「いい加減にして!!」
ある日のバンドリ学園。Pastel*Palettesの氷川日菜の怒声が響き渡った。
「てめぇこそ何なんだよ!!
と、一人の男子生徒が日菜につかみかかった。
「オレはこの学校でもトップの男だぞ!! 勉強もスポーツも何もかも上だ!! あいつなんかよりもオレの方が相応しい!! オレこそが真のヒーローなんだよ!!」
鼻息を荒くして男子生徒は掴みかかった。
日菜「い、いた…!!」
「なのに何でお前はオレを見ようとしない!! 何故だ!! なぜおまえはオレじゃなくてあの得体のしれないバケモノばかり見やがる!! オレが正しいんだよ!! あいつじゃない!!」
すると日菜が男子生徒を睨みつけた。
日菜「誰が正しいかなんてどうでもいい」
「!!」
日菜「これ以上飛鳥くんの悪口を言わないで!!!」
「このアマァ!!!」
男子生徒が日菜を殴った。
「女だと思って大人しくしてれば!!」
日菜「いたい!! いたい!! やめてよお!!」
日菜はちょっとやれば何でもできたが、男子生徒の狂気に怯えていた事と、男子生徒がそれなりに強かったことから、反撃する事が出来なかった。
「オレは特別な男だ!! ヒーローなんだ!! そうだ! オレはヒーローの筈だぞ!! なのに何で皆オレを嫌うんだよ!!」
日菜「そういう性格だから…」
「口答えするな!! 歯向かうな!! オレに意見するなぁああああああああ!!!」
と、まるで目の前でウロウロする虫を退治するかの如く、男は日菜を殴った。
「お前らは黙ってオレの言う事聞いてればいいんだ。そして、お前のようなメスはオレに全てを…」
その時だった。
「うっ…な、なんだ…!! ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
男子生徒が腹を抑えたその時、
「氷川先輩!!!」
飛鳥が現れた。
「て、てめぇ!! 一丈字!!」
日菜「飛鳥くん!!」
日菜が飛鳥の所に行こうとしたが、男子生徒が日菜の手を掴もうとすると、
飛鳥「トランプ手裏剣!!」
飛鳥が懐からトランプを1枚取り出して、手裏剣の要領で投げ、投げたトランプは男子生徒の腕に当たった。
「ぐぁあああああああああ!!!」
そして飛鳥は日菜の手を引っ張って、その場を離れた。
「ま、まてぇ…!! ぐぁああああああああああああああああ!!!!」
飛鳥が超能力を使って、更に腹痛を酷くさせた。
そして、人気のいない場所。
飛鳥「日菜先輩。大丈夫ですか…」
日菜「……」
飛鳥が日菜の顔を見ると、目や頬や腫れあがっていた。
日菜「えへへ…大丈夫だよ。助けてくれたから」
と、日菜は笑っていたが飛鳥は分かっていた。本当は声を上げて泣き出したいのだと。だけど自分が後輩だからそれをしないのだと。
飛鳥「保健室に行きましょう。そこで手当てを…」
その時だった。
「日菜!? それに一丈字くんもどうしたの!?」
と、彩が慌てた。
飛鳥「丸山先輩!」
日菜「彩…」
彩「きゃああああっ!!! ど、どうしたのよ!!!」
日菜の顔を見て彩が青ざめていた。
飛鳥「男子生徒に襲われたみたいなんです。詳しくは保健室で…」
彩「わ、分かった!」
飛鳥「そういえば日菜先輩、今日仕事は?」
日菜「ないよ」
飛鳥「…そうですか」
飛鳥と彩が日菜を連れて保健室に移動した。
「随分派手にやられたわね…」
と、保健室の女医の先生も渋い顔をしていた。
飛鳥「私は少しのあいだだけ席を外します」
彩「え、何で?」
飛鳥「言う通りにしてください。分かりますから」
彩「!」
飛鳥が悲しそうに呟くと、そのまま出ていった。
彩「日菜…」
日菜「……」
彩が日菜の方を見ると、日菜はぽろぽろ涙を流した。
日菜「…うわあああああああああああん!!! こわかったよぉおおおおおおおおお!!!」
日菜が号泣すると、彩は気づいてすぐに日菜を抱きしめた。
彩「怖かったね!! 日菜ちゃん!! よく頑張ったよ!!」
と、彩も貰い泣きして元気づけると、飛鳥はそのまま廊下で待っていた。その時だった。
ひまり「あれ? 一丈字くん。何してるの?」
Afterglowが現れて、ひまりが話しかけてきた。
飛鳥「保健室に入らないように見張ってるんですよ」
蘭「何で?」
飛鳥「後で説明します。今は入らないでください」
飛鳥の表情に巴は何かを感じた。
蘭「説明してくれなきゃ…」
巴「一丈字の言う通りにしよう」
「!!」
巴「その代わり、ちゃんと説明してね」
飛鳥「ええ。皆さんはお帰りになられるんですか?」
ひまり「そ、そのつもりだけど…」
飛鳥「申し訳ございませんが、ちょっと今は帰らないでください」
蘭「ど、どういう事だよ。うちらライブの練習しようと…」
巴「もしかして…保健室に入れない事と、関係があるのか?」
飛鳥「はい。今、暴漢がこの学校をうろついているとの情報が入ったそうです」
「えええええっ!!?」
飛鳥の言葉に蘭たちが驚いた。
蘭「ぼ、暴漢って!!」
モカ「特にサイレンとか鳴ってないよ~?」
飛鳥「…犯人が男子生徒ですからね」
蘭「ちょ、ちょっと待って。それじゃ保健室に入るなっていうのは…」
飛鳥「もうそろそろ大丈夫だと思うんですけど…」
飛鳥が困惑すると、彩が入ってきた。
彩「あ、もう大丈夫だよ一丈字くん。日菜落ち着いたから…」
飛鳥「そうですか。あ、もし宜しければ中にお入りください。そこで説明します」
そして飛鳥は全ての経緯を説明した。
飛鳥「今、弦巻さんの黒服の人たちに捜索をさせていますので、もうしばらくお待ち頂けますか」
つぐみ「う、うん…」
飛鳥が困った表情で話すと、つぐみも困りながら頷いた。
蘭「それにしても女子の顔を殴るなんて…」
巴「許せないね」
モカ「同じ目にあわせてやりたいくらいだね~」
その時、平三が現れた。
飛鳥「平三さん」
黒服「一丈字様。例の男子生徒を捕らえました。如何なさいますか」
飛鳥「状況はどのような状態ですか」
黒服「暴れておりましたが、手刀で大人しくさせました」
飛鳥「…そうですか。それでは彼の親御さんと学校に連絡をして、日菜先輩達から隔離させてください」
黒服「承知しました」
と、平三が消えていった。
暫くして、
紗夜「日菜!!!」
紗夜が血相を変えて保健室に現れた。
日菜「あ、おねーちゃ…」
すると紗夜が日菜を抱きしめた。
紗夜「ごめんね…ごめんね…うわぁああああああ!!」
と、子供のように泣いた。
日菜「おねーちゃん…」
日菜も貰い泣きしたのを飛鳥達も見ていた。
蘭「くそっ!!」
蘭が壁を殴った。
蘭「こんな目に逢わせるなんて…」
巴「落ち着け」
蘭「これが落ち着いていられるの!?」
巴「いられないよ。だけど、もう犯人は捕まったんだ」
巴も冷静を保とうとしていたが、頭に血が上りそうだった。
日菜「あ、そうだ…飛鳥くん」
飛鳥「あ、親御さんに連絡して迎えに…」
日菜「ううん。助けてくれてありがとう」
飛鳥「いえ。来るのが遅れてしまい、あなたをそのような目に逢わせてしまったので、お礼を言われる資格はございません」
日菜「ううん! そんな事ない!! そんな事ないもん!!」
日菜がまた泣き出した。
日菜「そんな事ないもん…」
と、か細い声を聴いて飛鳥は更に困り果てた。
紗夜「一丈字くん…」
飛鳥「!」
紗夜「私からもお礼を言わせてください。妹を助けてくれてありがとうございました…!!」
河川敷
飛鳥「ハァ…」
飛鳥は一人河川敷で落ち込んでいた。
飛鳥(もしもあの時来るのが早かったら…)
親に迎えに来て貰った日菜と紗夜を思い出した飛鳥。結果的に日菜をケガさせてしまった事を悔やんだ。
飛鳥(あんまりこういう事が続くと、この学校に来てる意味がなくなる…。気を付けないと…)
その後、男子生徒は傷害容疑で逮捕され、退学になった。男子生徒は確かに成績優秀でスポーツ万能だったが、女子にはモテず、自分よりも下だと思っていた人間に次々と恋人が出来た事が、凶行へ走らせるきっかけとなってしまった。
日菜に至っては幸い大事にはいたらず、数日分の仕事をキャンセルした程度で済んだ。また、キャンセルしたことで発生した違約金などは男子生徒の親が支払う事になったという。
こうして一連の騒動は収まったが、目の前で日菜にけがを負わせてしまった事は、飛鳥にとって暗い影を落とす結果になった。
その結果…
日菜「ねえ飛鳥くん。元気出して? 私大丈夫だよ? ほら!」
飛鳥「……」
飛鳥が河川敷で落ち込んでいた事が、皆に知られてしまい、日菜は責任を感じてずっと付きまとうようになってしまった。そしてファン達からも余計に嫉妬されるようになった。
飛鳥(河川敷で落ち込んだのが一番の失敗だった…)
と、飛鳥は反省したという。
日菜「ねえ飛鳥くん。今日の放課後ずっと一緒にいようよ。膝枕とかしてあげるよ?」
飛鳥「あの…本当にすいませ…」
日菜「謝らないでよお…!!」ジワァ…
飛鳥「あ、その!! 泣かないでください! 分かりました!! 今日ちょっと付き合って欲しい所が…」
おしまい