【完】ベン10 CROSS 〜ボクのエイリアンヒーローアカデミア!〜 作:レッドファイル
全身が熱い。熱が体中を駆け回っている。
次第に、その熱さは痺れるような痛みへと変わっていく。稲妻が掛けるような、鋭い痛み。そして痛みは、徐々に右腕に集約されていく。
なにかが、体の奥底から飛び出る感覚。
あまりの痛みに顔を上げる緑谷。目に入るのは遠ざかったケビン11。
(く…そ…!逃がして…
?こっちを振り返って…なんだ…あの顔?…?)
ケビンの形相に疑問を抱くも、己の体は言うことを聞かない。今の痛みは反動によるもの。そう考えていた。
が、強烈な刺激が右腕に走る。と同時に、彼の体は空へと押し上げられる。
急な上昇に目を丸くする緑谷。眼下にはケビンが己を見上げている。そして、視界には揺れるなにか。そのなにかを目で追うと、たどり着いたのは自身の両腕。
そこからは、青黒いエネルギーが溢れ出ていた。エネルギーは、地面を押すようにして彼の体を持ち上げている。
「!?なんっ‥‥だこれ!!??」
眼を見開く。ユラユラと揺れるエネルギーは、今なお緑谷の両腕から漏れている。そして、彼が気づいたことを皮切りに、滝のように、帯状の…黒い鞭が暴れ出す。
そして、
「…!避けろ!!!!」
「!?」
BBAASSHHIMM!!!
黒鞭はケビンを果ての果てまで薙ぎ払った。
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遠く見えないところまで伸びきった黒鞭。ケビンを押しやったかと思うと、ギュルンと緑谷の元へ帰ってくる。一瞬安堵する。
が、そう思うのも束の間。黒鞭は、意思を持ったかのように、四方に飛び出る。
GWOON!!BASHIIN!!
始めは一本だけだったが、徐々に本数が増え、またその太さ、強度も増していく黒鞭。何本もの縄を縒り合わせたような黒鞭は、周囲の木々を容赦なく薙ぎ倒す。。
突如暴走するOFAに驚きを隠せない緑谷。必死に制御を試みるが、その意図叶わず、森林は無残に荒野へと変貌していく。
手ごろな大樹を見つけたかと思うと、黒鞭はその身を絡ませ、主である緑谷の体を引っ張り、振り回す。
「やめろ!!止まれ!!止まってくれ!!!!」
何度も、何度も叫ぶ緑谷。縦横無尽に宙を舞う彼を、クラスメイトが発見する。しかし、そのスピードと凶暴さに何もできない。
「緑谷ちゃん!?…よね?」
「デク君!!敵に…!」
緑谷の状態を案じ、救助に向かおうとする麗日と蛙吹。しかし、黒鞭の弾性、遠心力による移動は目にも止まらぬ速度であり、彼女らが追いつけるはずもなかった。それに、
「どこ余所見してんのさ!!」
「あたしたちを無視するとは良い度胸だね!!」
彼らもまた、危険に晒されていた。
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敵、味方、崖、森林。全てをお構いなしに破壊していく黒鞭。全身全霊をかけて止めようとするも、それは言うことを聞かない。
DWUNNNN!!
空中から今度は地面への落下。猛スピードの不時着により大地は割れる。骨が一つ二つと折れる音がする。が、緑谷はここしかないと自身の腕を押さえる。
彼の制止を振り切るかのように、腕はビタンビタンと暴れる。さらに両足で手を押さえつけるが、今度は背中からも黒鞭は溢れ始める。
また先の暴走状態になるのも時間の問題だった。
泣きそうになりながらも必死に食い止める緑谷。
そこに、誰かが近づいてくる。木々の影から、ザッザと軽い足音がする。
敵か、仲間か。暗くて視認は出来ないが、とにかく遠ざけなければ。命が危ない。
「…近づくな!」
珍しく強い口調。それほど緑谷は切羽詰まっていた。
林の影から、
カチリ
と音がした。
黄色い波動が緑谷を覆ったかと思うと、
「お前は…朝まで起きない…」
その声で、ストンと意識が落ちた。
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・
数メートルの白床。後は真っ黒に染められた世界。在るのは自分。いや、その自分ですら、存在が危うい。
緑谷は、いつか見たこの世界に再び足を踏み入れた。
(ここは‥‥)
その時、
「おうおうおう!!わかってない!わかってないんだよ!おめぇぇぇよぉ!!」
スキンヘッドの、ファンキーな男が現れた。
・
・
・
「な、何だったんだ、さっきの…いや、助かったけどさ…」
体を小さくしながら、先ほどの事態を思い出すベン。
マスキュラーが滉太を殺そうとしたとき、突然黒色のエネルギーが彼を襲った。
黒いなにかは、マスキュラーの体を壁に押しやったかと思うと、今度は体を掴み、崖下へと叩きつけた。
その隙に、ベンと滉太は反対側から崖を降り、森へと身を隠したのだった。なんとか窮地を脱することは出来たものの、彼のダメージは生半可なものではなかった。
「あいたたた…右腕が…これじゃあダイヤルを回せないや…」
「おい…大丈夫かよ…」
腫れ上がった右腕を見て、滉太は心配する。自分のために此処までの怪我を負ってくれたのだ。出会ったときのような、生意気な態度はとても取れなかった。ベンを心配しつつ、親の仇の変貌を語る。
「あいつ…僕が知っている姿じゃなかった…」
「ああ…4本腕のことでしょ?あいつ絶対フォーアームズをパクってるよ…けど、どうやったんだ?」
「お、お前こそ、あの変身はなんなんだよ。合宿所に来るときは青色のトカゲだったのに!」
「XLR 8ね…とりあえず、ウォッチが回復したらXLR 8で逃げないと…!あ、それと」
DDOWNNN!!
ベンの言葉を遮るように大地が揺れる。
砂ぼこりが舞い、地面にはクレーターができる。煙から薄っすら見えるそのシルエットにうんざりする。
アイテムもウォッチも使えない今、息をひそめ、何とかこの場を乗りきろうとするベン達。
「おいベェェン!!!ここいらにいるんだろ!?どうせまだ変身できないみたいだし、わかってんだぜ!」
マスキュラーは声を張る。
(変身時間のこともバレてる。何としてもあと2、3分は時間を稼がなきゃ…)
幸い、今は20時を超え、月明かり以外光源はない。ベンと滉太の体格ならば、茂みに隠れて移動すれば脱出可能。
そう思った。
しかし、
「ったくよぉぉ!!出てこないんなら…しょうがねぇよなぁ!!」
メリメリ
と彼の脇腹から再び2本腕が生えてくる。先ほどのように、フォーアームズと同種の姿となったマスキュラー。
そして、思いっきり伸びをしたかと思うと、両腕を目一杯広げる。そして第一腕、第二腕を勢いよく擦り合わせる。
それは、ベンが先にしたクラップだった。
PPAANN!!
鼓膜を突き破るほどの轟音の後に、周囲の木を根っこから吹き飛ばす暴風が繰り出される。
拍手による風圧はある程度の指向性を有しており、衝撃はベン達の真横を通っていった。
その風が通った後には、先ほどまであった木の穴しか残っていなかった。
ゴクリと唾を飲み込む。まともにくらえば良くて大怪我。下手したら死すら有り得る。チラリと隣を覗くと、プルプルと振るえる滉太。がっしりとシャツの裾を掴み、ベンに(に・げ・よ・う)と口の形だけで訴える。
タラリと首筋を伝う汗が地面に落ちた時、ベンは決心する。滉太に逃げるよう伝えた後、茂みから数歩離れる。
マスキュラーがもう一発と腕を掲げた時、
「まて!!」
ベンは姿を見せる。
「お、出てきたか。ガキはどうした?」
「へん、お前があんまりにも遅いから楽々逃げれたよ!あとはお前をぶっ飛ばすだけだ!!」
「はーん。さすがの威勢だなぁ。で、次はお前、何に変身するんだ?」
「…っ」
まだウォッチは赤く光っている。そもそも、エイリアンの中で最も汎用性に長け、なおかつとびぬけた戦闘力を持つのがフォーアームズだった。その彼が倒された今、最善策はXLR 8やスティンクフライによる逃亡であった。
(ヒートブラストの火責め…いや、あいつのパワーにかき消されるだけだ…ダイヤモンドヘッドなら…馬鹿、フォーアームズを超えるパンチ力だぞ。壊されるに決まってる…ディトー、アップチャック、キャノンボルトなら…って、そもそもダイヤルを回せないんだから意味ない!!)
沈黙のベンに飽きたのか、マスキュラーは肩をすくめる。
「はぁ。もうネタ切れかよ…せっかく面白くなってきたのによぉ」
「じゃ、じゃあもう少し待ってみないか?そしたら絶対に面白いと思うんだけどなァ?」
「ははっ!そうか!じゃあ、といいたいところだが、もうやらなきゃいけねぇんだよ」
じりじりと距離を縮める。それに対し踵を返し逃亡を図るベン。滉太のいる茂みとは反対側へと駆けだす。
「おっと、逃がさねぇ!!」
GGOWWN!
回り込むマスキュラー。ベンに向かって拳を一振り。ただのパンチは、底上げされたパワーで空気砲と化す。
繰り出された風は、ベンと木々を捕らえ、数十メートル吹き飛ばす。ボールのように跳ねながら地面を転がるベン。土と砂利が体を擦る。
人間体のときに、彼は傷を負うことはほとんどなかった。しかし今、エイリアンを超える化け物により、彼は腕すら満足に上げられないほどの損傷を受けていた。
「お前を倒した後は…そうだなぁ。オールマイトともやってみてぇなァ!!今の俺ならやれるさ!!」
高らかに夢を語る敵。彼の声が耳をつんざくが、何もすることができない。
動かすことができるのは瞳のみ。ねじ曲がった腕に目をやると、ウォッチはチャージを回復していた。
(よし…!!…変身…しなきゃ…ボクが、負けたら駄目だ…オムニトリックスは、宇宙を平和するためのモノ。こんなところで負けてるやつが…そんなこと、できるわけないだろ!!)
アズマスの顔が頭に浮かぶ。身を鼓舞するも、体はいうことを聞かない。なんとか、ボタンを押すことはできないか。そう思案していると、
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」
さきほど逃がしたはずの滉太が駆け寄ってきた。
「っ!!どうして!逃げろって言っただろ!!」
滉太はベンを背負おうとし、彼の腕を取る。
「逃げよう!無理だって!勝てない!」
滉太はベンより少し身長が低い。幼い彼に、ベンを背負うことは容易ではない。しかし、なんとか、なんとかベンを救けようと歯を食いしばる。上半身のみを背負い、ズリズリと引きずる。
「離せよ!!ボクはいいから逃げろ!!」
「い、嫌だ…!!お前が…殺される!!」
泣きながらもベンの腕を離さない滉太。そんな彼を見て、ベンは唇を噛みながら提案する。
「ぐ…滉太…」
「…ボクの時計を押して…くれ」
滉太は一瞬戸惑う。だが、すぐに彼の意図を察して抗議する。
「な、さっき負けたじゃんか!!ぎゃっ!!」
力の限界か、ベンを背負った滉太は躓く。
地面に投げ出され、ただうつ伏せになるベン。もう起き上がる力もない。しかし、その瞳で泣きじゃくる滉太に訴えかける。
「関…係…ない!」
「どうして…ヒーローでも何でもないだろ!お前!!」
「…言ったろ?ヒーローだから救けるんじゃない。救けるからヒーローなんだって!」
渾身の笑顔を見せつけるベン。
「だから、今お前もヒーローだったよ!ボクほどでも無いけど…ね!」
その言葉で、滉太は両親を思い出す。力及ばず、マスキュラーに虐殺された父と母。しかし、彼らは、紛れもないヒーローだったのだ。
「…!!」
泣きながら、ウォッチの小さなボタンを押す。あふれ出る涙で視界がぼやける。
キュワンという音と共に、中央部分が盛り上がる。そして、ひし形のマークの中にはシルエットが浮かぶ。
もう選出の余裕はない。
ただ、己の命運を信じるのみ。そうベンは覚悟する。
滉太は自身の両手をダイヤルに重ねる。そして、全体重をかけるように、ダイヤルを押し込む。
「あり…がと」
小さなベンのお礼とともに、なじみ深いあの音が耳元で響く。
QBANN!!
眩い緑光と同時に、ベンは意識を失う。
蛍色の明かりが周囲を照らす。その眩しさに思わずマスキュラーと滉太は目をつぶる。
オムニトリックスから放出されるエイリアンDNAは、ベンの体へと撃ち込まれる。初めて混入されるDNA。だが彼の体は何の拒否反応も起こさず受け入れる。ドクンドクンと脈打ち、彼の細胞は変化していく。
緑色の光が晴れ、細めた目をゆっくりと開けるマスキュラー。
変身衝撃で少し後退した滉太。
彼らの目に入ったのは赤と白だけ。
紅白というシンプルかつ明瞭に彩られた彼は、
ただ、ただただ、巨大だった。
・やっと出せました。この作品を書き始めた時からこいつの出番はどこにしようかと悩んでました。
・読者さんでもこいつを待ってた人はいるんじゃないでしょうか。
・しれっと色々出てますね、この話。
最もおもしろかった章
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(A)雄英受験、入学
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(B)戦闘訓練(緑谷、ベンVS轟、爆豪)
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(C)GW
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(D)USJ(ケビン戦)
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(E)体育祭(ウォッチの故障)
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(F)職業体験(オムニトリックスの秘密)
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(G)期末試験(ゴーストフリークの反乱)
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(H)林間合宿(4アームズマスキュラー)
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(I)神野編(エイリアンフォース)
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(J)終章