入ってくる客は天使か悪魔かその他か?
スナック フリートは本日も営業中です。
今宵の主役は艦娘か?それとも…
「私が憧れるのは人間なのです」
いつか聞いた歌が頭に浮かぶ
泣いたり笑ったり、怒ったり喜んだり。一通りできる私は人間…ではないわ
鳥海「麻耶、ちょっと街に出かけてくる。晩ご飯は要らないわ」外着に着替え、私の部屋に来てゴロゴロ漫画を読む姉に伝えてドアを開けた。
カランカラン…鐘の音が響く薄暗い店内、料理の匂いがする。カウンター内の店員?から声がかかる
店員「いらっしゃいませ、でいいのかな?あら、あなた…」椅子に腰掛けていた店員が立ち上がると大きなお腹が目立つ
鳥海「奥様…お久しぶりです、というかここは…?」顔見知りの女性に返答し店内を見渡す。
女性「ご飯を作って食べようとリビングに来たらバックヤードだったわ笑メッセージボードにお客様のおもてなしをお願いします、材料は全て揃っています。食事代はお客様持ちで。って書かれてたわ、お掛けなさい。」キッチンタイマーが鳴り、料理の続きを始めた。
鳥海「では、お言葉に甘えて。」カウンターの椅子に腰掛けると柿の種と銅色の液体が入ったロックグラスが出される
女性「カルヴァドスよ、料理できるまでの間つまんでて。私はジュースを頂くわ」カウンター越しにグラスを持つ手を伸ばして2人はグラスを合わせる
女性「夫の葬式以来ね、元気にしてた?」抑揚のない声で淡々と語りかける
鳥海「はい、姉妹のいる鎮守府へ異動となりました。お腹大きくなりましたね…。」グラス片手に応える
女性「6ヶ月よ、順調に行けばあと4ヶ月くらいで生まれるわ。はい、どうぞ」たらこスパゲッティとサラダとパンを並べる
女性「麺茹でて、たらことバターと調味料と昆布茶が決め手。あの人の大好物だったのよ」あまり覇気のない笑み
鳥海「存じております。頂きます。」両手を合わせ食事にかかる
女性「私も頂くわ、材料がキッチリ冷蔵庫に入っててビックリ」2人して黙々とと食事を済ませる
女性「はい、これでも飲んでて。子供ができる前は良く飲んでたの。」洗い物をやりつつ、新しい酒を出す。
女性「カンパリとグレープフルーツ、すっきりするわ。良く1人で飲んで荒れてた笑」荒れてた原因に向かって満面の笑みを向ける
鳥海「…。頂きます。」ちっともリラックスできないが、確かにスッキリする味だ。
女性「何かの思し召しかな…あなたと二人きりなんて。」洗い物を終えテーブルのポッキーを摘みながら椅子に腰掛ける。ふぅーと大きくため息をつき鳥海に向き直る
女性「私、あなたと夫を認めようと思うの。夫はもういないけど」
鳥海「奥様…。」不安げに女性を見つめ返す
女性「帰ってくる度に貴方の匂いを付けた彼が憎かった、貴方を抱いたその体で私を抱く彼が嫌だった。でも好きだった。貴方と彼と私の匂いが混じったあの最悪な感覚が嫌だった。貴方の中に出したものを私の中にも出す身勝手なあの人が憎かった、でも好きだった。そして恨んだわ貴方を」
鳥海は両手を膝の上に乗せて俯いている…すべて事実だ。
女性「貴方たち艦娘は男の理想がそのままヒトのカタチになったモノ…美しい顔に誰もが憧れるスタイル、そしてそれが劣化することはない。経年でシワもシミもできない、胸や尻が垂れることもなくずっと美しいまま。貴方たちが現れた瞬間、ヒトの女の価値は子を産むことだけの価値になったのよ。」淡々と感情を乗せずに語る、ジュースで口を潤し続ける
女性「定期的に種付けとご機嫌取りを済ませて鎮守府に
パァン!と手のひらを合わせる
女性「愚痴はここまで、でもヒトの女はみんなそう思ってるわ!忘れないで?」空気が一転してとても優しい笑顔に変わる
女性「今でも思うことあるわ。自分の最高の容姿で勝負しても勝ち目は薄いし、しかもヒトはその時間は長く保てない。でもね、この子を宿してから少し考え方が変わったの…かな?」テーブルのポッキーを一本取り、どう対応して良いか分からない鳥海の口に突っ込む
鳥海「ふぐっ!」満面の笑みの女性に気圧されて、入れられたポッキーをそのままポリポリと食べる
女性「男の子ですって、残念ながら…女の子でも私と同じ思いするだろうから、まだ良かったのかなぁ…」お腹をさすりながら語る
女性「軍関係では働いて欲しくないわね、また貴方たちの魔性に捕まってしまうわ、でも結局ヒトの女の中に戻ってくる。本気なんだか分からない愛を呟いて、中に出すモノ出して行ってしまう。」ストローでグラスをかき混ぜる、変わらず表情は穏やかだ。
女性「ねぇ?
鳥海「私にはわかりません…奥様を前にしてこんな事言ってはいけないのですが、私は司令官さんを愛していました。司令官さんもそれを受け入れてくれて、大事にされ生きる楽しみを教えてもらいました。想いを伝えずに沈むのだけは嫌でした、例え司令官さんに奥様が居ようとも…私は私である何かが欲しかったんです。オリジンの強さもない、装置から生まれた沢山の私の中のひとつに過ぎなくても、私である何かが…」と言い顔を押さえて泣き始めた
女性「泣きたいのは夫を取られた私だと思うんだけどなぁ〜」と軽口を叩きつつホールに回り鳥海を後ろから抱きしめる
鳥海「お、奥様…」突然の抱擁に焦る鳥海
女性「ねぇ、あの人の最後はどんな風だったの?」優しく語りかける
鳥海「旗艦船で私たちを庇いながら、無線で奥様と私への感謝と子供を頼むと言い残して…」
女性「ちゃんと自分のことも入れるのは、ちょっぴりムカつくけど素直なのね。変に気を使われるよりは良いかな?」と言いながら、鳥海の腕をさする。何かを探しているような仕草だ
鳥海「奥様?」
女性「本当に傷ひとつない絹のような肌ね…こりゃハマるわ笑」
鳥海「あ、私たちは例え腕が無くなる様な深手を負っても入渠さえ出来れば腕ごと再生されます…ヒトではないので…」視線を落とす
女性「片目が無くなり、両腕が千切れてお腹に穴が空いても?」聞きながら女性は鳥海の手を取り椅子を回転させ正面に向き合う
鳥海「えっ?!は、はい。生きてさえいれば再生可能
女性「そう…。」呟いて鳥海の後頭部を掴み自身の膨らんだお腹にあてる
鳥海「ひゃっ!奥様何を……あっ!」お腹の中からの衝撃を顔に受けて女性を見上げる
女性「やんちゃでしょ?あの人みたいに。好みの子が近くに来て一丁前にアピールしてるのかしら?」ふふふっと笑い、鳥海の頭を撫で始めた
女性「守って頂戴、この子を、ヒトを。愛しい人の竿の1、2本くらいいくらでも
鳥海は目をパチクリさせて驚いている
女性「本当可愛い顔ね、完璧な貴方達の搾りかすみたいな私たちだけど、でもその完璧な貴方達にもできない命を宿すことができるわ。砲も撃てない、撃たれたら死ぬ、キャーキャー騒ぐだけ。私達の居場所は貴方たちに守ってもらわなきゃ生きていけない。」顔を離し、左手の指輪を外す。
女性「海でチリになった夫の指輪はないけど、貴方も軍の指輪以外に貴方だけの指輪持ってるでしょ?」ちょっとイジワルの意味を込めて指輪を手のひらに乗せて鳥海に差し出す
女性「この指輪と貴方の指輪を合わせて、大きくなった息子に渡して頂戴。私もその時に生きていれば良いけど、こんな時代だしね。私に許されたかったら、何がなんでも生き残ってこの役目を果たしなさいな。そして息子にこう言って…」
「あなたには2人のお母さんがいるのよ」
口を押さえ号泣する鳥海
女性「さ、これを持ってお行きなさい。深海棲艦が現れてたった5年でヒトは随分減ってしまったわ、街もボロボロ。私たちは貴方たちに頼るしかないの、文字通り身を削って戦ってくれる貴方に…」指輪を渡し鳥海の肩を抱きながら出口へ付き添う
鳥海「私、戦います。奥様が安心してお子様を育てられる環境を取り戻すために。でも、あの人の息子さんに会うために生き残ります。」腕で涙を拭う
女性「そこは「私達の息子」よ。」ポンと肩を叩く
鳥海「高雄型重巡4番艦 鳥海、必ずや任務を達成します!」出口で店内に向き直りけいれをする
女性「産まれたらお姉さん達でも連れて会いに来なさい、その中に息子を奪う娘がいたりしてね…その時は私の気持ちが貴方にも分かるわ笑。ご武運を」鳥海を見送りバックヤードのホワイトボードに磁石で貼り付けられた資料を見る
「○○提督 高雄型4番艦鳥海 両腕欠損、左眼球消失、右脇腹がえぐれた状態で入渠、18時間後に回復により○○提督殉職の詳細を報告させた。入渠時間18時間は先日轟沈したオリジンに匹敵する所要時間、量産型ではありえない時間のため要研究のこと。」紙の下の方に入って見た時にはなかった赤い文字で
「本日は人と艦娘のお近づき記念デーです、お代は頂きません。スナック フリート」と書かれていた。
「鳥海さん、あとは頼むわね」ふふっと笑い、資料を置き閉店作業に入った。
いつの時代も必要な方のそばに、当店は本日も営業中です
彼女達の息子もいずれこの店に出会う…かもです