Pastel*Palletesの事務所。
「……」
千聖は一人考え込んでいた。というのも、先日起きた火災で、龍狐のお面を被った男が尋常じゃない速さで炎の中に駆け込み、市民を救い出した映像の事でどうしても気になっていた事があった。
千聖(…考えすぎかもしれないけど、どうしてもそうとしか思えないのよね)
龍狐のお面を被っている男の正体は飛鳥ではないかと思い始めていた。
千聖(花音や燐子ちゃんと話してた事もあったけど…、前々からあの子、色々引っかかる所があるのよね)
千聖がそう考えていると…。
「…ちゃん。千聖ちゃん!」
千聖「!」
誰かに声をかけられて千聖が正面を向くと、そこには彩、日菜、麻弥、イヴの4人がいた。
千聖「あ、あなた達…」
日菜「珍しいね。千聖ちゃんが彩ちゃんに呼ばれても反応しないなんて」
彩「それどういう意味なの…?」
日菜の言葉に彩が困惑した。
千聖「も、もしかしてレッスンの時間かしら?」
日菜「レッスンは明日でしょ」
千聖「あ、そ、そうだったわね…」
らしくないケアレスミスに彩達も心配した。
彩「どうしたの千聖ちゃん。千聖ちゃんらしくないよ?」
日菜「きっと疲れてるんだよ。ずっと撮影あったし」
千聖「そ、そうなのよ…」
彩達に言わないのは、恐らく考えすぎだと言われるからだった。千聖は誤魔化すように苦笑いした。
麻弥「でも千聖さん。その事でちょっと残念と言っていいのかどうか分からないお話が…」
千聖「どうしたの?」
彩「えっとね。今度5人全員での映画の出演が決まったんだよ!」
千聖「あら、そうなの? 凄いじゃない!」
彩の言葉に千聖がテンションを上げた。
千聖「それだったら、頑張らないとね」
彩「う、うん…」
**************
そしてPastel*Palletesが5人で映画出演することがバンドリ学園中に広まり…。
「おい、今度パスパレが映画デビューするらしいぞ!」
「マジかよ!」
「オレ絶対見に行く!」
「しょっちゅう行く!!」
当然ファンの男子生徒達は大盛り上がりだった。
「千聖ちゃん。映画、見に行くからね」
「ありがとう」
千聖も教室でクラスメイト達から沢山声をかけられた。
千聖(映画も決まってるもの。いつまでも気にしてる場合じゃないわ)
そう自分に言い聞かせ、頭の中に浮かんでいた龍狐の男(飛鳥)を消していった。
*************
そして撮影が始まった。撮影の舞台は京都で行われ、古き日本の文化に触れる事が出来るとイヴは大喜びだった。他のメンバーも東京以外で仕事する事は滅多になかった為、それなりにテンションが上がっていたが…。
「おせーよ! 撮影始めるのにどれだけ時間かかってんの?」
と、悪態をつく男がいた。この男は脛梶理太郎。パスパレが出演する映画の主演俳優だった。父親がこの映画のスポンサーのお偉いさんで、正直顔しか取り柄がないバカ息子だった。スタッフも正直相手をするのも嫌だったが、父親がスポンサーのお偉いさんだった為、何も言えなかった。
理太郎「何だよその面。不満があるんだったらこの映画、ぽしゃらせたっていいんだぜ? お前らの仕事がなくなっても、オレは痛くもかゆくもないからな。ハハハハハ!」
完全にやりたい放題だった。気に入らないスタッフには暴力、暴言、しまいにはクビ。可愛い女子スタッフにはセクハラ三昧。正直一緒に仕事したくない気持ちが強かったが、上も全く頼りにならない。
(こんな仕事ばっかり押し付けやがってあの年寄り共が…!!)
(あんな年寄りがいるから、真面目に働いている高齢者の方々が迷惑してるんだ!!)
(死ねとは言わないけど、子供や孫に嫌われないかな~~~~)
(ネギ焼き食べたい)
他の共演者たちも理太郎の横暴さに辟易していたが、仕事はきっちりこなすことにした。パスパレもまた、他の出演者と同じように撮影をこなそうと頑張ったが…。
「カット!」
彩がミスをしてしまった。
彩「す、すみません!」
「ハァ…」
相手をしていた理太郎がわざと皆にも聞こえるくらいの大きさでため息をついた。こういう事をすると、嫌われるのはため息をついた方なのでやめましょう。
彩「あ、えっと…」
「あのさぁ」
「!」
理太郎が彩に悪態をついた。
「オレ、お前が嫌いなんだよね」
「!!?」
場の空気を下げる発言をした事で、皆が驚いた。
理太郎「才能もねーのに芸能界に居座る奴が一番嫌いなんだよ。ぶっちゃけパスパレのお荷物なんだよ」
「なっ!!」
「……」
理太郎の言葉にイヴと麻弥が表情を曇らせると、千聖が青筋を立てた。
理太郎「とっとと脱退して芸能人も引退しろよ。お前みたいな素人がいていい世界じゃねぇんだよ」
彩「……!」
理太郎の言葉に彩は凄く傷ついて俯く。
千聖「ちょっとあなた!!」
「あ? 何お前」
千聖が止めようとしたが、理太郎が悪態をついた。
理太郎「子役時代ちょーっと売れたからって、オレに意見なんかしてんじゃねぇよ。エアバンドでファンを騙そうとしてた詐欺師がよ」
理太郎の言葉に千聖はショックを受けた。
イヴ「酷いです!」
麻弥「そんな事言わなくても…」
理太郎「あ? 誰に対してそんな口利いてんだよ。オレの手にかかればお前らを簡単に潰すことだって簡単なんだよ」
イヴと麻弥も割って入るが、理太郎が悪態をついた。
日菜「簡単なの?」
理太郎「ああ簡単さ。お前らの事務所に仕事を回させないようにするのだってな」
日菜「ふーん…」
理太郎の言葉に日菜はあまり興味なさそうにしていたが、理太郎のマウントは止まらなかった。
理太郎「まあいいさ。精々この撮影で現実を見るんだな。どんなに努力しようが、敵わないものは敵わないし、権力がある奴が勝つんだよ!!」
そう悪態をついていたその時だった。
「あの~~~~」
理太郎「ああ!!?」
赤いニット帽をかぶって黒い丸サングラスをかけていて、とっても間抜けな声をした男が口を挟むと、理太郎が青筋を立てて怒鳴った。
「申し訳ないんですが、出てってもらえないでしょうか?」
その男はずっと監督の隣にいた助監督らしき男だった。とても頼りになりそうにない。それを聞いた理太郎が悪態をついた。
理太郎「ふん。オレは注意をしただけだが、助監督がそういうなら仕方ないな。オラ、さっさと出てけよ! パスパレのお荷物が!」
彩「……」
彩は失意のうちに現場を去ろうとしたが、
「あー。丸山さんじゃありませんよ」
彩「え…?」
彩が助監督を見つめる。
「あなたは必要ですから。この映画にも、Pastel*Palletesにも」
彩「……!」
助監督が優しく微笑むと、彩が目を大きく開けた。そして助監督は理太郎を見た。
「出ていくのはあなたですよ。脛梶さん」
理太郎「!!?」
助監督の言葉に皆が驚いた。
つづく