ダンジョンで暮らすのは間違ってるらしいケド……。 作:ハイキューw
飲んで食って騒いで一段落。
「ミアかあさーん、ちと用事が出来た。今日もサンキューな!」
ルシファーは、懐から取り出した灰色の布巾着袋を取り出した。
それをカウンターの上に置く。―――ズシッ! と触れるまでもなく、持ち上げるまでもなく、理解した。相当な金額である事が。
そんな袋がひーふーみー……。
「足りなかったらツケといてくれぃっ! 取り敢えず、今持ってる全部な」
「……これで足りない訳ないだろうが」
どさどさ、っと置かれた内の1つをひょい、と拾い上げたミア。
剛腕、豪傑、豪快なミア母さんをもってしても、少々引き攣ってしまいそうになる程の重量感。それが複数。
臨時ボーナス上げても何ら問題ない。暫く時給アップも。
「んじゃあ、潰れた連中の面倒を頼むわ。酒は飲んでも飲まれるな~ っての知らないのかねぇ」
「盛大に煽ったヤツが言うセリフじゃないね。……まぁ、コイツらの学習能力の無さにも呆れるけどさ! よっしゃ、任しといてくれ。酔いがさめるまで、店の空きスペースに放り込んでおくさ」
ぐっ、と良い笑顔と力コブを見せるミア。
結構人数居るが、ミア母さんなら1人でポイポイ千切っては投げ、あっと言うまに片付けてしまいそうなので、安心だ。
店の席が全部埋まっていて、6~7割方はほぼ潰れてる。
素面なのはアイズくらいで、ロキは歩く事は出来そうだけど、ベロンベロンで千鳥足だ。……そっちはアイズが面倒を見てくれるだろう。
しかし、ファミリアに入っている以上、アイズは ロキの子ども。そんな子に面倒を見てもらうとは何ともまぁ、頼りになる女神様だ。
後は ドリルのパーティは 潰れる一歩手前だった。
いつも通り最後まで ルシファーと乾杯、返杯を続けていた。
今日も意地をしっかり見せる為に、豪快に奢ってもらうからには、全力全開でぶつかることを信条とし続けたが故に、最後まで杯を乾し続けていた。
ルシファーの全く赤くなってない普通そのもの、素面である、と言っても全然信じられるいつも通りな顔を見れば見る程、やっぱり 心が折られそうになるのだが……。 突如、用事を思い出した、と言った途端に、身体中の力が抜けたみたいで、ぐでぇ と椅子にもたれ掛かって、
また、1つ冒険を終えた――――厳しい戦いだった、と言わんばかりに真っ白になっていた。
「クロちゃ~ん! また来てにゃーー! 何なら2人ッきりでデートするにゃ♪ 豪華なディナーを所望するにゃ~んっ♪」
「ぅおう! 良いぜ良いぜ! 行くか!」
「んふーー! んふんふ~~!! 言質とったにゃ!? 男に二言は無し! にゃ?? にゃにゃにゃ!!?」
興奮しまくっているのは、店員の1人 猫人のアーニャ。
店中が酒臭くなってしまってるので、空気吸ってるだけで酔ってしまったのかな? と思える程、顔が赤く、息が荒い。テンションも高い。
とりあえず、すり寄ってくるので、ルシファーはアーニャの頭をなでなで、なでりこ。
「にゃーんにゃーん……」
「サボってないで働きなさい猫」
「ぶにゃっっ!?」
強烈なツッコミ(水)を炸裂させるのが、どれだけ騒がしくても、いつもの2倍、3倍……判らない程 酒臭い空間でもクールビューティーさを崩さない美少女 エルフのリュー。
「話半分に聞いてあげてください。クロさん。きっとこの子、明日には忘れてると思うので」
「ぶにゃ~………」
と言うか、この大変な仕事中に客と一緒に飲んでないだろうな? と眼光鋭くさせながら、アーニャの首元ひっ捕まえて奥へと連れていくリュー。
ルシファーは、手をプラプラとさせた。
「ミアかあさんに、皆にもいつも世話になってんだし。オレで良けりゃいつだって付き合うぜ! それに、
親指と人差し指で〇の形を作る……、すなわち、金に糸目はつけない、との事。
以前のリューなら、あまり金銭面での交流は少々品が……とルシファーを窘める事が多かったのだが、この男は軽い気持ちではなく、大真面目に言っている事が判って来たので、そこからは何にも言わなくなったりする。
ただ、金をバラまいているだけではない。人が堕落しない様に、一日を労う時に、思いっきり散財する使い方。余裕ある者の道楽だ、とも思えたが、いつも皆の笑顔を増やしてくれてる人でもあるので、リューも色々と認識を改め続けている。
「………では、機会があれば、また」
「そう言って乗ってくれた事無いよね? リューちゃんはさ」
かくっ、と膝を落としつつ、ルシファーは 踵を返して手を振った。
今日も、大繁盛。大変さを、そして臨時ボーナスをありがとう、と店主&店員は 最大限のスマイルで見送るのだった。
「………もう帰っちゃう?」
店の入り口に居たのはアイズだ。
女神ロキの姿は見えない。ルシファーは、キョロキョロと見回してみると……、まだ酒を煽ってた。女神や男神、ファミリアの子供達以外と飲んでるこれまた珍しい光景だ。
やっぱり、悔しかったのだろう、盛大な愚痴大会が繰り広げられていた。
アイズも一緒に飲んで愚痴に付き合ってあげれば? と一瞬思ったが、……アイズの酒癖の悪さは凶悪極まりない。破壊の権化と化して、物凄く大変だった記憶があるので、直ぐにその案を却下&消去。
「おう! アイズっちも、ロキ姐さん頼むな。神様が泥酔して、路上で大の字とか笑えないだろ? ヘスちゃんに見られた日には、今日以上に荒れそうだし」
「……ん。任せて」
「よろしく! あー、ベルちゃんも着てたら、おめでとさん会も出来たんだけどなー、いやぁ、残念」
ルシファーはそう呟くとアイズにも手を振りながらオラリオの街中へ。人込みの中へと消えていった。
「………本当に消えた」
比喩ではなく、アイズは目で追いかけたが、人込みに紛れたのではない。本当に消えたのだ。
アイズは知っている。あの指を鳴らす所作の後に、何か魔法の様なモノが発動する事に。 仮に透明化する魔法を戦闘中に使えるとして、戦闘中に使われたらどうするか………。
「エアリアルで、広範囲攻撃……かな」
アイズのちょっとした独り言。
ルシファーと戦う事を想定した独り言。
色々とその後も考察し、対策して―――店から離れているルシファーが、盛大にくしゃみをするのだった。
街を歩き、路地を歩き、朝の街並みを、冒険者の行き交いを眺めながら――――軈て、路地の奥、周囲は建物に囲まれた袋小路の場所にて、ルシファーは立ち止まって振り返った。
「………はいはいはい。わかったよわかった。ここで良いだろ?」
両手を広げて、誰もいない場所に向かって両手を広げ、問いかけるルシファー。
傍から見たら何をしてるんだ? と思われるかもしれないが、勿論これには理由がある。
建物の屋上から、物陰から、気配が感じられたからだ。
そして、少しも隠そうとしていない大きな気配もある。
力を出したくて、出したくて、出したくて、たまらない。そんな闘志も一緒に。
直ぐそこの曲がり角から。
ルシファーに応える様に、1人の男が姿を現した。
現オラリオ最強の冒険者と称される猪人 フレイヤ・ファミリアの団長オッタル。
「……珍しいな。お前が待ってくれているなんて」
ずしんっ、と重量感ある足踏みで近づいてくる。
一歩一歩歩くたびに、闘志の影響か、或いは魔法か何かを使っているのか、グラグラと揺れてるみたいだ。
「しょーがねーんだよなぁ。だって、ギルド行った時、相談されたんだ。あの姫さんの|子供達(ファミリア)が街中で殺気立ってる事がある、不安だ~って報告受けてる~ってさ。んで、そのクレーム入る日を聞いてみたら……。まぁ、アレだ。大体オレが撒いてる時だから。身から出た錆ってヤツ? だし、ギルドの皆にも世話になってるし、そろそろ 聞こうかな、って」
両手を広げて、無抵抗をアピールするルシファー。
その後、軽く頭を掻いた後に、オッタルの方を見ていった。
「んで? 何の用? こんな朝っぱらから」
それを聞いたオッタルは、再び一歩前に出て間合いを狭めた。
「……あの方の寵愛を受けろ。あの方が、お前に会いたいと申している。……応えろ」
「ウ~ゥ、随分、熱烈だ事。ってか、姫さんベルちゃんにお熱だって思ってたんだけど、間違ってた?」
ルシファーの軽口のひとつひとつの影響で、路地裏の至る所での殺気が強まるのを感じる。オッタル自身は普通に返している様だが、周りは違う。嫉妬の情念が抑えきれないのだろうか、今にも飛び掛かってきそうな勢いだ。
「ベル・クラネルについても、任されている。……あの方の愛は皆等しく平等だ。1人に収まる事はない」
「なーるほど。考えてみればそりゃそうだ。えっと、確か フレイヤの姫さんは、確か美の女神だったよな」
あまりに無礼。そして自分達の神を馴れ馴れしく、ふざけた呼称で口にする。
我慢の限界が来たのか、其々の得物を手に、2~3人程が背後より飛び掛かって来た。
「…………」
オッタルは、それを別に止めようともせず、ただ静観している。
今、飛び掛かってきている団員達は、皆
そして、知るには良い切っ掛けだと言う事で何も言わなかった。
ルシファーは、気怠そうに親指と中指を合わせた。
「われ~、堕落した王なり~~――――平伏せ~ぃ」
「「「ッッ!!」」」
其々の得物がルシファーの身体を貫く一歩手前。まるで時間でも止まったかの様に、ピタっ! と3人の身体が止まった。それも、宙にいる状態で。
「堪え性無いな。この辺の住人が怖がるような事すんなよー、って言いたいけど、ちょっとオレも無礼だったな。悪い」
もう一度、指を鳴らすと 宙に止まっていた男達が元の場所にまで戻される。
何が起きたのか解らない。
ただ、飛びかかった男たちは唖然としているしか出来なかった。
「礼儀っての、ある程度はオレも学んでるつもりなんだけどなぁ。それに相手も見てるつもりだったし。何せ、相手はここ一番って言われてる神様だ。でも、今はダメだったわ。飯食ったり酒飲んだりする時とか、楽しんでる時――お前さんみたいに強いヤツを前にした時とかは、我慢できず、素が出ちまうんだ。悪ぃ」
「ふ……」
オッタル自身も似たような感覚だった。
この男が、このオラリオに来るまでは、もう暫し感じていなかった緊張感。それを齎してくれるこの男の存在は正直に言えば好ましい。
我らが女神、フレイヤに対し、軽口を言っているが、侮辱はしていない事くらいはオッタルにも解る。
「悪いと思うのなら、あの方の要望に応えろ。それを謝罪と受け取る」