そして、やっと一夏の初陣。
休憩と専用機の補給&応急処置を終えたセシリアは、次の試合の為にステージへと出ていた。
一体、一夏はどんな機体に乗ってくるのだろうか。
そう思いながら精神を集中させていると、彼は誰もが全く想像もしていない形でやって来た。
「俺は永遠の二番手じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「はい?」
全く持って意味不明な叫びと共に現れた一夏は、真っ白なISを身に纏っていた。
普通ならば一夏の奇声の方を気にするだろうが、セシリアだけは全く違った。
(発進をしてきた時のあの速度……中々に侮れませんわね。恐らくは高機動特化型……)
セシリアだけは、代表候補生らしく冷静沈着に相手の機体についての考察を行っていた。
幾ら相手が初心者だからといって、セシリアが油断をすることは決してない。
ましてや、ついさっき同じ初心者の咲耶が自分に勝利をするという大金星を挙げているのだ。
故に、この試合におけるセシリア・オルコットの精神的動揺によるミスは絶対に無いと断言出来るだろう。
「俺は…俺は負けられねぇ……世界中で頑張っている弟たちの代表として!」
「…本気で何を言ってるんですの?」
目の前で対峙しているセシリアもそうだが、この光景を観客席から見ている生徒達も目をぱちくりとさせながら困惑している。
一体、あのピットの中で何が起こったのだろうかと。
鼻息が荒い一夏を余所に、試合開始のブザーが鳴った。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 弟の力を思い知りやがれぇぇぇぇぇっ!! ルイージ! 俺に力を貸してくれぇぇぇぇぇぇっっ!!」
無意識の内に装備をしていた近接ブレード『雪片弐型』を両手で握りしめ、全力で突撃してくる。
その速度は驚異的で、並の量産機など歯牙にもかけないだろう。
だが、相手は代表候補生のセシリア。
どれだけ動きが早くても、素人の動きが見切れない筈がない。
(予想通り、凄まじいスピードですわね。けど、余りにも動きが直線的過ぎる。まるで、猪突猛進を絵に描いたかのよう。同じ初心者相手ならばいざ知らず、このセシリア・オルコットには、そのような動きなんて……)
大きく振り被った一夏の斬撃を、セシリアは少し体を横にずらすだけで簡単に避けてみせた。
「へ?」
「通用しませんことよ」
突撃した勢いのまま一夏はブレーキを掛けられずに進み、誰の目にも分るほどに大きな隙を晒してしまった。
完全無防備な背後を見せられ、何の行動も起こさないセシリアではなかった。
「そして、隙だらけですわよ。そこ!」
「ぐあぁっ!?」
振り返る事すら出来ずに、セシリアの撃ったライフルのレーザーが背部に直撃。
SEを大きく削られると同時に、派手によろけてしまった。
「追撃いきますわよ! ティアーズ!」
「げぇっ!? それはさっきのっ!?」
咲耶との試合でも猛威を振るった四基のビットが射出され、四方からレーザーを撃ちまくる。
混乱している上に体勢も崩している一夏に、それらを避ける事など出来る筈も無かった。
「ちょ…待てって! 地味に削れるから! ダメージ蓄積してるから!」
必死に体を捻ったり、腕や足を動かして避けようとするが、最初の体勢の時点で回避行動が非常に困難になっているので、成すがままにビットの攻撃を受け続けている。
「こ…こうなったら…!」
「あら?」
ダメージを与えられ過ぎて自棄になったのか、一夏はレーザー攻撃を体に浴びながらも再びの突撃を敢行してきた。
けれど、またもや真正面から馬鹿正直に突っ込んでくる。
「死なば諸共っ! どうせ負けるのなら、せめて一矢報いるぐらいは!」
「はぁ……」
その精神は称賛に値するが、それならそれで少しは工夫をして欲しかった。
溜息を吐きながら、セシリアは背部に設置してある唯一の実弾兵器をセットする。
「ミサイルビット」
「嘘ぉっ!?」
車は急に止まれない。
素人の乗る、速度を上げたISもまた急には止まれない。
文字通り、二基のミサイルと正面衝突をした一夏は、大きな爆発音を出しながら目をグルグルさせて地面へと落下していった。
流石にちょっと心配になったセシリアは、一夏の後を追って降下していくことに。
すると、黒焦げになりながらも雪片弐型を杖代わりにして、全身をプルプルさせながら立ち上がり、その目には未だに闘志が漲っていた。
「だ…大丈夫ですの?」
「へへ…これぐらい…なんともないぜ…!」
「そうには見えないんですけど……」
明らかに無理をしている。
それでも強がるのは、男としてのプライド故か。
「けど…オルコットさんの猛攻のお蔭で目が覚めたぜ……あんがとよ……」
「そこでお礼を言われても、素直に喜べませんわ」
「かもな…へへ……」
もう今にも倒れそう。
というか、本心を言えば倒れて楽になりたい。
けど、自分から倒れるのだけは嫌だった。
「オルコットさん…頼みがあるんだけど…いいか…?」
「なんですの?」
「君の手で…トドメを刺してくれないか?」
「はぁ…仕方ありませんわね」
セシリアも一夏の気持ちが分からない訳ではない。
なので、彼女は持っていたライフルの銃身部分を持ち、それを鈍器のようにして一夏の頭を軽く叩いた。
「えい」
「ぐは……」
バタン…と倒れてから、白式のSEは無くなった。
結局、一夏が我を忘れていたせいで一撃必殺の『切り札』を使う暇も無く試合は終わってしまった。
『しょ…勝者! セシリア・オルコット!』
「……何とも言えませんわね」
む~…と顔を歪め目を細めながら、セシリアは上空を見上げるのだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「やっぱり負けたな~」
「予想通りだな」
「ですね」
色んな意味でボロボロになりながら、一夏はピットへと戻ってきた。
が、その目だけは全く腐ってはいなかった。
「なんとでも言えよ……」
「お? めげてない感じ?」
「当たり前だ。なんたって、俺の本命は咲耶なんだからな」
自分でもニヒルだと思っている笑顔を見せつけるが、咲耶の反応は全く違ったものだった。
「ほ…箒! なんか私、一夏から告白されたんですけどッ!?」
「一夏…貴様ぁぁぁぁぁっ!! 咲耶は私のものだと言っているだろうが!!」
「例え弟でも…私の咲耶を取る事は絶対に許さん…!」
「そんな意味じゃねぇよ! 言葉が足りなかった俺も悪いけど、状況的にも分かるだろッ!? 咲耶との試合の方こそが一番大事って意味だよ!」
「「「なぁ~んだ」」」
「お前らなぁ~…!」
なんかセシリアに対して失礼な事を言ってしまったような気がするが、仮に本人がここにいても大して気にはしていなかっただろう。
何故なら、セシリアからしても、本命は咲耶との試合だったのだから。
彼女にとって、一夏のと試合は完全な消化試合だったのだ。
「そんじゃ、私は向こうのピットに行ってくるね~」
手を振りながら、咲耶はセシリアがいるピットへと小走りで去って行った。
十分に休息が出来たのか、それとも体力が有り余っているのか、疲れなんて全く感じさせない動きで目の前を通り過ぎていく。
「次の試合は今から20分後だ。時間も押しているからな。さっさとやるぞ」
「は~い……」
ISを解除し、ベンチに座りながら目を瞑る一夏であった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
最後の試合。
ヴァルシオーネを纏った咲耶は、白式を纏った一夏と対峙する。
「十分に休憩は出来た~?」
「お蔭様でな」
二人は既に互いの手に剣を握っている。
最初からやる気満々なのは誰の目にも分った。
「勝たせて貰うぜ」
「出来るんならね」
「自信満々じゃねぇか」
「それはお互い様」
試合開始まであと十秒。
咲耶と一夏は全く同じ構えになって静止する。
さっきまでとは、また違った緊張感がアリーナを包み込む。
「ゴクリ……」
観客席の誰かが唾を飲む。
その瞬間、最後の試合の開始を告げるブザーが鳴った。
「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」」
二人は真正面から突貫し、あっという間に距離が近づく。
お互いの持つ剣がぶつかり合い、激しい火花を散らす…と誰もが思っていた。
そう、咲耶の手からディバイン・ブレードが消え、その顔が愉悦の笑みに包まれる瞬間までは。
「えっ!?」
「にょっほっほ~♡ この最強美少女の咲耶ちゃんが、二度も同じ戦法を使うと思ったら大間違いなのだわさ」
思い切り攻撃をスカった一夏は、またもや体勢を崩してしまう。
だが、流石に今度は学習したのか、必死になって体勢を元に戻した。
そこまでは良かったが、肝心の咲耶の姿がどこにも見当たらない。
「ど…どこに行ったッ!?」
ハイパーセンサーがある事も忘れて辺りを見渡す一夏だったが、後ろから感じた悪寒に反応して咄嗟に体ごと振り向く。
が、其処には誰もいない。
「こーこーだーよー♡」
「はっ!?」
怪しい声と共に体が背後からガッチリとロックされる。
ここで初めて、一夏は咲耶がずっと自分の後ろにいた事に気付かされた。
「一夏きゅんは知ってるよね~? 可愛い可愛い咲耶ちゃんが…格ゲーでは投げ技主体のキャラを愛用している事を」
「ま…まさか…お前……!」
「世界一の美少女に抱き着かれたことを幸せに感じながら、潔く負けやがれ!!」
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
掴まれたまま全身を空中でグルグルと回転させられて、平衡感覚を一気に狂わせられる。
一夏の体が僅かに弛緩し始めた所で、地面へと向かって全力で投げ飛ばす!
「必殺! 大車輪投げ!!」
「ルイージィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!!!!」
なんとも悲しい断末魔を叫びながら、一夏は頭から地面に落下。
ISを装備しているから命に別状はないが、それでも受けたダメージは凄まじい。
落下地点を中心に土煙が巻き起こるが、すぐに排煙機能で放出される。
煙が晴れてから見えてきたのは、上半身丸々が地面に突き刺さった状態で気絶をしている一夏の姿だった。
「まさかの犬神家。ISの全力投擲って、ここまでの威力があるんだ~…」
まだまだ白式のSEは残っているが、肝心の一夏が完全に気絶している為、戦闘不能とみなされた。
『しょ…勝者……飛世咲耶…?』
試合終了を告げるアナウンスが流れるが、歓声の類は全く聞こえてこない。
他の生徒達は全員、ポカーンとした顔で呆けていた。
「可愛いは正義! 正義は勝つ! つまり、私は勝つ! 運命と書いてデスティニー!」
大きく両腕を上げてのダブルピース。
それでもアリーナはシーン…と静まり返っている。
こうして、クラス代表決定戦は微妙な空気のまま終わりを告げたのだった。
やっと試合終了。
次回は一夏を精神的にフルボッコ?