スナック「Fleet」   作:金糸雀かしら

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人は1人では強くなれない
鍛錬を行うのは自分でできる
教えてくれる相手がいて
成果を発揮する敵がいて
ともに戦う仲間がいる

気づくまでに時間はかかったけど、気づいてからは楽しかった。

何事も根の詰めすぎは良くありません、ここらで一服いかがでしょうか?
スナック フリートまもなく開店です。




第十六話 「戦艦 ローマ」

私は今、訓練基地で割り当てられた部屋で本国に送る滞在延長申請書を書いている。

 

「井の中の蛙大海を知らず」とは良く言ったものだ。

イギリスの3代目とドイツの暴れん坊と、その杖がいたのは驚いた。

そして何より、この国の異常さに驚いた。

 

イタリアでは建造された子は3日の座学と海上訓練を経て、比較的安全な海域で実戦に投入され慣れながら学んでいく

でも日本では最低半年のカリキュラムを経てから実戦に投入される

ここを卒業間近の子はイタリアでは熟練随伴艦レベルだ。

 

そこまで教え込んでも、この国ではデビュー戦で沈むことがある

私たち姉妹は自分達がぬるま湯の中で過ごしてきたことを、いやと言うほど思い知らされた。

 

 

私はまた本国向けの申請書を書いている

 

敵の数が多いから艦娘が増えるのか?はたまたその逆か?

強いから相手も強くなるのか?相手が強いから強くなる必要があるのか?

とにかくめちゃくちゃだ。

 

一応イタリアでの経験があったから、他の訓練生よりは成績が少し良いレベルの位置にいるが、あの色ボケ共に比べたら私たちは雑魚もいいとこだった。

 

最近、姉さんが今まで以上に身だしなみに気をつけるようになった気がする

 

 

私は今、横須賀宛に滞在延長許可の申請書を書いている

 

今日、以前から少し気になってた「金剛型の4番艦」に会った。この基地には「二つ名」持ちが交代で定期的に指導に来る

私たちは演習を申し込んだ、ビス子達にやめておけ!とかなり強めに止められたが、良い機会を逃す必要性を感じなかった。

 

結果、生まれたこと後悔することになった。

姉さんはその姿を丸裸にされ顔面ペイント塗れで仰向けで浮かんでいた。

私も制服が殆ど服の意味をなさない状態で海面に四つん這いになり、盛大に魚のエサを海中にぶちまけた。

確かにペイント弾だった、ただ大き過ぎた。船の中で見た雑誌に載っていた大砲を担いだアイツは私たちの攻撃を何なく躱し、顔面に容赦なく何度も撃ち込んで来た。ダメージを吸収しきれず、実戦同様に制服が損傷し始め動けなくなった所に拳を腹に打ち込まれた。

 

私は泣きながら、口を拭い何とか立ちあがろうとしたが足に力が入らなくて顔面から海面に倒れた。せめて意識を失うものかと上半身を起こそうともがいていたら、僅かに残っていた胸元のリボンを捕まれ片手で高く持ち上げられた。

何もできなくて、鼻水垂らしながらチクショウと呟いた。

アイツはやたら満足気な笑顔で「あなた、イイですね。」と言うと同時に肩に担いだ大砲で私の頭をフルスイングした。

気がついたら医務室だった。ビス子達が見舞いに来ていたが、私はそそくさと部屋に戻り泣いた。このまま国には帰れない。

 

 

私はまた横須賀への申請書を書いている

 

姉さんがまたやらかした。あの演習後、クソ男に慰められ完全に惚れ込んでしまった。私はアイツが大嫌いだ、料理の腕は確かに良い。だが何なんだ?あの態度は。

皆に優しくするクセに決定的な態度は取らない。ハーレム宣言してあちこちに手を出しやりたい放題するやつの方がハッキリとしててまだ好感が持てる。もちろん姉さんがハーレムの一員になることは認められないが、例えばの話だ。

 

でも、姉さんは強くなり始めている。ビス子たちにまだ及ばないが、戦いになる様になってきた…私も必死にトレーニングしているけど、段々離されてきている気がする。認めたくない…

 

 

私は本国への申請書を書いている

 

姉さんは休日にアイツと出かけるようになった…もちろん杖が尾行したり、「恥」の3代目が偶然を装ってバッタリ出会ったりと妨害は絶えないが、もう実力的には追いつき始めている。

私はもうこの国にいるのが辛くなってきた、いくら訓練をしても強さが増すことを実感できなかった。多分、才能がないんだ。

 

 

私は横須賀への申請書を仕方なく書いている

 

姉さんが国に帰りたくないとダダをこねた。

 

今日、佐世保の練巡が来ていた。向こうからの指名で演習を行った。装備対象外なのにあの大砲を担いできた。私はまた海面とキスをした。

 

もう心がもたなかった…でも二つ名持ちとは言え規格的には格下の艦種に良いように遊ばれて、せめて戦艦としての矜持は保ちたかったから何とか立ち上がることだけはできた。

でも、それだけだ。鍛錬を重ねたから何とか立てただけ、指を動かすのがギリギリだった。右腕をほんの少しだけ前に出した、腕は上がらないから手だけで中指を立て少し持ち上げた。

それを見たアイツはあの戦艦みたいにニッコリ笑って「なるほど」と言いハイキックを私の顔にぶち込んで、私の意識は途絶えた。

 

もう、この申請書を送る意味が分からなくなってきた。

 

 

私は本国への申請書を書いている

 

少なくとも私の分を出す意味はもう見出せなかった。

とりあえず、成果の出ない鍛錬は続けてはいる。私は艦娘だから。

卒業期間はとうに過ぎた、姉さんは相変わらずだ。ただ、私と行動することはもうなくなった。

アイツらと哨戒にも出るようになって、戦果も上げている。

私も在籍期間は長いある意味熟練として出る時もあるが、授業の引率みたいなもので姉さん達のように戦略的な意味はないものだった。

 

明日巡回に来る予定の駆逐艦から、演習予約が入れられたことをさっき知らされた。流石に駆逐艦にやられたらもう立ち直れないかも知れない。

 

 

私は今、部屋で天井を見つめている

 

姉さんの分の申請書は書き終えた、今机にあるのは本国と横須賀宛の私の分の「帰国申請書」だ。

 

もう、ダメだ。完全に折れた。

今までは姉さんのやらかしもあって書き続けてた延長申請書だった、私が残る理由はとっくに無かった。

 

演習のため武器庫に着いたとき、中から雑誌の表紙に載っていたピンクの髪に青いリボンの可愛らしくも少し大人びた駆逐艦が

 

「あの大砲」を持って出てきた。

 

軽く挨拶をかわし、その姿が見えなくなった時

私は地面に両手をつき吐いた。

 

演習に決着が着き、私はペイント塗れで殆ど下着姿だった。

駆逐艦は綺麗な格好で前に立ち私を見下ろしている

私の片方の乳房は丸見えだ。

隠すくらいの余力はあったが、もうこれで最後だ。

余力は立ち上がる際に思いっきりぶん殴るために使って国に帰ろう。

 

私は大きく息を吸い込み、全身全霊を込めて左腕を駆逐艦の顔面に放った。拳は何なく躱され空を切る…終わった。

私は何のためにこの国に来たんだろ…

 

駆逐艦はアイツら同様にニッコリと笑い「素晴らしい」と呟き

左腕を振り上げたままの私の脇の下からアッパーを私の顎にかまして、私は宙に舞いながら自分の中で何かが壊れる音を聞いた。

 

机に視線を戻し、私の申請書を書き上げ姉さんに挨拶に行こうと部屋をでた。

 

カランカランカラン…どこか懐かしい古めかしいベルの音が鳴り響いた。

 

「あああっ!ローマさんですぅ〜」私を宙に舞わせた駆逐艦が私の腰に抱きついてきた。ここは…なに?どういうこと?

駆逐艦に手を引かれながら辺りを見渡すと、バールの様に見えた。

カウンター席があり、壁には酒瓶がずらりと並んでいる。

 

カウンター内におとなしそうな見た目のカチューシャをした艦娘が立っている…知ってる、オオヨドだ。

大淀「いらっしゃいませ、スナック フリートへようこそ。私は軽巡洋艦 大淀と申します。ローマさんはじめまして。」深々とお辞儀をしてきた。

 

あっけに取られていると、カウンター席の1番奥からよく通る声で

「武蔵だ。会いたかったぞ、ローマ。よろしくな」

あの「武蔵」がいた。ヨーロッパにもその名が伝わる「最狂」

 

「お久しぶりです、ローマ。」私に初めて屈辱を与えた霧島

「私もお久しぶりですね、ふふっ。」劣等感を与えた香取

「私ははじめましてですね、重巡洋艦 鳥海と申します。よろしくお願いします。」この子も雑誌で見た、「無慈悲」の二つ名持ち

「こないだの演習、楽しかったですぅ〜!ローマさんは巻雲の隣で」私の心を完全に折った巻雲

 

武蔵「なるほど、こういう集まりだったのか。いやはや、実に面白い」

とりあえず座らされ、出されたモノを飲むがアルコールなのがわかる程度で味がしない。何なんだ?この状況…

武蔵「霧島から面白いヤツに会ったと聞いて、香取も巻雲も同じこと言うもんだから是非会いたかったんだ。」カウンターの端と端である程度距離があるのに圧が凄い

大淀「もう、武蔵さん。ローマさんが固まってますよ…まずはこのお店の噂や来たことはありますか?」私は無言で首を横に張る

 

大淀が色々と話してくれて何となく理解できた。

霧島「このメンバーが揃ってる所に来たと言うことはもう、確定ですね。私の頭脳がそう導き出しました。」

鳥海「ふふっ、霧島さんたら笑」

巻雲「ねぇ、ねぇ、ローマさん!私たちの仲間になって欲しいですぅ」

武蔵「先ずは鳥海のところに行かせよう、リシュリューもいるし色々捗るだろ?」

鳥海「私は歓迎ですけど、ローマさんの意思を確認しないと!」

仲間?リシュリューって、あの日本にいるオリジンの?

 

武蔵「なぁ、ローマよ。1人で強くなるのは限界がある。ここ日本にはとんでもない奴らが敵として立ちはだかっている。今のお前は実力的にはただの量産型相応の力しかない。だが、オリジン・量産型問わず我々が求める「闘争心」を持っている、自分の姿の恥など気にせず目の前の相手に全てをかなぐり捨てて意思だけでも立ち向かおうとするその「心」。我々が求めているモノをお前は持っている。どうだ?我々の師事を受け、そして共に強くなりたくはないか?」

私は言葉が出さずに自分の膝を見ている…自分にセンスがないのは分かっていた。同じ量産型でも何でもできる姉さんとは違い、私はいつも必死だった。それでも着いていくのがやっとだった。

 

霧島「ローマ、私も鳥海も香取も量産型よ?強さにオリジンも量産型も関係ないわ?」

香取「大淀さんが諸事情で抜けてしまうので、有望なあなたに入って頂けると一艦隊を再び維持できるので大変ありがたいのです。」

ローマ「私は…才能がないわ。日本に来て、例えあなた達に出会わなくてもいつか気付かされてたわ。この場にいること自体場違いよ。」

強くはなりたい、でも私はもう充分自分を知った…。

 

大淀「ローマさん、1人で頑張ってたでしょ?武蔵さんも言ってたけど1人の努力で強くなるには限界があります。武蔵さんだってそうだったんですよ?まぁ、この人の修行相手はめちゃくちゃなんですけど…」

鳥海「大淀さんの言う通りです!私も何度も沈みかけたし、迷惑もかけてきましたがこの人たちとリシュリューさんのおかげで二つ名まで頂けるようになったんです。映像見させてもらいましたが、ローマさんなら絶対大丈夫です!強くなれます!」フンスという鼻息が聞こえて来そうなくらいの熱量で見つめられ、少し戸惑った。

 

巻雲「巻雲は〜ローマさんみたいな可愛いお姉ちゃんが欲しかったんですぅ!巻雲なんてイケイケだった頃の大淀さんに毎日素っ裸になるまでボコボコにされてたんですぅ。ですが、今はアレがほとんど愛のムチだったの分かります!残りは武蔵さんにやられたうっぷ「巻雲さん?」大淀がカウンター越しにニッコリ笑う。巻雲は私の後ろに隠れ、また腰を後ろから抱き抱えてくる

 

ローマ「私は強く…なれますか?」意識せず口が勝手に動いて、自分でびっくりして口を片手で押さえる

武蔵「ああ、ほら口では自分を蔑んでもお前の心が強さを欲してるんだよ。」

霧島「ようこそ、ローマ。楽な道ではないけど、その先で得られるものは極上のモノよ?」霧島が握手を求める

 

ローマ「ヴィットリオ ヴェネト級4番艦ローマです、よろしく。」私は気がついたら差し出された手を握っていた。

 

武蔵「新しい仲間に乾杯だ!さぁ!今日は飲み倒すぞ!」

 

会計伝票が3桁万円だったらしい、後日みんなで元帥に頭を下げに行った。

 

 

私は今、久しぶりに「帰ってきた」訓練基地で横須賀宛に次の研修地への出張申請を書いている

 

あれから私と姉さんは一度本国へ帰り、日本への無期限滞在許可をもらい姉さんはそのまま基地を拠点とし、私は仲間のもとを定期的に訪れる形で日本に滞在している。

 

大淀が抜け、気づけば私は「あの一族」の一員として扱われかなりの戦果を上げ「二つ名」が付いていた。

 

ローマ「さて、姉さんたちのお説教に行きますか。久しぶりにここに来たのに相変わらずもう…。」部屋を出てしばらく歩き標的の1人を見つける

 

ローマ「こんにちは、サラトガ。姉さん見なかった?」私は凄まじく艶めかしい肢体を臆する事なく堂々と背筋を伸ばして闊歩する米国空母に声をかけた。

サラ「ひ、ひいっ。ローマさん!お帰りになられてたのですか!イタリアさんは先程ウォースたちと食堂へ行くと…」私を見て震えるなんて失礼しちゃうわね。まぁ、いいわ。まとめているなら話が早いし。

ローマ「分かったわ、サラトガも着いてらっしゃい。アナタにも話があるのよ。」

サラ「わ、わたくしは本日用事が…」

ローマ「こちらの用事もすぐ済む「予定」よ。さ、行くわよ」

サラ「はぃ…」

 

食堂に入り、やたら賑やかなテーブルがすぐ目についた。あの様子だと男はオフのようね、ふと視線を感じた方向に顔を向けると

マミーヤがニッコリと微笑んでた。ハイマカサレマシタ、マミーヤ。

何故か出た額の汗をぬぐい、テーブルに着いた。

 

ローマ「今日も楽しそうね、姉さんたち。」

イタリア「あ、ローマ…汗」

ウォースパイト「Oh,Jesus」

ビスマルク「ひいっ…」

プリンツは逃げ出した

 

 

 




その「新参」は弱かった。
既に知る人ぞ知る一族と評される艦隊に入るには弱すぎた。
訓練基地での醜態は一部ネットで拡散されて心無い言葉が掲示板で飛び交った。

祖国に帰ってもネットの画像で陰口を叩かれた。無期限という永住許可も簡単に許可され、追い出された。

だが、日本に「戻って」からの成長スピードは異常だった。

彼女専用に改修されたあの大砲には大きな盾が装備され、その盾で仲間を守り撃った相手には必ず沈むまで追い込む姿についた名前は

「復讐者」今やその原点と評されるあの画像を邪な目で見るものはいない
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