アレスが領主様に連れられて、王都に行った。その間、俺は相変わらず剣の修行と、鍛冶の修行だ。
前世では、刀を研ぐことは有っても、刀を鍛えたことは無かった。新しい体験に充実した毎日を過ごしている。
「セイジ、隣町のジョブん家に、ひとっ走り包丁を届けてくれるか?」
「良いよ。けど、ジョブさんどうかしたの?」
「嫁さんが、産気付いたらしくてな。野郎、嫁のそばから離れられないってわざわざ、風の便りを送りやがった。娘の件では世話に成ってるんだ。出産祝いに、包丁をくれてやる。」
ジョブさんは、テンサイ栽培にいち早く協力してくれた農家だ。今では、テンサイ栽培の指導もしてくれている。実は、我が家の収入第1位は姉のメグミだ。父は実はかなり落ち込んでいる。しかし、親父の高い技術力は、ドワーフ達にも高く評価されている。そのプライドからか、手を抜いたり、雑な仕事をする事はない。流石は親父様だ。
まぁ、お陰で我が家の生活水準は、かなり高く成っている。貴族の家でも無いのに、我が家にはお風呂が有る。お風呂も、姉上の提案で、親父が作ったものだ。天才って居るものなんだなと、姉上を見てつくづく思う。
「あぁ、セイジ。念のため、小太刀位は持って行け。近頃、領内に怪しい奴等が入り込んでるらしい。」
「分かったよ、父さん。」
親父殿が鍛えた小太刀を腰に差し、包丁を持って家を出る。
「夕方には帰るから~。」
「おう、行ってこい。」
親父殿に見送られ、走って家を出た。まぁゆっくり走っても全然余裕だが、これもまた鍛練。森を突き抜け、獣道を駆け抜けることにした。まぁ、近道でも有るからな。
森を抜け隣町に近付いて来たところ、町の異変に気付いた。畑に誰も居ないのだ。
最近我が領の秘密を暴こうとする輩がうろちょろし出した。姉上の努力の成果を掠め取ろうと言う、厚かましい奴等がとうとう実力行使に出たか?
俺は森の方から、正門近くに忍び寄った。
見覚えの無い門番が二人いる。見るからに、ガラが悪く、山賊若しくは傭兵のような出で立ちだ。正門を迂回して、町の中を確認する。町と言っても、半分は農村のような地域だ。居住区はそこまで広くはない。町長の屋敷に大勢の人が集められていた。
「なあ、町長さんよ。俺達は、砂糖の作り方を教えて欲しいだけなんだよ。作り方を聞けば、さっさと出ていくさ。あぁ、出来れば作り方に詳しい人材も欲しいな。」
「だから、さっきから言ってるだろう。そんな者は、うちの町には居ない。領都に行ってくれんかね?うちでは、小麦と家畜の飼料しか作っとらんよ。」
「あくまでシラを切るかい?本当に良い度胸だ。流石はファノヴァール家の治める地だな。しかし、あんたの頼みの綱の御領主様も王都に行かれて、留守中だぜ。」
「あんた達、分かっていてやっているのか!何処の貴族に頼まれた!」
「さあな。知らない方が、長生き出来るかも知れないぜ?」
聞いていられんな。さっさとこのクズ共は始末するか。
「よお、コソドロ共。えらく威勢が良いじゃないか?」
「なんだ小僧?良い度胸だが、そんなに死にたいのか?おい、見せしめに、この小僧を殺せ!!」
「お止めなさい!子供相手に何を大人げない!君、早く逃げるんだ!」
町長さん、何度か会ったこと有るけど、いい人だな。そんじゃ、そんな人達を脅して、うちの姉上の上前跳ねようとするゲス共は、しっかり始末しますか。
不用意に近付いて来たチンピラ風情の首を、抜刀術で切り裂く。小太刀である為、首と胴体は泣き別れに至らなかったが、致命傷だろう。奴等が驚いている一瞬を使い、俺は直ぐ様移動する。殺し合いをしてる最中に、敵から目を離すとは。奴等は兵士ではないのか?まあ良い。俺達の土地を荒らそうとするとは、死を持って償って貰う!2~3人で固まっている、チンピラ共に突っ込む!
「ヒテン流、龍巣閃!」
「「「ギャァァァア!!」」」
一瞬で多数の斬撃を刻み込む。もちろん、全て急所だ。その後、またもや直ぐに移動。多対一の基本は動き続ける事だ。そして速さ。ただ速いだけでは駄目だ。緩急を付け、時には速く、時にはゆっくりと。動きの起こりを極力見せず、突然加速したように見せる。これが飛天三剣流、そしてヒテン流の《基本》だ。
次々と仲間が毛の生えたばかりの小僧に打ち取られ、動揺するチンピラ共。だが、ここで手を弛めることはしない!戦国の世を生き抜いた俺に喧嘩を売るとは、良い度胸だ。最大限のおもてなしとして、その隙は、最大限に付け入らせて頂く!
彼等にとっての不幸は、彼が初代比古清十郎であった事だった。幕末期に活躍した彼であれば、その後不殺の信念を曲げることは無かったで有ろうが、彼は生粋の《いくさびと》である。命のやり取りで手を抜く事等あり得なかった。
また、一度敵と認定されたからには、只で帰れる訳はなく、血を見るのは明らかでもあった。こうして町を襲った野盗達は、その代価を仲間の命で購う事になる。
彼に気付いて斬りかかって来た奴も、動きが大きかった。隙だらけの胴を遠慮無く薙ぎ払われ、内蔵をボタボタと溢していく。
それを見たチンピラ共は腰が退けて次々と逃げていく。30人ほどいたチンピラ共は、僅か10人程を殺されただけで逃げ帰る事になった。
「鬼だあぁぁぁっ!鬼がでたぁぁぁっ!」
「ファノヴァールは鬼を飼っていたぞぉぉぉっ!」
「失礼な。武器を持たぬ者を脅して殺そうとまでしておいて。なぁ、お頭さん。」
「ちょ、ちょっと待とうかお坊っちゃん。」
「お坊っちゃん?まだ余裕有るんだな、あんた。」
「いやいやいやいや、余裕なんて無いです。此方が悪かった、いや、悪うございましたっ。このまま逃がしていただけないでしょうか?」
「ん?なんで?」
「いや、アイツ等は逃がしてくれたじゃないですか。なんで俺はダメなんですか?」
さっきまでの威勢はどうしたのか、情けなく武器を捨てて命乞いをしてくる。
「あぁ、アイツ等は宣伝だよ。」
「宣伝??」
「うちに手を出したらどうなるか、アイツ等は方々で話してくれるだろうさ。だが、あんたは駄目だ。見せしめに、惨たらしく死んで貰う。正直ウンザリしてるんだ。うちの領内を怪しい奴等が闊歩してるのがな。あんたが誰の依頼を受けたのかは知らん。だが、他の怪しい奴等も此方を窺っている。そいつ等に見せてやるのさ。ファノヴァールに手を出したらどうなるか。」
チンピラの返り血を浴びた顔で、ニヤリと笑いかけてやる。
「ヒィィイッ!」
親玉は恥も外聞も無く、一目散に逃げ出す。
逃がす訳がない。奴を追いかけ、一気に距離を詰める。横薙ぎに剣を振るい、両大腿の裏側を切り裂いた。
「プゲッ」
無様にスッ転び、顔面から地面に倒れ込む親玉。
「死ぬ前に教えてくれよ。あんたを雇ったのは、何処の貴族だい?それを教えてくれれば、助けてやらんこともない。証拠なんかもあれば、生き残る可能性は高まるな~。」
「ボ、ボルネリア伯にっ!証拠は無いですけど本当なんだ!」
ボルネリア伯か。確か、ゲスで無能で有名だったな。だからこんなチンピラ雇ったのか。
「ありがとう、さよならだ。」
小太刀を横に一閃。親玉の首が飛んだ。
返り血で真っ赤に染まったが、しょうがない。倒れ込む親玉を他所に、小太刀を一振りして、血を飛ばす。懐に入れていた手拭いで刀を一拭きし、鞘に納刀。
「見ていただろう?お前等の事だよ。さっさとレストニアを出ていけよ?今度会ったら容赦なく切り捨てるっ!」
周囲に向けて殺気を込めて叫んだところ、建物や木の影から気配が消えて行った。
◻ ◻ ◻ ◻
信じられなかった。僅か12歳の少年が、暴力を生業とした大人をいとも簡単に切り捨てて行く。
確か、鍛冶師のケンジさんとこの息子だ。この町にもたまに顔を出していた。
彼は、大陸の東側に有る島国から流れてきた一族の末裔らしく、剣と、鍛冶の腕が良い一家と噂されていたが、まさかここまでとは。
父親のケンジ殿は、領主様とほぼ互角の腕前らしいと言う噂は聞いたことが有る。しかし、息子もこれ程とは。
武家の鑑ファノヴァール。我等領民は、その名を誇りにして来た。しかし、今日目が覚めた。領主様におんぶに抱っこではならない!我等領民も強くなければ!
「のう、お若いの。お前さん、隣町のケンジさんの所の息子で良かったかのう。」
「えぇ、そうです。うちの親父に言われて、ジョブさんに、うちの親父から包丁を届けに来ました。ジョブさんはどちらに?」
「あぁ、ジョブや~い。」
「あ、町長。なんすか?」
「なんすか?じゃないわい!お前さんに包丁を届けに来たそうだ。領都のケンジ殿からじゃと。」
「あぁ、うちの嫁に買ってやった包丁。すまんねセイジ君。お陰で助かったよ。うちの町も自警団は有るけどさ、いつの間にか町中に入り込まれてね。」
「金が回り始めた途端、これですからね。ウジ虫は、本当にどこにでも出てくるから厄介ですよね。それよりも、この死体はどうしましょう?」
「あぁ、死は誰にでもやって来る。犯罪者も皆同じだ。共同墓地にでも放り込むよ。おぉぉい、皆の衆。手伝ってくれんかのぉっ。」
町長の呼び掛けに、自警団の方々がワラワラと集まって来て、テキパキと作業を始めた。うちの領民スゲーな。自警団も伊達に、うちの領主様と定期的に野盗狩りをしていない。今回はあの野盗擬き共の作戦勝ちだったのだろう。
いや、計画して討ち取りに行くことは出来ても、奇襲に弱いのかも知れん。野盗狩りも、主戦力は領主様だろうし、本当の意味での実戦経験は少ないのかもしれない。
「そう言えば、門番があのチンピラ共だったけど、まだいるかな?」
「今、自警団の者が数人で確認に行っとるよ。まぁ逃げとるだろうがな。しかし、真っ昼間に町の内側から襲われることに成るとはな。領兵さんが、真っ先に殺されたが、町民に怪我人が出なかったのが、不幸中の幸いだったわ。もう少し君が遅かったら、武器を持たずに奴等と戦う羽目に成っておったよ。」
「それは、危なかったですね。」
常備兵である領兵は殺されたのか。俺が来なければ、あと何人死んでいた事か。間一髪って所か。
「うむ。油断も有ったが、警備態勢の不備を突かれた形だのう。自警団だけでも、常時武器の携帯をしておく必要があるかのう。」
「そうですね。その場合、腕に同じ色の腕章や、手拭いを首に巻き付けるとか、町民が一発で分かるように工夫すれば、良いんじゃないですかね?領主様に伺って見る方が良いかもしれませんね。」
「うむ、中々よい考えだのう。その線で領主様に伺って見るか。」
「そうですね。そしたら、私は今から領都に帰り、領兵団詰所にこの事を伝えます。恐らく、数日内に領兵が派遣されると思います。」
「何から何まで済まないね。」
「いいえ、お気になさらず。」
俺はこの後、急いで領都に戻り領兵団に今回の件を伝えた。後日、新たな領兵が隣町に派遣されることになる。
この事件の後、常備兵の追加徴集が決定。また、各自警団にも、常時帯剣の指示が決定される。いわゆる、一領具足のような体制であった。
王国歴77年、ファノヴァール領レストニアの兵力が充実され、それに伴い内政の充実も計られる事になる。後に内政官の筆頭にメグミ・ヒムラが登用され、ファノヴァール家の飛躍の一翼を担う事になるが、それはまた後の話になる。
以後も、ヒムラ家を中心とした話となります。