「え…?」
飛鳥「殴ってゴメンね」
蘭たちも驚きが隠せなかった。
「一丈字!! 何やってるんだ!!」
と、先生達が止めに入ると、飛鳥は先生達を見つめた。
飛鳥「先生」
「!?」
飛鳥「問題行動を起こせば、野外活動は即終了でしたよね」
「あ、ああ…」
飛鳥「お手数をおかけしますが、私を退場させて頂けないでしょうか」
「!!?」
飛鳥の言葉に皆が驚いた。
「な、何を言っているんだ!」
飛鳥「私は今こうやって2組の生徒を叩きました。立派な問題行動ですよね?」
飛鳥の言葉に教師たちが困った顔をした。
飛鳥「お願いします。退場させてください。そうしなければ2組の空気がずっと最悪なままですし、昨年退場された先輩方に申し訳ないです」
教師は更に困った顔をすると、
「どうしてタカシを叩いたんだ?」
飛鳥「私が暴力を振るう事で、皆さんがもう怒らないようにする為です。実際に私が叩いた事で、2組の人たちは静まり返りました。で、申し訳ないのですが…美竹さん達とタカシさんに話をする機会を与えて貰えませんか?」
「!!?」
飛鳥「過去に何かあったようで、それが原因でずっといがみ合いを続けているんです。お互い碌に話もしていないようですし、ちゃんと話をして、お互い納得のいく結果を出させてください。お願いします」
飛鳥が頭を下げた。
飛鳥「今回の騒ぎを収めるにはこうするしかなかったんです。お願いします…」
飛鳥のお願いを聞いて、教師たちは困った顔をした。
飛鳥「タカシさん」
タカシ「?」
飛鳥がタカシを見つめた。
飛鳥「殴って本当にごめんなさい。ただ、あなたが昔美竹さん達に迷惑をかけた事に対しては、ちゃんと謝ってください。たとえ許してくれなくても」
タカシ「そ、それはもう昔の話で…」
飛鳥「あなたの中では解決しても、彼女たちは何も解決してない」
「!」
飛鳥の表情が真剣なものになった。
飛鳥「本当に幼馴染だというのなら、その立場に甘えないでしっかり向き合いなさい。あなたは彼女たちの事を何も分かっていない!」
タカシ「な、何でお前にそんな事言われなきゃいけないんだ!! お前に何がわかる!!」
飛鳥「あなたの事は分からなくても、彼女たちが傷ついていたっていう事は分かりますよ。そうでなきゃ、あなたの事を嫌ったりする訳がないんですから」
「!」
飛鳥「美竹さん達は理由もなしに人を嫌ったりする人たちじゃありません。他の方だってそうです。ちゃんと理由があるんです。それをあなたがちゃんと分からなければ、ずっとこのままですよ。それでいいんですか?」
「……」
飛鳥の言葉にタカシは俯いた。
飛鳥「先生方。あとは宜しくお願いします。私は帰る準備をします」
蘭「ま、待ってよ…」
「一丈字」
初老の男性教諭が呟いた。学年主任である。
「…残念だが、お前はここで終わりだ。学校に帰って反省文を書くように」
飛鳥「ありがとうございます」
飛鳥が笑みを浮かべた。
ひまり「そ、そんな!!」
飛鳥「美竹さん」
蘭「!」
飛鳥「それから、青葉さん達も」
モカ・ひまり・巴・つぐみ「!!」
飛鳥が蘭たちを見た。
飛鳥「答えは変わらないでしょうけど、タカシさんの話を聞いて、向き合ってあげてください。ただ拒絶するだけじゃ、何も変わりませんよ」
「!!」
飛鳥「それでは、さよならです」
そう言って飛鳥は去っていくと、生徒達は飛鳥を見つめる事しか出来なかった。
タカシ「……」
この後、肝試しは中止になり、タカシとAfterglowは先生達立ち合いの元、話し合いが行われた。タカシが過去にした事を聞いて先生達は驚いて何とも言えなかったが、タカシにちゃんと反省するように促し、蘭たちの本音を聞いてようやく自分が間違っていた事に気づき、謝罪した。巴は自分の許可なしに妹に近づかない事を約束させて許すと、他の4人は巴の様子を見て、とりあえず許す事にした。
そして飛鳥はというと、荷物を纏めて、学校行きのマイクロバスに乗ろうとしていた。
飛鳥「……」
先ほど、飛鳥はちらっとタカシたちの様子を見ていたが、タカシが反省していた事に気づき、満足そうにしていた。
「一丈字…」
飛鳥「はい…って、何で泣いてるんですか」
運転手を務める生徒指導の桑田が号泣していた。
桑田「暴力はいけないが、身を挺して場を丸く収めようとしたお前に感動した…!!」
飛鳥「あ、ありがとうございます…」
飛鳥が苦笑いしたその時だった。
「一丈字!!!」
「一丈字くん!!」
と、3組の生徒や香澄たちがやって来た。
飛鳥「あれ?」
飛鳥が驚いた。
飛鳥「どうしたの?」
「どうしたもこうしたもねーよ!!」
「一丈字くん! これでいいの!!?」
飛鳥「ええ。じゃなきゃこんな事しませんよ」
飛鳥が笑みを浮かべた。
香澄「今からでも…」
はぐみ「そうだよ!! こころんに…」
飛鳥「それはダメですよ」
香澄・はぐみ「!!」
飛鳥の言葉に皆が驚いた。
飛鳥「ルールですし、全部元に戻してしまったらいけないんです。2組の人たちが本当の意味で一つになるには、こうするしかないんです」
「!」
飛鳥「あ、そうだ。富山さん」
「?」
飛鳥がポケットから紙を取り出した。
飛鳥「これ、アップルパイのメモです」
富山「……!!」
富山がメモを受け取ると中身を確認した。確かにシナモンなしのアップルパイのレシピが書かれていた。
飛鳥「念のためにお渡ししておきますね。これでいつでもお母さんの思い出のアップルパイが食べれますね」
富山「一丈字くん…」
飛鳥「それでは、私はもう行きます」
「あっ…」
飛鳥がマイクロバスに乗り込むと、すぐに扉が閉まった。退場者は飛鳥一人だった。
飛鳥「桑田先生。ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願いします」
桑田「ああ」
桑田がバスを動かして、飛鳥は遂に自然の家を後にする。
「一丈字!!」
「一丈字―!!!!」
と、皆が叫んで追いかけると、Afterglowとタカシも出てきた。
蘭・巴「一丈字!!!」
ひまり・つぐみ「一丈字くん!!」
モカ・タカシ「……!!」
蘭たちが叫ぶと飛鳥も気づいて、蘭たちに向かって右手を上げ、曲げて敬礼した。
「……!!」
敬礼したまま飛鳥を乗せたマイクロバスは去っていった。
「一丈字――――――――――――――――――――っ!!!!!」
生徒達が叫んだ。
飛鳥(めっちゃ目立ったな…)
飛鳥が困惑しながら、母親に事の顛末をメールで報告した。
つづく