ファノヴァールの刀神   作:水冷山賊1250F

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 元比古さん、親父殿に正体をバラすの巻。


剣龍在野 4

 あの後、家に帰ったら親父に怒られた。小太刀しか持って無い状況で、無茶すんなとのことだった。まぁ、全然無茶ではなかったんだが、心配してくれているのだ。ここは素直に謝っておいた。

 

 うちの家訓は、《外道死すべし、慈悲は無い》を地で行ってるような家だ。しかも、姉の上前を跳ねようとしていた輩だ。手心を加える意味が無い。

 

 「セイジ、大丈夫なの?」

 

 「心配してくれてありがとう姉さん。しかし、あのようなチンピラごときに、遅れを取る俺じゃないよ。安心してくれ。」

 

 心配する姉を安心させるため、大したことは無いと丁寧に教える。実際大した事は無かったからな。姉は微妙な表情だ。弟が人を殺して、平然としているのが不可解なのだろうか?おなごでは有るまいし、そんな精神では乱世を生き抜くことなど出来ぬよ。

 

 

 彼は気付いていなかった。ベールセール王国を含む周辺国は、度々小競り合いは起こるが、戦乱と言うほどの時代では無かったのだ。そんな時代に生まれた者が、初めて人を殺して平然と出来ている。

 

 ヒテン流3代目継承者ケンジ・ヒムラは、自分の息子が殺しを楽しむ質ではないかと一瞬訝しんだが、その考えを頭から消した。

 

 息子はある意味天才であった。5歳の頃からその片鱗が現れ始めた。

 

 毎日の稽古や、厳しい特訓にも嫌な顔一つ見せず、剣に打ち込み始めたのだ。そして、見る見る上達する剣の腕前。自分に隠れて、こっそり剣を振るっているのを何回も目にした。

 

 だからと言って、他者や弱者を見下すことも無く、剣の腕はさっぱりだが、天才の姉をとても尊敬していた。

 

 真っ直ぐに成長し、努力し続ける天才。

 

 今まで天才と言うのは、自分の父しか見たことが無かった。

 

 しかし父は、戦乱の折り、自らの大切な人をその手にかけ、人を切ることが出来なくなっていた。剣士としては歪に成長してしまった天才。それが彼の父に対する評価だった。おそらく、今の自分でも父と戦えば勝てないだろう。だが、剣士としては怖くは無かった。

 

 しかし、息子は違う。彼は12歳にして、小太刀で敵を圧倒し生還するほどの実力を持っている。今はまだ自分が勝てるだろう。だが来年には、勝つことは難しくなる。おそらくは負けるだろう。

 

 彼の性根を確かめるなら今しかない。ヒテン流を受け継いだ化け物を、野に放つ訳にはいかないのだ。

 

 彼は、次の日の稽古で息子の性根を見極める事にした。しかし、次の日息子のとんでもない告白を聞くことになる。

 

 

 「稽古の前に、一つ聞きたい。セイジ、昨日悪党を斬った時、どう感じた?」

 

 「ん?そうだなぁ。何が彼等の性根をああも歪ませたのかと、ぐらいかな?真面に生きていれば、俺に斬られる事も無かったのにぐらいは感じたよ。でも、どうしたの父さん。」

 

 「お前が、人を斬ることに何も感じないような人間ではないのかと感じてな。」

 

 「う~ん、どうだろう?そうだな、そろそろ父さんには話すか。」

 

 「ん?」

 

 突然の話の転換に、ケンジは少し驚く。

 

 「父さん。父さん達の故郷の国は、日ノ本じゃないの?」

 

 「ん?いや、ヤマトと父からは聞いているが?」

 

 「ヤマト?」

 

 「うむ。私も行った事は無いのだがな。100年も同じ島国の中で、戦争を続けていた国だそうだ。お前のおじいちゃんはな、その戦いがいやになり、お前のお婆ちゃんと俺を連れて国を出たんだよ。風の噂では、小田家が天下を統一したとか。島国で何が天下なんだかな。それがどうした?」

 

 「え?100年の戦乱を治めたのは徳川ではなく??」

 

 「ん?徳川?聞いたこと無いな。と言うか誰から徳川なんて名前を聞いたんだ?」

 

 「え?だって東の果ての島国って言えば日ノ本じゃないの?」

 

 「ヒノモトなんて島国は聞いたことが、いや何処かで聞いたことが有るような。」

 

 「では、唐土(モロコシ)は?天竺は?」

 

 「知らん。」

 

 突然、息子の様子がおかしくなった。

 

 「ヒテン流って元は飛天三剣(ミツルギ)流では?」

 

 ケンジは、この言葉に少し動揺してしまう。息子はどこでその名前を聞いたんだろう?

 

 「いや、飛天一刀流だが?そもそもお前のじいさんのじいさんが造った流派だ。」

 

 「は?その方の名前は?」

 

 「緋村弥彦。この辺の言い方では、ヤヒコ・ヒムラだな。元々は明神と名乗ってたそうだが・・。そうか。ヒノモトって確か、そのヤヒコじいさんが昔居た所だったそうだ!鉄の箱が煙上げて走ったり、鉄で出来た戦船が有ったとか。じいさんの与太話かと思ってたが、確かそこがヒノモトって呼ばれてたような。」

 

 「なんだそれ?たぶん違う。」

 

 「いやいや、ツバメ婆さんも同じような事を言ってたんだよな。なんかこことは違う世界から来たとか。てか、何で今その話をする必要が有る?」

 

 「輪廻転生って言ったら解るか?俺は、生まれる前の記憶が有る。俺は日ノ本で飛天三剣流と言う剣術を創ったんだよ。」

 

 「ん?何の話?」

 

 「俺の前世の話。で、ヒテン流は、俺の創った技が、所々有るものでな?例えば、龍巻閃とか、龍巣閃とか。だから、飛天三剣流だと思ってたんだが。」

 

 「ちょっと待て。なら何か?他の技も有るのか?お前には全ての技を教えた積もりだが?」

 

 「え?あれで全部なの?あとは龍墜閃と、龍昇閃ぐらいしか教えて貰って無いけど?」

 

 「あぁ、全部だな。」

 

 「じゃあ、九頭龍閃は?」

 

 「知らん。」

 

 「じゃあ、当てないからそこに木刀を構えて立っていて。動いたら当たるからね?」

 

 「分かった。」

 

 息子はどのような技を使うのだろうか?木刀を両手で構える。好奇心で年甲斐もなく胸が高鳴る。

 

 息子が木刀を構える。自然体だ。

 

 「行きます。飛天三剣流、九頭龍閃!」

 

 一度に八方向の斬撃と、心臓を狙う突きが襲いかかった。恐ろしい。一対多を極めようとした流派にあって、純粋に一人を確実に殺す技だ。今の技は、子供の思い付きで出来るような技じゃない。

 

 「お、お前、本当に前世の記憶が有るんだな。凄い技だった。初めて見た。」

 

 「そうか。何か飛天三剣流と関係が有ると思ったんだけどなぁ。」

 

 暫く沈黙していたケンジが、意を決して息子に語りかける。

 

 「本来は、流派を継承し、免許皆伝と成った者だけに口伝として伝える事なんだがな。お前はもう教えることが無いし、良いか。」

 

 「何の事?」

 

 「ヒテン流の事だ。ヒテン流は、ヤヒコじいさんが興した流派だが、元は飛天一刀流と名乗っていた。その技術は二つの流派の技を取り入れていると言う。一つは神谷活心流。もう一つは、飛天御剣流と言う流派らしい。神谷活心流は、活人剣を目指した流派だが、飛天御剣流は、一対多を基本とした殺人剣だそうだ。」

 

 「なんだ。やっぱり飛天三剣流か。」

 

 「ちょっと待て。家に秘伝を伝える書が隠してある。見に行こうか。」

 

 「有るの?じゃあ見に行こう。」

 

 

 

 二人で家に帰り、ケンジが隠していた秘伝の書を持ってきた。セイジは一目見て、表紙に漢字が使われている事に気付いた。

 

 「父さんは、これ読めるの?」

 

 「いや、正直読めんよ。親父は読めたようだがな。一応翻訳したのも有るんだがな。それが正確に翻訳されてるかは分からん。」

 

 「中身を見るよ?」

 

 漢字が使われている方の書の中身を開く。セイジには、普通に読めた。

 

 「成る程。ヤヒコひい祖父さんが、書いた物みたいだな。」

 

 「読めるのか?」

 

 「うん。読めるよ。でも、飛天三剣流じゃなくて、飛天御剣流と書いてある。」

 

 「どう違うんだ?」

 

 「この書の方は、刀を丁寧に言った読み方だよ。俺のは3つの刀って意味。読み方だけは同じだけどね。」

 

 「へぇぇ。」

 

 「この書には、九頭龍閃と、最終奥義の《天翔龍閃》と《飛天無限斬》が入って無いね。」

 

 「そうなのか?」

 

 「うん。恐らく、活人剣を取り入れたから、殺人剣の色が強すぎるこれらの技は、外されたのかもしれない。あと、何故か土龍閃も無いね。」

 

 

 

 彼は知らなかった。ヒテン流創始者弥彦が、正式に飛天御剣流を受け継いでいないことを。ただ、弥彦は天才であり、数度彼の憧れの剣客が刀を振るう様を見て、龍槌閃や龍翔閃等の技を自ら修得したのだ。

 

 此方の世界に来た弥彦は当初、不殺を行って来たが、限界は直ぐに訪れた。愛する妻子を守るため、その手を血に染める事になる。

 

 飛天一刀流は、不殺を止めた弥彦成りの、決意の意味も有ったのだろう。

 

 

 「逆にお前が知らなかった技はどれだ?」

 

 「束だけを使った技と、刃止めや、刃渡り辺りかな。正直、俺には必要性が感じられない。やれと言われればやるけど。あと、活人剣って何なの?剣術は所詮殺人術だよ。害悪を殺して多くの民を活かすって意味で良いんだよね?」

 

 「それで概ね合ってるよ。他にも、剣術の鍛練を通して、健全な精神を育み、多くの人を活かすって意味も有ると、じいさんが言ってたな。まぁ、じいさんもそれは理想だと言ってたけど。」

 

 「確かにね。あまりにも甘い考えだ。まぁ理想は有った方が良いけど。でも悪党は切り捨てなきゃ、多くの犠牲者が出ることになる。俺達の、いや、飛天三剣流の理念は、弱き者を剣で救う事だ。躊躇うわけにはいかない。」

 

 「うむ、それで良いと思う。まぁ、お前が血に飢えた殺人鬼では無いことが分かっただけで、今回は良しとする。それと、今回の事で分かった。お前はヒテン流を正式に継げ。暫くは、領主様のお手伝いをするんだ。」

 

 「分かったよ。でも、訓練でヒテン流の技を教えるのはダメだよね?」

 

 「剣の持ち方や、振り方、体の使い方ぐらいは良い。技や奥義は駄目だ。実戦でお前が使う分には良い。」

 

 「分かった。」

 

 

 こうして、セイジ・ヒムラはファノヴァール家に支え、領兵団に(彼にとっては)基本的なる剣術を教え込む事になる。

 これにより、ファノヴァール領兵団は、王国一の精強な軍団として生まれ変わる事に成る。

 

 




 少し短いです。ヒテン流説明回でした。
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