ボルネリア騎士団を蹴散らした後は、何事もなくスムーズに移動することが出来た。ミーアは避難民に声をかけ、情報を収集する事にする。
避難民の代表者は、ジェレイドという青年だった。ジェレイドは目の前で騎士団に父親を切り殺され、その後父親の後を継ぎ、村長をしていたが神官見習いの少女を襲おうとした騎士団に愛想を尽かし、村民全員でボルネリアから逃げ出したとの事であった。
行く宛も無かったが、幸いファノヴァール領では人材を募集していると耳にしていたため、一縷の望みをかけてファノヴァール領へ逃げ出したとの事であった。
当初は困難な逃避行になると思っていたジェレイドであったが、まさかボルネリア領を出て直ぐにファノヴァール領兵団と合流出来るとは思ってもいなかったそうだ。合流後は至れり尽せりで、食料の心配までしてくれる始末。領兵団の隊長が言うには、食うものに困って他の貴族領で犯罪を起こされればこちらが困るとの事であった。
避難民の中には猟師をしていた者も居り、そのように戦う術を持つ者は、領兵団に一時的に組み込まれていた。
「組織的に結構柔軟に出来てるのね。貴族の率いる軍隊はもっとお固い物だと思ってたわ。」
「だいたい何処の貴族軍も、お固いですよ。ファノヴァール軍だけが特殊なのでしょう。」
「そんなに他の貴族軍を知っているの?」
「まぁ、一部ですけど。第三次シエゴラス戦役に従軍させられたもので、それなりには。」
「そう。よく生き残れたわね。」
「えぇ、本当に。あの時も、ファノヴァールの騎士が物資を送ってくれなければ、死んでいました。つくづくファノヴァール伯には縁が有りますね。」
「へえ。その人がファノヴァールの領主なの?」
「いいえ。当時のファノヴァール伯様は、その時の傷が元で数年後に亡くなられました。今のファノヴァール伯は、そのご子息だそうです。しかし、若い割には確りとした人物のようですね。民にも慕われているそうですよ。ウチの領主とは大違いです。おっと、今はウチではない上に、比べる相手も差があり過ぎましたね。月とスッポンです。」
「まぁ、そうでしょうね。」
避難民の長であるジェレイドと話すことが多くなり、避難民の実情を知ることができただけで無く、いろいろな話を聞けたのは幸いであった。
避難民達は、新しく従うことになる領主が今までの領主とは大違いである事に、自分達の判断が正しかったと安堵しているようであった。まだ会ったことも無いのに安心して良いのかしらと、少しだけミーアは警戒する。逃げ出して、辿り着いた所は更に地獄でしたなんて事は、珍しくも無かったからだ。
更に今度は領兵団の様子を覗う事にした。なるほど、彼等は統率が取れており、全員高いレベルで実力がまとまっているようだ。毎晩、移動後に鍛錬を行っており、ルークはその中で領兵団と手合わせをしたところ、全員に歯が立たなかったとの事であったのだ。
ルークは元平民にしても、決して腕が劣るような者では無かった。これまで必死にミーアを守って来ており、その実力はミーアもよく知っていた。ルーク自身も研鑽を怠ってきたことは無かったし、その事をミーアも知っていた。ミーアから見ても、それなりにその腕を信用していたのだ。
しかも、ルークの悪い所や癖を丁寧に修正され、毎日自分の腕が上がっていると実感出来ると言っていた。一時的な加入者にも鍛錬をつけ、指導するとは。それだけ彼等は自分達の力に自信が有るのだろう。
ミーアはファノヴァール領がどのようなところであるか、興味が湧き出した。
あの剣士に連れられ、凡そ一月。遂にファノヴァール領まで到着した。ミーアにとってそこは、見たこともない物に溢れていた。
そこは平民が皆穏やかで、活気に溢れていた。子供達は皆笑顔で、働いている子供を見ることが無かったのだ。
「ど、どうなってんの?市井で働く子供を見ないなんて。」
「あぁ、6才から15才までの子供は、皆学校で勉強をする決まりに成ってるんだよ。そこでは毎日昼に食事が出るようになってるし、親の居ない子供は、孤児院で保護されている。もちろん彼らも勉強をしているよ。」
「親は何も言わないの?一応働き手でしょう?」
「農繁期は学校は休みなんだ。だから、農家の子供の親も文句は言わないさ。タダで子供に飯を出される上に、勉強も教えてもらえるんだ。」
「勉強だけなの?」
「いや、体を動かす事も行っているよ。やはり体力は必要だからな。希望者には剣術を教える事も有る。将来自警団や、領兵団に入りたい子供は多いからね。」
「へえぇ。ところでセイジ。今回の避難民は何処に行くの?」
「バラバラだな。農家として働きたい者達は、開拓村に連れて行くし、鍛冶職人は職人町に連れて行く。ここまでの旅で、粗方希望は聞いて回ったからな。で、あんた等はファノヴァール領を見て回るんだろう?どうだい、案内役も付けようか?」
「監視?」
「まぁ、ウチの領主様はおおらかすぎてな、貴族のスパイやらを気にしなさ過ぎる。けど俺達は違う。俺達が発明した物をかすめ取ろうとする奴は容赦しない。ま、あんた等は違うだろうが、一応念の為な。」
「分かったわ。それで誰を付けるの?」
「俺だな。今ならそこのルークを毎日鍛えてやる特典もついてくるぜ?お前等もし旅に出るんなら、戦力アップも必要だろ?」
「それは助かる。でも良いのか?あんた実は領兵団の団長だろ?」
「あぁ。だが、領内巡視のついでだから問題ない。それに、正直惹かれたからな。」
「惹かれた?」
「あぁ。家の家訓と同じような志で旅をしているあんた等にな。そんな奴等の視点から見て、ウチの領はどう写るのかも聞いてみたいしな。」
「ふ〜〜ん。ま、そういう事なら良いわよ。ガイド付きで旅行なんて、まるで貴族様にでも成った気分ね。それじゃ、エスコートよろしくね。」
一瞬ドキリとしたミーアだが、見事に肩透かしを食らって鼻白んだが、直ぐに調子を取り戻した。領内を見て回るチャンスでは有るのだ。どうやらこの男も、基本的には良い奴なのだろう。裏の方まで見せてくれるかは疑問だが、自分達は民の生活を知れれば良いのだ。
そこに虐げられている者は居ないか?さあ見せて貰おうじゃない、真実のファノヴァール領を。
こうして2週間に渡る、領内査察(ミーア視点)が行われた。
結果は、ファノヴァール領内の治安の良さと、平民の生活レベルの高さ、子供の識字率の高さなど、今まで見たことも無いような平民の暮らしに啞然とさせられるばかりであった。