そして今回、後付け設定と言う名の咲耶の過去がまた一つ明らかに。
ついでに、ちょっとだけ咲耶の本性も見せます。
三時間目が始まり、先程までと同様に千冬と真耶が並んで教室へと入ってくるが、今回は真耶が端の方へと移動し、その代わりに千冬が教壇へと立った。
「では咲耶。号令を頼めるか?」
「え? オレちゃん? にゃんで?」
「お前の号令が聞きたいからだ」
「……それはちょっとズルくないですかね」
少しだけ頬を赤くして、渋々ながらも咲耶は号令をかける事に。
「起立」
その一声で皆が一斉に立って……。
「着席」
全員が座る。
「礼!!」
ゴンッ!!!
咲耶含めた約数名の生徒以外の全員が、自分の机に向かってのヘッドアタック。
「なんか順番が違くねっ!?」
おでこにたんこぶを作りながら、一夏が全員の心の声を代弁してくれた。
因みに、まだ彼の頭などには箒がぶっ刺した旗が付いたままだ。
「うむ。見事な号令だった。流石は咲耶だな」
「どうも」
「なんで何も言わねぇのッ!?」
「というか、織斑。なんだその頭は」
「元からこうだよ」
一夏のツッコミも効果が無く、それどころか旗の事を言われてしまった。
その後、流石にアレなのでちゃんと旗は抜いて鞄の中に仕舞っておいた。
「では改めて。三時間目は実戦で使用する各種武装や、その特性などについての授業をする予定だ」
「織斑先生。その前に、まずは『クラス代表』を決めてはいかがですか? SHRでは時間が無くて、まだ決まってませんでしたから」
「山田先生の言う通りだな。こういうのは早めに決めておいた方がいいだろう。後々に回すと、そのままの流れで決まってしまう可能性もあるからな」
余り聞き慣れない単語を耳にし、生徒たち全員が心の中で小首を傾げる。
そこで、咲耶が皆を代表して千冬に尋ねた。
「織斑先生。その『クラス代表』ってのは、所謂『クラス委員』や『学級委員』的なやつですか?」
「その通りだ。文字通りクラスの代表である存在だが、IS学園の場合は少し毛色が変わってくる。いい機会だから、軽く説明をしておくか」
授業とは関係が無いが、それでも重要な話っぽいので、全員がちゃんと聞こうと姿勢を正す。
「クラス代表のする事と言えば、まずは生徒会が定期的に開催している定例会議や委員会会議への出席だ。後は、私や山田先生の所まで来て様々な事の報告や連絡。それから、少し先に開催される『クラス対抗戦』に出場する選手として選抜される」
これまた聞いたことない単語が飛び出す。
実はIS学園のパンフレットに名前だけは記載されているのだが、それだけで他には何も書かれていない。
なので、生徒達はいきなり言われてもちんぷんかんぷんなのだ。
「今言った『クラス対抗戦』とは、現時点における各クラスの実力の推移を図る、ちょっとした大会のようなものだ。一年生は大した違いは無いかもしれないが、二年や三年ともなると話が違ってくるからな。こういった競争心は同時に向上心も育んでくれる。中学時代に運動系の部活に入っていた者ならば理解出来るんじゃないか?」
それを聞き、十数名の生徒達が納得したように何度も頷く。
「それと、クラス代表は一度でも決まったら一年間は余程の事が無い限りは変更しないので、そのつもりでいるように」
ある意味で当たり前の事だった。
そう簡単に代表がコロコロと変わっては、代表の意味が無い。
「ということで、誰かいないか? 自薦、他薦。どっちでも構わないぞ」
自薦も他薦も問わない。
それは即ち、誰かを推薦してもよいということ。
その瞬間、咲耶の目がキュピーン! と光って、猫の口になって、頭には猫耳が生え、お尻から猫の尻尾が生える。
これは完全に、咲耶が碌な事を考えていない証拠だ。
「あのぉ~…わたしからいいですかぁ~?」
一人称を『わたし』に変えた上、超が付くほどの猫撫で声。
これまでの経験上、一夏は猛烈に嫌な予感がした。
「咲耶~…クラス代表には一夏きゅんがいいと思いまぁ~す♡ きゅぴんっ♡」
上目遣いからのウィンク、更にはにっこり笑顔で小さく舌を出す。
咲耶にとって、今出せる最強のコンボだった。
ブボッ!!!!!
一撃だった。
何がとは敢えて問うまいが、とにかく一撃だった。
千冬の鼻から突然、まるでジェット噴射のような勢いで鼻血が噴き出す。
事実、ちょっとだけ彼女の体は浮いた。
「よし。では、クラス代表は織斑一夏で決定と言う事で」
「「「「「ちょっと待て――――――――――――――――っ!!!!」」」」」
話し合いも何も無く、まさかの即時決定。
これには流石の生徒達も待ったを掛けざるを得ない。
「俺の意志は完全無視かよッ!? 箒! お前もなんか言ってやれよ!!」
「咲耶……暫く見ない間に可愛くなり過ぎだ……♡」
「お前もかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
千冬と同様に、箒もまた鼻血出して悶絶していた。
なんだか、咲耶に関わる人間には碌な奴がいない気がする。
「せめて当人の意見ぐらいは聞いてくれよなっ!?」
「仕方があるまい……なんだ?」
「俺はクラス代表なんてやりたくねぇ! 唯でさえ勉強しなくちゃいけない事が沢山あるのに、ンな事をしてたらマジで落第しちまう!」
「そうか。だが却下だ」
「なんでっ!? これ以上無い程に真面な意見だったと思うんだけどっ!?」
「だって、咲耶がお前がいいって言ったから」
「まさかの咲耶の意見全押しっ!?」
咲耶の事になると、途端にポンコツになる我が姉。
もうダメなのか……一夏が諦めかけた、その時! 意外な救世主が現れた!
「ちょっと待ってくださいまし!」
「え?」
いきなり聞こえてきた声に振り向くと、そこには立ち上がっているセシリアの姿が!
ついさっきまで一夏の事なんてアウト・オブ・眼中だった彼女が、まさかの助け舟を出してくれた事に、一夏は前に金曜ロードショーであった『火垂るの墓』を見た時と同じぐらいに感動していた。
「咲耶さん! どうして彼をクラス代表に推薦したのか、納得のいく意見を聞かせて下さいまし!」
「え? いい機会だし、一夏に特大級の嫌がらせでもしてやろうと思って」
「お前最悪だなっ!? っていうか、いい加減にその顔止めれ!!」
超ドストレートな事を平然と言ってのけた咲耶。
クラスメイト達に普通にドン引きされたのは言うまでもない。
「では、仕方がありませんわね」
「うそぉっ!?」
救世主、即座に裏切る。
「ですが、このまま決まっては面白みに欠けますわ。なので、私も立候補させて頂きます」
「オルコットは自薦か。まぁ…いいだろう。チッ…!」
「この教師、思いっきり皆の前で舌打ちしたよ」
千冬が咲耶の事になると周りが見えなくなるのは知ってはいたが、まさかここまで暴走するとは思っていなかった。
休みの日に実家に帰っても、この調子でない事を切に願いたい。
「こ…こうなったら……! 俺は咲耶を推薦する!!」
「お? オレ? 別にいいよ?」
「そうだろう、そうだろう。俺の気持ちを少しでも味わってって…あれぇ~っ!?」
これで形勢逆転と思いきや、咲耶自身は全く怯んでいない。
それどころか、普通に受け入れていた。
「だってオレ、中学の時に空手部の部長やってたし。集団を纏めるのは割と得意だぞ?」
「そうだった……!」
迂闊だった。
自分とは違い、咲耶には実はリーダーとしての才能が有ったのをすっかり忘れていた。
お茶らけて破天荒な性格ながらも、その見た目の可愛らしさと、意外と頼れる所で後輩達や先生達からも厚い信頼を勝ち得ていたのだ。
「飛世さん。空手とかやってたんだ……」
「まぁね。オレ、自分の細くて小さい体がコンプレックスでさ、それをどうにかしたいと思って一念発起して、中学に入ると同時に空手部に入ったんだ」
はい。ここから咲耶の過去語りが始まりますよ~。
適当に聞き流してOKですからね~。
「そういや、咲耶ってかなりストイックだったよな。早朝からランニングとかして、部活は一度も休んでなかったし。暇な時を見つけてはトレーニングジムにも通ってたっけ」
「「「「おぉ~…」」」」」
意外な人物の意外な過去。
さっきまでのドン引きを払拭する程の関心を獲得した。
「そうなんだよな……あの時のオレは本当に頑張ってたと思う。そりゃもう必死に。マジで、今までの短い人生の中でめっちゃ努力したんじゃないかな。けど…けど……」
急に暗い顔になり、目尻に涙を貯める。
それが零れて机の上の落ちた。
「何の成果も!! 得られませんでした!!!」
「「「「「えぇ――――――――――――――――――っ!!?」」」」」
「確かに、昔に比べれば物凄く強くはなったよッ!? 腕力も握力も脚力も見違えるレベルになったし、試合でも連戦戦勝だった! けど!! 一番肝心なオレの体は全く変化しなかった!! どれだけ筋力が付いても、なんでか腕も足も体も全く大きくならず、背だって伸びなかった!! ねぇ…どうしてっ!? どうしてオレの体は全く成長しなかったのッ!? ねぇっ!?」
それは魂の叫び。
過去にスポーツをやっていた事は純粋に凄いが、その動機が微妙だった。
生徒達は、その事にどう反応すればいいのか本気で困っていた。
「うぅ…オレも一夏みたいに、身長170センチオーバーになりたかった……」
「お前…未だに中一の頃から身長伸びてないもんな……」
「今までに得た栄養はどこに消えたんだ……」
その美貌じゃね?
この時、全員の心が一つになった。
「なんて可哀想なんだ咲耶……!」
「変わってあげられるなら変わってやりたい……」
「まさか…咲耶さんに、そんな悲しい過去があっただなんて……」
千冬、箒、セシリアの三人は何故か号泣。
一体、今の話のどこに泣く要素があったのか、小一時間ほど問い詰めたい。
「しかし、三人が立候補されたとなると、これは……」
「普通ならば決選投票でしょうけど……」
ここで、さっきまで空気になりかけていた山田先生の登場。
流石に、この空気には耐えられなかったのか、先程までのやり取りを無かった事にしようとしている。
「一つ…よろしいでしょうか」
「またオルコットか。今度はなんだ?」
不敵な笑みを浮かべながら挙手をするセシリア。
それを見て、一夏の『猛烈に嫌な予感がするセンサー』がさっきから警報を鳴らしまくっている。
「ここはIS学園。ならば、それらしくISの試合で決着をつけるのが宜しいかと」
「「「「おぉー!」」」」
年頃の女子高生たちにとって、なんとも面白そうな提案。
なにより、現役の代表候補生の試合を見れる機会なんて滅多に無いので、彼女達にとってこれはまたとないチャンスでもあった。
「じょ…冗談だろッ!? まだ碌に乗った事も無いのに試合だなんてっ!?」
「御心配なく。学園には専用のシミュレーターもあると伺っております。それを使えば少しはどうにかなるのではなくて?」
「け…けど……」
「別にいいんじゃない?」
「咲耶っ!?」
自分と同じ素人である筈の咲耶は、教科書をパラパラと捲りながらあっけらかんと答える。
全く動揺も困惑もしていない様子に、一夏の方が戸惑っていた。
「皆よりも少し早くISに乗れるんだろ? しかも合法的に。それって凄くラッキーじゃん。勝つにしろ負けるにしろ、非常に貴重な体験である事には違いないんだし、これはやらない方が損だと思うけど?」
「す…凄く前向きなんだな咲耶……」
「いや、前向きって言うかさ……」
遠い眼をしながら窓の外を見つめ、何かを悟ったかのような顔で静かに呟いた。
「ポジティブに考えてないと…ストレスで胃に穴が開きそうなんだよね……」
「そ…そっか……」
忘れていた。
咲耶は自分とは違い、性別を偽ってここにいるのだと。
そのストレスとプレッシャーは確実に自分以上だろう。
だからこそ、それを少しでも払拭する為に、あんな風にはしゃいでいたのかもしれない。
「咲耶の言う通り、これは非常に貴重な機会だ。私としては反対するつもりはないが、お前達はどうする?」
「オレはやりますよ。伊達に空手をやってなかったって事を見せつけたいし」
「ISと空手って関係あるのか?」
何も知らない者からすれば、だからどうしたといった感じだろうが、少しでもISの事をかじっている人間からすれば、それは愚問だった。
「大いに関係ある。ISは確かに機械だが、動かすのはあくまでも人間だ。己の手足を直接動かし、それによって相手を攻撃する。その為には少しでも自分の体を鍛えておくことが重要だ。実際の試合では、多少の知識不足は身体能力で十分にカバーできることが多いからな。事実、今でも現役で活躍している国家代表選手の中には、ISの事を勉強するよりも先に自分の体を鍛えて実戦形式で色々な事を習得していった者も少なくないぐらいだ」
千冬の元国家代表としての説得力全開の重い言葉。
ようやく担任らしい一面を見せてくれて、真耶は密かにその大きな胸を撫で下ろしていた。
「それで、織斑はどうする気だ? 咲耶は試合をすることを了承したぞ」
「俺もするよ。咲耶が頑張ろうとしてるのに、俺だけ何もしない訳にはいかないだろ」
「よし。これで話は纏まった形になったな。試合は今から一週間後の放課後。場所は……」
「その日なら、第三アリーナが開いていると思います」
「だそうだ。三人共、その日に備えて準備を整えておくように。特に、咲耶と織斑は分からない事があれば何でも聞きに来い。どれだけ鍛えていても、経験では大きなハンデを背負っているのだからな」
「「はい」」
「では、改めて授業を始める事にする」
ようやく長いようで短かった話が終わった。
しかし、ここで生徒達はずっと忘れていたある事を思い出し、じっと教壇の上を見つめた。
((((あの派手に出した鼻血…拭かなくてもいいのかな……))))
はい。なんか途中で脱線とかしまくりましたが、結局は試合をすることに。
オリ主と一夏とセシリアの三すくみ。
もうISの二次創作では定番中の定番ですよね。
けど、私の場合は皆さんが期待しているような『お約束』は通用しませんからね?
もう既に、試合の時の構想はある程度は済んでいますから。