前回までのあらすじ
飛鳥は廊下を歩いていると、男子生徒に殴られている日菜を目撃した。すぐに追い払ったが、顔は腫れあがっており、すぐさま保健室に運んだ。
大事にはならずにすんだものの、日菜を救いだせなかった事、紗夜と日菜を泣かせてしまった事、そして最悪の事態になっていたかもしれないという恐怖から、飛鳥は一人、自分を責めた。
今回はそんなお話である。
翌日、飛鳥は重い腰を上げて学校に向かった。
飛鳥(日菜先輩がケガした事は、オレのせいにされるだろう。だが、それはいいんだ)
問題なのはそこじゃなかった。昨日、保健室を出た後日菜が声を上げて泣いた事。そこが不安だった。痛かったに違いない。怖かったに違いない。だが、アイドルとして、Pastel*Palettesのメンバーとしてやっていくには、表面上明るく振る舞わないといけない。
要は色々と心配なのだ。いつものように全く気にせず明るく登校してくれれば良いのだが、あれだけの事があってそういう事が出来るのは、気丈な人間ではない。かなり頭がおかしい人間だと飛鳥は考えていた。
その時だった。
「飛鳥くん!」
と、日菜の声がして、飛鳥が後ろを振り向くと、日菜と紗夜がいた。
飛鳥「…日菜先輩」
飛鳥が困った顔をした。というのも、日菜の顔には絆創膏とガーゼが貼られていて、とても痛々しい姿だった。
日菜「おはよう!」
飛鳥「おはようございます」
日菜は明るく振る舞っていたが、飛鳥には分かっていた。皆に気を遣わせまいと気丈に振る舞っているのだと。そして紗夜も困った顔をしていた。
飛鳥「紗夜先輩もおはようございます」
紗夜「…おはようございます」
日菜「二人ともどうして暗い顔してるの? あたしは大丈夫だよ」
飛鳥「そ、そうですか…」
飛鳥は困った顔をしていた。
日菜「もしかして誰かに虐められてるの?」
飛鳥「いえ、まだです」
紗夜「まだって…」
日菜「まだってどういう事?」
日菜の言葉に飛鳥は目を閉じた。
飛鳥「恐らく私のせいになるでしょうね。あなたがケガをした事」
日菜「な、何で!!?」
日菜の問いに飛鳥が目を開けた。
飛鳥「嫌われてるからですよ。まあ、それはどうでもいいんですけどね」
日菜「どうでもよくないよ!! あたしがケガしたのがどうして飛鳥くんのせいになるの!?」
飛鳥「普段からこうやってお話をしてるからでしょうね。此間の誘拐の件もありましたし、そして犯人の男はもうこの学校にはいいませんし、やり場のない怒りから私に当たるでしょう」
飛鳥が再び困った顔をした。
飛鳥「最悪の事態は免れましたけど、こうしてけがをされてしまった事にかわりはございません。仕方ありませんよ」
日菜「……!」
飛鳥の言葉に日菜が困った顔をした。
飛鳥「それはそうと、もう学校に登校されて大丈夫なんですか?」
紗夜「…私も止めたんですけど、聞かなくて。一丈字くん。あなたが虐められる可能性があるというのは私も同感です。私のクラスでもあなたの事を快く思っていない方が数人います」
飛鳥「でしょうね…」
紗夜の言葉に飛鳥が首を横に振った。
日菜「そ、そんなのやだよ!! どうしてあたしがケガをして、飛鳥くんが虐められないといけないの!!?」
飛鳥「あくまで想定の話なので、何もない事を祈りましょう」
紗夜・日菜「……」
飛鳥がいつも通りの表情で紗夜と日菜を見た。
飛鳥「行きましょう。また途中からになりますが、学校まで送ります」
そして飛鳥は紗夜と日菜と一緒に登校した。
それからというもの。飛鳥は普通に自分の教室で過ごしていたが、
飛鳥「……」
飛鳥は困り果てていた。というのも、休憩時間になる度にずっと日菜がいたからだ。
飛鳥「あの、氷川先輩…」
日菜「飛鳥くんが虐められないようにするの」
飛鳥「あ、多分これ絶対に来ないパターンですね」
日菜「それだったらあたしがいなくなったら、絶対来るパターンだよね?」
飛鳥「来るけど、色々あって何もなかったっていうパターンですね」
日菜「今日はずっと一緒にいようよ」
飛鳥「……!」
日菜が寂しそうにつぶやいた。
日菜「初めてなの。こんなに怖いと思ったの」
飛鳥「……」
日菜「そして、目を離したら飛鳥くんがいなくなっちゃうんじゃないかって」
日菜が震えていた。
日菜「だからお願い」
飛鳥「……」
日菜の言葉に飛鳥は何も言えずにいたが、
「一丈字くん。一緒にいてあげなよ」
と、一人の女子生徒が話しかけた。
飛鳥「!」
「私達は大丈夫だから」
「そうだよ。一緒にいてあげて」
次々と女子生徒達が声を出した。
飛鳥「皆さん…」
飛鳥が俯いた。
飛鳥「分かりました」
日菜「…うん」
女クラスメイト達の後押しで飛鳥は日菜と一緒にいる事にした。昼休憩は紗夜をはじめ、2年生全員と食事を取っていた。日菜の周りに不審者がいないか見張っていたが、
飛鳥「……」
飛鳥は遠巻きに見ている男子生徒達の「悪意」を感じ取っていた。
(おい、あいつ…)
(日菜ちゃんにけがをさせて、何で一緒にいるんだ?)
(日菜ちゃんの顔に傷をつけやがって…!!)
(許せん!)
飛鳥の想定通り、怒りの矛先が自分に気付いている事に気づいた。
日菜「…飛鳥くん?」
飛鳥「!」
飛鳥が日菜を見つめた。
日菜「どうしたの? やっぱり虐められてるの?」
飛鳥「いや。虐められているのではなく、不思議がられてましたね」
リサ「不思議がられていた?」
飛鳥「ええ。そんな感じがしていますね」
何故不思議がられているかはあえて言わなかった飛鳥だったが、千聖は気づいた。
千聖「それはそうと、いつまでウジウジしてるのかしら?」
飛鳥「ああ、すみません」
飛鳥が千聖を見た。
千聖「もう過ぎた事は仕方がないし、いくらあなたでも対処しようがないでしょ」
飛鳥「そうじゃないんですよ」
「!」
千聖の言葉に飛鳥はそう言い放つと、千聖たちが飛鳥を見た。
飛鳥「白鷺先輩の仰ってる事は最初から理解しております。昔の事をずっと気にするより、未来に目を向けた方が良いと」
千聖「それだったら…」
飛鳥「あの現場にいたから感じるんですよ。もしもあの時よりも更に悪い状況だったら。と」
「!」
飛鳥「白鷺先輩」
千聖「な、なに?」
飛鳥「もしもあの時、日菜先輩が殺されていたらどうしていましたか?」
千聖「!!」
飛鳥の言葉に皆が戦慄した。
麻弥「い、一丈字さん! 今はそういう事は…」
日菜「麻弥ちゃん」
日菜が止めた。
日菜「いいの。飛鳥くんは本当にあたしを助けようとしてくれてたから、分かるんだよね」
千聖「分かるって…」
飛鳥「すみません。質問を変えます。もしあなたが私の立場だったらどうしてましたか? 殴られただけで済んで良かったって思いますか? それとも…」
千聖「……」
飛鳥の言葉の真意が分かり、千聖が俯いた。
千聖「…ごめんなさい。私が間違ってたわ。殴られただけで良かったなんて…そんな事思えない」
飛鳥「すみません。情けない話なのですが、恐怖を感じてるんですよ」
「!」
飛鳥「助けられたから良かったですが、もしもあの時遅れていたら、もしもあの時、あの場所を通らなかったら、日菜さんはどうなっていたんだろうと」
「……!!」
飛鳥「恐ろしくて仕方ないんですよ。人の命がかかっていたから」
飛鳥が一息ついた。
飛鳥「白鷺先輩。さっきの質問の答えですが…」
千聖「……」
飛鳥「もう少しだけ待って頂けないでしょうか。心の整理がまだついてないんです」
飛鳥の言葉に千聖は、
千聖「分かったわ。そこまで日菜ちゃんの事を考えてくれてたのね。ありがとう」
飛鳥「いえ…」
その時、日菜が飛鳥に近づいた。
飛鳥「あ、日菜先輩。どうされま…」
日菜が飛鳥に抱き着いた。
飛鳥「あの、日菜先輩?」
日菜「ごめんねぇ…!! ごめんねぇ…!!」
と、日菜が泣いて謝っていた。
飛鳥「いや、謝る必要もありませんし私は…」
日菜「…飛鳥くん、昨日の夕方、ずっと一人で悩んでたでしょ。河川敷で」
飛鳥「誰から聞きました?」
日菜「つぐちゃん」
飛鳥「…つぐちゃんって、羽沢さんですか?」
日菜「うん。一人で川をずっと見てたって、電話を見てたよ」
日菜がポロポロ泣くと、紗夜が慄然とした。
飛鳥「…全然気づきませんでした。てっきり美竹さん達と一緒に帰ったのかと思ってたので」
日菜「ごめんね…! あたしのせいで…!!」
と、泣いていたが、
飛鳥「いえ、それはこっちが勝手にやった事なので気にしないでください」
飛鳥は普通に言い放った。
飛鳥「あ、そういやPastel*Palettesの仕事って…」
千聖「今週はなしよ。流石に顔を殴られて仕事させたら、うちの事務所潰れるわ」
飛鳥「ですよね…」
飛鳥が困惑して相槌を打った。
飛鳥「日菜先輩」
日菜「?」
飛鳥が日菜の身を離して、日菜と向き合った。
飛鳥「まあ、色々言いましたが、結果的に私もあなたもこうやって生きてる。一旦は良しとしましょう。そしてこれからの事について話しましょうか」
日菜「…うん」
日菜が小さな声でつぶやくと、
飛鳥「ここにいる皆さんも羽沢さん達もついてます。一緒に頑張りましょう」
日菜「うん…!!!」
と、日菜がまた涙を流したが、鼻水も流れ出た。
飛鳥「あ、色々喋ってすみませ…」
飛鳥が紗夜たちを見ると、彩、麻弥、リサ、燐子、花音が号泣していた。
飛鳥「あの、何で泣いてるんですか…」
彩「だってぇ~!!」
麻弥「深く感動したっす…!!」
花音「ふぇええええええええええ」
燐子「……!!」
涙を流している彩、麻弥、花音、燐子を見て飛鳥は気まずそうにした。
リサ「河川敷って…またあそこで落ち込んでたのね」
飛鳥「そうですね…。あそこあまり人来ないので…」
友希那「……」
友希那がじーっと飛鳥を見つめた。
飛鳥「あ、すみません…」
友希那「謝る必要がどこにあるの?」
飛鳥「え」
友希那「自信を持ちなさい」
千聖「そうよ。自分のやった事は間違ってないって思ってるんでしょ?」
飛鳥「それはもう」
飛鳥が即座に答えた。
千聖「なら、それでいいじゃない」
薫「なんて勇敢で…儚いんだ」
千聖「かおちゃん静かにして」
薫「ごめんなさい。あと、出来ればもうそれ呼ばないでください」
千聖と薫の掛け合いに日菜もちょっと元気が出た。
日菜「…ふふっ」
飛鳥「日菜先輩…」
日菜「…はー。皆とお喋りしたら元気が戻ってきた。で、飛鳥くん」
飛鳥「何でしょう」
日菜「今日の放課後空いてる?」
飛鳥「空いてないですね」
空気が止まった。
千聖「今の日菜ちゃんよりも優先しなきゃいけない事?」
飛鳥「同じくらいですね」
リサ「無理に好感度下げようとしても無駄だよ」
飛鳥「そういう場合一気に0になりますからしませんよ。弦巻さんと打ち合わせがあるんですよ」
「打ち合わせ?」
飛鳥「日菜先輩を笑顔にする為の打ち合わせです」
「それもっと泣いちゃう奴じゃんか!!!」
「うぇええええええええええええええええええええん」
と、日菜達は泣いたが、皆で一緒に泣いたら日菜は元気になったという。
飛鳥「人間、素直になるのが一番ですね」
おしまい