ファノヴァールの刀神   作:水冷山賊1250F

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 比古清十郎、アレスと逢うの巻


剣龍在野
剣龍在野 1


 その者、大志を抱き、戦に備うる術を持つ。

 

 その者、武を極めんとする求道者にして、赤神の申し子の友。幼少期からの好敵手。

 

 父の鍛えた片刃の剣を持ちて、神速の剣を振るう者。その術は、弱者を守る理念の元、一族にのみ伝えられし剣技。神に祈らず、一族の研鑽のみにより作られし斬撃の術理。

 

 一族の裔、後に騎士王と呼ばれる英雄に治められし地にて、運命の邂逅を果たす。

 

 

 俺が5才になった頃、俺は前世の記憶を思い出した。

 庭で転んで頭を打った際に、思い出したようだ。その後3日程、発熱で苦しんだのだが。

 前世の俺の名は、比古清十郎。飛天三剣流の開祖と呼ばれた者だ。戦国の世で、弱き者を助けるため、多対一の剣術を創設し、その剣技を極めたと自負している。

 わざとでは有るが、歴史の波に飲まれ、目に見える者達のため、細々と研鑽を続けた人生であった。だが孤独だった訳ではない。妻や子に恵まれ、息子は俺の剣術を、その理念と共に受け継いでもくれた。恵まれた人生であったと思う。

 思い残す事も無く、あれだけ戦い抜いたのだ。死ねば修羅道にでも堕ちるであろうと思いきや、どうやら南蛮に生まれ落ちたらしい。

 しかし、周りの者と違い、父と俺は黒髪黒目と日ノ本の民と同じ容姿だった。しかも、父はヒテン流なる剣術を受け継いでおり、俺に剣術を教え込んでいたのだ。

 何処と無く、前世で創設した剣術と似ており、その理念すらもそっくりであった。

 祖父の代までは、世界各地を転々としていたらしいが、父が此方の領主を気に入り、ここレストニアに腰を落ち着ける事に成ったそうだ。

 父は現在、領内で鍛冶師として働いている。

 父の造る剣は、只の鋼剣では有るが、鍛造で有るため、他者の造る剣とは出来が違うらしい。ドワーフの者も教えを乞いに来る程の腕前だ。

 父は、ファノヴァールに仇成す者に売らなければ、問題ないとして、彼等に惜しみ無く、その技術を教えている。懐が広いのか、何も考えていないのか、よく分からぬ親父様だ。

 おっと、言い忘れていた。俺の名前はセイジ。セイジ・ヒムラだ。父はケンジ、母はカーラ。1歳上の姉は、メグミと言い、4人家族だ。母は、元々医者だったらしく、父の工房の近所で、小さい医院を開業している。姉も医術に興味が有るらしく、母に教えを乞うている。

 しかも、姉は身内贔屓無く天才である。一度聞いた事は忘れず、10才の頃から、薬の調合も完璧にこなす才女だ。人を傷付けるしか能の無い俺とは段違いだ。

 

 俺の前世の記憶が戻って6年。日々の稽古が終わった俺に親父が話しかけて来た。

 「セイジ。明日は領主様の所へ出稽古に行く。領主様の息子はお前と同い年らしい。剣の腕も天才だそうだ。一つ揉まれて来い。」

 「ん?それは、領主の息子に態と負けてやれって事?」

 「そんな分けないだろう!相手の立場で手を抜く等、戦場では有り得ん!まぁ、息子がボンクラだったら、散々に打ちのめしても良いと、領主様も言っている。」

 「そうか。流石は親父がその男気に惚れた領主様だ。邪推してゴメンよ。」

 ここの領主は武を重んじる家風な上、民に優しく、重税を敷かない出来た領主様だ。しかも戦に出れば、数々の武功を立てるが、褒美はほぼ受け取らないと言う。正しく武人の鑑だ。親父が惚れたのも、その辺りなのだろう。何度か剣で手合わせをしたが、勝負が付かなかったそうだ。親父と互角に戦えるとは、貴族にしてはおかしい位に鍛えている。流石は武門の名家と言われるだけの事はある。

 さて、明日が俄然楽しみに成ってきた。その領主様の息子。まぁ全力は出さないとは思うが、どれ程の者か、お手並み拝見だな。

 

 

 

 その日、父上に言われ、同い年の少年と試合をする事に成った。大人の騎士と、一緒に訓練し勝利している僕に今更同い年の少年と試合とは。僕と同い年で剣術を修行しているのは、少し興味が有るが、最近は大人の騎士と試合をしても負けることは無くなってきた。父上からも、時々有効打を打てるように成ってきたから、折角なら父上に相手をして貰いたかったのだが、仕方がない。さっさと終わらせて、父上に稽古を付けて貰おう。

 「アレス、待たせたな。」

 「いえ、父上。彼が今日の練習相手ですか?」

 「あぁ、そうだ。彼はセイジ・ヒムラ。姓は有るが、貴族と言うわけではない。しかし、彼の父上は私の剣術の良きライバルでな。」

 「領主様、お戯れを。」

 「何を言っている?真実ではないか。未だ私は君に勝てていないのだぞ?」

 「それは私もで御座いますよ。」

 驚いた。父上と同等の腕を持つ剣士が市井に居るとは。しかも、騎士では無い。とても信じられなかった。

 「アレスよ。剣を持つのは何も騎士だけでは無い。我々が教えられている剣術とは違う剣術も有るのだ。今日はそれを学ぶと良い。」

 「はい!」

 これは期待出来るかも。

 「先程ご紹介に預かりましたセイジ・ヒムラです。今日は宜しくお願いします。」

 僕と同い年の少年が、礼をしてきた。

 「僕はアレス・ファノヴァールだ。こちらこそ宜しく頼むよ。」

 彼に一礼して彼の顔を見直した。あっちも僕を見て微笑んでいる。今からの試合が楽しみなんだろう。僕も楽しみだ。

 「早速、試合を始めようと思う。お互い体は温まっているか?」

 「「はい!」」

 「よろしい。では始めるとしよう。お互い白線まで下がって向き合った所から始めよう。審判は付けぬから、お互いに勝負を決めると良い。」

 お互いに頷き合い、白線まで下がった。木剣を納めたまま、礼をしてきたから、こちらも礼を返す。彼が、剣を構えた為、その形を見てみたら彼の木剣は少々変わった形だった。片方にしか刃が付いてない、湾曲した形だったのだ。へぇ、あんな武器も有るんだな。構わず、こちらも木剣を構える。油断無く、相手を見ていると、突然彼が至近距離まで来て剣を振り下ろして来た!

 不味い、これは避ける事も、いなす事も出来ない!急いで剣で受け止める。

 「へぇ、結構やるねぇ。これは楽しめそうだ。」

 「此方のセリフだよ。これは遠慮無くやれそうだ!」

 剣を習い始めて、初めてだった。こんなにワクワクしたのは。今まで見たことも無いような技術、体捌き。

 剣術とはこんなに楽しいものだと初めて気付いたのかもしれない。彼に出会わせてくれた父上には感謝だ。

 これが、僕にとって、生涯の友人であり、人生最大のライバルである、セイジ・ヒムラとの出会いであった。

 

 

 ふーん、アレス・ファノヴァールか。中々筋が良いな。取り合えず今日は様子見だな。あ、親父殿は俺が様子見してるのに気づいたかな?

 まぁ、ヒテン流の技を使ってないからな。取り合えず、一回位は使ってみるか。

 俺の目付きが変わった事に気付いたのだろう。油断無く剣を構え、こちらに集中している。

 俺は木刀を納めた状態にし、体を相手に向け半身となった。重心は前に置き、やや前屈みの姿勢。木刀が相手に見えない状態で対面する。

 静まり返る訓練場。右手で木刀の柄を握りこむ。目指すは神速。速さこそ、我が流派の真髄。受けてみよっ!

 特殊な歩法と、体捌きで一気にアレスに迫る。アレスが目を見開き一瞬驚いたが、後ろに下がり、間合いを開けようとする。遅いなっ!

 

 (ヒテン流、龍巻閃!)

 

 アレスを巻き込むようにして木刀を横に薙ぐ。バキイィッ!と言う激しい音を立て、二人の木刀が折れた。

 ほう、俺の動きに対応出来たか。流石は次世代のファノヴァールの騎士。しかし、衝撃に堪えられなかったのだろうか、顔を歪めている。痛みで手が痺れているのだろう。この状態でも、攻めることは出来るが、それでは些か大人げない。こちらも一芝居打ってやるか。軽く両手を振って痺れを取るような動作をする。

 「かぁぁぁっ、手が痺れたぁぁっ!アレス様、これは引き分けですかね?」

 するとアレスが少し嬉しそうに、少し残念そうに言った。

 「そうですね。お互い、この状況では、今日は剣を振れそうに有りませんし。」

 「そうですね。でも驚きました。私と同い年で、私の剣術に付いてこれる方が居るとは。最近は父にも勝ち星を上げているのに。まぁ、相手が私なんで、手を抜いてるんでしょうけどね?」

 「それは、私もですよキイチ殿。これからは私と一緒に稽古をして頂けませんか?」

 「い、いやぁぁ。」

 ちらっと親父殿を見る。親父殿は首を横に振っている。

 「申し訳有りませんが、それはご勘弁願いたく。」

 「何故です!?私の父上も、貴方の父上と手合わせをしているそうではないですか。」

 「アレス、無理を言うものでは無い。あの剣術は一族に伝えられる秘法の類いだ。おいそれと、他人にひけらかす物ではない。それに、彼等も日々の仕事があり、稽古の時間も決められた時間にしている訳では無いのだ。解るな?」

 「はい、父上。」

 悔しそうに、下を向く御曹司。少し可哀想かな?親父殿の方を見ると、親父殿が頷き、領主様に語りかけた。

 「伯爵様、毎日とはいきませんが、月に一度程度であれば此方は構いません。秘法と言われる程のものでも有りませんし。如何でしょうか?」

 「良いのか?それは此方としても助かるのだが?」

 「はい、鍛冶の腕も其なりに鍛えていますが、親の贔屓では無く、筋も良いようです。最近は教えることも無く、一人で剣の稽古をしていることの方が多いようですし。」

 「ほう、そこまでか。では月に一度、今日のように試合を行う事で良いか?」

 領主様が俺に問いかけてきた。

 「はい。私はそれで宜しいのであれば、異存は御座いません。これから宜しくお願い致します。」

 「うむ。なあケンジよ、そろそろ当家に仕えぬか?貴殿の腕前は、野に置くには剰りにも惜しい。その腕が有れば、多くの命を救えよう。」

 「伯爵様、そのお話は何度もお断りさせて頂いた筈です。我が一族は市井にあり、手の届く弱者達の為にのみ、その剣を振るうと。私は無理ですが、息子が後数年すれば、成人します。その時、私の跡を継ぐまでの間であれば、仕官させても良いと思っております。私もまだまだ若い積もりですから、跡継ぎ迄に暫く時間は有るでしょう。」

 「そうか、その時が楽しみだ。その時は宜しく頼むぞ、キイチ。」

 「はっ!父の意思に従い、仕えさせて戴きます。」

 宮仕えか。まぁ、前世でも弱小武将に仕えていたし、俺は構わないがな。

 それから数年後、俺はファノヴァール家に仕える事に成るのだった。

 

 

 「父上、我が領内に、あれほどの者達が居るとは思いませんでした。正直、最近は慢心していたような気がします。」

 ジェラルドは、息子の告白に今日の試合を計画した甲斐が有ったなとしみじみ思う。

 「そうかも知れんな。だが、今日の試合でそれに気付いたのだろう?ならば良しだ。明日からの鍛練も、気合いが入るであろう。励めよ、アレス?」

 「はい、父上!」

 息子がこうも喜ぶとはな。もっと早く紹介すれば良かったか?

 しかし、彼等の剣は、剰りにも我等の剣技とその理念が違う。我等の剣技は、一対一を基本に作られている。

 しかし、彼等の剣技は一人で複数の敵と戦う、多対一を想定し作られているようだ。何故このような、狂ったコンセプトの剣術が出来上がったのか理解に苦しむ。この技を極めるためには、天賦の才が必須だ。凡人には、到底修められるような術ではない。何代にも渡って、引き継がれて行ける訳がない。

 そう思っていたのだが、あの一族の男児は皆、剣の才が有るのだろうか。ケンジの息子にも、きちんと引き継がれているようだな。本当に大した一族だ。

 セイジの姉は彼とは違って、発明の天才だし。彼女のお陰で、我が領は潤っている。ファノヴァールの宝と呼んでも良いだろう。彼女を護るために、我が領では警備隊を増やすことに成った程だ。お陰で副次的効果と言うべきか、領内の治安が上昇した。我が領の秘密がバレないように、諜報活動にも目を光らせているからな。

 まぁ、我が領内には元々野盗等居ないのだがな。何も無いが、武力だけは自慢の我が家だ。発見され次第、即殲滅していたから、野盗の類いは寄り付きもしない。

 しかし、商人の流入と同時に野盗の流入も増えたようだ。どこぞの貴族が、此方の秘密を暴こうと送り込んでいる可能性も有る。やはり、ケンジには治安維持部隊を率いて貰いたいのだがな。

 

 ケンジとの出会いは、偶然であったが、妙に馬が合った。野盗討伐の任を受けたとき、その野盗に襲われている村を、たった二人で守っていたのだ。もちろん、村人も弓を持ち戦っていたが、彼等親子がいなければ、村は壊滅していただろう。ケンジと彼の父シンヤ殿。父上殿は、野盗を一人も殺さず打ちのめすほどの腕前であった。ケンジの父上は、力を持たぬ弱者を守る事こそ、剣士の正しい在り方だとの理念の元、困っている民の元へ転々と旅を続ける生活を送っていた。

 母上のカオル殿も、そんな彼を支えていたが、心労が祟ったのだろうか、数年後には命を落とされた。我が領を安住の地と定められて、数年後の事であった。シンヤ殿が亡くなられたのは、それから一年後の事であったな。

 つくづく惜しい方だった。あのような方が、我が国の貴族にもっといたら、この国はもっと良く成ったであろうに。民と共に有ろうとする姿。元は何処かの王公貴族で有ったのだろうか?ケンジを見ていると、そうは思えないのだが。

 

 この後、アレスとセイジは、アレスが王都に行くまでの間、毎月腕を競い合う事に成る。

 後に赤神の申し子と剣聖と呼ばれる事に成る二人の英雄の邂逅であった。

 

 

 

 

 

 

 




 ナチュラルチートな比古さんです。
 なお、比古さんの流派は、飛天三剣流です。捏造?設定ですが、飛天三剣流→時代の流れ→飛天御剣流に成った事とします。
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