

 

「これは......相当マズイかも...ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

     ♯8 陽だまりは鏡面となりて

 

 

 

 

 

 

「あぅ.........」

 

 部屋のソファで一人蹲る

 

 先程までの自分の言動を振り返り、琴音は恥ずかしさやら後悔やらでいっぱいいっぱいになっていた

 

「分かってる......分かってるんだよぉ............」

 

 伊織が自分の心配をしてくれていたのは分かっている

 しかし、伊織に問いただされた時の自分の反応が結果的に伊織の機嫌を害することになったことに後悔しているのだ

 

「はぁ.........私、何でいっつもあんななんだろ......」

 

 昔から伊織に叱られたり問い詰められたりすると、周りが見えなくなって無性に焦りが湧いてくる

 原因は不明だが、その非常に鬱陶しいというか面倒くさい様な状態は無意識の内に表面に現れ、場をかき乱すだけ掻き乱して自分の中に引っ込む故に、琴音からしてみれば相当たちが悪い

 

 琴音はその状態のことを『トランス』と呼んでいた

 

「謝らないと...また話が拗れる前に............」

 

 

 ggggggggggggggggg.........

 

 

「うわっ、アラート!? 穂花ちゃん起きちゃうって...!」

 

 突如端末から響いた大音量のアラートをすぐに止め、音量をもう少し小さくしておこうと思いながらその内容を確認する

 

 

『北側の森付近の陸橋にノイズシード反応を検知、シンフォギア装者は現場へ急行願います』

 

 

「北側の森......それ、ふらわーがある辺りだ...! 急がないと!」

 

 琴音は端末をポケットに突っ込み、すぐに部屋を出る

 

 念のため伊織に、北側の森付近に行かない様にと連絡を入れ、現場に向かって走り出した

 

 

 

 

 

「.........ぁ...ん......ふぁ......あれ......これ、兄さんの携帯.........鳴ってるけど...お姉ちゃんも兄さんも居ないし......大丈夫かな.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間前...

 

 

 

「悪いわねカーラ、こんな夜中に」

 

 深夜1時半頃、緊急事態としてS.O.N.G.の司令室へと呼び出されたカーラは、残業中だった椿の謝罪を受けていた

 

「大丈夫よ、緊急事態となれば、わたしも来ないわけには行かないしね」

 

 苦笑いしながら簡易的な報告書に目を通す

 

「アルカ・ノイズの発生と消滅......それとほぼ同時刻での新たな適合型アウフヴァッヘン波形の検出...!?」

 

 その時にあったことを纏めたその書類には、確かにイマージュでの微弱な波では無く、シンフォギア適合の際に現れる大きな紋様を象った物が描かれていた

 

「これって......天羽々斬...? でも形が不自然すぎる...どう言うことなの......?」

 

 しかしその波形は酷く歪で、所々に赤い傷の様なモノが浮かんでおり、本来の蒼く美しい紋様とは似ても似つかない形になっているのだ

 

「ふむ......本来の適合とは言えないイレギュラーな適合......いや、無理やり適合させた...と言うこと...?」

 

 椿は真面目な顔で考察を始め、雰囲気が一変する

 

「それで...適合者は今何処に?」

 

「それが......数分間の戦闘の後、反応が途絶えてしまって...」

 

「捜索のためにSYNを動かせないの?」

 

「はい...私たちもやろうとしたのですが、何故か今全ての隊員が特異災害対策軍事本部へ召集されていまして......」

 

「チッ、タイミングの悪い......」

 

 SYNの指揮権は基本S.O.N.G.が持っているのだが、実を言うと、SYNは本来『特異災害対策軍事部』に属する組織なのだ

 それ故、命令の権力としてはS.O.N.G.よりも軍事部の方が上であり、この様な状況になるとS.O.N.G.はどうしようもなくなってしまう

 

「ノイズが出たわけじゃないし、何よりこんな夜中に琴音ちゃんを呼ぶのも気が引けるわね......」

 

「カイリちゃんは?」

 

「殆ど回復はしてるけど、まだ出せる様な状態じゃないわ。調査だけなら問題無いけど、万が一のことを考えると出したく無いわね」

 

「そっか......しょうがない。捜索は諦めて、今は各々出来ることをしよう。私はこの波形のことを調べてみるから、諸々お願いね、カーラ」

 

「了解...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........とりあえず、これで大丈夫かしらね......」

 

 一通りの処理を終えたカーラは、椅子の背もたれに体重を預けながら脱力する

 地下にある司令室には届かないが既に日は登っており、周囲の職員からも疲れがにじみ出ていた

 

 因みに椿は未だに研究室から出て来ていない

 

「あっ、やっぱりここにいたんですね」

 

 カーラは後ろからかけられた声に反応して首を向ける

 

「あら、カイリ。おはよう」

 

「おはようございますカーラさん。昨日、言われてた指輪を小日向さんに渡しましたが...あれって結局何だったんですか?」

 

 カーラを探しに来た様だったカイリは、そのままカーラの横へ移動して用件を問い始める

 

 昨日突然届いた小日向 伊織宛の謎の贈り物

 危険はなさそうなので、送り主の要望通り伊織へと渡されたが、カイリとしては後輩宛に正体不明の物がS.O.N.G.を経由して届いたとなると不安になってしまうのだ

 

「あぁ、あの指輪ね...椿に聞いてみたけど、あれにはめ込まれている宝石の様な物は、聖遺物の一種らしいの」

 

「せ、聖遺物...!? 一般人に渡しても良い物なんですか...?」

 

 カーラは少し悩みながらも答える

 

「この贈り物と一緒に送られてきた手紙には、ただ小日向 伊織に渡せって書いてあるものと、もう一つあったんだけど......」

 

「それが、どうかしたんですか?」

 

「そこには二言だけ、『これは愛です』ってのと、『立花 琴音と行動を共にさせていれば、いずれ分かる』とだけ書いてあったのよ」

 

「それは......どう言う意味ですか...?」

 

「...分からないわ。ただ、こっちで持っていてもしょうがないし、悪意ある仕掛けも特に無かったから伊織くんに渡すことにしたの............正直言って、聖遺物の扱いは物凄く面倒臭いから、伊織くんが持っておいて、私たちは関わってないってことにしておいた方が楽なのよ」

 

「そんなっ、それでもし小日向さんに何かあったら、立花さんになんて顔すれば...」

 

「もちろん、その時はちゃんと責任を取るわ。最低限、安全性を確認してから渡してはあるから、最悪の事態にはならないと思うけど」

 

 そんな話をしている内に司令室の扉が開き、外から一人の青年が入ってくる

 

「すみません、雪音先輩いらっしゃいますか」

 

 その声を聞いたカイリが後ろを振り向くと、青年は少し目を見開きながら、隣にいるカーラのことを指さした

 

「カーラさん、あの方に呼ばれてますが」

 

 カイリに呼ばれてようやく気付いたカーラは身体を後ろに捻り、自分のことを呼んだ青年に応えた

 

「あら、灰島くん、珍しいわねこんな所に」

 

「久しぶりです、雪音先輩。お恥ずかしい話ですが、実は前回の聖遺物輸送の失敗の責任をなすり付けられてしまい、此方の方へ転勤となってしまいまして」

 

「...ごめんなさいね」

 

「いいえ、実際自分があの時抑えられていれば被害は抑えられたと言うのも事実ですので」

 

「そう.........それで、私に会いに来たのはそれだけじゃ無いんでしょう?」

 

「はい、ここに来た時椿さんにも挨拶しておこうと思ったんですが......研究室の扉が固く閉ざされていて一向に開く気配がないんです。雪音先輩なら、あの人を引きずり出せるのでは無いかと」

 

 カーラはため息を吐きながら頭を抱えた

 

「あの子まだ出てなかったの...? 分かったわ、ついて来て。ついでに椿から指輪の詳細を聞くから、カイリもいらっしゃい」

 

「は、はい」

 

 

 

 

 

 

 コンコン

 

「椿ー、灰島くん来てるわよー......」

 

 扉をノックしても応答は無し

 マスターキーで開けてしまおうとも思ったが、この研究室はもはやS.O.N.G.の物というより椿のものであり、正直に言ってどんな罠が仕掛けられているか分からない

 その事を昔身をもって知ってしまっていたカーラは、対応に頭を悩ませた

 

「......出ないわね......通信も切ってるし...いっそ寝てた方が安心なのだけど.........」

 

「椿さーん、椿さーん! ...また何に熱中してるんですか、あの人は......」

 

 大学時代、椿と過ごす時間が長かった雄二の方もその厄介さは知っている

 研究室に篭っている時の椿は周りのことが見えなくなり、周囲に面倒な事を撒き散らす

 

 例えば、危ない物質を放置していたり

 何かを完成させる過程でできた失敗作を床一面にばら撒いていたり

 自分が使った研究室を興が乗ったからという理由で改造していたり......

 

「あの...カーラさん、マスターキーを使えば良いのでは?」

 

「「だめよ(だ)っ!」

 

 血気迫る表情でカイリの提案を蹴る二人

 その二人を呆気に取られた顔で見つめていると、研究室の扉がひとりでに開き始めた

 

「あ、開きましたよ」

 

「「ッ!?」」

 

 ばっ と振り返ると、そこには目元に隈を作った椿が異様な笑みを携えながら突っ立ていた

 

「椿さん......その顔をしてるって事は.........ッ」

 

「ふふっ...フフフフ......分かったよぉ...あの指輪ぁ.........」

 

「えっ、あのアウフヴァッヘン波形を調べてたんじゃないの!?」

 

「今はそんな事どうでも良いッ! フヒヒヒ......あの指輪に組み込まれてた聖遺物の正体......いやー、一人じゃ辿り着けなかったよ...ガングニールさんには感謝しかないねぇ.........」

 

 若干ゾンビの様な雰囲気を醸し出している椿を見て引いていたカイリも、あの指輪に付いていた聖遺物の正体と聞いて目を見開いた

 

「あのっ、それでその指輪に嵌ってた聖遺物は一体...?」

 

 よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに顔を上げ、不敵な笑みを浮かべながら演技がかった声で椿は答える

 

「フフフ......立花というガングニールの適合者...その幼馴染の小日向と来た.........これを必然と言わず何と言うのか...ヒヒ.........」

 

「椿さん......少し......」

 

 気持ち悪いです

 

 その言葉を呑み込みながら次の言葉を待つ

 

「1000年前、原初の装者である立花響の親友であった小日向未来は、一番槍として前線に立つ幼馴染の帰りを待ち続ける正に理想の大和撫子像と言える性格だったと記録されている......だがぁっ.........ぁ......研究室の中に入ってくれ、続きはそこで話そう」

 

 突然冷静になった椿は三人を研究室の中へと案内する

 

 その内部は用途不明の物体や資料が散乱しており、足の踏み場も数えるほどしかない荒れ様で、流石のカイリも顔を痙攣らせた

 

「廊下じゃ誰が聞き耳立ててるか分からないからね、この部屋なら防音は完璧だ......それじゃ、続きを話すよ」

 

 

椿は研究室にあった謎の機械の電源を入れ、モニターにあの指輪の映像を映す

 

「小日向未来は、装者の理解者として、そして立花響の親友として装者たちを支え続けていたとされているが......それは半分正解で半分間違いだ。小日向未来は............シンフォギア装者としての経歴がある」

 

 ここにいる椿以外の三人の顔が驚愕に染まる

 

「999年前のフロンティア事変、その際に小日向未来は反強制的に適合を果たして、此方側の装者達と戦闘していたのさ」

 

 すると椿は、モニターに表示されている指輪の映像を回転させ、組み込まれている結晶部分をアップさせた

 

「この結晶は、何らかの聖遺物だと言う事が分かっていたが、データベースにあるどの聖遺物にも対応しておらず、勿論加工されているせいで形での判断も不可能、衝撃や電気ショックを与えても反応は無し、盗聴器や呪いの類は確認されなかったため、差出人の意向通り、伊織くんに渡した.........がッ!」

 

 突然の大声にびくんと肩を跳ねさせるカイリ

 

「伊織くんに渡した後、もはや習慣となってるガングニールとの会話をしていた時......あの結晶に与えてないショックを一つだけ思い出したんだ............フォニックゲインだよ」

 

 

「ガングニール協力の元、残ってたデータに向けてすぐ実行に移したよ。そしたらさ......これまたビックリ激しく反応するじゃないか!」

 

 映像の結晶の中に虹色の波が浮かび上がる

 

「何故か波形を出さない様に弄られてたけど、限られたデータを頼りに消去されたデータや電子の海の奥底に保管されていたデータを引っ張り出して検証を繰り返し......ついに見つけたんだ......」

 

 結晶の中の波の色が固定され、その形が複雑な模様に変形する

 

「この結晶は、かつて小日向未来が一時的に纏った幻のシンフォギア...」

 

 

「『神獣鏡』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在

 

「ノイズシード反応検知! 場所は......ッ昨夜アウフヴァッヘン派系を検知した森林付近です!」

 

「偶然かしら...それとも.........」

 

 今朝、椿から聞いた情報を頭に入れ直し現状出動できる人員を整理する

 

「今現在出動できる人は灰島くんと琴音ちゃんのみ......キツイけど、これで行くしか.........」

 

「カーラさん、私も行けます!」

 

「......肩の調子が戻ったのなら、出撃を許可するわ。まず琴音ちゃんに連絡、続いて灰島くんも出撃して! カイリは念のため最初は待機、応援要請が来れば急行させるわ」

 

「......了解しました」

 

 両腕、特に肩周りを酷使する弓を扱う上で、片側でも万全ではない状態の出撃は、十分危険だと言って良い

 

 その事を本人も分かっている為か、不服そうにしつつも引き下がった

 

 

「...立花さん.........」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  北の森林

 

 

 

 

 正直、何でここまで耐えられたかは僕も分からない

 ただひたすらに逃げて逃げて逃げまくって、気がつけばここに居た

 

 

 最初はただの変な物体だった

 

 ただのと言うには異質だけれど、特に何かをしてくるわけでもないし、その時に興味を捨ててすぐにその場を去るべきだったんだ

 

 パキっ

 

 ふと足元に落ちていた枝を踏んでしまい、周囲の物体たち......恐らく、ノイズと呼ばれる特異災害の類の視線を一斉に浴びるのを感じた

 

「っ、しまった!」

 

 ハッとした時には周囲を囲まれ、じりじりと寄ってくるノイズたちに伊織はただ後ろへと後ずさることしかできなかった

 

(ダメか...いや、諦めるな。何処かに必ず解決の糸口がある筈.........ッ!)

 

 

『.........どこ?』

 

 

 一瞬、指輪の結晶が淡く輝く 

 その僅かな輝きに目を奪われるのと同時に、伊織には少女の様な声が確かに聞こえていた

 

「何処って、何が?」

 

 微かに聞こえたその声に問い返すが、答えは返ってこず、今のこの危機的状況は変わらない

 伊織は僅かな望みに賭けて、聞こえてきた声に呼びかけ続ける

 

「ねぇ、何を探しているの!?」

 

『どこ.........ねぇ』

 

 

『響は......どこ?』

 

 

 その声が聞こえてきた瞬間、伊織の視界は濁り切った緑に塗りつぶされた

 

 

 

 

 

『琴音ちゃん、アレっ!』

 

「あれっ!? .........嘘...」

 

 森林の奥地へと進んでいくノイズ反応を追っていた琴音がそこで見たものは、アルファ・ノイズたちの群れと、その中央で倒れている小日向 伊織の姿だった

 

 頭に血が昇ることを自覚する時間すら無く、一瞬でノイズの群れへと突っ込んでいく琴音

 

『琴音ちゃん! 待って、危ないよッ!!』

 

「五月蝿い黙れッ!」

 

 ガングニールの制止も効かず、いつもの琴音とはかけ離れた荒い言葉遣いで進む

 周囲の木々を薙ぎ倒し、やがてその群れへ辿り着く頃に琴音は右手のガントレットを敵を貫き穿つ巨大な槍へと変貌させ、着地と同時に群がるノイズを吹き飛ばした

 

「はぁ...ハァ......許さない...伊織を......私の伊織を......傷つける奴は......ぶっ殺す...ッ!」

 

『琴音ちゃん...っ!?』

 

 ふらふらとよろめきながらもしっかりと地に足をつけ、荒い息を吐きながら鋭い視線をノイズたちへ向ける琴音は、恐ろしい雰囲気を周囲に放ち、よほど正気とは思えない姿を見せていた

 

『伊織くんが関わるとここまで変わるのか...っ、盲点だった......ッ』

 

 暴走に近いこの琴音の姿に心当たりがあるのか、ガングニールは頭を押さえているかの様な声色で呟く

 

 獣のような動きで琴音が眼前のノイズに飛び掛かった

 相手の頭上に一度着地した後、右足に力を入れてっぺんから突き刺し一体を炭へ還す。完全に消滅する前にまた別の標的へと移り、頭を鷲掴みにしてからそこを中心に回し蹴りや踵落としを交え殲滅を続けた

 手も足も出ない様子のノイズたちは、ただそこに突っ立っているしか出来ないと琴音は思っていた

 実際周囲のノイズは動きを止めているし、このままいけば順調に全て滅ぼせる、と

 

 だがしかし、今の琴音はまるでただ怒りに任せて暴れる獣

 どうしても注意が目前の標的に集中してしまい、背後に迫る影に気づけなかった

 

『琴音ちゃん! 早く避けてッ!』

 

「ゔ、がぁッ!!?」

 

 悲鳴を上げるも遅く、琴音の肩は背後からのノイズの攻撃を直に受けてしまっていた

 そして、琴音の瞳には嘗ての自分、あの日、初めてノイズに貫かれた時の自分の姿が浮かぶ

 

『ダメだ、一回伊織くんを担いでも逃げ...琴音ちゃん、どうしたの!?』

 

 獣の様な戦いを見せていた琴音は既にその面影を消し、そこには多少の傷を負いつつも戦える状態であるにも関わらず、肩を押さえながら怯えた目で地に膝をつく少女の姿があった

 

「ぁ...いやだ......死にたくない......痛い......ぁ、ぁぁっ」

 

『ッ、琴音ちゃん!しっかりして、あの時とは違う、琴音ちゃんはあんなモノじゃ倒れない筈だよ!』

 

「伊織...やだ、怖い。たすけて、伊織......」

 

 縋る様にして伊織の方へと手を伸ばす琴音

 

『しっかりしてよ! 今はそんな......ッ』

 

 焦ったようなガングニールの声も、今の琴音には聞こえない

 今琴音の瞳には、人間だった灰が舞う二年前のステージが映り、そこに倒れる伊織に向かって必死に手を伸ばしている光景しか映っていない

 

 

 そして、その手が伊織の右手を掴んだ時、淡く、暖かい光が周囲を照らした

 

 

 

『見つけた、私の太陽!』

 

 

 

 

「ッ! 」

 

 直後、琴音と繋いだ伊織の右手から眩い光を発しながら一枚の手鏡サイズの白い鏡が現れた

 

 伊織が左手を空へ翳すと、その鏡は迫ってきていたノイズたちへ光を照射し、その歩みを止めさせる

 

『「......Rei...」』

 

 伊織は静かに立ち上がり、琴音と繋いでいた右手を離し、祈る様に両手を顔の前で合わせた

 

『「Shen shou jing ......」』

 

 額に指輪を当て、詠う

 

『 「rei ... zizzl ......ッ!」』

 

 

 

 

『「今度は、(わたし)が守るんだッ!」』

 

 

 

 

 瞬間、優しい光が溢れ出す

 光が収まり現れたその姿は、伊織が男だということを忘れる程に美しく、無骨な脚部と腰回りに取り付けられたドレスのような機械パーツが、異端でありつつも更にその美しさを際立たせている

 

 言葉では形容し難い芸術の様な姿

 

 正しくそれはかの鏡

 

 花嫁衣装のような純白の中に、薄紫の鋼鉄が輝く

 

 小日向 伊織の“シンフォギア”

 

  『神獣鏡』だった

 

 

 

 

 

 




知らずに口ずさんでいたあの旋律は、
あの人を失った時に無くした
誰も信じず、何処までも独りよがりで生きるあまり見失ったもの
だがそれが、全てを覆すための歯車だとしたら

♯9 歌姫の歌

誰も悲しませない。
覚悟を決めた少女の背を、暖かい風が押した

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