第68話
ある日のことだった。
「ふざけんじゃねぇーっ!!」
と、一人の男が商店街で暴れていた。周りにいた通行人たちは彼に怯えている。そして飛鳥が通りかかった。
飛鳥(何だ!?)
飛鳥は異変に気付いて、超能力で男を眠らせて、走って男に近づいた。
飛鳥「大丈夫ですか!? しっかりしてください!!」
「くーくー…」
眠らせたのは飛鳥自身だが、周りに怪しまれないようにわざと男に声をかけた。
「どうしたの!!?」
と、はぐみがやって来た。
飛鳥「北沢さん! 警察を呼んで貰えますか。私がこの人を見ますので」
はぐみ「わ、分かったよ!!」
そう言ってはぐみは警察を呼びに行った。
飛鳥「しかし何でこんな事を…」
と、飛鳥がふと横を見ると、何かが落ちている事に気づいて、飛鳥は超能力で調べた。ちなみに直接触ったりすると、警察の捜査の邪魔になる為である。
飛鳥(ウナギ包丁…?)
飛鳥が男を見つめていた。
後日、飛鳥は事情聴取のために警察に連れていかれた。
「いやあ、まさか大阪府警の神楽さん(飛鳥の親戚、警察官が多い)所の坊主が解決するたぁ、大したもんだ!!」
と、高笑いする中年の男は松永。警部である。
飛鳥「どうも…」
飛鳥もちょっと困惑気味だった。そして飛鳥の向かいには暴れていた男が座っていて、俯いていた。
「その…」
飛鳥「?」
「先日はご無礼を働き、申し訳ございませんでした!」
飛鳥「あ、別にいいですよ私は…。ただ、壊したものとかは…」
「はい…。それは責任もって弁償致しますが、あなたにも何てお詫びをすれば良いか…」
男の名前は小塚であり、暴れていた時とは打って変わって大人しい性格だった。
飛鳥「…お詫びは構いませんが、何があったか教えて頂けませんか?」
小塚「それが…」
小塚は商店街の中心部にあるうなぎ屋「あだきや」で働いており、主任的存在であったが、父親から後を継いだ二代目とうなぎの作り方について対立し、追い出されてしまったのだ。
飛鳥「…ウナギをガスで?」
飛鳥は喧嘩よりもウナギの作り方が気になっていた。
小塚「はい…。二代目はよりお客さんをさばき、提供までにかかる時間を減らそうと、ガスを使おうとするんです」
飛鳥「技術があれば問題ないと思いますけど…」
小塚「…ですが、二代目は経営の事ばかりで、ウナギの作り方なんて全くわかってない。店がつぶれるなんて時間の問題ですよ。今まで来てくださってたお客様が離れていくのは目に見えてます!」
と、小塚は頭を抱えた。
飛鳥「…分かりました。ただ、それでああやって大暴れしてよいという理由にはなりませんよ」
小塚「それは仰る通りです。私は結果的に、あだきやの名前に傷をつけてしまった。もうこの手から身を引く事にします」
小塚の言葉に松永が激怒した。
松永「ざけんじゃねぇ!!」
「!!?」
松永が机をたたいた。
松永「自分のやり方を拒否されたくらいで、すぐに諦めんのか!? ああ!? てめぇそれでも男か!!」
飛鳥「いや、松永警部。実際に器物破損で…」
松永「そりゃそうだ。本来ならすぐに豚箱行きだが、どうもすぐに諦めようとするこいつの根性が気に食わねぇ」
飛鳥「えっ」
飛鳥が驚いた。
松永「暫くはオレが面倒を見てやる」
飛鳥「ええっ!?」
小塚「そ、そんな!」
松永「どうするんだ? このまま二代目に好き勝手やらせて、あだきやの味が綺麗さっぱりなくなるか、てめぇのプライドを捨てて、あだきやの味を守り抜くか。どっちか選べ!!」
小塚「……!!」
飛鳥「……」
こりゃあ大事になって来たぞ…と飛鳥は考えた。
警察署から出た後、飛鳥は困惑していた。
飛鳥「はぁ…」
結局松永にも協力させられる事になった飛鳥は、どうすれば良いか迷っていた。
すると、
「一丈字様」
飛鳥「!?」
弦巻家の黒服達が出迎えていた。
飛鳥「お疲れ様です。如何なされましたか?」
「こころお嬢様がご心配されておりました。ご同行をお願いします」
飛鳥「あ、はい…」
飛鳥は車に乗って、こころが待つバンドリ学園に向かった。
バンドリ学園。飛鳥が来るや否や、生徒達が驚いた顔をしていた。
飛鳥「すっかり有名人になっちまったぜ…」
黒服「ご安心ください。一丈字様の計画が順調に進めるよう、我々もサポートして参りますので」
飛鳥「…もしかして、全部知ってます?」
黒服「勿論でございます。盗聴させて頂きました」
飛鳥「そ、そうですか…」
飛鳥はツッコミを放棄した。
「飛鳥!!」
こころが出迎えたが、後ろに大勢のバンドガールズがいた。
飛鳥「わあ」
香澄「聞いたよ!? 警察に捕まったって!!」
飛鳥「私じゃございませんよ」
はぐみ「それはそうと、小塚さんどうなるの!!?」
飛鳥「あれ? お知り合いだったんですか?」
飛鳥が驚いた。
友希那「気持ちは分かるけど、ゆっくり話せる場所がいいんじゃないかしら」
こころ「そうね! カフェテリアに移動しましょ!」
飛鳥「…あれ? 何もご説明されてないんですか?」
飛鳥が黒服の方を見て、確認すると…。
黒服「一丈字様からご説明された方が宜しいかと」
飛鳥「あ、はい…」
そしてカフェテリアの特別スペースに皆が集まって、飛鳥が事情を説明した。
飛鳥「という訳なんです…」
はぐみ「そ、そんな…」
はぐみがショックを受けていた。
飛鳥「…聞きそびれたんですが、お知り合いなんですか?」
はぐみ「うん。元々はぐみのとーちゃんと、あだきやの店長さんが友達で、はぐみも昔から鰻を食べさせて貰ってたの。でも、店長さんが亡くなってから、あまりお店に行かなくなったんだ。でも、そんな事になってたなんて…」
と、はぐみは泣きそうになっていた。
香澄「でも、聞いてて思ったんだけど、どうしても炭じゃないと駄目なの?」
飛鳥「ガスだと中まで火が通らないんですよ」
「!!」
飛鳥が口を開いた。
飛鳥「炭は赤外線の輻射熱で中まで良く通るんですけど…」
香澄「…ふくしゃねつ?」
香澄だけでなく、一部のメンバーがきょとんとしていた。
飛鳥「まあ、今回は話をスムーズに進める為に、難しい話は無しにしましょう」
リサ「よ、要は炭の方が美味しく出来るのよね!?」
飛鳥「ええ」
リサのフォローに対して、飛鳥が苦笑いして反応した。
飛鳥「まあ、話を纏めると、時間はかかるけど、本来のうなぎの作り方で勝負したい主任と、時間を短縮して顧客のニーズに応えようとしている二代目。価値観の相違が原因で、対立してしまったという訳です」
巴「…なんかあたし達バンドみたいだね」
蘭「確かに…」
まるで他人事じゃないと、巴と蘭が反応した。
飛鳥「だけど、結局二代目の方が権力があり、あだきやを追い出されてしまい、やけを起こしたと…」
千聖「結局権力がある方が勝つのよね。どこの世界も」
薫「……」
するとはぐみが立ち上がった。
はぐみ「それじゃ、あだきやのウナギは美味しくなくなるって事なの…?」
飛鳥「ええ。ウナギの提供は早くなりますけどね…」
はぐみ「そんなのいや!!」
はぐみが机をたたいた。
はぐみ「ねえ、何とかならないの!?」
飛鳥「…で、その事でちょっと弦巻さんに相談があるんですけど」
こころ「何かしら? 何でも言って頂戴!」
飛鳥「良い鰻を知ってたら、ちょっと見せて欲しいんですけど」
「一丈字様」
黒服達が現れた。
飛鳥「?」
「もし宜しければ弦巻家にお越しください」
「選りすぐりの鰻を取り揃えてお待ちしております」
飛鳥「そうですか!? ありがとうございます!」
飛鳥が一礼した。
飛鳥「あ、でもそれには少しだけお時間を頂けますか」
「?」
飛鳥「その職人さんも連れていきたいので…」
「……!」
と、飛鳥の様子を見て、バンドガールズは違和感を覚えた。
(もしかして(飛鳥の呼び名)って…めちゃんこ凄い人?)
つづく