吾輩は転生者である。
名前は立花 響。
モブに厳しい上にメインキャストには更に厳しいと話題の戦姫絶唱シンフォギアの主人公の名前と同じであった。
最初は偶然だろうと思っていた。
だが、近所に小日向という名字の未来という名前の女の子と友だちになって、ノイズという特異災害が存在していた。
どうやら私はシンフォギア世界に転生したようだった。
少し泣いた。
私は立花 響だ。
このままでは敵にも味方にもボコボコにされてしまう。
さらに言えば、幼馴染の未来まで危険な目に合わせてしまう。
危険を遠ざけなければならない。具体的にはツヴァイウィングのライブ。
なのだが。
立花響がシンフォギア装者にならない世界は、果たして平和でいられるのだろうか。
単純に考えて戦力が減る。
また、初期の二課の戦力が翼さんだけなのでフィーネ相手に詰む。
フィーネがなんとかなったとして、その次にF.I.S.の面々相手にクリスちゃんを加えても二対三で戦わないといけない。
……世界の終わりである。
前門の虎後門の狼めいた状況に、私のニューロンは爆発寸前であった。
考えた。
どうにか平和を勝ち取れないかと。
考えた。
どうにか世界を存続出来ないかと。
考えた。
どうにか未来と普通に生活したいと。
考えに考えた結果。
私のニューロンは爆発した。
具体的には投げやりになった。
もうどーにでもなーれ、なんでもばっちこーい。
すきにようにいきて、すきなようにしぬ。
だれの為でもなく。
それが、俺らのやり方だったな、ファットマン。
私はイマジナリ・ファットマンにそう脳内で呟くと覚悟を決めた。
ここは、ツヴァイウィング新年ライブ会場。
そんな私、立花 響は中学一年生。
あと3ヶ月で二年生に進級出来るはずだが。
きっと無理でしょう。
だってここでノイズ大量召喚からの奏さん絶唱、そして私にガングニールin!!
そして私はシンフォギア装者となるのだ。
平和を勝ち取るのも、世界を存続させるのも、未来と普通に生活する為にも。
兎にも角にも力は居るのだ。
シンフォギアもその一つ。
ならば、私はシンフォギア装者になろう。
大いなる力には大いなる責任が伴うとはピーターの叔父さんの言葉であるが、責任を伴う事になろうとも、私には大いなる力が必要なのであった。
◆
私はシンフォギア装者となった。
正確には、聖遺物との融合症例であるが。
それでも、私は大いなる力を得たのだ。
だが。
私の胸に刺さったギアは。
その聖遺物は。
『翼!目を開けてくれ!!生きるのを諦めないでくれ!!』
アメノハバキリ。
シンフォギア装者たちを纏める頼れる先輩、風鳴翼の持つシンフォギア、その聖遺物。
それが、私の胸に刺さったもの。
あの日、ライブの日。
ノイズの大群から私を助けたのは翼さんで、その翼さんは目の前で絶唱。
ノイズ全群を薙ぎ払い、そして、死んだ。
翼さんはアメノハバキリとの適合率も高かった筈だ。
重症は負っても、死ぬ筈は無かった。
もしかしたら、この世界の翼さんは適合率が低かったのかもしれないけれど。
翼さんは死んだ。
倒れた私を守って。
防人として、私を守ったのだ。
倒れた翼さんを抱き止めた奏さんは、最期まで翼さんに声をかけ続けた。
それでも翼さんは……。
翼さんは最期に何を言ったのだろうか。
最期に何を思ったのだろうか。
「響?」
隣で未来が囁く。
「どうしたの、寒いの?」
「ん、ちょっとね」
私はそう言うと、未来を抱き寄せた。
「きゃっ」
「未来、暖かい」
「もう、響ったら」
クスクスと、二人で笑いあった。
ライブの後、原作のように、生存者への迫害が始まった。
私も、よくわからない言いがかりでクラスメイトから暴力を振るわれた。
未来は私を庇ったり、イジメの証拠を教師に提出したりしたけれど。
教師はそれを見て見ぬ振り。むしろその事をクラスに暴露して、結果未来もイジメられだした。
限界であった。
私のミライには、未来が必要だった。
幼馴染だった未来。
男の精神に女の身体を持った変わり者の私を、それでも親友と言ってくれた未来。
イジメられている私を守るために勇気を振り絞った未来。
私は形振り構わなかった。
私は、家族への謝罪文と絶縁状を書くと、リュックにお金と食べ物を詰め込んで未来の家に向かった。
深夜の事である。
「未来、逃げよう!」
窓から現れた私を見て、未来はたいそう驚いていた。
いざという時の為に身体を鍛えていた私なら、二階にある未来の部屋に外から辿り着くのは容易だった。
「逃げるって、何処に?」
未来はそう言った。
その目は赤く腫れていた。
「誰も私たちを知らない所!」
私は未来に向かって手を伸ばした。
この手を取ってくれるだろうか、なんて。
内心ドキドキしていたけれど。
でも未来はすぐに手を伸ばしてくれた。
「フィンランド」
「……え?」
「私、フィンランドに行ってみたい!オーロラを響と見たい!」
それは、中学生らしい願望だろう。
中学生が、大人に見つからず徘徊するなんて。
しかも、パスポートもなく、そして私はライブの生存者としてネットに顔を晒されている。
それでも。
私には力がある。
翼さんから受け継いだ、なんて口が裂けても言えない。
むしろ、奪った。奪ってしまったこの力が。
アメノハバキリが。
私は、本当はわかっていたんだ。
平和なんて知らないって。
世界なんてどうでも良いって。
ただ、死にたく無かった、痛い思いをしたくなかっただけだって。
でも、私にも親友が出来た。
小日向未来、この子を守るためになら、私は。
痛い思いもしよう、死ぬような辛さも味わおう。
だから、この子は。
小日向未来だけは、私が絶対守り抜くのだと。
◆
アメノハバキリは私に応えてくれた。
胸に刺さった聖遺物は私の身体を蝕み侵し、融合していった。
その様は、未来をとっても心配させたけど、でも必要な事だから、ごめんね。
私は未来と共に密入国船に乗ると、韓国に潜り込み、そこから中国、ロシアを横断してヨーロッパの数カ国を巡り、フィンランドに辿り着いた。
アメノハバキリはとても役に立った。
アメノハバキリと融合した私は骨格がアメノハバキリと同質になって頑丈になった。そして、身体のあちこちから剣を出せるようになった。……とても痛いけれど。
そんな力でその土地土地のマフィアをちぎっては投げちぎっては投げして小銭を稼ぎ、未来となんとかフィンランドに辿り着いたのであった。
「ねぇ響、オーロラ綺麗だね」
「うん、綺麗だねぇ」
そんな私たちは今、オーロラを見ている。
満天の星空を覆い隠す極光のヴェール。
とても、美しいものであった。
「ねぇ、響?」
「……なに、どうしたの?」
「ありがとう、約束守ってくれて」
未来が肩にもたれ掛かる。
私は、未来の肩を抱き抱えた。
「当たり前でしょ。私が未来との約束破る訳無いじゃん」
私たちは、モコモコのコートとモコモコの帽子、モコモコのイヤーマフを着けている。
フィンランドの雪原、そこに横たわる巨木の丸太に座り込んで、二人でオーロラを見ていた。
「もうすぐ、二年なんだね」
「日本を飛び出して?」
そうだ。
私が未来を連れて、二年。
もうすぐ、日本は四月。
……原作が始まる。
正直な話、帰りたくない。
でも。
フィーネに月を壊させる訳にはいかない。
神殺しのガングニールを持つ奏さんを、死なせる訳にはいかない。
「……ねぇ、響?」
「ん、なぁに未来?」
「私は、響の味方だから」
未来が、私の手を掴んで、握る。
優しく、しかししっかりと。
「未来はなんでもお見通しなんだね」
「当たり前でしょ、私は響の事なんでも知ってるんだから」
そう言うと、未来はクスクスと笑った。
私は未来を、思いっきり抱き締めた。
「未来」
「うん」
「日本に、帰ろう」
「……それは、必要なこと?」
「うん」
「日本には、響を虐めた人がたくさんいるのに?」
「……未来、もうすぐこの世界が滅茶苦茶になる事件が日本で起こるかもしれないんだ」
「……」
「私はそれを止めなきゃいけない」
「響じゃなきゃ、ダメなの?」
「私じゃなくても良いかもしれないけれど、最前線で戦えるのが私含めて三人いるかいないかだから」
私を抱き締める未来の手は震えていた。
「響は、この世界を守りたいの?」
「うん」
「響を虐める世界なのに?」
「うん。未来を虐めた世界だけど。でも───この世界には未来が居るから」
「響……」
「私は未来が生きるこの世界を守りたいんだ」
未来は泣いていた。
私は背中をポンポンと優しく叩いた。
「ひびきぃ……」
「よしよし」
「約束して。私を置いていかないって」
「うん、勿論。離してって言っても離さないから」
「うんっ……響、私たちずぅっと一緒だからね」
「うん、一緒だよ。未来……」
◆
こうして。
私と未来は二年ぶりに故郷の土を踏むことになった。
心底イヤだけど、未来とずっと旅をしていたかったけれど。
でも。
覚悟を決めなきゃね。
未来を守るために。
未来と一緒に、未来を生きるために。
でも、私はもっと考えるべきだったんだ。
『立花響』というイレギュラーの事を。
世界はどこで、分岐したのかという事を───。
私がはじめて読んだシンフォギア二次創作は、『チョイワルビッキーと一途な393』でした。
つまりはリスペクトな訳だナ。
ちなみに不穏な感じで終わりましたが、特にこの先の展開は考えておりません。
だってこの作品一発ネタだからね。