【完】ベン10 CROSS 〜ボクのエイリアンヒーローアカデミア!〜 作:レッドファイル
91話 兆し
「以上でホームルームは終わり。すぐに寮に帰り、出歩かないこと。わかったな」
書類をまとめ、足早に教室を出ていく相澤先生。隣の教室から出てきたブラドキング先生と合流し、階段を下りていく。
久しぶりの学校であるにも拘わらず、先生達は常にせわしく動いている。だけどそれも、しょうがないことかもしれない。
【神野事変】から一週間が経った。私たちを含めた雄英生徒に出された指示は、“学生寮に入り、雄英敷地内から出ない”こと。
あの日、エイリアンを名乗るベン君がオールマイトを殺傷。駆け付けたヒーロー達も、彼の圧倒的な力にはなすすべもなく敗北を喫した。
多数のヒーローを死に追いやった彼は、地球を支配するという言葉を残し、どこかへ消えた。
そのとき、私は思わずホッとした。少なくとも、もうテレビの中で誰かの血が流れることは無かったから。
だけど、本当の地獄はここからだった。
現代ヒーローが束になっても勝てない敵。その敵は誘拐されたヒーロー育成校の生徒。
この事実はマスコミこれでもかと刺激した。
人を叩く大義名分が出来たから。平和の象徴を失った不安だから。エイリアン、なんて意味不明な言葉が横行しているから。
聴衆は我も我もと雄英に責任を問うた。
マスコミと敵連合。両者から生徒を守るために雄英は寮を建設し、生徒を守ろうとした。その先生達はマスコミへの対応でまともに授業もできない。
私たちの日常はもう戻ってこないのだろうか。
「麗日ぁー。なにか言ったぁ?」
「ううん、なんでもない…」
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突貫工事で作られた雄英生徒寮。工程日数は3日と短期間であるが、プロヒーローが個性をフル活用して作られただけあって、設備はしっかりしていた。
1人小部屋で、お昼に考えていたことがぐるぐると頭をめぐる。
ベン君は一体、何者なんだろうか。それに…
陰鬱な空気が部屋に充満している気がして、部屋を出た。少しでも新鮮な空気を吸いに、ロビーへと向かう。
エレベーターを降りて、廊下を抜ける。
すると、クラスの皆がロビーに集まっていた。
何を話すわけでもなく、ソファーに腰を掛ける皆。いや、話したいことは一致している。だけど、切り出すに切り出せない。
そのまま徒に時間が過ぎていく。その沈黙を破ったのは峰田くんだった。
「…ほんとに…テニスンがやったのかな…?」
ぼそり、となるべく否定してほしそうに呟く。彼の言葉を皮切りに皆が話し始める。
「いや、そんなわけねーだろ!!普段はチャランポランだけど、あいつはヒーローに憧れてた、漢気溢れるやつだ!」
反射に等しい速度で切島君が否定する。彼に同意するように、飯田君が続く。
「うむ。テニスン君があんなことをできるとは思えない。確かに力はあるが、誰かをむやみに傷つける人間ではなかったはずだ」
両手を振りながら力説する。
私もそう思う。
頷く私の対面で、八百万さんも追随する。
「林間合宿では私の訓練を手伝っていただきましたわ!もし敵ならあんなことする必要ないと思いますわ!」
八百万さんの言う通り、私たちはベン君に協力してもらった。其の甲斐あってか、あの短期間でレベルアップを果たしてる。
だけど、彼女の意見は逆効果だったからもしれない。
「確かに…でも、だからこそわかるんだよ…テニスンの強さ…あれは、姿形だけ真似しても到達出来ない強さだ…」
林間合宿でダイヤモンドヘッドと訓練した尾白君。
「いや!!でもッッ…確かに…あの硬さは…」
尾白君と同様にベン君と訓練した切島君。先ほどのように反論できず歯切れが悪い。
彼らの言葉で押し黙る八百万さん。皆も思い出す。あの夜、オールマイトをはじめとするプロヒーロを蹂躙したダイヤモンドヘッドを。
そう。このクラスの皆はベン君の力を認めてた。とくに、林間合宿ではそれぞれが感じたんだ。彼のレベルが、自分らでは理解できないほどの領域に到達しているのを。
だから、テレビに映ったベン君が、姿をコピーする個性の類ではないと判ってしまう。
間違いなく、あの強さは本人ではあると。
「洗脳…されたんじゃないか?」
皆が沈黙したところで、常闇君が初めて口を開く。
「…どういうことだ?」
「敵連合の中に干渉系の個性持ちがいたとして…奸計千手。そいつに操られているかもしれない。」
「確かに…テニスンのやつ、妙に精神が幼かったし…有り得る!!」
操られたか、体を乗っ取られたか。
いずれにせよ、あの行為はベン君の意思ではないのかもしれない。
そんな淡い希望が見え隠れし始めたところで、後ろから水を差す一言。
「ねーよ」
割って入ったのは爆豪君だ。タオルで頭を拭きながら、彼は近づいてくる。そして、ポケットに手を突っ込んだまま、ドッカと中央に座る。
「敵連合の中に、んな個性を持ってるやつはいなかった。いたんなら俺にも掛けてくるはずだ」
ベン君と同様に誘拐されていた爆豪君。頭の切れる彼の言葉は皆の淡い希望を打ち砕くには十分だった。
「じゃあ…テニスンの意思であんなことやったてのか?ってことはあいつ…最初からおいらたちを!?」
動揺する峰田君に爆豪君は、
「知るかよ」
と、身もふたもないこと言葉。押し黙る峰田君に気を遣ったのか、轟君が諫める。
「爆豪。じゃあお前はどう思うんだ?」
彼もベン君と本気で戦った一人だ。
多分、このクラスの皆はベン君を信じたいんだろう。だけど、見聞きした情報と、自身の体験。其の2つが
“彼は本物だ”と告げている。
轟君の問いに、爆豪君はさらりと答える。
「少なくとも俺らが何か話し合っても無駄だってのはわからぁ。大体、あのチビが何者だろうと、何を思っていようと知ったこっちゃねぇわ。」
無責任ともいえる言葉を言い終え、彼は席を立つ。しかし、去り際に彼は首元を親指でかっきり、
「ただ…ぶっ飛ばすだけだ」
そう言い残し、彼は部屋に戻る。爆豪君は“自分たちが考えても仕方がないから、他にできることをしろ”ということを伝えたかったのかもしれない。それを察した皆は次第に席を外していった。
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部屋に戻るために階段を上ると、なにやら手荷物を持ったデク君と鉢合わせた。
「デク君。」
デク君の目元には隈ができていた。あまり寝れていないのかもしれない。当然だ。
親友と憧れの人。その二人が同時にいなくなってしまったから。
あの日から…デク君はあまり笑わなくなった。表情は無機質なものになって、だんだん近寄りがたくなっている。皆ベン君とは別に、一番に彼を心配している。
こんなときこそ私たちが支えにならなきゃ。
頬に力を籠め、無理やり口角を上げる。
「こんな夜にどうしたん?今からどこに?」
私は上手く笑えているだろうか。
「…ちょっと外に…」
「外って…駄目だよ…相澤先生にも言われたやん…」
「…ごめん。内緒にしててもらえると助かるな…」
そう言って背を向ける彼。この暑いのに、長袖の体操服を着ている。
多分、なにかしらの特訓だと思う。そのための服。
ベン君を助けるためなのか、それとも敵連合と…
不思議だけど、彼は何でもできるほどの力を持っている気がする。それこそ、オールマイトみたいに。
だけど、だけど、だからといって、彼が戦線に出ていいわけじゃない。もう、ここから先はヒーローに任せるべきなんだ。
そう思い、彼を止めようとする私。
その目に、一瞬黒い何かが映った。階段を降りるデク君の腕からだ。見間違いかもしれない。だけど私はどうしようもないほど不安になった。
まるで、デク君が人ならざるものになっていく気がして。
「…デク君…」
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病院の待合室で1人、グラントリノは弟子を思う。
(俊典…)
AFOの護送に付き合っていた為、建物から誰か出てきたことを彼は知らなかった。
しかし、すぐに連絡が車に飛んできて、テレビをつけた。すると、弟子のオールマイトは腹に穴を開けられ突っ伏しており、多くのヒーローが一人の敵と戦っていた。
その敵とは、オールマイトの教え子であるベン=テニスン。
彼のことは体育祭で知っていた。なにやら、特別な力を持っているとも聞いていた。
だが、まさかその“特別”がこのような結果に至るとは…
(誰より悪に敏感である俊典が、一年も一緒に過ごして気づけなかったのか…?)
そんな疑念が頭に浮かぶ。OFA9代目継承者 緑谷出久とともに訓練をしたというベン=テニスン。正直、未だに彼が教え子にやられたということを飲み込めていない。
ふと顔を上げると、目の前には新聞記事がいくつも並んでいた。
事件から一か月がたつが、未だに記事はあの日のことだ。
【オールマイトは死んでしまったのか!?それともどこかでまだ生きているのか!?】
【ベン=テニスンの祖父はあのアメリカンヒーロー、マックス=テニスン!従妹も含め、彼の親族は雲隠れ!?】
【個性の正体はエイリアン!?異形型はエイリアンそのものなのか徹底検証!!】
(馬鹿げたことを…)
内容が真実かどうかわからない。だが、少なくとも誰かを傷つける内容であることは確かであり、それを堂々と紙面に書き表す記者に、柄にもなく苛立ったグラントリノ。
これも、オールマイトが未だ意識不明であることからくる焦燥、苛立ちからだろうか。
小さな手で温くなった緑茶を一飲み。くしゃくしゃになった紙コップを捨てるために入口付近へ向かうと、男性とぶつかる。
「おっと、わりぃな」
「いえいえ。こちらこそ、グラントリノ」
スマートな口ぶりで謝ったかと思うと、自身の名を呼ぶ男。視線を挙げ確認する。
「…ホークスか」
「初めまして。お噂はかねがね。」
正対していたのは、№3、いや、№2ヒーロー ホークス。ペコリと挨拶するとともに、相手の警戒を解くような笑顔を見せる。
「…こっちも小耳に挟んでるぜ。公安の根暗野郎どもから色々やらされてるんだってな」
「さすがヒーロー界の生き字引。なんでも知っていますね。ご一緒にお座りしてもよろしいでしょうか?」
「…好きにしな」
部屋にいるヒーローが2人となった。
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「オールマイトさん。未だに意識が戻らないそうですね」
「ああ。なんでも“なぜ死んでいないのかがわからない”だそうだ。」
2杯目のお茶をすすりながら、管に繋がれ目を瞑るオールマイトを思い出す。
「けれど、平和の象徴がそんな状態であることを世間に晒すわけにもいかない」
「ああ、だからこのセントラルの秘匿救室で世話してもらっている。雄英の生徒らも知らねぇことだ」
「そうですか…確かにその判断は正しいと思いますが…すぐに限界が来てしまいます」
「なんだって?」
要領を得ない言葉に、思わず聞き返すグラントリノ。
「雄英生徒とは言え、すくなくともたった一人の子どもに、トップヒーローらがやられた。この事実はあまりにもこのヒーロー社会を揺るがす」
「それは大げさだろう。確かに俊典のやつが活動できなくなれば犯罪率は増加するだろう。だがもう轟のやつらは活動再開している。ヒーロー飽和社会だぞ?対抗する敵組織なんて…」
「俺もそう思います。が、公安はそうは思ってないようです。」
「何?」
「敵連合は保栖でのテロで求心力を高めました。そして今回の神野事変。悪意のよりどころとしての核が完成しています。」
「つまり…組織犯罪が増えることを懸念しているのか?」
「いえ、もちろんそれもですが…問題は、テニスン君の発言です」
「発言?」
「【僕はエイリアン】【宇宙人は存在する】…」
「はッ。子どもの戯言だ」
「ですが、その戯言を受け、公安は動き始めた」
「…心配性なやつらだからな」
「確かにそうなんですが…俺はそれだけではないと思うんです」
ホークスはおもむろに立ち上がると、正面に広げられていた新聞を手に取る。そこにはエイリアンのことが長々と書かれていた。
「思えば、“個性”そのものが何なのかは未だに結論が着いていませんでした。もし、これが、エイリアンのせいだとしたら…」
「馬鹿馬鹿しい。」
「…テニスン君ですが、彼の戸籍を調べたところ、彼は無個性と登録されていました。」
「…ッ!?」
「そう。彼のあの変身は個性なんかじゃないんですよ。実際、イレイザーヘッドや他の人間にも確認を取ったところ、およそ個性だと思える証拠はなかったんです」
「だがあいつは多くの変身をしていたろう。それこそが個性の…」
ハッ!
「そうです。彼の変身こそ、エイリアンの力によるものだとしたら…」
真剣な顔のホークス。赤いサングラスの奥で、彼の瞳は静かに語る。
「先に言った問題とは、この考えがマスコミたちによって徐々に浸透していることです。それこそ、世間は混乱に陥り、一部の人間は敵連合といった“自由派”犯罪組織に迎合してしまう。なにより、エイリアンという言葉を利用し、一昔前のような差別が横行してしまう。」
「異形狩り…か。」
「はい。ですので今、公安はそのようなことが起きないように根回しを行うとともに、テニスン君の力の源、敵連合について調査していくようです。」
「そうか…思ったよりも、事が複雑になってきてやがるな」
長居溜息をつくグラントリノ。ほぼほぼ引退した身であった彼には堪える社会変革。いや、まだ起きてはいないが、公安が予想しているのならば、十二分に起こる可能性はある。
(ようやく、志村達の悲願は達成されたのになァ)
そんな彼の想いを察し、ホークスは笑顔で話す。始めは苦笑だったが、次第にその顔は屈託のない笑顔になっていく。
「まあ…悪の帝王 AFOを倒した矢先にこれですからね。面倒ですが…まあ…しょうがないです」
「何がだ?」
立ち上がるホークス。
「ヒーローが暇を持て余す社会のためにはってことです。」
手をヒラヒラと仰ぎながら、ホークスは自動ドアを潜っていった。
今までと異なり、一人称での語りでした。
社会が少しずつ狂っていきます。
最もおもしろかった章
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(A)雄英受験、入学
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(B)戦闘訓練(緑谷、ベンVS轟、爆豪)
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(C)GW
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(D)USJ(ケビン戦)
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(E)体育祭(ウォッチの故障)
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(F)職業体験(オムニトリックスの秘密)
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(G)期末試験(ゴーストフリークの反乱)
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(H)林間合宿(4アームズマスキュラー)
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(I)神野編(エイリアンフォース)
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(J)終章