それはある夏の日の事だった。
飛鳥「暑いなぁ…」
飛鳥は一人で道を歩いていた。夏休みで学校もなかった。長期休暇中は一応、任務の対象外となっていたが、飛鳥は東京に残っていた。
飛鳥(ま、定期券とかも持ってるからいつでも広島に帰れるんだけどね…)
と、その時だった。
「おーい!! 飛鳥くーん!!」
飛鳥「?」
誰かに声をかけられて後ろを振り返ると、そこにはRoseliaの今井リサがいた。
飛鳥「今井先輩!」
リサ「こんにちはー☆」
飛鳥「こ、こんにちは…」
リサ「こんな所で何してるの?」
飛鳥「買い物です…」
リサ「買い物? もしかして夕ご飯?」
飛鳥「…そんな所ですね」
飛鳥が視線を逸らしながら答えた。
リサ「え、飛鳥くんって料理するの?」
飛鳥「ええ。それなりにしますよ。今は夏休みなので、特に」
リサ「へ~。知らなかった。そういえばおうちの人は?」
飛鳥「一人暮らしなんですよ」
リサ「あ、前にそんな事言ってたね」
飛鳥「ええ」
飛鳥が苦笑いした。
リサ「あ、そうだ飛鳥くん。もし良かったら、飛鳥くんの家を見せて貰いたいんだけど…ダメかな?」
飛鳥「家の中はごめんなさい」
リサ「どうして? もしかしてエッチな本とかが…」
飛鳥「18歳未満なので、そういうのはないんですが、私としても今井先輩としても、都合が悪いんですね」
リサ「あたし?」
飛鳥「Roseliaのイメージが…」
リサ「あー…成程ね」
リサが納得して苦笑いした。
飛鳥「エントランスなら良いんですけど」
リサ「エントランス?」
飛鳥「結構いろんなのがあるんですよ」
リサ「ふーん…。じゃあ、それでもいいわ」
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と、飛鳥がリサを自分のマンションへ連れて行ったが…。
リサ「あ、飛鳥くんちって結構お金持ち…?」
飛鳥「小学校の頃からの友達のお爺さんがオーナーをしてて、家賃光熱費なしで住まわせて貰ってるんですよ」
リサ「そ、そうなんだ…」
飛鳥「食費とかは流石に自腹ですけどね。で、あっちはキッチンルームです」
リサ「キッチンルーム?」
飛鳥がリサをキッチンルームに案内した。
飛鳥「ここで自由に調理とかが出来るんですね」
リサ「な、何で…?」
飛鳥「大勢のお客さんが来たときにホームパーティーをする為だって言ってましたね。殆んど使われてませんが」
リサ「へ、へえ…」
飛鳥「ちなみに警備員さんやコンシェルジュさん、このキッチンルームもセキュリティがしっかりしてるので、何かあっても大丈夫です」
リサ「す、すごいね…」
飛鳥「結構いいマンションなんですよね…」
と、飛鳥とリサが話をしていた。
リサ「けど、どうして飛鳥くんはこっちに来ようって思ったの?」
飛鳥「え?」
リサ「確か広島から来たって…」
飛鳥「そうですね…」
飛鳥が苦笑いした。
飛鳥「親の仕事の都合なんですよ」
リサ「そ、そうだったんだ。でも親御さんってあまり家にいないんじゃ…」
飛鳥「そうなんですよねー。こっちに転校してきたはいいんですけど、二人とも県外で仕事しなきゃいけなくなっちゃって、私だけこっちに残る事になっちゃったんですよ。まあ、二人ともそれぞれの職場で必要とされてるみたいだから仕方ないんですけどね」
と、飛鳥はあたかも事実のように言っているが、実際はこころの家からの依頼で、広島から急遽東京にやってきて、家もここを紹介して貰ったのだ。ちなみに飛鳥の両親は母親は広島県警で、父親は海外で働いている。必要とされている事はされているが、やめようと思えばやめることも出来るのだ。
リサ「……」
飛鳥の横顔を見てリサはある事を想いだした。それは、夏休み前にクラスメイトや同級生の男子が飛鳥の悪口を言っていた事だった。飛鳥の何が気に入らないのか、リサには理解が出来なかった。
リサ「…ねえ、飛鳥くん」
飛鳥「……」
飛鳥はリサが何が言いたいかを察し、何も言わずにリサを見た。
リサ「その…学校、楽しい?」
飛鳥「楽しいですよ。ちょっとばかしにぎやかですけど」
リサ「……」
リサが悲しそうな顔をすると、飛鳥が苦笑いして俯いた。
飛鳥「…まあ、小さい頃は大嫌いだったんですけどね。同級生は意地悪だったし、先生は信用できなかったし」
リサ「!」
飛鳥「でも今は違う。今でも人に嫌われてるけど、もう一人じゃないって分かったから」
飛鳥がリサを見つめた。
飛鳥「あなたや弦巻さん、色んな人が気にかけてくれる。もうそれだけで十分です」
リサ「飛鳥くん…」
飛鳥「まあ、人を部屋に入れたくないって言うのは、そういう事があったからなんですね。あまり昔の事を知られたくなかったからなんですよ」
リサ「ご、ごめんね! 変な事聞いて…」
飛鳥「いえ、いいんですよ。私が勝手に喋ったことですから。寧ろスッキリしました。ありがとうございます」
リサ「!」
飛鳥「Roseliaの活動もそうですが、今後のご健勝をお祈りしています」
リサ「……」
****************
リサ「お邪魔しました」
飛鳥「ええ」
飛鳥とリサがマンションを出て、リサが帰ろうとしていた。
リサ「飛鳥くん」
飛鳥「?」
リサが困った顔をしながら飛鳥を見つめる。
リサ「その…何かあったらいつでも話してね!」
飛鳥「……!!」
リサの言葉に飛鳥が苦笑いした。
飛鳥「はい」
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飛鳥「…っていう事があったんだ」
「マジかよお前…」
飛鳥「一時はどうなるかと思ったよ。バレる事も覚悟してた」
その夜、飛鳥は中学時代からの親友・奈良川京と電話で話していた。
飛鳥「それよりもちゃんと宿題してるか?」
京「してるよ。椿がうるせぇんだ…」
飛鳥「ガミガミ言われる前にさっさとやっちまいな」
京「そういえばお前、こっちに帰ってこねーのか?」
飛鳥「来週帰る予定」
京「えっ…」
飛鳥「…見て欲しいのか?」
京「で、出来れば…」
京の声色に飛鳥は一息ついた。
飛鳥「仕方ねーな。自分で宿題を片付けようとする姿勢に免じてみてやるぜ」
京「サンキュー!!」
飛鳥「だけど都合が悪くなったら、その時は自分で何とかしな」
京「わ、分かってるよ!」
と、飛鳥がある事を考えた。
飛鳥「京」
「何だよ」
飛鳥「さっきの話だけど、先輩に昔の事を話したらさ。本当に幸せだったんだなって」
京「えっ…」
飛鳥は静かに目を閉じた。
飛鳥「中学3年間。お前や日向、椿がいてくれて良かった。本当にありがとう。感謝してる」
京「……!!」
飛鳥「じゃあな。あんまり夜更かしするなよ」
そう言って飛鳥は電話を切った。
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リサ「……」
同じ頃、リサは床に就いていたが飛鳥の事が忘れられずにいた。
『あなたや弦巻さん、色んな人が気にかけてくれる。もうそれだけで十分です』
飛鳥の言葉がずっと頭から離れなかった。
リサ(あの子…あたしが知らない所でずっと苦しんだり、戦ってたんだね…)
今度飛鳥に遭ったら何をしてあげられるだろう。リサはずっと考えていた。
おしまい