ファノヴァールの刀神   作:水冷山賊1250F

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 アレス、ボルネリアからの民を籠絡すの巻。


剣風共撃  4

 ミーア達がヒムラ家で生活を始めて2〜3日後、王都から領主アレス・ファノヴァールが帰還した。

 アレスが領主邸に戻り初めにした事は、セイジとの模擬戦だった。

 

 「すまんなセイジ。俺の腕が鈍ってないか確かめたい。なにぶん稽古相手がガルムスだけだったんでな、手加減無しの稽古が出来てない。」

 

 「まぁ、お前に付き合えるのは俺ぐらいの物だろうからな。そりゃあ仕方ない。最初は軽く流すか?」

 

 「いや、軽く汗は流した。全力で頼む。」

 

 「そんじゃ、気合い入れていけよ?」

 

 両手にそれぞれ一本の木剣を構えたアレスと、左腰に一本の木刀を差し、柄に右手をそえたセイジ。静かにお互いを睨み合っていたが、セイジが先に動き出す。

 

 目で追えない速さで間合いに入った途端、抜刀術でアレスに打ち込む。左手の木剣でその一撃を受け止め、右手の木剣がセイジを襲う。

 

 一撃を受け止められた瞬間、左前方に移動しながら右手の木剣をいなし、そのまま切り上げ。間一髪、左手の木剣で受け止め、その勢いのまま振り抜く。振り抜かれながら、後方に跳び右足でアレスの顎先を狙う。アレスはスウェーバックする事により、紙一重でセイジの蹴りを躱した。その後も領兵団が見守る中、嵐のような剣戟が続く。

 

 

 

 「化け物が二人も・・・。」

 

 ルークは思わず口に出した後、周囲を見渡した。すると周りの領兵団がこちらを自慢気な顔で見ていた。

 

 「ルークは他所からの加入組だからな、そんな反応になると思ってたよ。」

 

 「オーリック、どうなってるんだこの土地は?何故貴族である領主様があんなに強い必要がある?」

 

 「ハハハ、代々ファノヴァール家の当主様は戦場に出れば必ず手柄を立ててきた家柄だ。しかも、その褒美を殆ど受け取らない。その武力から、ウチの領内は盗賊の類も近寄らないし、入って来たらご領主様が先頭に立ち殲滅なされる。昔から治安だけは良かったんだウチは。最近は、ウチの隊長が領兵団に入ってな。あの実力であれよあれよと昇進されて、今じゃあ領兵団のトップだ。隊長に救われて領兵団に入った奴も少なくない。ま、なにはともあれ、うちの領民はご領主様を慕っているのさ。大した手柄も立ててないくせに、威張り散らす他所の貴族様とウチの領主様は全然違うってな。」

 

 「まぁ、良い意味で型破りな一族では有るよな。」

 

 この力が民に向けられてこなかった事に、ルークは安堵する。世界は広いというが、あんな化け物達が同じ領内で切磋琢磨しているとは思いもしなかった。あんなの同じ時代に一人だけで充分だろう。セイジだけでも驚いたのに、同等の力を持った者がもう一人居るとは。これはミーアに教えて置かなければな。

 周囲を見渡すと、同じように感じている奴も少なくないようだ。今回避難してきて、領兵団に入った連中も同じような顔をしていた。

 

 

 

 

 

 理不尽。まさにこの一言に尽きる。<オーセルの賢者>などと呼ばれた私でも理解不能の一言に尽きる。こんな化け物じみた人物が、二人もいるとは誰が想像出来ただろう。

 

 ボルネリア領から逃げ出す時、私は反乱を起こすか、村人総出で逃げるかの決断を迫られていた。

 正直、ファノヴァール領の噂は聞いた事が有ったが、貴族の行うことは何処も同じだろうという思いと、これだけの避難民を受け入れられるのかという思いが有ったのである。

 しかし、反乱を起こせば確実に王国が動く。そうなれば、我々は確実に死に至る事になる。僅かな希望を抱き、噂に縋る事しかできなかったというのが本音であり、村人全員の命を代償とした賭けであった。

 

 そして我々は奇跡的に賭けに勝つ事ができた。それが分かったのは、ボルネリア領を出てから直ぐであった。

 武装した一団が我々に接触。自らをファノヴァール領兵団と名乗り、ファノヴァール領までの警護についてくれるという。

 初めは疑った。奴隷商の一団ではないのかと。しかし、色を赤で揃えられた両肩の防具と規律。兵の練度の高さも覗えたため、信用することにした。そして、合流した次の日のボルネリア騎士団との戦闘。理不尽過ぎるほどの個人の武勇を見て、この男がファノヴァールの最大戦力と思った。

 彼を支えるために領兵団に入ったが、その彼と同等の戦力がここにもっ!馬鹿げている。第三次シエゴラス戦役のあの苦労は何だったのかと。彼らほどの力を持つ者など見たことも無かった。あの時彼等が居てくれれば・・・。いかんいかん。当時の彼等はまだ若すぎるか。

 

 「ジェレイド、どうやら俺達は凄まじい場所に来たみたいだな。何だあれ?ファノヴァール領には鬼神の力を手に入れる何かが有るのか?奴らの片方が第三次シエゴラス戦役に居てくれたら、戦局はもっと楽だったのにな。」

 

 「それを言うのは無しですよマシュー。世の中は理不尽なものです。しかし、あの理不尽な力が今後は我々を守ってくれる事に成るのです。心強いではありませんか。」

 

 「だな。本当、あの領から逃げ出して正解だったぜ。オーセル村の連中も、今は活き活きしてるってクライスが言ってたよ。」

 

 「そうですね。全ての貴族が彼のように高い志を持ってくれていたら。」

 

 ファノヴァールの領民に嫉妬してしまうのは仕方が無いだろう。しかし、我々ももうファノヴァールの領民になったのだ。ファノヴァール家を支える一員になると決めたからには、持てる力を尽くさなければ。

 

 ん?終わったようだな。どうやら引き分けらしい。

 

 「総員傾聴!ファノヴァール伯からお言葉が有る!」

 

 全員直立し、ファノヴァール伯に注目する。何が有ったんだろうか?

 

 「全員楽な姿勢を取ってくれ。此度王都にて、ボルネリア侯ランドルフが貴族籍抹消の上、領地没収となった。今後ボルネリア領は王家直轄領となるが、その引き渡しの任をファノヴァール家にお命じになられた。派遣する兵員は500名。兵員の選出は後日発表する。選ばれた者は、努々気を抜かぬよう職務に励んで欲しい。以上だ。」

 

 フフ、フフフフフフ。ボルネリア侯が貴族位剥奪に、領地没収。それに領外追放。ハハハハハハッ!今日の夕食は旨くなりますね〜。どうやらこの国の王は、まともな考えを持つ人物のようで安心しました。あのような愚物を処断する気概の有る人物みたいですね。フフフフ。

 

 「おうい、ジェレイド、マシュー、ちょっと来てくれ。」

 

 セイジ殿に呼ばれたため、走って駆け寄る。

 

 「アレス様、この二人は第三次シエゴラス戦役で実戦経験済みです。右がジェレイド、左がマシュー。マシューは、元々猟師としての一面もあり、弓術に長けています。磨けば光るでしょう。ジェレイドは、ダルム城砦で数々の献策をし、先代様が率いる補給隊到着まで、戦線を保たせた知恵者です。体力的には兵卒として使えないが、軍師としてなら使えます。我軍にはそのような者は居ないが、今後必要になると思います。軍師として採用して良いでしょうか。」

 

 「セイジ、何だその話し方は。いつもどおりで良い、気持ち悪い。良いんじゃないか?確かジェレイドの話は父からも聞いている。確かオーセルの賢者とか言われていたそうだな。見事な用兵であったそうだ。ぜひ我々に力を貸してもらいたい。マシューもよろしくな。セイジにみっちり鍛えられると思うが、頑張ってくれ。」

 

 「「はっ!ありがとうございます!」」

 

 こんなに気軽に貴族に声をかけられたのは初めてだ。これがファノヴァール家か・・・。私の事も把握して頂けていたとは・・・。本当に仕え甲斐の有るお方だ。マシューと一緒に感動に打ち震えていた。

 

 「そうだ、ルーク来てくれ。」

 

 「はい。」

 

 手槍使いの青年がセイジ殿に呼ばれて駆けてきた。

 

 「彼がこの前話した風の魔法使いを守護していたルークだ。」

 

 「ほう、彼が。その魔法使いのお陰で、我軍の被害は皆無だったそうだな。」

 

 「ああ。奴さん達は、立っているのがやっとだったよ。で、今は二人共家で預かっている。ルークの腕は悪くないが、今まで無手勝流でやってきたそうだ。筋は悪くないから鍛えているが、領兵団にはまだ加入していない。」

 

 「良いさ、セイジが気に入ったんだろう?そんな奴等が悪人である筈がない。力無く、虐げられている人々を救う旅をしてたんだろう?お前ん家と一緒だな。我等が領を気に入ってくれればこちらも助かるよ。」

 

 「はい。ミーアもこの領を気に入ってるみたいです。」

 

 「そうか。俺達3人、いや、ミーア殿を入れれば4人だな。立場、身分は違えど、目指すものは同じ筈だ。これからもいい関係を続けられれば良いと思う。よろしくな。」

 

 「いえっ!こちらこそお世話になってます!今後ともよろしくお願いします。」

 

 笑いながら握手をする二人。それを見てジェレイドは思った。

 アレス様は、決して優秀な施政家では無いだろう。彼の根底はあくまでも武人のそれだ。

 しかし、平民と別け隔てなく接する事ができる数少ない貴族だ。そんな人柄に惹かれて優秀な者が集まって来るのだろう。この土地が栄えたのも分かる気がする。

 

 「マシュー、今までの苦労は、この方と出会うための試練だったのかもしれませんね。」

 

 「試練?馬鹿言うな。あんな糞領主が俺達のための試練だと?その考えには断固拒否する。」

 

 「それもそうですね。つまらない事を言いました。」

 

 「あぁ。やっぱりお前は吟遊詩人は向いてねえ。お前は大人しく、俺達に策を考えていた方がお似合いだ。」

 

 「そうですね。あの二人がいる時点で、どのような策を用いても勝てる未来しか見えませんが、少しでも被害が少なくなるよう努力しますよ。」

 

 「あぁ、そうしておけ。期待してるぜ。」

 

 マシューに背中を叩かれ、咳き込んでしまったジェレイドであった。

 

 

 その後、ジェレイドとマシューは歴史に残る一戦に参加することになる。

 

 

 




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