ベールセール王国王都ヴァンフィールにおいて、緊急の諸侯連盟の会議が開催されていた。ディルヴィレン侯爵は、今回の征伐を重く受け止めていた。
「たかだか一介の伯爵の訴えを受け、侯爵を処断することすらあり得ない事であるのに、3000の兵に対し500の兵でボルネリア侯爵家を滅ぼすとは。」
「あの若僧、只強いだけでは無いらしい。しかも、良い駒も揃っているらしいな。剣鬼セイジ・ヒムラか。元々は東の方から流れてきた平民の一族らしいが、近衛騎士等では足元にも届かん程の実力らしい。」
「ファノヴァール家め!正論ばかりを唱えおって!貴族の権利をなんと心得るのか。平民など、捨て置けば良いものを。」
「その平民の力で、奴等の土地は栄えている。平民も馬鹿にしたものではありますまい。」
ディルヴィレン侯は、その物言いに顔をしかめる。諸侯連盟の筆頭として、平民の肩を持つ等考えられない暴挙で有ったのだ。確かにディルヴィレン侯爵領は、年貢等王家直轄領と同等では有るが、平民を優遇している訳では無い。王家に付け入る隙を見せないためで有るのだ。
折角築いた貴族の地位を落とすような真似は、彼の長年の苦労を水泡に帰すと同じ行為で有ったのだ。それもこれも、領地をまともに経営出来なかったボルネリア侯爵のせいで有る。彼がイタズラに平民を追い込まなければ、平民も逃げ出すことは無かったので有る。誰が喜んで、父祖伝来の土地を手放すだろうか。それすらも分からない愚物が侯爵となったこと事態、問題でもあるのだが。
「しかし、今代のファノヴァール家は危険だ。先代のファノヴァール伯も武勇には優れていたが、今代はそれに組織力が付いてきた。領地の守備兵の数も増員されている上に、質も向上している。しかも現在は、王家派の急先鋒として色々政に口出しまでしてくる始末。どうにかせねば、我々の未来も安泰とは言えなくなるぞ。」
「当代ファノヴァール伯を暗殺すれば或いは?」
「むう、それしか無いか。姫様をファノヴァール伯に降嫁させようと言う動きも有ると聞く。やはり、奴に生きていて貰っては困るな。」
「だが、どう殺る?奴は基本的に隙を見せぬぞ。武門の名家と言われるだけあり、普通に戦っても勝てる筋が見えん。数年前に王女誘拐が有った時も、奴だけで解決に導いたぞ?」
「あの時は人質が王女だった為に、あの者達も人質を有効に使えなかったのでは?確かファノヴァール伯には妹がいた筈。その妹を人質に取れれば或いは・・・。」
「フム、その線で策を練ろうではないか。そして王家の血になんとしても諸侯連盟の血を。我々貴族がこの国を手にする為にも。」
「「「王家に我らの血を!」」」
こうしてアレス暗殺計画は進められる事になる。
ディルヴィレン侯の次男フィリップは、野心の強い男であった。家を継ぐ長男は英才教育を受けているが、自分は幼少の頃から血ヘドを吐くほど鍛えられ続けた。それもこれも、近衛騎士となり出世し、実家の勢力を伸ばすためである。つまり、家の道具としての役割しか期待されていなかったのだ。
しかし、彼は腐らずに必死に努力した。元々の才能も有ったのだろう。彼は見る見る実力を付け、近衛騎士に任じられる事になる。
彼には野望があった。王女を妻にし、王家を乗っとり、親兄弟を見返すのだと。王女が12才の子供を護衛にしたと聞いた時はチャンスだと思った。そのようなガキは打ち負かして、自分が護衛と成れば王女と自然に近付ける事になる。意気揚々と王女の部屋に行き、自分の有用性を訴え、護衛のガキと試合をする所まで持って行けた。ここまで持って行けば、もう貰ったも同然だ。この生意気そうなガキに負ける訳がない。そう思っていた。
結局、一撃で負ける事になる。初めから舐めて掛かったとは言え、まさに惨敗である。その後、策を弄しアレスを陥れようとするが、失敗。しかも、この事に父親が一枚噛んだにも関わらず失敗したため、半分八つ当たりの形で大目玉であった。
その後、近衛騎士を辞めざるをえず、魔物が棲む森に送られ武者修行をさせられる羽目にあった。
故に彼は、アレスを蛇蠍の如く嫌っている。自業自得では有るのだが、彼にその認識は無い。しかも、500の兵で3000の兵を打ち破ると言う大戦果まで挙げている。妬ましい事、この上なかった。
「ボルネリア侯め!3000の兵で敗れ去るとは情けない!このままでは、アレスの評価を上げただけで終わるではないか。」
実際は農民を強制的に徴兵し、倍の数で有ったのだが、不都合な情報は黙殺する事にした。野戦で10倍以上の敵に勝つなど、本来なら有り得ないのだ。
ファノヴァール側の誇大宣伝だと一蹴し、農民の数は無かった物と思っている。正確な敵の戦力を、把握するのを理性が拒否しているのである。実際に農民の被害はほぼ無かった。それも、この考えを後押ししていた。
しかし、彼はこの判断を後悔する事になる。ファノヴァールの「力」をこの時、正確に把握していれば、身の程に合わぬ野望など持たなかったに違いない。
彼は逆恨みとも言うべき心情の下、ファノヴァール家に敵対する道を突き進む事になる。
それが破滅の道で有るとも思わずに。
すいません。出来たのでアップします。