自分で言うのもアレですが。そうとうにぶっ飛んでると思います。
放課後になって、咲耶を初めとする面々は教室で駄弁っていた。
「割と本気でさ、このままだと一夏はオルコットさんに全く善戦出来ずに負けそうだよね」
「反論したいけど…事実だから何も言えない……」
咲耶は時々、正論を言う。
「箒が転校してから、剣道も止めちゃってるしね~」
「そうなのか?」
「まぁ…な。近所には他の剣道場も無かったし、剣道の道具って滅茶苦茶、高額だったしな。千冬姉に我儘言う訳にもいかなかったし」
箒の実家は嘗て剣道場を開いていて、一夏や千冬もそこの門下生だった。
因みに、当時の咲耶は見ているだけで剣道はしていなかった。
その後、篠ノ之家が引っ越していってから流れで剣道をしなくなり、その状態が今まで続いていた。
「確かにその通りだが、ならば他に走り込みなどをするとかしなかったのか?」
「し…してない……」
少しでも姉の負担を軽くすために、中学から自分でも出来る手伝いという名のバイトをしたり、後は同級生たちと遊んでいたりするので、自己鍛錬の類は全くしてない。
「もしかして今の一夏って、相当に筋力が落ちてる?」
「まさか。流石にそれは無いだろ。確かに、あれから運動らしい運動はしてないけど、俺だって成長してるんだ。ンな事は無いだろ」
「じゃあ、確かめてみる?」
「確かめるって…どうやって?」
「腕相撲」
「「腕相撲?」」
一夏と箒を向い合せにしてから、肘をついた状態で手を組ませる。
「試しに箒と勝負してなよ。剣道全国王者に筋力で勝てたら、少しは希望があるかもしれない」
「ほほぅ…? 面白い。一夏、本気で来い!」
「いいぜ……遠慮しないからな!」
「レディ……GO!」
遂に始まった、一夏VS箒の腕相撲対決! ……だが、一夏の腕は振るえるばかりでビクともしていなかった。
「……おい、一夏。ちゃんと力を入れてるのか?」
「い…入れてる……! ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」
いちかはいっしょうけんめいにちからをいれている!
…けど、まったくこうかはないようだ。
「…そろそろいいか?」
「うん。思う存分にどうぞ」
「分かった。ふん!!」
「あいたっ!?」
勝負は一瞬だった。
一夏の腕はあっという間に机に付いた。
「ま…負けた……?」
「一夏……これは流石に酷いぞ……」
勝った筈なのにも関わらず、箒の方が本気でドン引きしていた。
まさか、ここまでとは思っていなかったのだ。
「こ…こんな筈じゃ……! 今度は咲耶と勝負だ!」
「え? 私?」
「おう! 咲耶になら多分勝てる気がする!」
「言ったなぁ~? 負っけないぞ~!」
自分が舐められている事にご立腹なのか、咲耶は可愛らしく頬を膨らませながら一夏の手を掴んで戦闘態勢になる。
「よし。ならば、今度は私が審判をしよう。ではいくぞ。レディ……ゴ……」
「ふんっ!!!!!」
ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!
一撃必殺。
圧勝なんて言葉すら生温い。
誰が見ても明らかな勝敗だった。
咲耶の力は一夏を完全に凌駕し、腕を叩きつけた衝撃で机が罅割れて、負けた一夏は白目を向いて気絶していた。
「調子にのるなよ…クソ虫がぁぁ……!」
「さ…咲耶! 気持ちは分かるが、もう少しだけ手加減をしてやれ!」
数秒後、すぐに復活した一夏だったが、真っ赤に腫れた自分の手を見てかなり落ち込んでいた。
「くっそ~…マジかよ~……」
「咲耶ちゃんは無駄な筋肉とかはつけないの! しなやかで美しい肉体作りを常に心がけてるんだから!」
織斑一夏。現在の戦績0勝2敗。
別に彼は弱い方ではないのだが、単純に挑んだ相手が悪かった。
「先程から何をしているのですか?」
「オルコットさん」
ここで、来週の対戦相手であるセシリアが登場。
どうやら、遠目に咲耶たちがしていることが気になっていたようだ。
「今度の試合に備えて、今の一夏がどれだけの腕力があるか試してたんだよ。腕相撲でさ」
「腕相撲…アーム・レスリングですわね」
なにやらセシリアが指の骨をポキポキと鳴らしている。
その時点で、一夏は猛烈に嫌な予感がした。
「よかったら、オルコットさんもやっていく?」
「あら。よろしいんですの?」
「勿論」
「対戦相手である俺の許可はっ!?」
ありません。
だが、ここで逃げたら男としての立つ瀬がない。
そんな訳で、エキシビジョンマッチとして一足先に腕相撲で対戦する事になった一夏とセシリアだったが……。
「ギャ―――――――――――っ!! 痛たたたたたたたたたたたたっ!! 痛いです! 俺の負けでいいですから! もう許してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「そこまで力を入れてないんですけど……」
一夏。立つ瀬が無くなった。
「冷静に考えれば、代表候補生として体を鍛えている以上、見た目の優雅さに騙されちゃいけないよね」
「言われてみればその通りだっ!?」
今までずっと鍛えてきた代表候補生の淑女と、碌に運動をしてこなかった一般人とでは、男女という事を差し引いても勝敗は明らかだった。
「ま…まだだ……!」
「お?」
「まだだ! まだ終わらんよ! 単純な力だけじゃ俺の全てじゃない!」
「なんか、一夏がいきなりクワトロ・バジーナとキラ・ヤマトみたいな事を言いだしたけど」
「一体何がしたいんだ?」
このままでは色んな意味で試合をする前に大ピンチなので、ここで一夏は自分が唯一、なんとかなりそうなことを言い出した。
「止めたのはずっと前だけど、きっと体が覚えている筈だ! ってことで、今度は剣道で勝負だ咲耶!」
「別にいいよ~。学園内には剣道場もあったしね~」
「私も一緒に行こう。オルコットはどうする?」
「私は今から用事があるので遠慮しますわ。テニス部へ入部届を出しに行かないといけませんので。では、失礼しますわ」
優美な挨拶をしてから、セシリアは静かに教室を後にした。
そんな彼女の去る姿を見ながら、三人は全く同じことを考えていた。
(((オルコット(さん)がテニス部とか…似合いすぎだろ……)))
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
やって来ました剣道場。
主に使うのは剣道部なのだが、今回は特別に使わせて貰った。
「まぁ…想像はしてたがな」
「デスヨネー……」
道場に到着してから、まずは昔の勘を少しでも取り戻す為に、一夏は箒(超手加減モード)と手合せしてみる事に。
だが、結果はこの通り。さも当たり前のように箒に二度目の完敗を喫した。
「現役の全国王者に勝てる道理は…ないわなぁ……」
「それは俺も思ってたけど…もうちょい頑張れると思ってた……」
「いや…余りにも隙だらけだったので、思わず面をしてしまった。すまんな」
「遂には勝者に謝られると。一夏きゅんや、今の心境は?」
「めっちゃ情けないです……楽観的に考えてた昨日までの自分に全力の右ストレートをぶちかましてやりたいです……」
流石の一夏も、今の自分が相当に深刻な状況にある事に、ようやく気が付いてくれたようだ。
「にしても、咲耶の剣道着姿って始めて見るよな」
「おっと。悔しさの余り、話題を逸らし始めましたよ~? ま、咲耶ちゃんは世界の咲耶ちゃんですし? 何を着ても似合っちゃうっていうか? 衣服の方も私に着せられて嬉しがってるっていうか?」
(((((なんで、ここまで自分を尊大に言えるんだろう……)))))
周囲のギャラリーである剣道部の部員たちも半ば呆れる。
これが単なる自惚れならば、彼女達も色々と言うかもしれないが、咲耶の場合は本当に物凄く似合っているので質が悪い。
「咲耶の剣道着姿か……新しいコレクションが増えたな」
箒も箒で、いつの間にか自分のスマホを持って来て咲耶の剣道着姿を写真に収めていた。
彼女のスマホの中には、一体何枚の咲耶コレクションがあるのだろうか。
「さて、今度は私とやろうよ。武道経験者ではあるけど、剣道は授業とかでしかやった事無いからね。これに負けたらマジで洒落にならないよ?」
「分かってるよ。今度は気を引き締めて掛かるさ」
防具をつけ、一夏VS咲耶の試合が始まる…!
そして、試合が開始してから十数秒が経過した。
「よし! 私の勝利!」
「なんだよそれ……」
一夏は床に倒れ、咲耶の手には何故かゲッタートマホーク(真ゲッター版)が握られていた。
「「「「何がどうしてそうなった――――――――――――――っ!?」」」」
見ていた者達も、一体何がどうしたのか本気で理解が追いつかない。
いつの間に、竹刀がトマホークに変わっていたのだろうか。
「多分、お昼に食べたとんかつ定食についてた納豆を食べた後に、アルカリイオン水を飲んだから私の体がアルカリ性になって、宇宙から飛来したゲッター線を呼び寄せてしまって、その結果として持っていた竹刀がゲッタートマホークに超進化しちゃったんだね」
「「「「ンなわけあるか―――――――――――――――――っ!!!」」」」
一応、この言葉を載せておこう。
【大変に危険ですので、よい子は絶対に真似をしないでね!】
「くそ……これは納得いかねぇ…!」
「そうだね。剣道でトマホークを使うのは流石に反則だよね」
「いいや! 咲耶の場合は特別に許可する!!」
「ルールが甘すぎるッ!!」
「じゃあ、今度から使おうか」
「「「「絶対にダメ――――――――――――――――――っ!!!」」」」
皆さんも、ちゃんとルールは守りましょう。
「もう一回勝負する? 今度はトマホークは使わないから」
「当たり前だ! 今度こそ絶対に勝つ!」
「いいねぇ…その気迫! なら、こっちも飛世家に伝わる7つの奥義の一つを使う時が来たのかもしれないね!」
「奥義…だってっ!? 咲耶の家にそんな物があったのかよッ!?」
一夏が立ち上がって竹刀を握り直し、再び咲耶と対峙する。
今度も審判は箒が務める。
「いくぞ…! 飛世家…奥義……!」
「な…何が来る…! 突きか…払いか…それとも……!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ……!」
最大限にまで丹田に気を溜めて、咲耶は裂帛の気合と共に技を放つ!!
「ゲッタービ――――――――――――――――――――――――ムッ!!!」
「「「「またゲッターかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」」」」
咲耶の腹からピンク色のビームが放たれてから一夏に直撃。
そのまま彼は床に崩れ落ちた。
「一本! それまでっ!」
「「「「ちょっと待て―――――――――――――っ!!!」」」」
まさかの一本扱い。
剣道勝負なのにビームとはこれいかに。
「ビームは絶対に技じゃないからっ!?」
「剣道で飛び道具使うとか反則以前の話でしょうがッ!?」
「いや…ちょっと待って」
ここでツッコみ役の部員達がハッと気が付く。
「「「「そもそも人間はビームなんて出さないからっ!!!!」」」」
「咲耶と一緒にいると常識のハードルを忘れがちになりますよね」
箒が冷静に言うが、それを言ったら元も子もない。
ギャグに常識は通用しない。
「飛世家の人間の恐ろしさ…思い知ったか!」
「飛世家の人達は皆、ビームを出すのかよ……」
「出せるよ」
「言い切ったぁっ!?」
「お父さんは目から光子力ビームを出せるし、お母さんは口から冷凍ビームを出せるよ?」
「いや…お前のお母さんは飛世の家とは直接的な血の繋がりは無いだろ……」
「結婚したら出せるようになったって言ってた」
「結婚スゲェなッ!?」
愛の力、恐るべし。
「私も咲耶と結婚したらビームが出せるようになるんだろうか……」
「いや、お前もいきなり何言ってんの?」
数年振りに再会した幼馴染がキャラ崩壊しまくっていた件。
もう誰にも、彼女の暴走は止められない。
「因みに、父方のお婆ちゃんはオーロラビームを出せるし、お爺ちゃんに至ってはソーラービームを撃てるんだよ?」
「どうなってるんだよ、お前の家系はっ?」
「うちのお爺ちゃんさ、数年前から頭が薄くなり始めたんだけど、その代わりに天気がいい日はソーラービームを連射出来るようになったんだよね。なんでだろ?」
「それは明らかに頭から太陽光を吸収してるっ! めっちゃパワーに変えてる!」
お爺ちゃんはまだまだ元気。
若い者には負けはしない。
「大丈夫。一夏も鍛えれば、いつの日か必ずビームが撃てるようになるさ。人間、頑張れば大抵の事はなんとかなるもんだから」
「別に俺はビームを撃ちたくて剣道してるんじゃないんだけど……」
始めて見る咲耶と一夏のやり取りに、着いていけなくなる剣道部の皆さん。
可能な限り早めに慣れる事をお勧めしよう。
これからは、学園内でにて似たような事が日常茶飯事になるのだから。
「ついでだし、これを機に一夏と箒は剣道部に入ったら?」
「そうだな。どのみち、私は剣道部に入る気満々だったし…一夏はどうする?」
「俺も入るよ…っと。咲耶の滅茶苦茶具合を別にしても、自分の鈍り具合が深刻だってのは本気で理解した。マジで自分を苛め抜かないと、これから先、絶対に後悔しそうだ」
「「「「え……?」」」」
嘘でしょ? 本気で入る気?
剣道部員達は我が耳を疑った。
「咲耶はどうする気だ?」
「私はまだ保留~。もうちょっと考えてから決めようかにゃ~」
「「「「ほっ……」」」」
咲耶の一言に少し安心。
彼女まで来たら、確実に剣道部がカオスな空間になる。
それだけは絶対に避けなくてはいけない。
そして、咲耶が入るであろう部の人間達にはご愁傷さまと言っておこう。
「取り敢えず、このゲッタートマホークで素振りでもする?」
「「「「「結構です!!!」」」」」
余談だが、このゲッタートマホークは学園内の格納庫に収納され、非常にピーキーな武器として噂になっていったという。
なんか、久々に私の中のゲッター熱が再燃したので、ネタに走ってしまいました。
けど、後悔は全く無い!!