コミュ障TS転生少女の千夜物語   作:テチス

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襲撃者その1

 

 

 村に襲撃が来ると言われてから十数分経過。

 いまのところ怪しい人影は無く、村人は無事に広場に集まった。俺の後ろで夜人に守らせているが、しかし、その周りで鳥が威嚇するように建物を壊して回っている。

 

「……」

 

 ガラガラと家屋が崩壊して、鳥が勝利の咆哮をあげる。そのたびに村人は互いに身を寄せ合って震えあがった。

 

「……騒がしい」

 

 手を挙げて夜人達に「鳥共を止めろ」と命令すると、なぜか人面鳥たちが静かに地面に降り立った。俺に向かってこうべを垂れるように反省のポーズ。……違う。今のはお前への指示じゃない。

 村人たちが恐怖の目で俺を見つめてくる。違う。俺はあいつらの主じゃない。

 

 あーもう、鳥が勝手に仲間意識を持っているから変なことになってる!

 

 鳥を殺してもいいけど夜人は飛べないし、下手に刺激して敵対されても大変か。制御利かない方が面倒そうなので、仕方なく鳥はそのまま待機させる。

 

「仮面の女……あ、貴方は」

 

 対峙する紳士さん(仮名)が何か言いだそうとしたが、仮面の口に指を立てて静かにしろと示す。

 

 やめてよ。もうこれ以上、勝手に展開を進めないで。俺はすでに一杯一杯なんだ。

 

 人間を追い立てて囲んでいる(ように見える)俺たち。それに従うキモい鳥。小脇に抱える意識の無いヨルンちゃん人形。対峙するように聖職者登場。

 

 ああ、まずいわこれ。スッゴイまずいわ……。

 

 傍から見れば大人verヨルンちゃんが襲撃者やってないかコレ?

 やっと最近、俺が村に受け入れられ始めたと言うのに、夜人達の評判も地に落ちないかコレ?

 

「……不味い事態になった」

 

 聖女さんと早急に合流しなければいけない。でも合流できる気がしない。

 

 目の前に紳士さんがいなければ、今すぐ大人変化を解いて、普段のヨルンちゃんスタイルに戻ることができた。これは村人を助けるための行動だったと弁明できた。

 だけど紳士さんには、この姿は南都で暴動を起こした人物と知られている。今変化を解けば少女姿のヨルンちゃんと大人姿がイコールでつながってしまう。

 

 ……変化解けないねぇ。これ解いちゃダメな奴だねぇ。

 解けば俺は晴れて犯罪者の仲間入り。でも解かなければ、大人verヨルンちゃんが凶悪犯罪者の仲間入り。

 

「どうして……お前は私を不快にさせる。なぜここにいる聖職者」

 

 お前さえいなければ、もうちょっとで解決だったのに!

 そんな怨みを籠めて睨みつけると紳士の腰が引けた。

 

「全てが悪い方向に流れてる。歪んだ軌道は直さなければならない」

 

 もう、大人verヨルンちゃんが犯罪者になってしまったのは仕方ない諦める。優先順位だ。この状況で最優先するべきことを決める。

 

 気配探知すれば、聖女さんはまだ集会場にいるようだった。

 そこに4人の気配があるが……どうやら、戦っているらしい。ならば、これが最優先事項。

 

「ヤ――お前。いますぐディアナを確保してきて」

 

 ヤトに指示して、聖女さんの援護に行かせる。

 普通の人に夜人の見分けは付かない――というか俺もつかない――が、名前で呼んだらバレてしまう。ヨルンの使役する夜人と、大人verヨルンちゃんが使役する夜人が同一個体ではおかしいことになる。

 

 でもどっちみち夜人は危険な存在という認識が強まるのは避けられないだろう。ならば、せめて「ヨルちゃん」のイメージだけは守らなくては。

 

(夜人の存在が危険視されれば、俺の立場も悪くなる。庇ってくれた聖女さんも嫌われかねない……それは避けたい)

 

 このまま手を打たないのはダメだ。この事件は人々の想像を駆り立てる。絶対なにか勘繰られる。それがヨルンの手引きで襲撃者が来たとか、訳分かんない被害妄想だったら最悪だ。

 いや、それでなくとも夜人が危険視されて村に居られなくなったら辛い。聖女さんにも拒絶されたら生きていけない。

 

「勘違いしないで貰いたい。私は村人を助けに来た」

 

 ……駄目ですね。とりあえず言ってみたけど、紳士さんも村人も誰も信じてくれない。それどころか恨めしそうな目線が増した気がする。

 どうすればいい? どう誤魔化せば、ヨルン・ノーティスは悪くないことになる? 研ぎ澄まされた頭脳を回転させる。

 

 ヨルちゃんは良い闇で、大人verは悪い闇。

 そうすれば、同じ夜人を使役する闇魔法の使い手でも、事件解決後にヨルちゃんは拒否されない! ……と、いいなぁ。

 

 子供姿、大人姿。同じく夜人を使役する闇の力。

 襲われる村、小脇に抱えられて攫われそうなヨルンちゃん人形。ふむ…………閃いた!

 

「それで、聖職者が何の用? もしかしてお前も村人を助けに来た? ……それとも、これ?」

 

 小脇に抱えていたヨルンちゃん人形をゆすって指し示す。

 大人verとヨルンがここまで似ていて無関係は通らない。ならそれを逆手にとってヨルンちゃんは良い奴アピールをしていく。

 

「これはダメ。闇の存在のくせに、その力で人を傷つける事を拒否した不良品。あろうことか、逃げ出した裏切り者」

 

 村人にも聞こえるようによく通る声でいう。

 

 よくある設定だ。生まれつきか、後付けか、邪悪な力を手にしてしまったが、それに耐えられず逃げ出した子供。そして主人公に保護されて、主人公を悪の組織との争いに巻き込んでいく……という設定。

 

 その立場なら俺が不吉な闇の力を持っていても敵視されない……はず!

 

「夜人は術者の意志をよく反映する。私のように害意を持てばこんな村、いともたやすく壊滅できる。だけどコレは甘すぎた。力は有れど人一人殺せない」

 

 ちょこっとヨルンちゃんが操る夜人なら危険じゃないよアピール。

 大人ver俺が悪者になればなる程、子供ver俺は被害者になれる。そういう寸法よぉ!

 南都でシオンがやったように、悪役を演じていたら少しテンションが上がってきた。しかしすぐに冷や水がかけられる。

 

「今日、私たちはコレの回収に――」

 

「じゃあそんな奴、さっさと連れて行きなさいよ! 私達は関係ないじゃない!!」

 

 突然、背後から甲高い叫びが聞こえた。村人の声だ。

 

「そ、そうだ、俺たちを解放してくれるならソイツはくれてやる!」

「だから言ったんだ! 闇に関わると碌な事がないって!」

「し、静かにしなさい! 騒ぐんじゃない!」

「……ぇ?」

 

 命の危険に晒された村人たちが、助命のためにヨルンという生贄を差し出す。何人かの衛兵や冷静な大人が止めるが火種は燻ったまま。

 ヨルン人形に注がれる責任追及の目。溢れる命乞い。背後から感じる圧力に、俺は作戦の失敗を悟った。

 

(あ、これ……最悪なパターンだ。事件が終息しても俺の立場がなくなる奴だ)

 

 たしかに俺のセリフから考えると、この襲撃を招いたのは「ヨルン」だろうけど、思っても言うか普通……そういうこと。こんなに小さいんだぞ、可愛いんだぞ。

 

 ちょっと悲しくなってしまう。近くにいた夜人が慌てて慰めてくれた。

 

 だが、同時に何人かの夜人が俺への悪意に反応した。最初に叫びあげた女を締め上げようと村人の群れに向かって動き出す。

 夜人の雰囲気が一転。全身から瘴気を立ち昇らせて、一歩一歩踏み締めるように進む。村人が息をんだ。

 

「――きゃぁあ!」

「うぉお!?」

 

 止める暇も無くあっという間に戦闘が始まった。

 夜人と夜人の殴り合いだ。人々は身を護るように屈んで、その上で暴虐の黒い嵐が吹き荒れる。

 

「な、なに……?」

 

 戦闘が早過ぎて目が追いつかない。周囲の家に何かが突っ込んだと思ったら、瓦礫の中から夜人が飛び出てきた。

 数体の夜人が全力で並走している姿は黒い風にしか見えない。鳥が巻き込まれて挽肉となる。

 

 夜人達はまるで村人を襲う立場と、護る立場に別れているかのように仲間内で争い合っていた。

 

 中でも一番荒れているのは佳宵だった。

 首に赤いリボンを巻いた夜人が、10人近い夜人相手に乱戦を繰り広げている。隙を見て人間に近づこうとして止められる。

 

 一体何事かと数舜呆ける。だけど気が付いた。

 

「……ま、まさか」

 

 腕の中のヨルンを見る。

 

 これはあれか? ヨルンの時に命じていた「村人の護衛」が発動したか?

 なにせ、さっき俺を蔑んだために、村人が過激派の夜人から敵意を買ってしまった。激しい戦闘に巻き込まれ、渦中で凍り付いている人が先ほど叫んでた女性だろう。

 ……なるほど、そう考えると辻褄があう。何が悲しくて、村人護るつもりが襲う事になったのか。

 

「は、はは」

 

 どうしようもない展開が続いてつい笑みがこぼれ堕ちた。

 ちなみに過激派筆頭は佳宵っぽい。俺に悪意を向けた村人を、どうにか襲おうとしては周囲に止められてる。

 でも、それを知らない村人が叫んだ。

 

「見ろ!! アイツ赤いリボンをつけてる! ヨルンの夜人だ!」

「ま、まさかアイツ、守ってくれているのか俺たちを!?」

 

 いいえ違います。貴方達は狙われています。ちなみに攻めも守りも俺の夜人です。

 

 だが、それを知らない村人は、少しずつ声を上げて佳宵を応援し出した。

 それに「ふざけんな!」と佳宵がより荒れる。纏わりつく同僚を弾き飛ばして、全力の咆哮。応じて歓声が増した。……なんだこれ?

 

「止めろ……! もういい。もう全員、指示あるまで動くな……!」

 

 どうして全部悪い方向に事態が進んでいくのか。

 ダメだ。上手くいかない焦りと苛立ちで短慮になってしまう。一度冷静に立ち直れ。ここから、状況を好転させるには――。

 

「いまだ!!」

 

 ドンっ、と背中に衝撃。

 

「返せ……! ヨルンを返せよ!」

「お、前ッ!」

 

 突然、背後から突っ込んで来たのはリュエールだった。

 脳内で銀鉤があわあわしている。周囲の夜人も驚いているが動く気配はない。あ、そうだ。俺が止まれって言ってしまったから――

 

「ぃ……!!」

 

 リュエールの手から魔力が発せられ、俺の体を突き抜ける。視界が瞬き、喉から空気が漏れた。がくんと膝が折れてヨルン人形を離してしまう。

 

「こい、つ!」

 

 彼はまだ戦闘魔法を覚えていない。これはただの魔力通しだ。凄いくすぐったいし、息も上がる。でも、それだけでしかない。決してその技で敵は倒せない。

 なのに、コイツ……俺の「止まれ」と言う指示を聞いて、一瞬の判断で突っ込んできやがった!

 

「ぎんこ……う!」

 

 慌てて抱き着いているリュエールを振り払おうとするが、力がでない。何とか銀鉤にオーダーを出して体の操作権を委任。

 

 その瞬間、リュエールが吹き飛んだ。どうやら銀鉤の操作で"俺"が蹴っ飛ばしたらしい。

 気持ちいい程飛んだから、無事か心配になったが手加減はされているようだ。転がったままこちらを睨むリュエールを見下し、荒れた息を整える。

 

 地面に落としたヨルンちゃん人形を拾おうとして……また、アイツが走ってきた。

 

「止めろ! ヨルンに触る、な――ぐっ!」

 

 大きく伸ばしたリュエールの手を半身に躱して、手首をつかむ。そのまま相手の勢いを殺さず足を払い、一回転。地面に叩きつけながら抑え込む。

 ここまで、ぜんぶ銀鉤。俺に格闘技なんか無理なのです。

 

「力は無い。動きが遅い。頭も悪い。そして、なにより諦めが悪い」

 

 可動域を超えて、背中側に押し込んだリュエールの腕を締め付ける。そのまま罵倒。彼は悔しそうに顔をゆがめた。

 ここまで、ぜんぶ銀鉤。あと口が悪いのは【夜の神】。

 

「力もない子供が出しゃばるな。お前ら無能な存在は漫然に生きて、無為に死ね」

 

 相手が俺だからよかったけど、本当の犯罪者相手にこんな特攻されては堪ったものではない。ダメだよって注意する。

 

「"コレ"を助けようとヒーロー気取り。そんな子供の夢は叶わない。いい気になっていた? なら、そろそろ目を覚ませ」

 

 痛みに耐えかねたのか、リュエールが涙を浮かべる。……あ~、かなり罪悪感が湧いてきたぁ。

 彼の事は嫌いじゃない。むしろ好感を持っている。優しいし、俺に構ってくれるし、甘い物もくれる。また明日遊ぶ約束だってした。

 だから……。

 

「だから、ヨルン、を……返せよ!!」

「ッ、こいつ!」

 

 ――魔力を操るのは簡単だという。

 

 俺は苦手だが、この世界の人にとって魔力操作は利き腕を使うのと同様の認識だ。使えて当たり前のもの。しかし、それは基本的な操作に限る。

 魔力を造魔器官から抽出して体外に排出する基本工程とは違い、この世界の人間でも非常に難しい応用技能も存在する。

 

 例えば、体内で魔力を循環させ疑似的な魔法陣を描き、体内で魔法を発動させること。

 例えば、詠唱を介さずに魔法を行使する無詠唱という技術。

 

 そして――いまリュエールが抑え込まれながら行った、造魔器官を意識的に動かすことで魔力を爆発的に練り上げる技能。

 

「ひぃ……ぐ……!」

 

 こいつキライ! また魔力流してきやがった!! しかもコレまでの比じゃない!

 一気に流れ込んできた他人の魔力に体が反応する。電流を流された時のようにビクンと体が勝手に跳ね上がる。

 飛びそうになる意識を無理やり繋ぎとめるが、思わず緩んだ力にリュエールが拘束から抜け出した。

 

「やめ、ろ! それに触れるな……!」

 

 リュエールがヨルンちゃん人形を奪い取ろうと動く。

 だめだ! アレは見せ札なのだ! 息をしているし、鼓動もある。だが決して目覚めないヨルンちゃんなのだ。

 あれを奪われると、余計に事態が混迷する!

 

「間に合っ――」

 

 ギリギリ、奪われる前にリュエールの服を掴めそう。ちょっと安堵した瞬間、俺の顔に衝撃が走った。意図した訳で無いのに横に流れる視界。ピシリと、仮面に罅が入る。

 

 視界の端に俺の頭部を叩きつけた物が目に入った。突き出されたのは白いステッキ。

 

「ヨルン! 大丈夫か! おい!」

 

 俺が立ち直る前に、リュエールは人形にたどり着いていた。不安と喜びの混じった顔で揺さぶって起こそうとしている。

 

 ……作戦を変更する必要がある。

 いますぐ、あれを奪還しなくてはいけない。そうしなければ大変なことになる。だが、俺の行く手を遮る者が居た。

 ――カツン、と。

 白いステッキを一回転させ、地面に突き立てる男。

 

「子供とはこの淀んだ世界の中で唯一、夢を許された者なのだ」

 

 紳士服の聖職者が良い笑顔で立っていた。

 

「いずれ子供も世界を知るだろう。どうしようもない現実と、抗い様の無い悲劇に打ちのめされて皆、大人になっていく。だけど、それを知らない間だけ人はヒーローでいられるのだ」

 

「……意味がわからない」

 

「つまりね私は、まだまだ子供だったという訳――だよッ!」

 

 言葉と共に突き出されたステッキを掴む。手首から先が黒い靄となって消滅した。

 

「っ!?」

 

 ステッキの勢いすら殺せていない。

 顔面に向かってきたから、反射的に首を上に逸らせる。ギリギリを回避するが、それが悪手だった。

 

「君は強いのだね」

 

 空しか見えない視界で足に衝撃。支えていた地面が無くなる。……いや、違う。両足の膝から下が蒸発している。

 宙に浮いて体が崩れ落ちる最中、肉体の操作権を再び銀鉤に譲渡。

 

(っ銀鉤!)

 

 残った左腕を振って空中でバランスを制御すると腕から着地。地面をつかんで跳ね上がる。その瞬間、地面を光線が焼いた。

 

「……光属性か。相性が悪い」

 

 消滅したはずの足で着地。

 腕と両足は一瞬で再構成されていた。ご丁寧にスーツまで直っている。しかし、急ごしらえなのか直した箇所からは、黒い瘴気が溢れていた。

 

「人は弱いな。怖いモノを見たら、体がすくんで立ち止まってしまう。ああ……私は今でも恐ろしい」

「……また意味不明な独白?」

「そう言うな。こうやってお道化ていないと、どうにかなってしまいそうなのだよ」

 

 奇襲から始まった戦闘に一息。紳士の男は言葉とは裏腹に余裕そうな表情で演ずる。

 

「では、怖くて動けないなら、どうすればいい? 簡単だ。そこの少年が私に答えを魅せてくれた……ヒーローになればいい」

 

 どんな巨悪にも立ち向かうヒーロー。苦難と悲劇に打ちひしがれても、心だけは燃え猛る正義のヒーロー。そうありたいと彼は言う。

 

「君は少年の事をヒーロー気取りと言ったね。では、君はそんな気取った子供にこの子を奪われた訳かい? あぁ、滑稽かな。ならば君は悪役気取りと言わせてもらおうか」

 

「……」

 

 紳士男はカイゼル髭を撫でつけてながら俺を煽ってきた。

 悪役気取りと言われたときは的確過ぎて少しビクっとした。けど、それだけだ。それよりも今はリュエールが気になった。

 

 ヨルンが人形だって気付いてないか? 怪しんでないか?

 紳士に気を配りながら伺えば、よし、まだ大丈夫のようだ。人形を抱えながら地面にへたり込んでいる。

 

(よし、よし……まだ大丈夫。ここから挽回できる。きっとできる)

 

 まず、紳士さんを無力化。リュエールから人形を奪還。そしてすぐさま聖女さんへの援護に――と、考えて気付く。

 

(あれ、聖女さん……どこ行った?)

 

 集会場に有ったはずの気配がない。どこだと探せば彼女の気配は、いま、俺の真後ろにあった。

 

「――!!?」

 

 反応できたのは奇跡だった。

 うなじにピリッとした感覚が奔り、何も考えずに地面に伏せた。同時に聖女の手刀が俺の髪を数本切っていった。

 

「いつの、まに!」

「皆さん! 今です!」

 

 周囲の屋根から伏兵が立ち上がる。光を帯びた矢がこちら目掛けて雨のように降り注いだ。

 

(ああ、無理! 無理! 銀鉤パス!)

 

 雨を避けることなどできようはずもない。打ち払い、逃げまどい、なんとか致命傷は避け続ける。何本か体に刺さるが痛みはない。光と闇がせめぎ合い、矢は脆くも崩れ去っていく。

 

 操作権を委任していた銀鉤が射手に向かって手を伸ばした。集まっていく闇の魔力に、なんとなく嫌な予感がしたのでそれは駄目と伝える。

 

 相手はこっちを殺す気だ。しかし、不思議と恐怖は無いし負けるとも思えない。夜人もそれがわかっているのか律義に俺の待機命令を守っていた。

 しかし一切遠慮のない射撃に晒されて、俺は回避を続けるしかない。

 

 止めていた夜人に参戦命令を下すか? だけど、それも危なくないか?

 相手はこの村の駐屯兵団だ。村人を広場に集めた時とは違い、本気の戦闘になるだろう。怪我人も出かねない。

 

(……わかった! 影に潜め銀鉤! ヨルンちゃん人形回収して、もう逃げる!)

 

 後の事は後の俺が考えてくれるでしょう! もう、ここは一時退却しかない!

 

 え、本当にいいの? と言いたそうな銀鉤の動きを気にせず号令をくだす。

 矢の連撃に耐え兼ねたように地面にもぐりこみ、リュエールの影から現れる。こうすれば……あれ? なんでここにいるの隊長さん?

 

「阿呆が。狙いがバレバレだ」

 

 いつの間にか隊長がリュエールのすぐ隣で剣を構えていた。

 

 「待って」と言う暇も無く、輝く剣で頭部を一閃。

 パキン――と。罅の入っていた仮面が割れて地に落ちた。

 

 

 




Q なんで村人襲ったんです?
佳宵「襲ってねえ。ちょっと脅そうとしただけだっつーの」

なお護衛班から危険と判断されて妨害された模様。

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