いつ誰が店に立つか?客になるか?その時まで誰も分からない
今宵の主役は誰でしょうか…
「こんな日は街にでも飲みに行こうかしらね」美しい光る金髪を靡かせて自室のドアノブに手をかけ扉を開ける
「Bonsoir.Mademoiselle」辿々しいフランス語の挨拶で迎えられる
背後に沢山の酒瓶を並べた小さなカウンターの中で自身の提督がいる、カウンター椅子の後ろは高そうなソファーベッドが1つあるのみ。
リシュリュー「Oh la,la ここが噂のスナックね…顕現して25年、初めて来たわ…」カツカツとヒールを鳴らしてカウンターの椅子に腰掛ける
リシュリュー「マスター、私の様な見た目の女性には未婚であろうと'Madam'をつかうと良いわ。マドモワゼルは軽巡くらいまでの子に使いなさいな」テーブルに出された塩漬けオリーブを手で摘んで口に入れる
提督「分かった、そうするよ。これをどうぞ、僕も頂くよ。大規模作戦の前に不思議なことが起こるもんだね」男は氷の入った乳白色のグラスとマドラーの刺さった水を置く
リシュリュー「あら…pastisね、私の国ではおじさま達が好んで飲むのだけど私も結構好きなのよね、でも日本人には合わないでしょ?良く知っていたわね」少し水を足してマドラーでかき混ぜオリーブを再び齧ってから飲む
リシュリュー「プハぁ〜、やっぱりこうなっちゃう笑。でもこれcasanisじゃない、好みのチョイスだわ」テンションが上がり始める
提督「昔、数ヶ月だけフランスにいたことがあるんだ。その時に地元のおっさんに飲まされてね。なんだこの歯磨き粉、二度と飲むもんか!って思ったけど無理矢理飲まされてるうちに、ふと飲みたくなったりするようになってしまったんだよ。」
リシュリュー「ああ、ラーメン三郎みたいな感じね。二度と来るもんかって思ったけど、ふと恋しくなるやつ。アカーギ達は常連みたいだけど…って!フランスにいたですって!!初耳どころかあり得ないわ!余程のお金持ちか軍属でないと行けないわ、フランス遠征任務は貴方にはなかったはずよ!」
提督「まぁ、落ち着いて。今日ここに僕たちが招待されたということは、話すべき時が来たということ。とりあえず次は極々普通の赤ワインとチーズだ。」強烈な匂いを放つチーズとワインが出される
リシュリュー「いいわ、聞かせてもらうわ。それにしても良いチョイスね…ブリーも私の好みだわ。話したこと無いはずよね…」スライスされたチーズを食べワインでリセットする
提督「ちょっと一服失礼」LUKEY STRIKEと書かれたタバコの箱から1本取り出し100円ライターで火をつける
リシュリュー「Non.non…どういうことなの。貴方タバコなんて吸わないはずよ?それにその銘柄…」驚きの連続で少し混乱する
提督「ああ、隠れて吸っていたんだ。米国とは軍用機で交流盛んだろ?手に入る様になって良かったよ、これ好きなんだ。」カウンター越しに紫煙を燻らす
提督は一服を終え、グラスのワインを一気に飲み干すと真剣な眼差しでリシュリューを見る
提督「今から言うことはここだけの秘密にしてくれ、それと頭が狂った訳ではない。昼間君に怒られた内容も言えるし、君にねだられた明日の夕食の内容だって言える…」
リシュリュー「…。いいわ、私も落ち着いたから聞かせて。」テーブルに両肘をつき、両手で橋を作りその上に自身のアゴを乗せる、心なしか上機嫌の様にも見える
提督「僕には前世の記憶があるんだ、生まれた時から持っていたんだろうけどハッキリと全てを理解したのは15の時に海軍の公開演習を見に来た時に全部思い出した。」リシュリューのグラスにワインを注ぎ足し、自身のグラスにも入れて一口含む
提督「前世で僕は海軍の船の整備士だった、記録を見る限りこの世界では無い別の世界。その世界にも深海棲艦がいて艦娘もいたよ、ただその世界での私が20歳くらいの時に深海棲艦が現れた。フランスに行ったのは19の時さ。」
リシュリューはチーズをつまみワインを一口ずつ飲みながら静かに話を聴いている
提督「あっという間に深海棲艦に荒らされ徴兵というかたちで軍に入って、出撃の度にカタカタ震えてたよ、今と同じで戦いは艦娘に頼るしかなくて母艦である船の中で駆け回る雑用係だった。軍に入って2.3年した頃、1人の艦娘と出会った。あちらの世界のリシュリューだ。」
リシュリューの肩が僅かにピクッとする、誤魔化す様にワインを飲む
提督「なぜか色々とウマがあって、一緒に過ごす機会が多くなっていった。そして恋人となった。周りの連中にはよくからかわれた、提督は艦娘を自由にさせる人で咎められることもなくて震えて過ごしていた僕は心の底から平和を願う様になった。」タバコを取り出し火をつけ、天井に向かって煙を吐く
リシュリュー「あちらの私とはそのまま幸せに過ごしてたのかしら?それで、この世界でも私を口説こうとしているのかな?」
提督「口説きたいのは認めるよ、だけどただ口説くだけならこの話は寧ろマイナスだろ?昔の女の話を口説きたい相手にするなんて。結局、あちらのリシュリューと結ばれることはなかったよ。ある大規模作戦で彼女は重傷を負って、母船の近くまでたどり着いた時に深海棲艦の追手も来ていた。」
リシュリューはテーブルの下で拳を握りしめる
提督「僕は気が付いたら脱出用の小型船を出していた、そして追手の砲撃とリシュリューの間に入った所で前世の記憶は終わってる」
リシュリュー「そう…随分と無茶をしたのね。庇われたその私は生き残ったのかしら…」少し鼻で笑いながらグラスをくるくる回す
提督「そうだと良いんだがね。で、生まれ変わったことを知らず15まで過ごした。艦娘目録でリシュリューを見て一目惚れして公開演習に応募して、壇上に上がった君を見て記憶が一気に流れ込んできた。ダラダラと目的もなく過ごしてたけどその日を境に提督になって君に会うと心に決めて今に至るんだ。」ワインを注ぎ足し、一気に飲み込む
提督「リシュリュー、君が好きだ。前世でも、今でも私が愛しているのは君だけなんだ。一目見たときからまた虜になってしまった、あの演習にいたリシュリューのもとに赴任できると分かった時飛び跳ねて喜んだ。あの世界のリシュリューを今でも愛してる、でも今目の前にいる君も同じくらい愛している。前の女を持ち出すバカだと罵ってくれて構わない、だがこの気持ちに嘘偽りはない!結婚を前提に付き合って欲しい…」提督は言い切って宝石箱を置き開けようとしたがリシュリューが上から手で押さえる
リシュリュー「ひとまずこちら側に来なさい、宝石箱はここに置いたまま。」
鋭い目つきで提督に指示を出す、怒りではないが何か思い詰めた表情だ。提督は言われるがまま客席に回り椅子に腰掛けるリシュリューの足元に跪く
リシュリュー「二郎よ麺大盛り野菜マシマシアブラ少なめニンニク無し」突然呪文の様な言葉を並べるリシュリュー、見上げた提督はまさに鳩が豆鉄砲を食らったような間抜けな顔を晒している
リシュリュー「私の愛したあの人は初デートのディナーがラーメン屋だったわ、頭に来てバックで思いっきり頭をぶん殴ったわ…。高貴なフランス嬢である私がデートに赴くだけでもありがたいはずなのに、バッティングセンターから始まって昼食はすき家で映画見て買い物で安いシルバーのアクセサリープレゼントされ締めがラーメン屋よ。」テーブルに片肘ついて大きくため息をもらすが嬉しそうだ…
リシュリュー「でも、良い男だった。まぁまぁ、整った顔立ちだったし話も面白かった。そして何より常に私への愛が伝わってきた…付き合う前も付き合った後も」
提督は言葉を発しようとするが、リシュリューが無言のまま手で制する
リシュリュー「そして、最後のプレゼントは自分で見つけてしまったわ…」私服のブラウスの胸元を開けネックレスを取り出す。ネックレスチェーンには指輪が付いている。表に小さなトリコロールカラーがあしらわれ、その内側には日本の国旗
リシュリュー「ファッションセンスがとにかく壊滅的なのは最後まで治らなかったわ…」提督は自分が前世で、この世界でも用意したその指輪を見て泣きそうになっている、口を開き声を発しよ…
バチィン!キレッキレの艦娘パワーの平手が提督を襲いソファーベッドに吹き飛ぶ
リシュリューはソファーで横たわり頬を抑える提督の上にまたがり涙を流しながら
「Vint-cinq^ans!25年よ!遅すぎるわ、いつまで待たせるのよ!」
リシュリュー「あたしはあの時もう致命傷だったのよ!最後に貴方のいる母船の盾になりにきたの!でも貴方は目の前でバラバラになって、自分の沈み始めた身体で必死に叫びながら貴方のパーツを集めた私の気持ち分かる!この大馬鹿野郎!いっぱい、いっぱい集めてたら海面にこの指輪の入った箱があった。中身を見て笑っちゃったわ、センスの無さに…それを自分で嵌めて私は沈んだわ」
提督は涙でグシャグシャの顔になったリシュリューを下から手を伸ばし右手をリシュリューの左頬に置き、奥に手前に髪をキリながら撫でる。昔よくやった動作だ…
リシュリュー「気が付いたらこの世界にまたリシュリューで顕現していたわ、指輪を嵌めたままリシュリューオリジンとして。」この世界では各艦種の1隻目をオリジンと称し、それをもとに建造データが作成される。
リシュリュー「最低限の仕事だけこなして生きてきたわ、前世で得た経験と知識を生かして怒られもしないが期待もされない時間潰し。他のオリジン達が沈み、幾人かの私も建造され「建造艦より役に立たないオリジン」なんて二つ名も得た頃にオリジンシリーズだけの公開演習に引っ張られて、壇上から貴方を見つけたわ。姿は少し変わっていても魂が教えてくれた。あの人だって!」ガバッと撫でている手を振り解き提督の顔の横に顔を寄せ覆いかぶさる
リシュリュー「溜まりまくっていた貯金を使って貴方のこと調べていたら、提督を目指すと知ってそれはもう喜んだわ。そこからは私も必死になった、軍での発言権を得るために生まれ変わったわ。提督になるであろう貴方を自身の鎮守府に迎えるために。気が付いたら鹿島や武蔵と並ぶオリジンになってた笑笑」
提督「僕は生まれ変わっても、また君を愛したのか…。」以前していたように頭を撫でつつ、もう片方の手でスカートの中に手を入れ内股さする…あッ♡
いつの間にか看板がドアの内側にあり、店内が自動的に薄暗くなる
リシュリュー「…。不思議なところね///この世界の私は初めてなの、優しくしなさいよね。でも、沢山わたしで気持ちよくなって♡25年分愛して!」
我、夜戦に突入する…
丑三時。ソファーベッドの上で目覚める提督、隣には生まれたままの姿の愛しい戦艦。彼女の体の上に一枚の紙があり、それを取り上げる
「ソファーベッド代 18万円デビットカードでの支払い可
酒・食事代はサービスです。スナック フリート」
支払いをレジの機械で済ませて、リシュリューを起こし2人で入口のドアを開けるとそこは提督の私室だった…我、再び夜戦にとt…
朝、だるい腰を押さえながら執務室のドアを開けると、執務室のソファーが例のソファーベッドに変わっていた。
何気ない日常、ドアを開けると貴方にも突然訪れるかも知れない非日常
スナック フリートは貴方のすぐ側にあるかも知れません。