…この話をバンドリでやったらどうなるか、やってみたかったのです。
ある日の事だった。
「ありがとー!! 飛鳥くん!!」
「いえいえ…」
飛鳥はある日の休日、買い物をしに商店街に来ていて、はぐみの実家が経営する『北沢精肉店』に肉を買いに来ていたのだった。
はぐみ「かのちゃん先輩がバイトしてるハンバーガーショップは沢山お客さんが来るんだけど、うちはお客さんが少ないの。コロッケとかもあるのに…」
飛鳥「まあ…。コロッケはコンビニでも買えますし、精肉は料理しないといけませんからね」
精々、精肉を買ってどこかに捨てるなんてそんな罰当たりな事をしない事を願う飛鳥であった。
飛鳥「それでは私は失礼しますね」
はぐみ「うん! また学校でねー」
と、飛鳥ははぐみに別れを告げてその場を去っていった。
しばらく歩くと、公園にたどり着いたがそこで落ち込んでいる男性を見かけた。
飛鳥「…あれ!?」
飛鳥が男性に気づいたとたん、公園の中に近づいて話しかけた。
飛鳥「もしかして五郷さんですか?」
五郷「え?」
五郷と呼ばれる中年男性が顔を上げて飛鳥を見ると、驚いた顔をしていた。
五郷「も、もしかして一丈字くんかい!?」
飛鳥「ええ。お久しぶりです…」
五郷が話しかけると、飛鳥が苦笑いした。
五郷「いや~! なんて日だ! まさか君にまた会えるなんて!! 本当に大きくなったねぇ~!!」
飛鳥「いえいえ。。五郷さんもお変わりないようで…」
五郷「林グループの若奥様は元気にしてるかい?」
飛鳥「ええ。今は第一線を離れて、専業主婦をしてますが…」
飛鳥が苦笑いすると、
飛鳥「それはそうと、こんな所でどうされたんですか? うなだれたりなんかして…」
五郷「……」
飛鳥がそう聞くと、五郷がまたしょんぼりした。
飛鳥「…その、もし差支えがなければ、お話しいただけませんか?」
五郷「そうだね…」
と、五郷は悩んでいたことを飛鳥に話した。
飛鳥「…トンカツ大魔王?」
五郷「ああ。私は若い頃、この辺に住んでいてね。トンカツ大魔王のご主人と奥様にとても良くしていただいたんだ。あの時はお金もなく、食べるものに困っていた私に、よくトンカツを食べさせてくれていた」
五郷は懐かしそうに昔の事を思い出した。
「ハァ…ハァ…くそう…!!」
作業着を着た若き日の五郷はボロボロになりながら街を歩いていた。今日は給料日だったが、帰宅途中にガラの悪い男数人に絡まれ、殴られただけでなく給料袋を取られてしまったのだ。
「も、もうだめだ…」
五郷は体中が痛くて耐えられず、その場に座り込んだ。
「おいおい、どうしたんだい?」
と、一人の中年が話しかけてきた。この中年男性こそが五郷の恩人である橋中であった。
トンカツ大魔王
「そりゃあ気の毒なこった。最近若い奴らが数人がかりで給料日の労働者を狙った事件が多いんだよ」
「……」
五郷は席に座ってうなだれていた。
橋中「まあ、こんな時はこのトンカツ大魔王のトンカツ定食を食べれば、元気になるってもんよ!」
五郷「い、いやお金は…」
橋中「いいさいいさ。そんな不幸な目に遭ってんだ。そんな目に遭わされたら是非いい事をしてあげたくなっちゃうぜ!」
橋中妻「遠慮せずに食べてね」
と、橋中の妻がにこやかに話しかける。五郷はずっと遠慮していたが、トンカツの誘惑に勝てず、つい食べてしまった。
五郷「美味い…!!」
橋中「そうだろうそうだろう!!」
五郷の言葉に橋中が笑い飛ばすと、五郷の目から大量の涙がふれ出た。
五郷「とても美味い…!! こんなとんかつ、今まで食べた事ない…!!」
と、顔をくしゃくしゃにしながら食べていた。
橋中「泣くほど美味いか!! じゃあこれからはうちに食べに来い! 流石に只にするのは無理だが、出世払いにしといてやらあ!!」
五郷「え?」
橋中妻「いいのよ。どうせお客さんも来なくて暇だから」
橋中「おい! 余計な事言うんじゃねぇよ!!」
と、橋中は憤慨したが、店内は温かい雰囲気に包まれた。
********
五郷「…大企業の社長になり、時間も出来たから是非お礼を言いにここに来たのだが、店は潰れていたんだ」
飛鳥「そうだったんですか…」
五郷の言葉に飛鳥が困った顔をした。
五郷「まあ。あれは20年以上も昔の話だ。店がなくなっても仕方がない。だけど、ちゃんとお礼が言えなかった事と、あのとんかつをもう食べられない事が心残りだ」
と、五郷が寂しそうにつぶやくと、飛鳥は言葉を続けた。
飛鳥「そのご主人と奥様の名前は何て言うんですか?」
五郷「ご主人の方は橋中一郎と言っていたよ。それはもうとても気さくな方だった。今頃何をしているんだろうねぇ」
飛鳥「……」
すると五郷が飛鳥の持っている袋を見た。
五郷「ところでその荷物は」
飛鳥「あ、今日の晩飯です! 丁度トンカツにしようと思ってまして…」
五郷「君も料理するのかね?」
飛鳥「ええ。やらないと腕もなまってしまうので…」
五郷「そうか。邪魔したね」
飛鳥「あ、折角ですから連絡先交換しませんか?」
五郷「え?」
飛鳥「……」
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飛鳥「…ちょっとリーダーに相談してみるか」
五郷と別れた後、飛鳥は放っておけなかったのか、トンカツ大魔王の主人を探してみる事にした。
「あら、飛鳥じゃない!」
と、こころとはぐみがやってきた。
飛鳥「あれ? 北沢さん」
はぐみ「あ! もう店番は終わったんだよ!」
飛鳥「そうなんですか…」
こころ「それはそうと、どうかしたの?」
飛鳥「えーと、これから帰る所ですね」
飛鳥が苦笑いした。
こころ「飛鳥…。何かあたしに隠し事してない?」
飛鳥「隠し事って言ったら大げさだけど、家に帰ったらちょっと人を探さないといけないんです」
こころ「人探し?」
飛鳥は事情を説明した。
こころ「まっかせて! あたし達も探してあげるわ!」
飛鳥「いやー。流石に弦巻財団の力を使うのは申し訳ないですよ」
こころ「けど、日向達には頼るんでしょ?」
飛鳥「それはまあ」
こころ「だったらあたし達も同じように頼っていいのよ!? それに、そのおじいさんとおばあさんが見つかったら、社長さんもきっと笑顔になるわ!」
飛鳥「あー…そうですね…」
きっと、涙が止まらなくなるだろうな…と飛鳥は思っていた。
飛鳥「それじゃ、お願いしていいですか?」
こころ「任せて!!」
と、こころをはじめとする弦巻財団に捜索をお願いした。
飛鳥(五郷さん…1週間は日本に滞在するって言ってたから、それまでに何とかなればいいんだけど…)
はぐみ「ねー。はぐみも何かお手伝いすることなーい?」
と、はぐみが飛鳥に聞くと、飛鳥ははぐみの顔を見てあることを思いついた。
飛鳥「橋中さん達が見つかったら、お願いしたいことがあるから待っててください」
はぐみ「え?」
そして翌日。
こころ「見つかったわ!!」
飛鳥「早っ!!!」
こころとはぐみが3組の教室に現れて、飛鳥に話しかけると、飛鳥はあまりの速さに突っ込みを入れた。
飛鳥「それでどこにいたんですか?」
こころ「えっとね…」
飛鳥がこころから場所を聞いた。するとはぐみは飛鳥の方を見る。
こころ「ねえ飛鳥くん!」
飛鳥「ん?」
こころ「おじーさんとおばーさんが見つかったら、はぐみにお願いしたいことがあるって言ってたよね!?」
飛鳥「ええ。北沢さんのお店で一番高い豚肉と脂身を売ってほしいんです」
「!!?」
飛鳥の言葉に皆が驚いた。
こころ「どうするつもりなの?」
飛鳥「老人ホームにいるとはいえ、動けるほど元気なら、まだ作れる筈です。とんかつを」
「!!」
飛鳥「五郷さんを呼んでもう一度作ってもらうんです。20数年前に食べたとされる、トンカツ大魔王のトンカツ定食を!」
つづく