【完】ベン10 CROSS 〜ボクのエイリアンヒーローアカデミア!〜 作:レッドファイル
生徒らが魔獣に対処している頃、イレイザーとマンダレイはバスに揺られていた。おもむろに携帯を取り出し、すぐに切ったイレイザーに、マンダレイは問いかける。
「どうしたのイレイザー。誰かから連絡?」
「いえ、生徒の職場体験先から連絡が学校に合ったようですが…」
「そう‥しっかし無茶なスケジュールだね、イレイザー。魔獣の森だって一年生に攻略できるかい?」
生徒たちは魔獣の森に放り出されたが、教師陣は違う。専用バスに乗りそのまま山のふもとまで向かう。生徒たちがたどり着くまでに夕食やその他雑務を済ませなくてはならないからだ。
舗装された道を危なげなく走るバスの中で、話題は合宿の意義へと向かう。
「まあ、通常2年生で“取得予定のモノ”を前倒しで取らせるつもりで来たので、どうしても無茶は出ます」
この個性社会では、例え正当防衛であろうとも個性の使用は許されない。人々は画一性を失ったため、“防衛のための力”もそれぞれ異なり、法で判断することが難しいからだ。
故に、個性を公で使用できるのは原則ヒーローのみ。このルールはベン達ヒーロー候補生にも当てはまる。
しかし、USJ襲撃、保栖ヒーロー殺し、そして木椰区ショッピングモールでの敵連合との邂逅。幾度も危険に晒される生徒に対し、個性の使用禁止を謳うのも酷である。
だからこそ
「緊急時における個性の限定許可証、通称“仮免”。敵が活性化した今、彼らにも、」
「自衛のすべが必要ってわけね」
雄英の意思をくみ取ったマンダレイ。
敵連合の動きは日に日に厄介になっている。彼らに細心の注意を払い、この合宿を企画した雄英には舌を巻いていた。
「ま、あの子たちがつくのは夕方になるかな。それまでイレイザーは何するの?」
「補習の準備をしたいんですが…夕方までに着きそうなやつが1人…」
・
・
・
バスはピクシーボブを拾い目的地に着く。彼女曰はく、「もう魔獣はありったけ作ったから、後は待つだけ」だそうだ。
プッシ―キャッツの二人はバスを降りて、合宿所へと入…
ろうとしたとき、扉の横にいる子どもを見つける。いや、背丈は子どもなのだが、雄英の制服を着ている。つまり、この短時間で、バスを超えるスピードでたどり着いたということだ。
「ちょ…君、もう着いたの!?」
冷静沈着なマンダレイも思わず驚く。
自分達でも3時間はかかるのに、この子は30分もかかっていない。いや、もしかしたらもっと早かったのかも…
“なにか不正をしたのでは”という疑念がわくも、そもそも不正のしようがないのがこの試練。
目の前の少年は壁に片手を預け、偉そうに
「おいおい、遅いんじゃないの?待ちくたびれちゃったよ」
その言葉に対し何の返答もできないプッシーキャッツ。
担任の相澤は手を頭に当ててため息をつく。
(あの青色のやつに変身したな。確かにアイツのスピードなら20、いや15分もかからない)
実際には5分とかかっていない。
(狙ったやつに変身出来たテニスンは“最強”といっても過言ではないかもしれん。だが、)
「おいテニスン」
「ん?何?速すぎるって?いやぁ、知ってるよそんなことは」
「他のやつらはどうした」
「へ?」
一体何のことだ、と言いたげなベン。ベンの返答が無いことを確認した相澤は、隣にいたピクシーボブに頼み込む。
もう一度森へ放り投げろと
「ピクシーボブさん。お願いします」
「うーん、いいのかにゃ?協力してゴールしろとは言ってないけど…」
「そ、そうだよ!良いこと言うねおばさん!!」
ベンの言葉が彼女の耳に入った瞬間、彼女の逡巡は消え去る。
「さあ行ってこい!!」
ベンが立っている地面が揺れ動く。顔を引きつらせながらも逃げようとするベン。しかし、泥土は無情にもベンを飲み込み、山下へと連れていく。
「な、なんでだよぉぉぉ!!」
再び森へと突き返されていくベンに対し、珍しく相澤が大声で諭す。
「テニスン―!お前はいい加減協調性を覚えろー!」
ベンの協調性は、成長したり退化したりする。それはオムニトリックスを得たことによるものではなく、元来の性質なのだった。
・
・
・
「やーーっときたにゃん」
1年A組全員が、ヘロヘロドロドロの状態で合宿所へと辿りつく。全員、個性の酷使により使用部位はボロボロとなっていた。ベンはというと、
「はぁっっ!!はぁっ!っおえ…」
誰よりもゲロゲロのボロボロだった。意外だなとマンダレイたちは思うが、この悲惨な結果は当然なのである。変身しているとき以外は実質10歳の肉体。付け加えて、いつもはお世話になっているサポートアイテムもここにはないのだ。必然的に、ベンはクラスメイトに助けられながらここまで来たのだ。
“助けてもらえる”これもある種の協調性である。しかし、ベンが助けられたのはあくまでもクラスメイトだからである。普段のベンでの態度であれば、もしプロになったとしても誰も助けてくれない。
変身できないときに1人ならば、ベンはたやすく死んでしまう。そう考えた相澤は協調性をベンに求めたのだった。それは、自身も一人では簡単に死んでしまう個性だからこその気づきだった。
ともあれ、ここまで全員がたどり着けたことは素晴らしいことであった。
「皆、思ったよりも強いね。特に、そこの4人。強さの秘訣は経験値、かしら?」
緑谷、爆豪、轟、飯田を指して褒めるピクシーボブ。確かに彼らには敵に襲われて戦った経験がある。
だが、この男もその経験はしこたまあるのだ。
「あれ!?ボクは?!」
「うーん、君は人間性に難ありだにゃ!」
自身の性格を愚弄されてベンは敵の急所を穿つ。
「ちぇっ!おばさんだって、人間性に問題あるからけっこ…グウェ!!」
肉球で口を塞がれるベン。クラスメイトは、“疲れているのに、よくそこまで口が回るな”、と思っていた。
なんとかしてこの空気を一新しようとし、緑谷が話題を変える。
マンダレイの後ろに隠れていた、男のへと目を向け、
「そ、そういえば、その子はどなたかのお子さんですか?」
角のついた赤い帽子を深くかぶった少年のことだ。黒めが小さく、帽子で影になった目からあまり好意的なものは感じ取れない。
「ああ、この子は私の従甥だよ。滉太!ホラあいさつしな!」
乗り気じゃないではないのが見て取れる。叔母に言われたからと渋々緑谷の前へと歩く。
「あ、えと、僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」
GOTINN!!
挨拶を終えると同時に、小気味よい音が緑谷の股から聞こえた。急所を右ストレートでえぐられたのだ。
金的をまともくらい「キュウ」と倒れる緑谷。滉太の突飛な行動に驚き、注意をする飯田。しかし彼は無視する。ベンはというと、その様子を笑っていた。
「あっはっは!イズク綺麗にやられたじゃん!」
指をさし笑う。滉太と精神年齢が近いからだろうか。1人仕切り腹を抱えた後、涙を脱ぎながら、滉太へ握手を求める。
「あはは、お前、おもしろいな。ボクはベン。将来は最強のヒーローに成る男だ」
「何言ってんだチビ」
白けた目で呟く。
当然、滉太の心は開かれない。むしろ、自分と同じ背丈の子どもが夢物語を語っていると思われる始末だった。
笑顔で差し出したベンの右手は生き場を失いきまずそうだ。だが、一拍おいた後、その手はウォッチへと向かう。
「誰がチビだって…?これ見てもそう言えるかな…?」
「バカやってないでさっさと準備しろ。夕食を済ませたら入浴、そして就寝だ。明日は地獄だぞ」
イレイザーの一言に、皆は安堵の笑みを浮かべた。
・
・
プッシ―キャッツの用意したご馳走をペロリと食べ、生徒は露天風呂へと向かう。
露天風呂からは星々がはっきり見える。それは周囲に禄に建物が無いことを示していた。
そして、この山にいるのは雄英生のみ。つまり圧倒的に観衆の目は少ないのだ。もし都会で行うと犯行がバレることも、ここでなら…
「やれるってわけですよ」
「ど、どうしたの峰田君。急に壁の方を向いて」
今はA組の入浴時間。男子女子が同じ時刻に、隣り合う露天風呂で疲れを癒している。
性欲の権化である峰田は、男風呂と女風呂を隔てる壁に耳を当てていた。彼の耳には女子たちの透き通った声が突き抜けてくる。
「わかるか緑谷?今日日男女の入浴時間をずらさないで、しかも隣に風呂を配置するなんて事故、事故なんすよ。つまり、今から俺がする行為は仕方のないことなんすよ」
男子生徒たちは峰田の行為にピンときて顔を赤らめる。といっても、上鳴はおもしろそうといった表情、爆豪は完全無視、そしてベンに至っては“なんのことだろう”と言った顔だ。
規律と道徳を重んじる飯田は当然注意する。
「峰田君やめたまえ!君のしていることは己も女性も貶める恥ずべき行為だ!!」
が、脳内がピンク色に染められた彼には何の抑止にもならなかった。
「やかましいんすよ…」
悟りを開いたかのような仏顔を見せたが早いか、峰田は猛スピードで壁をよじ登る。期末試験で学んだことを口走りながら。
「壁とは超えるためにあるんだ!プルスウルトラ!!」
MOGI MOGI JUMP JUMP
「校訓を怪我すんじゃない!!」
彼の個性から想像もできないほど俊敏な動きを見せる峰田。一段上る度に息遣いは荒くなり、頭に血が上る。
(この時のために、この時のためにオイラは!!)
悲願の女体はすぐそこに。彼は欲望のままに壁をよじ登…
れなかった。
バッ!
壁の上には、棒切れを持った滉太が佇んでいた。その棒切れを峰田の頭に突きつけ、
「ヒーロー以前に人のあれこれから学びなおせ」
ドンっと慈悲なく突き落とす。真っ逆さまに男子風呂に落ちていく峰田。その様子を無感情に見届けた後、滉太はくるりと振り返る。
それが良くなかった
振り返った滉太の目に入ったのは、峰田が死んでも拝みたかった景色。歳がいくつ離れていようとも、男の子にとってそれは刺激の強いものである。
「わっ…!」
驚いた拍子に足を踏み外し、壁から落下していく。このままでは石畳の床にたたきつけられる。
ゴチン!!
だがそれは免れた。なぜなら
「…いったぁぁい!!!!」
湯船から上がり、脱衣所に向かっていたベンがクッションになったからだ。まあ両者ともに頭を強打したわけだったが…
「なに!?なになんなの!?」
状況がわからないベンはただ頭を摩る。ぷっくりと晴れ上がったたんこぶは、彼が初めて身を挺して誰かを助けた証となった。偶然に…
その後、滉太をマンダレイの元まで届けた緑谷とベン。彼らは彼女から滉太のヒーロー嫌いの話を聞いた。
両親は個性があったからヒーローに成って、そして敵に殺された。全部、個性が悪いんだ。ヒーローも敵も、個性を振り回して、そして振り回されてバカみたいだ。
滉太の考え方はおよそ10歳のものとは思えないものだった。
ベンも緑谷も無個性であり、ヒーローに憧れた者だったので理解は出来なかった。
しかし、ヒーローは死ぬということが頭に残っていた。
・
・
・
翌日。日の出とともに彼らの合宿二日目が始まった。まだ寝ぼけ眼の者もいるが、しっかりと体操着に着替えている。
普段から4時間睡眠のイレイザーはいつも通りに説明する。
「本日から本格的に強化合宿を始める。目的は個性の強化。お前たちが仮免を取得するには必須の訓練だ。と、言うわけテニ…爆豪、これを投げてみろ」
ベンでは思惑通りいかないと判断したのか、爆豪にソフトボ―ルを投げ渡す。それは以前体力テストで使用したものだった。
「前回の記録は705.2m…どれだけ伸びてるかな?」
挑発的な物言いの先生。爆豪は肩を回す。
周囲は期待する。入学から3か月。ヒーロー基礎学や体育祭、期末試験などを経て成長した実感はあった。今の自分たちは前とは比べ物にならない。そう信じて疑わない。
「おっしゃー爆豪!1キロいったれ!!」
「みせつけろ爆発さんたろう!!」
「誰がだクソ髪…ったく…んじゃよっこら‥」
【くたばれ!!】
FAABBOMM!!
物騒な言葉とともに白球は彼方へと飛んでいく。爆破の勢いを球に乗せることで記録は規格外のものとなる。しかしその記録、
「709.6メートル」
【!!??】
その差4メートル。彼の成長は数字で表すとたったそれだけ。当の爆豪は機器の故障を一瞬疑うがすぐにその考えを改める。
生徒のざわつきを収めるようにイレイザーは述べる。
「約3か月。様々な経験を経て確かに君らは成長している。だがそれはあくまでも技術や精神面。個性そのものの成長は微々たるものだ」
そこで気づくものは気づく。この合宿の意義を
「これから君たちには“個性”伸ばしてもらう。死ぬほどきついがくれぐれも…死なないように」
全員に対して平等に刺さる言葉。個性は身体機能。ゆえに、鍛えようと思わなければ強くならない。これまでの人生で個性を強くするという考えに至らなかった彼らにとって、“個性を鍛える”ことは未知であり伸び代でもある。
しかし、個性のないものはどうすればよいのだろうか。
(オムニトリックスって鍛えられんの?)
1人、少年は首をひねった。
次回は個性伸ばし!!そして…
最もおもしろかった章
-
(A)雄英受験、入学
-
(B)戦闘訓練(緑谷、ベンVS轟、爆豪)
-
(C)GW
-
(D)USJ(ケビン戦)
-
(E)体育祭(ウォッチの故障)
-
(F)職業体験(オムニトリックスの秘密)
-
(G)期末試験(ゴーストフリークの反乱)
-
(H)林間合宿(4アームズマスキュラー)
-
(I)神野編(エイリアンフォース)
-
(J)終章