すぐにブロックしてから存在自体を脳内から消しましたけど。
正直、かなり不愉快でした。
休み時間に入り、すぐに一夏は後ろの席にいる咲耶に助けを求めてきた。
「さくえも~ん! さっきの授業が分からない所のオンパレードだったから、少しでもいいから教えてくれ~!」
「仕方がないなぁ~いち太くんは。どれ、教科書を見せてみ。どこが分からないんだ?」
「この範囲全部だ!」
「…………にゃんですと?」
開いた教科書を見せられた咲耶は、一夏の魂の叫びを聞いてアストロンに掛かってしまい鋼鉄化してしまった。
「い…一夏きゅん? わんもあぷりーず」
「だから、さっきの授業の約9割が分からなかった」
「………………」
何回聞いても結果は同じ。何にも変わらない。
激渋な緑茶を飲まされたかのような表情になり、思わず眉間を指で押さえてしまった。
「確かに…今の今までISの『あ』の字も知らなかったんだから、分からない部分が多いのは理解出来るよ?」
「いや、流石にISの『あ』ぐらいは知ってるけど」
「アンタはだーっとれぃ!」
「何故にそこでツェペリさん?」
何とも言えない顔になっていた咲耶を見るに見かねた箒がやって来て、何事かと顔を覗かせた。
「一体どうしたんだ?」
「かくかくしかじか」
「かくかくうまうま。一夏…お前な……」
「え? 今のでちゃんと通じてるの?」
通じてます。
「ちゃんと昨夜、懇切丁寧に勉強を教えてやったろ?」
「あぁ。あれにはマジで感謝だったよ。ありがとな」
「うん。感謝の言葉は良いんだけど、それならなんで分からないなんて事態になる?」
「いや、今日の範囲は昨日とは違ったし……」
「このおバカ! さっきの授業の部分は、きちんと昨日の時点で予習したでしょうが!」
「えぇっ? そうだったっけ?」
「そうだよ! ほらここ!」
「あ……本当だ」
「「このバカ……」」
一夏の目はタピオカか?
咲耶と箒は全く同じことを思いながら天井を向いた。
「はぁ……また、今日の夜は『まいっちんぐ咲耶先生。魅惑のマンツーマン勉強会』を開催しないとな」
「本気で誤解を生むような言い回しは止めれ!! 昨日の勉強のどこに魅惑要素があったんだよっ!?」
「いや。私の存在自体が魅惑的じゃん。っていうか、私ってば魅惑の塊じゃん。美の化身じゃん」
「自分の事をそこまで過大評価できる人間はお前ぐらいだよ……」
「おいおい。そんなに褒めても手加減はしてやらないぞ? 一夏が『もうらめっ♡ 限界なのぉぉっ♡』って言うまで責め続けるからな」
「んなこと絶対に言うか!!」
真面目な話が始まったかと思ったら、すぐにいつものコントが始まる。
だが、噂好きな女子高生たちが、この話を聞いて傍観を決め込むなど有り得なかった。
「今の…聞いた?」
「うん。あの二人…一体部屋でどんな『勉強』をしてるのかしら……」
「もしかして、一問解く度に飛世さんが織斑君の体を……」
「こ…これが真のリア充の同居生活なのね……!」
彼女達の中では完全に『一夏×咲耶』の構図が出来上がっているようで、部屋の中でも二人の様子を悶々と妄想していた。
その関係図に箒や千冬などが加わって、更なる様相を呈していくのは時間の問題だった。
「お前達、席に着け。次の授業を始めるぞ」
ここで担任様のご登場。
その視線はずっと咲耶に注がれているが。
「だってよ。とっとと前向いた方が良いよ。その頭に超合金Z製の出席簿が振り落とされないうちにね」
「へいへい。つーか、あれってマジンガーZの装甲と同じ材質で出来てんの?」
「じゃなきゃ、千冬さんの力に耐えられるわけないじゃん」
「なんだろう……否定したいのに納得してしまう」
それだけ姉の事をよく知っているという証拠なのだが、一夏からしたら複雑な気持ちだった。
少なくとも、もう二度とあの一撃だけは味わいたくない。
じゃないと、唯でさえ遅れている勉強が更に遅れてしまう。
「席に着いたな。では日直」
「起立!」
千冬に言われ、日直が全員を立たせる。
因みに、今日の日直は咲耶ではない為、昨日の様な痛い思いはしなくて済む。
そのまま挨拶をしてから着席。
「授業の前に、一つだけ報告しておくことがある」
入学二日目にして、いきなりの報告。
なんだろうと生徒達は少しだけ動揺した。
「織斑。学園と政府の方からデータ取得と自己防衛の為の『専用機』がお前に向けて用意される事となった」
「専用機……ってなんだ?」
「要は、一夏だけのISって事。ガンダムで言うところの『○○専用』って名前のMSみたいな物だって言えば分かりやすいか?」
「おぉ~! 成る程な!」
これで分かってしまう一夏も一夏だが、例としてガンダムを出す咲耶も咲耶だった。
だが、結果として長々と説明をする手間が省けたので、今はそれで良しとする千冬だった。
「咲耶が説明をしてくれたが、つまりはそういうことだ。本来ならば素人以下であるお前に専用機を渡すなど前代未聞なのだが、今回は状況が状況だ。故に、政府と学園上層部で入念に話し合った結果……」
「一夏の専用機が渡される事になったと。本当なら国に所属している人間か、企業に所属している人間しか持つことが許されていないのに」
千冬と咲耶の説明で、教室が一気に騒がしくなる。
それも当然の事で、一年生が、こんな時期に専用機を貰うなど普通では絶対に考えられないからだ。
彼女達がざわざわとしてしまうのも無理はない。
「では咲耶。どうして専用機が貴重なのか説明できるか?」
「当然。まず、ISのコアは世界中に467個しか存在していなくて、現状唯一ISコアを製造できる存在である束さんが全く作る気ゼロだから、余程の事が無い限りはこれ以上ISコアが増える事は有り得ない…ですよね?」
「正解だ。流石は私の嫁(候補)の咲耶だ。後でご褒美にキスしてやろう」
「キスだけですか~?」
「もっと先を望むのなら、私はいつでも大歓迎だぞ?」
「わ~い!」
そこの教師、授業中の堂々と問題発言をするのを止めろ。
生徒もお前の弟も、いつの間にか教室に入って来ていた山田先生も本気でドン引きしているぞ。約二名を除いて。
「私もいつか咲耶と最後の一線を越えて……」
「に…日本の恋愛は進んでいますのね……これは衝撃的ですわ……」
箒はともかく、セシリアは間違った日本知識を学ばないでほしい。
この二人が特殊なだけだ。
「あの~…もしかしてですけど、篠ノ之さんって篠ノ之博士と何か関係があるんですか……?」
ここで誰かが軌道修正しようとして、ずっと気になっていた疑問をぶつけてくれた。
「篠ノ之は、アイツの実の妹だ。そして、私にとって咲耶を巡る最大のライバルでもある」
((((どこからツッコめばいいんだろう……))))
普通ならば、箒に対して騒ぐところなのだろうが、千冬の一言が生徒達からその気を完全に削いでしまった。
ある意味ではファインプレイなのか。
「確かに私はあの人の妹だ。だが、それ以上に姉さんは咲耶を巡る怨敵なのだ。今度会った時には、私と咲耶のラブラブした姿を見せつけてやる……ククク……!」
「「「「うわぁ……」」」」
こいつもこいつでヤバかった。
咲耶の周りには今の所、普通の人間が一人もいなかった。
え? 一夏? ある意味では彼こそが一番の変態だろう。
「そ…そういえば、咲耶には専用機は無いんですか?」
「咲耶の機体? 私の記憶が正しければ、もう既に持っている筈だが……」
「「「「「えぇぇっ!?」」」」」
まさかの衝撃。
(名目上は)唯一の男子である一夏はともかくとして、まさか咲耶にまで専用機があるとは思わなかった。
女子達の驚きは先程以上だった。
「専用機……あぁ。あれね。確かに持ってますよ」
鞄の中をゴソゴソとして咲耶が取り出したのは、一つの木の箱。
なにやら無駄に高級感に溢れていて、しっかりと赤と青の綺麗な紐で結ばれて蓋が固定されていた。
「それがそうなのか?」
「うん。実はこれ、IS学園に入学する数日前に、いきなり私の家に届けられたんだよね。差出人不明で」
「マジかよ」
「なんでかミッフィーちゃんのポストカードが一緒に入ってたけど」
(あいつか……)
(姉さん……)
ミッフィー=ウサギ。
その構図が出来た時点で、送り主が分かってしまった千冬と箒。
親友と妹は伊達じゃない。
「んで、そのポストカードに『この箱は誰かに専用機のことを聞かれるまで絶対に開けないように』って書いてあったの」
「意味不明だな」
「私も全く同じことを呟いたよ。でも、聞かれた以上はもう開けていいんだよね?」
一応、担任である千冬に指示を求める為に視線を向けるが、当然のように彼女はそれを勘違いする。
(さ…咲耶が私に愛の視線を向けているっ!? よし! 今夜はお姉ちゃんと一緒に沢山、気持ちいい事をしような!)
ほんの少しでいいから真面目モードになってくれませんか?
これは皆からの切なる願いです。
「そ…そうだな。まずは開けない事には何も始まらないからな。よし、開封を許可する」
「りょーかいです」
恐る恐る咲耶が蓋を持って開けると、そこには少し小さめの箱が入っていた。
しかも、箱の蓋には超薄型の簡易ディスプレイが設置してあって、そこには将棋盤と将棋の駒がバラバラに配置してあった。
「箱を空けたら、中にまた箱が入っていた件。しかも、なにこれ?」
「将棋…だよな?」
「あぁ…多分これ『詰将棋』だ」
「それって確か、将棋の謎解きみたいなやつだよな?」
「うん。もしかして、これを解かないとこの箱が開かない的な?」
「なんだまたそんな面倒な事を……」
「万が一の時に備えての防犯対策じゃないの? 知らんけど」
軽く触ってみると、指に沿って駒が動く。
タッチパネル方式になっているようで、操作自体は簡単だった。
「にしても、まさか私に対して詰将棋を挑んでくるとはねぇ……いい度胸してるじゃないのさ」
「あれ? お前って将棋得意だったっけ?」
「言ってなかったっけ?」
首の骨を鳴らして、次の両手の骨をゴキゴキと鳴らす。
「こう見えても私ね、中学の時に別のクラスにいた将棋の全国大会に出場予定だった男の子に告白されて、それを思いっきり振って、その後に彼は意気消沈のまま大会に出場して見事に一回戦敗退させたっていう実績を持ってるんだよ」
「「「「一瞬だけなんか凄そうに聞こえたけど、よく聞いたら全く凄くなかった!!」」」」
またもや咲耶の過去の一部が発覚。
非常にどうでもいい過去だが。
「お…お前が告白されてたなんて知らなかったぞ……」
「それは一夏が知らないだけ。割と私、男女問わずに告白されまくってたよ? 先輩後輩関係なくね」
「その結果は?」
「全員振った。男共は一回だけデートをして、プレゼントを貢がせてから振ったけど」
「こいつ何気に酷いなっ!?」
「本命でもないのにデートに行ってあげただけでも感謝して欲しいな~っと」
とんでもない事を白状しながらも、ちゃんと指だけは動いていて、あっという間に詰将棋をクリアしていた。
「はい。これで終わりっと」
「なんだかんだ言って、やっぱり将棋得意なんじゃねぇか……」
画面が消えて、箱の隙間からプシューっという音と共に空気が漏れる。
全部出しきってから蓋に手を掛けて開けると、そこには紅い玉と蒼い球が組み込まれた純白の羽飾りがあった。
よく見ると紐が括り付けられていて、首から下げられるようになっている。
「これが…私の専用機?」
「羽…なのか?」
試しに手に取って色々と見てみるが、特にこれといった反応は無い。
いきなり起動する訳でもなく、認証コードを入力しなくてはいけない訳でもない。
「ちふ…織斑先生。これって一体……って、うぉっ!?」
「咲耶とデートだと……! 絶対に許せんぞ……!!」
「私だってまだ咲耶とデートした事無いのに……!!」
「箒もかよっ!?」
咲耶のデート云々の話を聞かされ、千冬と箒は血の涙を流しながら阿修羅の様な顔に変貌していた。
実際、二人の体からはどす黒いオーラが滲み出ていた。
「ん? あ…あぁ……それが箱の中に入っていたのか?」
「です」
ここでいきなり正気に戻る。
暴走時と通常時の切り替えのラインが本当によく分からないので、生徒達と真耶は苦笑いを浮かべながら胃がキリキリと痛くなっていく。
「恐らく、それは待機形態だ。事前に何らかの形で咲耶のデータを入力し終え、初期設定の数々を終わらせているんだろう」
「いつの間に……」
「それで、全ての設定が終わったISは持ち運びがし易いように、様々な形に変化して、自分の体に身に着けられるようになる。咲耶の場合は…首飾りか」
「みたいですね……あ。違うわ」
「え?」
よく見たら、紐が付いている部分に隙間のようなものがあり、そこを引っ張ってみるとキャップのように外れて、中からはペン先が出てきた。
「これ、ボールペンだ」
「まさかの筆記用具っ!?」
「しかも、黒だけじゃなくて赤と青も書けるみたい。本体を回したらペン先が変わった」
「何気に便利だなっ!? 学生の強い味方じゃねぇかっ!」
試しにノートの空きスペースに書いてみると、書き心地も抜群。
ボールペンとしてかなり優秀な性能だった。
「だが、そのままでは機体名も性能も不明のままだな。咲耶」
「はい?」
「その専用機だが、少しこちらに預けさせて貰えるか? 色々と調べたい事もあるし、専用機である以上は学園側に登録申請をしなくてはいけない」
「了解です。私も、これがどんな機体なのは知りたいですし。おすし」
「では、山田先生」
「分かりました」
真耶が咲耶の元まで行き、待機形態である首飾りのような形をしたボールペンを受け取る。
「チェックや登録が完了したら、すぐに返しますからね」
「は~い。のんびりと待ってま~す」
ようやく専用機の話が終わり。
これで授業が始められる…と思ったが、もう既に半分以上の時間が経過していた。
「む? もうこんな時間になっているのか。仕方あるまい。時間は無いが、進められるだけ進めておこう」
ここで変に別の事に時間を割こうとしないのは、本当に授業時間が切羽詰まっているからなのか。
今までの雰囲気から一変し、後半はちゃんと授業が進められていった。
咲耶の専用機の全貌はまだ不明です。
でも、勘の良い方ならばタグを見て気が付くかもしれません。
仮に分かったとしても内緒ですからね?