スナック「Fleet」   作:金糸雀かしら

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それが愛であることは分かっていた。
だって、逆の立場なら同じことするから。

人によって傷つき
人によって癒される

そのキッカケは出会いから始まります。
本日、まもなく開店致します。



第十五話 「軽空母 隼鷹」

黒一色のワンピースドレスを着て、トレードマークのツンツン頭をストレートに整え、後頭部に綺麗に収めバレッタで留める。

メッシュつきの大きな帽子を被り、寮を出てタクシー乗車場へ向かう。

運良く一台のタクシーが待機していたので、乗り込み行き先を告げる。

 

「海軍共同墓地までお願いします。」

 

墓地に着いて、目的の墓まで行き借りてきた掃除道具で墓を綺麗にする

「今月もまた来れたよ、ハニー。来月は出撃予定だから日をずらして来るな。」

 

掃除が終わり、私たちがよく飲んでた酒瓶を置き手を合わせると後ろから声がかかる

「今日は隼鷹ちゃんも来ていたのね、いつも綺麗にしてくれてありがとね」

喪服姿の50代の女性が花を持って控えていた。

 

隼鷹「おかあさま…お久しぶりです、連絡しないでごめんなさい。」

女「いいのよ、便りが無いのは良い便りって言うでしょう?隼鷹ちゃんのことなんて何でも知ってるんだから笑」

隼鷹「また年の瀬くらいには伺いますよ。沈んでなかったらですけど」

女「大丈夫、あなたは沈まないわ。息子が守ってるんだし笑」隼鷹の横に立ち手を合わせてから花を飾る。私はその姿を後ろから黙って見守る

 

女「良し!こんなとこかしらね?タクシー乗り場まで一緒に行きましょう!」

そこの喫茶店で少しとか、タクシー相乗りしようとも言わず、おかあさんはいつも丁度良い距離で接してくれる。

私はハニーと同じくらい、このおかあさんが大好きだ。今も戦っているのはひとつの約束と、この人とハニーの弟を守るためだけに動いている

 

女「そうそう、あの聞かん坊が訓練校に受かったのよ。デビューして会ったらシゴイテやってね!」

隼鷹「弟くんにはもう5年会っていないから正直いますれ違っても気付かないと思います。年の瀬もいつも居ませんし…嫌われてるのかと」

女「またまたぁ〜、分かってて言ってるわね。あの子が死ぬ前に貰ったでしょ?ラブレター♡」隼鷹の肩をたたく

隼鷹「思春期始まりの時に私が1番近い女性だったし、ホラ私この胸だし、欲に刺激与え過ぎちゃっただけですよ。」

女「いや、それも込みできっと本気よ?あの子。隼鷹ちゃんをウチに繋ぎ止めてくれるならあたしゃ大歓迎よ!」

 

軽口を互いに重ねタクシー乗り場に着き、おかあさんが乗り込む

女「じゃ、また年末にね。今年は多分、あの子絶対顔見せるわよ?またねー!」と言いタクシーは出発した。

隼鷹「ホント敵わないなぁ…弟くんハニーと同じ道に進んだのか…。」

 

部屋に戻り、アルバムを取り出す。

数々の写真の横に2人で書いたコメントがある。

 

ー5年前 ◯◯海域ー

 

黎明期よりマシになったとは言え、まだまだ深海側が有利だった。

この時も私たちは大苦戦を強いられ、本当に運良くというか何と言うか轟沈者がいなかっただけで、もうみんなボロボロだった。敵が補給?のため一旦引き、私たちも交代で補給を行い旗艦だった私はブリッジに呼ばれた。

 

提督「隼鷹、総員退艦だ。艦娘は全員脱出艇の護衛に当たり全速後退。本艦は単独行動に入る」

隼鷹「単独行動ですか!認められません、私以下経験のあるものが殿を務めます。この旗艦での撤退を申し上げます!」

戦場における「単独行動」には2つの意味がある

 

脱走または「特攻」

 

この優秀な提督は間違いなく後者をとる、そのための総員退艦だ。

提督「ならん、この海域での戦いは敗けだ。この艦のクルーも艦娘も総じて優秀だ、経験が足りなかっただけだ。今回負け戦の経験を積めた、ようやっと一人前になれた。だが、このままだと全滅だ!私はタダで死ぬ訳ではない、次に勝つために命をかけるのだ。」

隼鷹「優秀という中に提督が入ってないじゃないですか!」

提督「黙れ!これは命令である!軽空母 隼鷹、これy…ダァン!

突然の銃撃音と共に提督が肩を押さえて前に倒れこむ

倒れた提督の後ろには操舵士が銃を構えて立っていた。

 

操舵士「ダーリン、怪我人だ。最優先で脱出艇に乗せてくれ」

隼鷹「ハニー!なんてことをしてくれたん… ダァン!銃弾が私の左胸の着物に刺さる、麻酔弾?艦娘に通常兵器は通じないが愛する人に撃たれた衝撃は、とても言い表せるものではなく

体にダメージはないのに私はその場にへたり込んだ。

 

航海士「すまない、ダーリン。そして提督。俺は病気でもう2か月あるか無いかの命なんだよ笑」初耳だ…いや、今思えば急に薬を飲みはじめたから伏線はあった。でも命を失う病気?なにそれ?意味わかんない!いやだ、イヤだよハニー

操舵士「それに、船の操縦でこの俺の右に出る者はいないよ?提督の3倍以上の時間稼いで見せるから。通信士!提督を連れてってくれ!」

ハニーの親友でもある通信士が提督の傷の処置を終えて肩をかつぐ…処置が早すぎる。私には言わなかったのに!知っていたな!!

隼鷹「ハニー!私にも言わな「ふざけるな!!」担がれた提督が叫ぶ

提督「計ったな、お前たち!どこでこの作戦を知った!」

通信士「アイツと2人で遊んでたら不思議なお店に行きまして、そこのちょっとお美しい海のバーテンさんから聞きましたよ。あとそこでアイツの余命も知りました。」

操舵士「提督、アンタはここで死んで良い男じゃない。残り少ない寿命の使い所見つけられて、むしろ感謝してるくらいっすよ笑」

提督「…。バカやろう、なんで余命を隼鷹に使ってやんねーんだ!何でこういう選択肢を取ったんだ!」

操舵士「んなもん決まってるっすよ。愛する人に生きてて欲しい、もちろん最後をベットの上で看取られながら逝くことも考えたけど、俺も海の男ですし…何よりダーリンの前でカッコよく「生き」たくてね!」

麻酔が効きはじめ提督は静かになり、通信士と共に退出した。

 

操舵士「撃ってごめんな、言わなくてごめんな、あと結婚式あげたかった笑」ハニーは私を掬うようにして立たせる

隼鷹「どうじで、どうじでぇ…」涙と鼻水を垂れ流しながら、私は何とか言葉を口にする

操舵士「呼吸器付けてヨボヨボの別れより、こうやってハッキリとした意識のもと最後を迎えたかったんだ。ありがとう、隼鷹。愛してるぜダーリン!かーちゃんと弟をよろしくな」私たちは5分くらいの長い長いキスをした。

 

操舵士「さ、行くんだ。俺の惚れたダーリンは二日酔いでも仕事はキッチリがウリだろ?離れたくない、納得いかない、全部分かってる。でも、俺のこの気持ちをダーリンなら分かっている、な?」

隼鷹「分かるよ、すげー分かるよ。アタシも同じことするよ、間違いなく。愛してるぜハニー!」全力で笑ってやった!

操舵士「ありがとうな、淡々としてある意味俺たちらしい別れだな。あとは頼む」ハニーに優しくドアの外に出されて、私は泣きながら通信士たちの後を追った。

 

操舵士「なんで俺がハニー呼ばわりなんだ?」

隼鷹「だってその方がアタシたちらしい感じしね?」

操舵士「あぁ、そうだな。ダーリン」

 

アルバムを閉じて天井を見上げる

アタシは未だに計画話してくれなかったこと許してねーからな笑

気分転換に、このカッコのまま飲みに行くか!

 

部屋を出るとそこは見知らぬお店だった。ここが噂の…

バーテン側にはあの時の提督がいて、カウンター席にはあの時の通信士がいた。

私は何も言わずに歩き、通信士の隣に座る

 

提督「久しぶりだな、適当に出していくぞ。」

隼鷹「いらっしゃいませくらい言ってくださいよー」

通信士「違えねぇ笑」

 

お酒の入ったグラスを渡され、私は高く掲げる

隼鷹「ハニーに!」

通信士「カッコつけの友に!」

提督「俺のヒーローに!」

ハニーの話題を肴に酒がすすんだ。

 

提督「アイツの弟が訓練校に入って来たぞ、感覚派のアイツと真逆の理論派だが兄同様の天才だ。」

隼鷹「そういえば提督、今は訓練校の校長もやってるんでしたっけ。」

通信士「そうそう、「校長の前では横須賀の鬼すら道を譲る」でしたっけ?どんだけビビられてんすか?」

提督「ふん、身につけなきゃいけないものを身につくまで、じっくり教えてるに過ぎんよ。くだらん」

 

少々酒とつまみと雑談を楽しむ

通信士「そうだ、隼鷹ちゃん。これ渡しに行こうと思って部屋出たらここだったんよ。アイツから5年経ったら渡してくれって。」

私は少し豪華な装飾のしてある封筒を受け取る。その場で封を開け読み進めていく。

隼鷹「…。遺言状ね、これ」

一通り読み終わり、酒をちょっと飲む

 

今までの感謝と私への愛と死ぬのが怖いという弱音

そして、弟が立派になったら1人の男として判断してくれと…

余命宣告を受けたことを家族に話した時に、弟くんが自分にアタシを取られたくなかったら生き延びて護れと。カッコいいじゃないか、弟くんよ。

なるほど、今年入学したから通信士さんに5年という期日を設けたのね

おかあさんが今年は顔を出すって言ってたのも納得だわ

2人にも要約した内容を話す。

 

提督「ハハッ、まだまだアイツのとこには行けんな隼鷹。」

隼鷹「卒業まで一位キープしたらオッパイ揉ませてやるって伝えといてくれよ、提督」

提督「男の思春期舐めるなよ?卒業式は身綺麗にして迎えに行ってやりな笑」

通信士がみんなの酒を注ぎ、ボトルを置き注視を促す。

 

通信士「さて、メンツが揃ったのでネタバラシと言うか5年前にここで何があったか話します。」

私と提督は酒を一口飲み、通信士を見る。5年前、帰投した後に提督と私で通信士に詰め寄ったが「5年後に必ず話す」としか答えなかった。

だから私は今日まで絶対沈まない戦いを自分に強いた。

 

通信士「あの時の3か月くらい前に、アイツとパチ行った後に話があるからどこかで飲もう言われたんすよ。んで、適当な店入ったらここでした。」店内を軽く見渡す。

通信士「噂には聞いていたんですけど、まぁ驚きました。そして、今提督が立ってる給仕側にいたのは「空母棲姫」でした。」

通信士は酒を軽く煽って続ける

通信士「ビビりました笑あ、ここで死ぬのかって。でもあの子は攻撃の意思はないから座れと促し言われた通りに座って自己紹介を始めたんすよ、それでとんでもないことを名乗りました。」

 

提督・隼鷹「飛鷹だろ?」提督と声が被った。

通信士は驚きの余り瞬きするのを忘れている

 

隼鷹「ハニーとお前が大人しく言う通りにする相手なんてさー」

提督「アイツ以外には考えられないからな笑」

通信士「マジすか…汗」

 

提督「どこかで俺の計画を知ったんだろう、それこそここで海軍のお偉いさんからとかな笑」

通信士・隼鷹「え?内通者?しかも提督より上って…」

提督「今はノーコメントだが、ひとつだけ言えるとしたら…おそらく裏切り的な内通ではない。だな。」提督は自分で酒を注いでぐいっと煽る

 

通信士「めっちゃ気になるけど、まぁいいや。」

隼鷹「あ、そこはいいんだ笑」

 

通信士「艦娘が深海落ちしたというのにも驚いたけど、提督の計画も驚きましたよ。渡された資料見てあの艦には不自然なほど、経験や練度は低いけど、それこそスカに匹敵する優秀な奴らが集められてた。しかも、ただでさえ当時は深海有利の状況で無茶とも言える連戦ルート指定。いくら最後は逃すとは言っても途中で全滅とか考えなかったんすか?」

 

提督「そんなヤワな奴らは集めなかったし、知っての通りかなり離れた位置とはいえ元帥が控えてたろ?」

通信士「元帥のことは資料に出てなかったから、撤退して即拾われた時にしてやられたとは思いましたね…」

提督「元帥は俺に秘密にしていたみたいだけど、あの人はそういう人だから知ってたさ。」

隼鷹「知らなかったのアタシだけなのがやっぱムカつく笑」

 

通信士「んで、その計画をどうしようかと話し始めた時にアイツが病気を打ち明けて…提督とアイツをすり替える形でプランを練りました。飛鷹さんがあの海域を受け持って、最後押し切るための補給みたいな形で時間を捻出するから、その時に…。でも、戦果が全く無いと怪しまれるから艦の倉庫に前に沈んだ子の艤装や何やら詰めたコンテナに爆弾セットしてアイツは飛鷹さんの所に特攻。っす。」

 

提督「結果的にアイツと俺が入れ変わっただけで、目論見通りあの時のクルーは各地に散らばり其々の力を発揮している…。」

隼鷹「提督もだよ、次世代の育成をしっかりやってるじゃん。納得してないけど結果的には最良の姿だよ…アタシの心を除けばさ。」

通信士「隼鷹ちゃん…。」

隼鷹「納得してないけど、理解はしてるよ?そりゃ当時はもう全部がどうでもよくなった時もあったけど、5年っていう時間にはちょっと癒された。」

 

提督「そうだな、俺もそろそろ椅子は飽きてきたところなんだ。アイツの弟の卒業と同時にラバウル取りにいくぞ。」

通信士「そうそう提督、飛鷹ちゃん激おこだったから追いかけて来てくれますよ。あの時のメンバーに声かけときますね」

提督「ああ、飛鷹を撃つのは俺の役目だ。来るよな?隼鷹。」

隼鷹「行くけどさ、弟くんをアタシ好みに育てておいてくれよー。飛鷹ならハニーの話し相手には丁度いいしさ。でも、アタシのダンナと提督の奥さんが…ううぅ…」私はワザとらしく嘘泣きをする

 

提督「カカァ天下でいい感じに収まるよ。」提督はみんなのグラスに酒を注ぎ、自分のグラスを高く掲げる

私たちもそれに倣いグラスを高くあげた。

 

提督「アイツらに!」

通信士・隼鷹「乾杯」

 

 

ーある日のラバウル基地ー

 

「なーダーリン、やっぱこれ落ち着かないんだけど。戻していい?」

トレードマークのツンツン頭をストレートヘアーにして、見た目だけなら良いとこのお嬢様風の艦娘が声をかける

「ダメですよ、アニキの隼鷹さんはいなくなりました。今、僕の横にいるのは僕のハニーですから。区別は大事です。」

隼鷹「もー!アニキと違ってしっかりとしてるよなー、ま、そこがダーリンらしくていいけどさ。」

操舵士弟「そうやって何だかんだ理解してくれるハニーが大好きですよ」

 

空母棲姫ーIIという個体に進化した難敵を撃破し南の海域を解放した「エリート集団」

その後も凄まじい戦果を上げ続けるが、スポット参戦くらいはあったが基本的にオリジン艦娘が所属していない唯一の基地でもあった。

 

ーとある日の横須賀ー

 

五日「優秀な人材根こそぎ持っていきやがって、艦娘のノウハウはあるけど人間育成のノウハウは持ってねーんだよ。チクショウ笑」

言葉では怒っているけど、顔は嬉しさを隠していない。現場復帰嬉しかったんですねー

青葉「もともとあの提督のクルーでしたし仕方ないですよー。青葉もあった事あるけど、とても司令が道を開けると揶揄される人には見えなかったんですよねー。」青葉にはすごく丁寧な余裕ある大人に見えました。そばにいた隼鷹さんはめっちゃタメ口だったし…

 

五日「なら、自分の目で見てこいよ。あの凄まじい戦いを展開した新設の基地、興味津々だろ?どうせ抜け出すだろうから出張申請は出しておいた。明日から3週間な。」

青葉「え!どうしたんですか司令!そんな青葉を気遣うような至れり尽くせりの対応なんて…あぁ、とうとう改心したのですね!」

五日「何とでも言え。だが青葉、ひとつ先人として話をしておいてやろう。暴力には2種類あるんだ、文字通りの力と「言葉」だ。んじゃ、報告書楽しみにしてるぜ?強さの秘密探ってこい。」

青葉「??言葉の暴力って、罵倒とか人格・存在否定とかですよねー?青葉そんなの気にしませんけど…まぁ、隅々まで探って来るので期待しててくださいね!」

 

 

 

 

 

 

 




とある日の横須賀

五日「お、青葉おかえり。早速で悪いんだが、こいつらの研修申請の備考欄書いて本営送っといて。」
青葉「…。」
五日「なんだよ?気味悪いな、出したら今日はおふでいいぞー。」
青葉「司令、青葉は司令が道を譲るの意味がわかっちゃいました…。」
五日「そうか、そいつぁ良かった。日本にはこういう諺があってな…」
青葉「触らぬ神に祟りなし」
五日「そういうこと。いいか?真の実力者ってのは本当に無害を装うんだ。無能を装うのは二流、一流は人当たりの良い無害を装う。」
青葉「ニンゲンッテスゴイデスネ。隼鷹さんを始めとする艦娘たちも、ここにいたかつてのクルーの人たちも凄かったとしか言えないです。そりゃあの要注意指定の龍じ…レ級エリートも逃げ出しますわ…」
五日「いい経験できただろ?レポート期待してるぞ、ウチで使えるものは盗んでモノにするぞ。」
青葉「お任せください、あとこの研修リスト悪意しか感じられないんですけど…。」
五日「なーに、「ちょっと」ヤンチャな奴らを研修に送るだけだよ。戻って来てオイタをしたら、もっかいラバウル行くか?って言うつもり何だけど、どう思う?」
青葉「即、提出してきます。あの子たちには解体宣告くらいの威力になると思いますよ、では!」

提督「身につけなきゃいけないものを、身につくまでじっくり教えてるに過ぎんよ」
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