家の弟は、結構な人たらしだ。しかもあいつは無自覚だから始末に悪い。
家の家訓を馬鹿正直に守り、行く先々で事件を力技で解決に導けば、そりゃあ老若男女弟を慕うものが現れるだろう。何処の北○神拳継承者だ。
領内の人気を領主様と二分する程の勢いだ。そんな弟が団長を務めるファノヴァール領兵団。
元々ファノヴァール家お抱えの騎士団の補助的な扱い、言わば下部組織の筈であったものが、いつの間にか立場を逆転させてしまっていた。
少数ながら騎士団を持っていたのは、即応部隊が必要で有ったためであるが、ファノヴァール家が任される戦場が激しい戦場が多いため、人員、器材ともに消耗が激しく、戦力の維持には困難を極めたそうだ。
今も騎士は居るが、彼等はその規模を縮小させ、今では領兵団の騎馬部隊となっている。
元々お抱え騎士団であった彼等と衝突が無かったのか疑問に思っていたが、弟の実力に舌を巻き進んで弟に師事を乞うあたり、流石は脳筋のファノヴァール家臣だと感心したものだ。
弟自身は出世欲など無く、団長の地位も煩わしそうにしているが、仕事自体は性に合っているのだろう。喜々として仕事に励んでいる。
そんな弟が今日家に連れてきたのは、槍を持ったイケメンの青年と、驚くほどの美少女。避難民護衛の任務から真っ直ぐ領内巡視まで付き合わせたとの事であった。
二人の旅の目的が、家の家訓に似ていたから気に入ったとかなんとか。そんな危ない目的をたった二人でやろうとするとは、なんと無謀な!路銀も勿体ないから、暫く家で居候させたいとの事だが、急に連れてきて何を言い出すのやら。
「まぁまぁ、そんな立派な志で旅をしていたのね〜。大変だったでしょう?暫くは家に居てくれていいわよ。今夜は二人も増えたから、頑張ってお料理を作らなくっちゃ♡」
マ、ママン。それだけでいいの?そりゃあ家は、よそよりも裕福では有るけど、家には研究資料やら、知られたくない物も有るって言うのに。
「ふむ、お主。槍は、自己流だな?それで相方を守るのも大変であっただろう。俺は剣術しか知らないが、ある程度は槍の使い方も分かる。お主の武器は手槍だから、間合いもあまり変わらない。身体の動かし方や、目の付け方など教えられる事は有るだろう。暇を見て教えよう。」
「助かるよ、親父。」
「ありがとうございます。暫くお世話になります。」
パパンもセイちゃんも何言ってるの。本当に家もお人好しばかりなんだから。私がしっかりしないと!
「はいはい、取り敢えずみんな、お風呂に入っちゃいなさい。ミーアちゃんはメグミちゃんと一緒にお風呂に入るのよ。お姉さんなんだから、お風呂の入り方を教えてあげてね。」
「ハ〜イ。んじゃ、行こうか。」
先程まで警戒はしていたが、美少女とお風呂・・・。少しワクワクするわね。ミーアちゃんをお風呂に案内する。換えの下着と服を用意してお風呂にレッツゴーだ。
「はいミーアちゃん、これタオル(手拭い)ね。服と下着は全部脱いでそこの籠に入れてね?後で全部洗うから。」
「は、はい。」
素直に付いてくる美少女。さあ、楽しみはこれからだ。ファノヴァール製のシャンプーとリンス。それに固形石鹸で隅々まで磨き上げてくれるわ!ケケケケケケ。
ここって、セイジが言うには平民の家よね?豪商の家という程では無いけど、十分に広い家だわ。それになんと言ってもお風呂!まるで何処かのお姫様になったような気分だわ。
でもメグミさん、その辺りは手が届くので自分で出来ます。ハイ、公衆浴場でお風呂の入り方は覚えてます。ちょっと落ち着きましょう、目が怖いです。良いですね?OK。さあ、全身洗いましたし、浴槽に入りましょう。ふ〜〜〜。極楽極楽。
それにしてもここの領は、おかしい。こんな田舎なのに各地区に公衆浴場が有り、庶民の衛生状態は極めて良好。そして王都をも上回るだろう識字率。おそらく、王都でもここまで識字率は高くない筈よ。どうなってるのかしらね。平民に対し、タダで教育を施すメリットは何なの?
「どうしたのミーアちゃん?難しい顔して。」
「あぁ、メグミさん。どうしてこの領は、平民に教育を施したり、税を他所よりも低くしたりするの?他所よりも収入が有るのは分かるけど、税を他所の領主と同じにすればファノヴァール家はもっと栄えるはずよね?」
「う〜ん、あの一族は余り富に興味が無いからね〜。でもね、平民に教育を施すメリットは、かなり大きいわよ?」
「どういう事?」
「例えば、作物の植え付け。ちゃんと記録して、毎年改善していけば、それだけで作物の収穫は増えるわ。また、新しい方法を見つけるかもしれない。実際ファノヴァール領の収穫量は他所よりも多い筈よ。自分達で工夫してより良いやり方を彼等自身で行う事で収穫量アップにつながったのね、きっと。」
実は数年かけて小麦の品種改良をし、腰高の小麦いわゆる短稈種を作った等とは口が裂けても言えないが、教育の重要性をミーアに語った。
「さて、十分温まったし、もう出ようか?」
「は、はい。」
流石に不味いと思ったのか、話題転換を試み、風呂から上がろうとしたメグミであったが、ミーアはメグミの博識に驚いていた。そして気付いた。彼女がおそらくファノヴァール領の発展に寄与している事に。
しかしミーアは、それ自体にあまり興味を持ってはいなかった。凄い女性だなあと思うだけだったのである。何故なら彼女は、その知識が平民の生活の向上に寄与していると分かっただけで満足であり、彼女の重要性にあまり気付いていなかったのである。
もし、今の会話をジェレイド青年が聞いていれば、土下座をしてでも教えを乞うだろうなとは思っても、どうせ領内で広まっているのだから、彼等もその恩恵を受けるだろうぐらいにしか思ってなかったのだ。
彼女が知りたかった事は、ファノヴァール家が領民にとって害悪であるかどうかであったが、この二週間ほどでその答えは出ている。
いや、ファノヴァール領に入ったその日の内に答えは出ていたのだ。そして、彼女はこうも思った。
<王国の全ての貴族がファノヴァール家のように、民を慈しむ政を行っていれば>と。それ程にこの地は平民にとっての理想郷だったのである。
そして、この地を守りたいという想いも芽生え始めていた。
少し前回の戦いの前の話が続きます。話が進みませんww。