刺激のある生活なんていらない。僕は平凡でいい。ただ普通で平和な日常を過ごせたらそれでいいんだ。
…そう思って高校に進学したものの、本当に平凡で普通で平和で…クソつまんねぇ!!
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そう嘆いている男の名前は檻主。特徴は一言でまとめるとラノベでよくいる主人公。黒髪でストレートだったり、なんか煮え切らなかったり、客観的に見て良さげなのにやたら自己肯定が低かったり、実際にいたら若干めんどくさい感じである。
で、ラノベでよくある『自分は平凡で良いんだ』だの『オレはあいつみたいにキラキラにはなれない』だの、やたら劣等感を抱き、変化を望まない性格だ。
そしてその言葉の通り、本当に何もなければ友達や彼女もできない、かといって虐められる事もない。本当にごく普通の生活を送っている。
確かに平凡な生活が良いと言ったものの、何かしらの刺激は欲しい。というか毎日同じような生活でつまらなかったのだ。
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そんな中、檻主にも遂に転機が訪れた。
「お姉ちゃん達。僕たちとどこかで××××しない?」
「ストレート!!」
下校しようとすると、他校のDQNが学園のアイドルの丸山彩と松原花音に絡んでいた。
檻主(こんな分かりやすくナンパする奴いるかなぁ…?)
そして檻主は「これ、自分が行かなきゃダメなの?」と思っていた。しかし、関わりたくないので避けて通ろうとすると、そのまま避けて通れた。
檻主(あれ? 避けて通れた…)
不思議そうに檻主が後ろを振り向くと、ヤンキーは別の男子生徒にいちゃもんをつけていた。
ヤンキー「何ガン飛ばしてんだよテメェ!」
「あ、警察に通報しといたんで、今のうちに逃げた方がいいですよ?」
ヤンキー「はぁ!?」
ヤンキーB「何してくれてんだてめぇ!」
ヤンキーC「ぶっ飛ばしてやる! オラァ!」
そう言ってヤンキーBとCが少年に襲い掛かったが、すぐに返り討ちにした。2人のヤンキーはものすごくおもしろい顔で伸びていたのに対し、少年はいたって普通だった。
ヤンキーA「ひ、ひぃ~~~~~~~!!!!!」
ヤンキーAは仲間を置いて逃げ出すと、彩と花音は呆然としていた。
「さて、この二人だけでも引き渡しましょうかね」
少年がやけにあっさりしていた為、周りの生徒は全員唖然としていた。
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「ご協力ありがとうございました!」
「いえいえ」
BとCを警察に引き渡した少年は警官にお礼を言われ、警官はパトカーにBとCを載せて去っていった。
檻主(な、何て強い奴なんだ…。でも、あんなに強い奴がいるならオレの平凡な生活は維持できそうだな…)
そう檻主が思っていると、いつの間にか少年はいなくなっていた。
檻主(あ、あれ!? あいつは!?)
彩「どこにもいない!」
花音「ふぇええ!!?」
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翌日
檻主(相変わらず普通で平凡な日々だ)
彩と花音を助けずに避けて通ったにも関わらず、何も言われなかった檻主。確かに自分が望んだ平凡な生活だったが、とても気持ち悪いものとなっていた。
そして少年は檻主の3つ後ろの席に座っていて、教科書の確認をしていたが、どういう訳か誰も気づいていない。
そんな時だった。
「あのー。すいません」
「!?」
彩と花音、そして彼女たちの友人がやってきて、教室が若干驚いた。
檻主(昨日の先輩達に…友達もキラキラしてる人が多いなぁ。きっとオレじゃなくて助けた一丈字なんだろうなぁ)
彩「ここに一丈字くんっていう子はいるかな?」
檻主(やっぱりな)
実際に自分が助けた訳でもないのに、当然の結果である。
「一丈字くん?」
「あれ? さっきまでそこにいたんですけど…」
「あの子突然いなくなったりするんだよね…」
「…そう」
花音の友人である白鷺千聖が表情を曇らせた。
千聖「戻ってきたら私が探してたって言って貰える?」
「わ、分かりました…」
そう言って千聖たちが去っていった。
檻主(オレじゃなくて一丈字が大変だったって事か。まあ、一丈字には悪いがオレは平凡ライフを満喫させてもらうよ)
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その後も檻主の平凡ライフは続いたが、時間が経つにつれて一丈字飛鳥は彩や花音、その友人たちと仲良くなっていった。
そしてその年の臨海学校。飛鳥は都合により来られなくなってしまったのだ。
「一丈字がいないから気兼ねなく香澄ちゃん達と遊べるぜ!」
「あの野郎! 最近香澄ちゃん達と仲良くしてたからムカついてたんだぜ!」
「ああ!」
と、飛鳥の事を快く思っていない連中もいたので檻主は呆れていた。
檻主(まあ、これで面倒な事が起こらなかったらいいんだけどな…)
檻主がそう思いながら臨海学校が始まったが、本当に何も起こりませんでした。精々クラスの男子が香澄達にしつこく迫って、へそを曲げた蘭が怒って女子だけで遊んだくらいだった。ちなみに檻主はぽつんと一人で遊んでおり、誰も声をかけてくれることもなかったという。まあ、平凡な生活を崩されたくないからって、人付き合いをちゃんとしてなければそうなりますね。
そして数日後、飛鳥が表彰されることになったのだ。檻主たちが臨海学校に行っている間に開催されていた『テクノロジーコンテスト』に見事優勝して、特別審査員賞も貰ったのだった。
モカ「流石だね~。飛鳥くん」
飛鳥「ありがとうございます」
食堂で飛鳥はバンドガールズと話をしていて、近くに檻主とヤラカシ達がいた。
飛鳥「臨海学校楽しめました?」
モカ「楽しかったけど、メインの海水浴がね~」
モカが蘭の方を見ると、蘭はばつが悪そうに視線をそらした。
飛鳥「…お疲れ様です」
モカ「それで今度女子だけで仕切り直しをしようと思ってるんだよね~」
飛鳥「楽しんできてください」
この流れは飛鳥を誘う流れだと確信したヤラカシ達が反応するも、檻主は「まあ、当然だろうな」と思っていた。だが、平凡ではないけど毎日刺激があって仲間に囲まれて、自分自身で道を切り開こうとする飛鳥の姿を見て、少しだけ羨ましいと思っていた。
香澄「あ! そうだ! 飛鳥くんも一緒に行かない!?」
有咲「ちょ、女子だけだつってんだろ!」
有咲の発言にヤラカシが騒いだ。
「断れ一丈字!」
「お前だけいい思いするのは許さぬぅ!!」
飛鳥「お気持ちだけ受け取っておきます」
「よし!」
飛鳥の言葉にヤラカシ達は喜んだが、
モカ「蘭やあいつらに気を遣わなくていいんだよ?」
蘭「ちょ、一緒にしないでよ…」
飛鳥「そういやその仕切り直しって弦巻財団の黒服たちの人が警備としてつくんですか?」
美咲「うーん…。そうした方が良いかも」
有咲「だな」
飛鳥「それなら安心ですね」
飛鳥が笑みを浮かべると、有咲と美咲がぎょっとした。
飛鳥「それではゆっくり楽しんでください」
香澄「飛鳥くん!」
そう言って飛鳥は去っていくと、モカは苦笑いした。
檻主(一丈字の奴…)
***
ある時、飛鳥が帰ろうとすると目の前に檻主が現れた。
檻主「一丈字」
飛鳥「あれ? あなたは…」
檻主「檻主だ」
飛鳥「ああ。檻主さんですか。お疲れ様です」
飛鳥が普通に話しかけると、檻主は飛鳥の顔をじっと見つめた。
飛鳥「私の顔に何かついてますか?」
檻主「一つ聞きたい事がある。どうして戸山たちの誘いを断ったんだ?」
飛鳥「誘いに乗ったらまたヤラカシ達が騒いで、またいろんな人に迷惑をかけるから…っていうのもそうですけど、女子だけだって言ったのに男子が行くとフェアじゃないでしょう」
檻主「は?」
飛鳥「まあ、声をかけて貰っただけでも勲章ものって事で。それでは」
飛鳥がそう言って去ろうとすると、檻主は飛鳥の背中を見つめた。
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後日。飛鳥と檻主はまたそれぞれの日常を過ごしていた。飛鳥は沢山の人間に囲まれた賑やかで騒がしい毎日、檻主は独りぼっちだけど静かで平和な毎日。しかし、彼らにとっては充実していた…。
飛鳥(…なんかオチが弱い気がするけど、平和だからいっか)
おしまい