飛鳥は廊下を歩いていると、男子生徒に殴られている日菜を目撃した。すぐに追い払ったが、顔は腫れあがっており、すぐさま保健室に運んだ。
大事にはならずにすんだものの、日菜を救いだせなかった事、紗夜と日菜を泣かせてしまった事、そして最悪の事態になっていたかもしれないという恐怖から、飛鳥は一人、自分を責めた。
今回はそんなお話である。
翌日、飛鳥はいつも通り学校に向かった。本当は気が引ける思いだったが、千聖から直接話したいことがあると言われ、日菜もいつも通り学校に来ると知らされていた為、自分が逃げるわけにはいかなかった。
飛鳥がマンションを出たその時だった。
「飛鳥くん!」
日菜の声がして、飛鳥が後ろを振り向くと、日菜と紗夜がいた。
飛鳥「日菜先輩…。それに、紗夜先輩も」
飛鳥が困った顔をした。というのも、日菜の顔には絆創膏とガーゼが貼られていて、とても痛々しい姿だった。
日菜「おはよう!」
飛鳥「…おはようございます」
日菜は明るく振る舞っていたが、飛鳥には分かっていた。皆に気を遣わせまいと気丈に振る舞っているのだと。そして紗夜も困った顔をしていた。
飛鳥「紗夜先輩もおはようございます」
紗夜「…おはようございます」
日菜「二人ともどうして暗い顔してるの? あたしは大丈夫だよ」
飛鳥「そ、そうですか…」
飛鳥は困った顔をしていた。
日菜「もしかして誰かに虐められてるの?」
飛鳥「いえ」
日菜「本当に…?」
飛鳥の言葉に日菜はジト目で見つめる。
飛鳥「まだいじめられていません」
日菜「まだってどういう事?」
日菜の言葉に飛鳥は目を閉じた。
飛鳥「日菜先輩がケガをした事、おそらく私のせいになるでしょう」
日菜「な、何で!!?」
日菜の問いに飛鳥が目を開けた。
飛鳥「早い話が嫌われてるからですよ。まあ、嫌われてることに関してはもうどうでもいいんですけどね」
日菜「どうでもよくないよ!! あたしがケガしたのが、どうして飛鳥くんのせいになるの!?」
飛鳥「普段からこうやってお話をしてる上に、犯人の男はもうこの学校にはいません。そうなると、怒りは私に向けるしかありません」
飛鳥が再び困った顔をした。
飛鳥「最悪の事態は免れましたけど、こうして怪我をされてしまった事にかわりはございません。仕方ありませんよ」
飛鳥の言葉に日菜が困った顔をした。
飛鳥「それはそうと、もう学校に登校されて大丈夫なんですか?」
紗夜「私も止めたんですけど、聞かなくて。一丈字くん。あなたが虐められる可能性があるというのは私も同感です。私のクラスでもあなたの事を快く思っていない方が数人います」
飛鳥「でしょうね…」
紗夜の言葉に飛鳥が首を横に振った。
日菜「そ、そんなのやだよ!! どうしてあたしがケガをして、飛鳥くんが虐められないといけないの!!?」
飛鳥「あくまで想定の話なので、何もない事を祈りましょう」
紗夜・日菜「……」
飛鳥がいつも通りの表情で紗夜と日菜を見た。
飛鳥「行きましょう。また途中からになりますが、学校まで送ります」
そして飛鳥は紗夜と日菜と一緒に登校した。
それからというもの。飛鳥は普通に自分の教室で過ごしていたが、遠巻きに見ている男子生徒達の「悪意」を感じ取っていた。
(おい、あいつ…)
(日菜ちゃんにけがをさせて、何で一緒にいるんだ?)
(日菜ちゃんの顔に傷をつけやがって…!!)
(許せん!)
飛鳥の想定通り、怒りの矛先が自分に気付いている事に気づいたが、飛鳥は気にしないことにした。
日菜「…飛鳥くん?」
飛鳥「!?」
飛鳥が日菜を見つめた。
飛鳥「い、いつの間に…」
日菜「どうしたの? やっぱり虐められてるの?」
飛鳥「いや。虐められているのではなく、不思議がられてましたね」
日菜「不思議がられていた?」
飛鳥「ええ。そんな感じがしていますね」
何故不思議がられているかはあえて言わなかった飛鳥だったが、日菜は気づいていた。
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そして、昼休憩…。
千聖「…来たわね」
飛鳥は千聖から呼び出された場所に向かうと、すでに千聖が到着していたが、モカとこころがいた。
飛鳥「!?」
モカ「やほー」
こころ「話は全部聞いたわ」
飛鳥「……」
飛鳥は静かに目を閉じた。
千聖「…これで全員揃ったわね。話をしましょうか」
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千聖「まずはありがとう。日菜ちゃんを助けてくれて。Pastel*Palettesのメンバーとしてお礼を言うわ」
飛鳥「……」
千聖の言葉に飛鳥は何も言わず目を閉じた。
千聖「モカちゃんにも言われたと思うけど、少し謙虚すぎるんじゃないかしら?」
飛鳥「ありがとうございます。ですが、これくらい謙虚でなければなりません」
千聖の言葉に飛鳥は首を横に振った。
飛鳥「職業柄、常に最悪の事態を想定しておかないといけないのです」
千聖「そ、そう…」
飛鳥「中学の頃は頻繁に起きていたのですが、高校に入り、ましてやこの学園に来てからあんな事はありませんでしたので、気が抜けていたようです」
飛鳥の言葉にこころが難しい表情をした。
こころ「…な、なんか飛鳥。とっても怖いわよ?」
飛鳥「そりゃそうさ。人を守ることは楽しい事じゃないからだよ」
こころ「!」
飛鳥の言葉にこころ達は反応した。
飛鳥「もしもあの時遅れていたら、もしもあの時、あの場所を通らなかったら、日菜さんはどうなっていたんだろうと。人の死もこの目で何度も見てきた。悪いがいつもみたいに笑顔になれないよ」
飛鳥が一息つくと、こころとモカは表情を曇らせた。
千聖「分かったわ。そこまで日菜ちゃんの事を考えてくれてたのね。ありがとう」
飛鳥「いえ…」
千聖「でも、いつまでもそういう訳にはいかないでしょ?」
飛鳥「ええ。数日様子を見て、日菜先輩がちゃんと無事に過ごせていたら、もう気にするのはやめます」
飛鳥の言葉に千聖たちは反応した。
飛鳥「依頼人である弦巻財団から報酬は頂いているので、頂いた分の仕事は致します」
千聖「そう…」
飛鳥の表情を見て、千聖は悲しそうな顔をした。
飛鳥「そんな顔をしないでください。当然の事ですから」
千聖「……!!」
この時、千聖は飛鳥の人間性を垣間見た。飛鳥が能力者だと気づいていなかった間、自分たちの為に飛鳥は人知れず傷ついて戦ってくれていた事に。そして気づいていた。仕事だからと言っているが、本当にその人の事を考えて行動をしていることにも。
実際に自分も芸能人として働いている為、その気持ちが痛いほどわかっていた。仕事だからとただやるだけではなく、他人を意識すること、工夫すること、そして自分で考えることをしなければ上手くいかないのだと。
今後も彼は誰かのために今みたいに身を粉にして戦い続け、うまくいかなければ落ち込むだろうと。
そんな人間に対して知らん顔をする事は、今の彼女の選択肢にはなかった。
それはモカとこころも同じだった。
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放課後
飛鳥「帰るか…」
飛鳥が帰ろうとしたその時、男子生徒たちが3組の教室に乗り込んできた。飛鳥は乗り込んだ理由をすぐに察した。
飛鳥「何か御用でしょうか」
「ちょっと面貸せ」
飛鳥「氷川先輩の事でしょうか」
「いいから面貸せって言ってんだよ!!」
男子生徒の一人が飛鳥の腕を強引に引っ張ろうとしたが、
「ぐあああああああああ!!!」
「!!?」
男子生徒たちが屈強な黒服たちに取り押さえられていて、飛鳥が驚いた。
「くっ…!! ひ、卑怯だぞ!! 弦巻財団に泣きつくなんて!!」
「日菜ちゃんを守れなかったくせに!!」
「くそう!! どこまでも卑怯な手を使いやがって!!」
「お前がボコボコにされればよかったんだ!!」
男子生徒たちが悪態をついて飛鳥が困惑していると、こころ達がやってきた。
こころ「飛鳥! 帰るわよ!」
飛鳥「!?」
モカ「いいからいいから~」
千聖「あまり待たせないで頂戴」
そう言って飛鳥に荷物を持たせて、その場から避難させたこころ達だった。
飛鳥「ど、どうして…」
千聖「日菜ちゃんをエスコートして頂戴」
飛鳥「え?」
千聖「和哉さんには許可を取ったわ。ほどほりが冷めるまでよろしくね」
飛鳥「!!?」
千聖の行動力に飛鳥は心の底から驚いていた。
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その頃、虹島では…。
和哉「……」
和哉は自宅にいて、リビングを歩いていた。すると弟の友人である大空未来と遭遇した。遊びに来たのである。
未来「和哉さん。どなたからの電話だったんですか?」
和哉「白鷺千聖という女だ」
未来「えっ!!? 白鷺千聖ってあの女優さん!!?」
和哉の言葉に未来が驚いた。
和哉「ああ。協力者だ」
未来「協力者ってまさか…」
和哉「ああ。オレたちの正体を知っている」
未来「えーっ!!!?」
驚く未来をよそに和哉は不敵な笑みを浮かべた。
和哉「中々のたらしぶりだったぜ。あいつが無茶をしないように、時折Pastel*Palettesと一緒に仕事させてくれと来た」
未来「えぇぇ…」
おしまい