全バンド一貫! バンドリ学園! エンドレス   作:ダシマ

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第123話「トンカツ慕情(後編)」

 そして休日…。

 

飛鳥「すみません…わざわざお越しいただいて…」

 高級車に飛鳥、こころ、はぐみ、五郷の4人が座っていた。

 

五郷「いいんだ。本当に感謝してるよ。ここまでやってくれるなんて…」

飛鳥「まあ、何か寂しそうだったので、つい…」

 飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「老人ホーム側にはこちらの弦巻が手配してくれました」

五郷「まさか弦巻財団のお嬢様ともお知り合いだったとは」

こころ「もうすぐで会えるわよ!」

飛鳥「敬語」

 飛鳥が突っ込んだ。

 

飛鳥「…五郷さんの名前を出したら、承諾してくれましたよ」

五郷「そうか。実を言うとあの町を出て数年は連絡を取っていたんだが、色々忙しくなって連絡が取れなかったんだ」

飛鳥「そうなんですか…」

 すると五郷が飛鳥が持っているケースを見た。

五郷「ところで…。何を持ってきたんだい?」

飛鳥「着いてからのお楽しみです」

 

 飛鳥は不敵な笑みを浮かべた。

 

 そして老人ホームにたどり着いた。

 

五郷「ここが…」

飛鳥「……」

 すると責任者がやってきた。

 

「お待ちしておりました。こちらです」

 と、飛鳥達は橋中夫妻の元へ通された。2人は待合室の中で待機していて、五郷の姿を見たときに、目を大きく開け、五郷もまた橋中夫妻の姿を見た途端に目を大きく開け、

 

 20数年前の思い出がよみがえり、大粒の涙を流した。

 

橋中「五郷くん…」

五郷「親父さん…おかみさん…」

 五郷はそのまま橋中夫妻に近づき、橋中と固い握手をした。飛鳥、こころ、はぐみはそれを温かく見守っていた。

 

***********

 

橋中「いやあ、とても嬉しいねぇ。こうやってまた会えるなんて…」

五郷「それも全部、この子たちのお陰ですよ」

橋中「そうかい。本当にありがとう」

飛鳥「あ、いえ…」

 飛鳥が苦笑いし、はぐみが照れた。

 

橋中妻「大富豪になって日本に帰ってくるなんて、本当によく頑張ったわね」

五郷「いえ、何度かくじけそうになった時、親父さんやおかみさん、そしてトンカツ大魔王のトンカツ定食を思い出したんです」

橋中「そうかい! そりゃ嬉しいねぇ」

 と、橋中は昔と変わらず笑い飛ばしていた。

 

五郷「…けど、どうして老人ホームなんかに」

橋中「ああ…それなんだがね」

 と、橋中たちが落ち込んだ。

 

橋中「五郷くんが海外に行った後、信用してた同業者に店の権利書を取られちまったんだよ。それでやる気をすっかり失くしちまったっていうのは言い訳だ。で、身寄りもいねぇもんだから、せめて老後はゆっくり老人ホームでもと思ったんだ。もし権利書を取られてなかったら、もうちょっとやれたんだがねぇ…」

 橋中がそう言うと、皆が困った顔をした。

 

こころ「それならお店をまたやればいいわ!」

橋中「え?」

飛鳥「ごめんなさい。ちょっと語弊がございます」

 こころの発言に対して、飛鳥がストップをかけた。

 

飛鳥「もし橋中さんが良ければですけど、その20年前に五郷さんが食べたというトンカツ大魔王のトンカツ定食、もう一度だけ五郷さんに振舞って貰えませんか?」

橋中「え?」

 飛鳥の発言にも混乱する橋中。

 

五郷「しかし材料は…」

飛鳥「材料ならあります」

 飛鳥が所持していたケースに、豚肉と脂身を取り出した。

 

飛鳥「鹿児島の種子島で養育された黒豚と脂身があります。橋中さん。あなたがお店を始めなかったのは、お店の権利書を取られただけでなく、質の良い豚肉が手に入らなくなかったからだと、お伺いしております」

橋中「よく手に入ったねぇ!!」

飛鳥「えっと…。こちらの北沢のご実家が精肉店でして、無理を言って譲って頂きました…」

はぐみ「ううん! うちのとーちゃんが事情を話したら、泣きながら是非持っていけって!」

飛鳥「…サツマイモをたっぷり食べさせた黒豚ですので、とても質の良いものです。お願いできませんか?」

橋中「まさかここまでやってくれるとは…。五郷くん。こんな素敵な子供達にも恵まれたんだねぇ」

五郷「ええ。本当に彼らには感謝しきれないです」

 

 五郷の言葉に飛鳥とはぐみは照れた。はぐみは顔を真っ赤にして照れたが、飛鳥は苦笑いして照れていた。

 

こころ「それはそうと飛鳥。どうして脂身が必要なの?」

飛鳥「調理してもらったら分かりますよ。お願いできますか?」

橋中「ここまでやってくれたんだ。久々に作ろうじゃないか! トンカツ大魔王のトンカツ定食を!!」

 

 こうして、トンカツづくりが始まった。

 

 老人ホーム・厨房

 

橋中「美味いトンカツを作るにはラードが大事なんだよ!」

五郷「ラード?」

飛鳥「……」

 

橋中「鍋に水を入れて沸騰させたら脂身を入れるんだ。油がどんどんたまってくるだろう。これがラードだ!」

 と、橋中が皆に鍋を見せた。

橋中「また、水を入れたのは最初に入れた脂身をこげつかせない為だよ。油が増えると水が蒸発して最後にはラードだけが残るんだ」

はぐみ「とってもいいにおーい」

 はぐみがそう言うと、橋中はお玉でラードを掬い、豚肉にかけた。そして豚肉を小麦粉とパン粉の順番で丁寧につけていき、鍋に投入すると、音を立てて揚げられていった。

 

橋中「いいラードだと揚がり方も綺麗なんだ。表面もカラリと仕上がって、変な油だと表面がジトジト仕上がって味が落ちるんだよ」

 

 するとはぐみが飛鳥を見た。

はぐみ「そういえば飛鳥くんもうちにお肉買いに来た時、脂身も買ってたけど、ラードも作ってたの?」

飛鳥「ええ、その方が美味しく仕上がるって、昔読んだ本に書いてあったんです」

橋中「それにしても、君良く知ってるねぇ。若いのに驚いたよ!」

飛鳥「いえいえ…」

 褒められてる飛鳥を見て、五郷は笑みを浮かべた。

 

 そして橋中はキャベツの千切りと、トンカツのカットを終えて、ご飯とみそ汁も用意した。

 

橋中「さあ! トンカツ大魔王特製トンカツ定食だ!」

五郷「……!!」

 

 夢にまで見た思い出のトンカツ定食に五郷は心を躍らせた。

 

はぐみ「いいなー」

こころ「まあまあ」

 はぐみが羨ましがっていたが、こころが諫めた。

 

五郷「頂きます」

 と、五郷がトンカツを口にして咀嚼した。それを皆で見守っていると、五郷は目を閉じて静かに涙を流した。

 

五郷「ああ…これだよ。これが私が夢にまで見た思い出のトンカツ定食だ」

飛鳥「……」

橋中「はっはっはっは!! そうかいそうかい!! オレの腕は衰えてなかったという事だ! 今日からでも現役復帰しちゃおうかな!」

橋中妻「まあ、あなたったら」

 と、橋中の妻も嬉しそうだった。そう、トンカツを揚げたりキャベツを切っている夫の姿はとても輝いていたからだった。

 

五郷「…そうですか。それを聞いて安心しましたよ」

橋中「え?」

五郷「これからなんですが、どうするおつもりですか?」

橋中「どうするって…」

五郷「この老人ホームにずっといるんですか?」

橋中「あ、ああ…。そのつもりだけど…」

五郷「それでしたら、見ていただきたいものがあります」

 

 と、食べ終わった後皆は老人ホームの外に出て、となりの建物の前に移動した。看板が設置されていたが、何故かそこだけベールで隠されていた。

 

はぐみ「なーに? あの建物」

橋中「そういえば最近何故か作られたんだ…」

五郷「ベールを外してくれ」

「はい!」

 

 と、五郷の命令で作業員がベールを外すと、

 

はぐみ「わあ!!」

 はぐみが反応した。看板にはこう書いてあった。

 

『トンカツ大魔王』

 

橋中「……!!」

 橋中夫妻は驚きを隠せなかった。

 

五郷「…事前にお話は全部伺いました。遅くなってしまいましたが、僕からのプレゼントです」

橋中「!!」

 五郷の言葉に橋中夫妻は涙を流した。

 

五郷「またいつかここに来ます。豚肉だってこちらで良いものを調べておきます。だからまた作ってほしいんです。トンカツ大魔王のトンカツ定食を」

橋中「五郷くん…!」

橋中妻「ありがとう…。ここまでしてくれて…」

五郷「いいえ」

 五郷が首を横に振った。

 

五郷「今の僕がいるのはあなた方と、トンカツ大魔王のトンカツ定食があったからです。本当にありがとうございました」

 と、五郷が頭を下げると橋中夫妻もまた涙を流した。

 

飛鳥「……」

 飛鳥はそれを静かに見守り、こころとはぐみは貰い泣きしていた。すると五郷は顔を上げて飛鳥達の方を見た。

 

五郷「君達もありがとう。橋中さん達に会えたのは君達のお陰だ」

飛鳥「そんな事はございませんよ。五郷さんが諦めなかったからです」

こころ「そうよ! 橋中さん達に会って笑顔になりたいっていう気持ちが、神様に届いたのよ!」

はぐみ「良かったねぇ…良かったねぇ…」

 飛鳥が横目でこころとはぐみの様子を見ると、五郷達を見つめた。

 

飛鳥「さて、我々はここで失礼します」

五郷「え?」

飛鳥「名残惜しいのですが、私達ちょっと用事がございまして、戻らないといけないんですよ」

 と、飛鳥が苦笑いした。

 

飛鳥「まだお時間はたくさんあると思いますので、どうか昔話に花を咲かせてください」

 

****************

 

 後日。

 

飛鳥「大盛況だね。トンカツ大魔王」

こころ「そうね! お客さんがいっぱい来て、皆笑顔だわ!!」

 

 と、飛鳥とこころがカフェテリアで話をしていた。

 

飛鳥「まあ、そりゃいいんだけどさ。もうちょっと敬語使ったらどう?」

こころ「どうして?」

飛鳥「うーん…。マナーって所かな。目上の人にタメ口で話すのあまり好まれないからさ。笑顔にならないよ」

こころ「うーん…笑顔にならないんじゃ、治すしかないわね」

 

 飛鳥の言葉にこころは難しい顔をした。

 

「あっ、飛鳥くーん!!」

 

 と、はぐみがやってきた。

 

飛鳥「北沢さん」

こころ「はぐみ!」

はぐみ「あ、こころんもいたんだ! あのねあのね! 飛鳥くんと五郷社長のお陰で、うちのお店大繁盛したんだ! テレビで紹介もしてくれたの!」

飛鳥「そうなんですか」

こころ「凄いじゃない!!」

 

 そう、飛鳥は五郷に北沢精肉店から豚肉と脂身を譲ってもらったと話し、トンカツ大魔王で使用する肉も、北沢精肉店から仕入れる事にしたのだ。そして五郷がトンカツ大魔王と北沢精肉店を紹介したため、一気に大繁盛したという。

 

飛鳥「まあ、何はともあれ大団円ですね」

こころ「そうね」

はぐみ「あ、それでね!」

飛鳥「?」

 飛鳥は嫌な予感がした。

 

はぐみ「飛鳥くんトンカツ作れるんでしょ?」

飛鳥「アルバイトのご案内でしょうか?」

はぐみ「ううん。ただはぐみが飛鳥くんの料理食べてみたいなーって思っただけ」

飛鳥「私如きの料理を?」

こころ「いいわねそれ!! 飛鳥、作って頂戴!」

飛鳥「いつですか?」

こころ「そうねー。今日にしましょう」

はぐみ「それがいいかも! 早く食べたーい!!」

飛鳥(今日何の予定もないんだよな…)

 

 と、飛鳥はこころとはぐみの為に、トンカツを作る事になりましたとさ。

 

 

飛鳥「まあいいか」

こころ・はぐみ「わーい!!!」

 

 

おしまい

 

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