初日から波乱なんて無いよ! ね!
南都アルマージュには大きな建物が三つある。
街の中心で聳え立つ魔力採取塔、広大な敷地を持つ領主館、そしてエリシア聖教が保有するアルマージュ大聖堂だ。
そのどれもが観光資源になり得る街のシンボルだが、残念ながら全て一般人立ち入り禁止となっている。
領主館に入れないのは言わずもがな。魔力採取塔も発電所のような施設だからダメ。意外なのは、信者向けに開放してると思ってた聖堂も立ち入り禁止となっている事か。
エリシア聖教における「聖堂」とは信徒達の参拝用じゃない。そういう役割は街の各所にある礼拝堂が受け持つから、一般信徒にとって聖堂は遠い存在だ。
聖堂の役目は重要な宗教儀式を行う場であり、そして軍事拠点としてある。
軍事? 宗教家が軍事ってなに? 破戒僧ですかあんたら。一向一揆でもするんですかあんたら! などと、突っ込みかけたが……これはこの世界の歴史に由来するから仕方なかった。
人類の祖先は【太陽神】の尖兵であり、敵は悪神【夜の神】。
太陽神エリシアの御業を借りて闇を切り拓く存在が聖職者であり、先頭に立って戦う者こそ聖職者。ならば闘争こそが聖職者に求められる素質であり本質。
人々を正しい道に導くという使命は、それが転じて生じた平時の役割でしかないという。
はぇ~なるほど……いや、この世界の聖職者こえーわ。
世界各国に「聖堂」という名の軍事拠点を持ち、聖堂騎士や騎士修道会という暴力装置を当然のように振るう。聖職位は軍隊階級の様に扱われて敵前逃亡は死刑となる。
それでいて各国の支配者とも強く結びつき、国民の多くが聖教を信奉する。
うーん、カルトかな? 闇絶対殺すマンかな?
……やだぁ! 過激派しかない宗教やだぁ!
聖女さんは基本的にポワポワしてるから忘れがちだが、彼女も出会った当初は怖かった。親の仇みたいな目で睨まれたのを覚えてる。
ほんとこの世界の宗教、闇に対して厳しすぎませんかねぇ……?
などと考えてる内に、聖女さんに手を引かれてそこへ辿り着いた。
「ほら、着いたよ。これから私達の家になる場所。おっきいねぇ」
「はぇ~」
太陽光を浴びて輝きを放つ祭礼の巨城――アルマージュ大聖堂は4本の尖塔と1本の中央塔を持ち、街を一望できる程に大きかった。
中央塔の頂上には塔屋が立ち、巨大な青銅製の鐘が取り付けられている。その威容はまさに俺の思う宗教施設の姿。テレビで見た外国の教会っぽさを思い起こさせる。
いくら世界が違えど、人の感性は似通うという事か。
「入場許可証を」
「はい、どうぞ」
「……ようこそいらっしゃいました、エクリプス様。我等一同、歓迎いたします」
観光気分で呆けて居たら、門前を守る衛兵が語り掛けてきた。
門番たる全身鎧が威圧する様に槍を鳴らして言葉を放つ。その声色は一定で、顔も見えないから不安を煽った。アンタ、ほんとに歓迎してる?
聖女さんも同じ気持ちだったのか、少しだけ嫌そうに眉をひそめた。
「はい、これからよろしくお願いします。それと出来れば、私の事は家名ではなく名前の方で呼んで頂きたいのですが……」
「いいえ、お戯れを。そのような無礼はできません。司教室でムッシュ・マンカインド司教がお待ちです。ご案内いたします」
「そうですか……では、お願いします」
衛兵は欠片も愛想を見せずに業務をこなす。
彼だけが職務に忠実なのだろうか、それとも門番とは皆こんなに固いものなのだろうか。
困ったような聖女さんと顔を見合わせていたら、やり取りを聞いていた別の門番が肩をすくめて見せた。なるほど彼だけらしい。
そう思えばこのお堅い門番も可愛く見えて……は、来ないけど親近感が湧く。うむうむ、上司の出迎えは緊張するよね。分かる分かる。
「どうぞ、少し歩きますがご容赦ください」
巨大な門を潜って大聖堂の敷地へ一歩。
その瞬間、嫌な気配が体中を駆け回った。
「っあ」
「どうしたのヨルちゃん?」
「ん、いや……大丈夫」
ジェットコースターで内蔵が浮き上がる感覚。そして軽いやけどを負った時の様なジリジリと肌を焼く痛みが生じる。
腕を擦ってみても痛みは取れない。それが不思議で小首をかしげる。
(これが結界って奴かな。村の礼拝堂でもあったよね)
あそこの結界は俺に影響なかったが、夜人に対して効果絶大だった。
ここは大聖堂だから結界効果も強まっているのだろう。俺にも効いている。
嫌な感じだ。
少しなら我慢できるが、寝ても覚めてこの感覚に晒されるなら、俺はここには居られない。そんな気がする。
(あ、待った待った! ストップ! 大丈夫だから、ストップ!)
俺の不快感に反応したのか、ヤト達が影の中でざわついたので制止する。
こいつら自由にさせると碌な事をしないのだ。人間と価値観が異なるし、能力も隔絶しているから仕方ないのだが……この前のヨルンちゃん人形事件は酷かった。
あんな事が二度と無いよう手綱はしっかり握っていないといけない。
ちなみに、ヤトならこの不快感をどう解決するか聞いてみる。結界を壊すらしい。はいアウト! お前は影の中で黙ってて!
「ヨルちゃん、本当に大丈夫? 具合悪い?」
「……ん」
「長旅でお疲れなのでしょう。先にお部屋へ案内致しましょうか?」
聖女さん、俺の顔色よく分かったね?
門番の提案も有り難い。でもそういう訳にはいかないから首を振る。
「就任式……」
今日は聖女さんの晴れ舞台。到着したばかりだが、予定は詰まっているはずだ。俺の所為で迷惑をかける訳にはいかないし、俺だって聖女さん主役の儀式を見たいのだ。
それにほら、聖堂って入るの初めてだし興味あるから。ちょっと気分が悪いくらい何てことは無い。ほらほらステンドグラスきれーい。
なんて言ってみたけど駄目だった。聖女さんが有無を言わさぬ雰囲気で俺を持ち上げた。
「だめだよ。体調悪いなら無理しないで。じゃあ門番さん、先に休憩できる場所にお願いします」
「はい。かしこまりました」
「ぁ、やーっ」
あ~、聖女さんに背負われる~。
揺れる背中が心地いいんじゃァ~。
はい。部屋に押し込まれました。ベッドの上でぽんぽんと背中を叩かれ、寝かしつけられる。
くそぅ、就任式見たかった……。
▼
「それでは、エクリプス司教猊下の御入来です」
聖堂の入口から祭壇までを繋ぐアーチ状の身廊を歩く。高さ50mは有るだろう通路は広々として、左右のステンドグラスからやわらかい光が降り注いでいる。
通路と区切る様に数段高くなった先にある主祭壇には、豪華な彫刻装飾が加えられた5つの椅子が置かれていた。
その内4つは既に埋まっており中心の椅子だけが空いている。
(人が多い。やはりこういう場は慣れませんね……)
左右後方、様々な場所から視線が飛んでくる。特に鋭い視線を飛ばして来たのは、主祭壇に置かれた椅子に座った4人の人物。
ついに始まった司教就任式。
参席者は教会関係者だけでなく領主達も居るのだ。情けない姿は晒せないと自分を鼓舞して前を向く。
着慣れない絢爛な儀礼服を引きずりながら、祭壇に並んだ中心の椅子――司教座――へと腰かける。ずり落ちそうになった
彼は先ほどから値踏みするように視線を送ってきた内の一人だ。薄くなりかけた頭髪を整髪料で固めた、聖職者というよりどこか商人然とした印象の見た目をしている。
「ようこそエクリプス司教。お噂はかねがね聞いておりますよ。なんでも先日は【純潔】だけでなく【勤勉】まで打ち倒したとか? いやこれで南都も安心だ。貴方ほどの聖者が来てくださったのだから」
「貴方は……タブラトゥーア司祭でしたか。はい。これから、よろしくお願いします。ただ今は儀式中ですので、その件については、また後程」
「おっとこれは失礼。いやぁ、年をとっても好奇心とは抑えられないモノですなぁ」
柔和な笑みを浮かべたタブラトゥーア司祭は、頬を掻いて体を戻す。
ゲゼッツ・タブラトゥーア司祭。
ムッシュさんから聞いた話では彼は「調和派」に属する人間らしい。他の派閥に比べれば御しやすいという事だが、調和派の別名は「俗物派」とも呼ばれる。
金や権力を好み、王侯貴族との繋がりが強いとの情報もある。あまり信頼しすぎれば組織が腐り果てていくだろう。
「……儀式のクライマックス。期待しています」
反対側から語りかけてきた人物は無骨な戦士を思わせる男だった。右の頬に大きな三本の傷跡を持ち、右目は眼帯で覆われている。
彼の名は確か……。
「はい。アグレッサー司祭のご期待に沿えるものをお見せいたしましょう」
「そうですか。マンカインド司教の後任、それもエクリプス家の秘蔵っ子の実力……楽しみだ」
早速、口調から敬語が取れてきている獰猛な男はドビアス・アグレッサー。所属は武闘派。
「口が過ぎますよアグレッサー。司教様も、儀式の最中ですのでお静かにできませんか?」
「……儀式が長い。こんなもの聖務に不要では? せめてもっと簡略しましょうよ」
「まあまあ、ではそろそろ静かにしましょうか」
残る二人、中年女性と男性が不満そうに口を挟むのを宥めながら、司会へと目線で儀式の進行を促す。そして始まった司会役の声を聞きながら考える。
王国南部を一手に引き受ける「南部司教区」の支配領域は広大だ。実に100を超える司祭達の指揮権を持つから、相応に多くの派閥が入り乱れている。
この儀式で祭壇上に用意された椅子は司教座を除いて4つ。つまり私の横に座る彼等が、それら派閥の中で特に力ある幹部ということ。
原理派、救世派、調和派、武闘派。
現在、聖教の中で有力な派閥がこの四つになる。
それぞれがそれぞれの信念に従って動いているから、これを制御下に置くのはムッシュさんでも相当に苦労したらしい。
なにせ彼等、同じ聖教を信仰しているのに、まるで行動理念が異なるのだ。
例えば、原理派。
彼等は闇を滅する事を最優先として、それ以外を「無駄な事」と考える。民の不安や治安の乱れを些事と言って、黒燐教団の殲滅だけに注力したいらしい。
対する救世派。
これは逆に、闇の殲滅も大事だけど、それ以上に民草の方が重要だよねという派閥。黒燐教団とか今はいいから、まず規律の乱れ何とかしろよという考えを持つ。
個人的にはその中道ぐらいが丁度良いのだが、そういう派閥は無く、無所属となってしまう。これらの派閥を上手く往なして統治していくことが司教の腕の見せ所らしい。
司教の強権を振るって反対する者を押さえつけるのは簡単だが、それに頼れば必ず痛いしっぺ返しが飛んでくる。
それぞれの派閥トップは枢機卿。怨みを買い過ぎれば、いくら司教でも追い落とされるだろう。組織の運営とは思ってるほど簡単には行かないそうで……。
(はぁ……こんな事なら、就任式欠席してヨルちゃんの看病してたかった)
時折、話しかけてきたり牽制し合う有力者たちに相槌を打ちながら、ひっそりと溜息を零す。疲れるからこれ以上、派閥争いの事なんて考えたくない。
私がしたい事はヨルちゃんの安全確保と黒燐教団の激滅。そして可能なら、治安の回復だ。聖教内の権力争いなんかに興味は無い。
しかしそうもいかないのが組織という物。
痛み出した頭を押さえて、引継ぎという事で登場したムッシュ元司教の説法を話半分に聞き流す。
それよりもヨルちゃんだ。
聖堂に入った時からヨルちゃんの具合が悪くなったのは、なにが原因だったのだろうか。門番さんの言ったように、長旅の疲れが出たのか?
……いや、それにしてはタイミングが怪しすぎる。聖堂に来るまでは、美味しそうにお菓子ばかり食べていたのだ。
夜人を生み出せる事から彼女自身、闇属性という可能性が高い。まさか、それで大聖堂の結界が反応した? 体調不良はその結果?
(……可能性はある。でもそれじゃあ、ヨルちゃんは聖堂で生活できない)
具合が悪そうだったから客室のベッドに寝かしつけてきた。看護もしたかったのだけど、それは「就任式に出て」とヨルちゃんに拒絶されてしまった。
……大丈夫だろうか。
もしも私の予想通りなら、早く聖堂から連れ出さなきゃ彼女の体調は治らない。
「――様」
ここなら大丈夫かと連れてきてしまったが、早まったかもしれない。
聖堂で暮らせないとなると街で借家を借りる必要があるが、安全は担保できるのか? 私は仕事で聖堂から離れられない。その間、誰がヨルちゃんを守ってくれるのか。
「――ス司教様」
……ムッシュさんか。
彼なら信頼できるし、実力も申し分ない。だけど不安だ。私が離れている時に何かあったなら後悔はしきれない。
まさか純潔に頼る? いや、あんなモノにヨルちゃんに預ける位なら、私は仕事を放棄して逃避行に出る。
やはり早まったか。司教に就いたのは、早計だったかもしれない。
「エクリプス司教!」
「あ、は……はい!」
隣から小声で怒られた。
見れば、困ったようなタブラトゥーア司祭が居た。
「もうすぐ"例の儀式"ですよ。精神統一するのは良いですが、周囲の声は届くようにしておいてくださいな」
「す、すみません……考え事していました」
謝罪してから、ハッとする。
完全に対応を誤った。
数瞬の沈黙の後、武闘派アグレッサー司祭から言葉が放たれる。
「なるほど今代の司教様は随分余裕なようだ」
「そう、ですね……司教様が緊張されてないなら、よかったです」
感心した様な言葉だが、その内心はどうだろう。
調和派のタブラトゥーア司祭と救世派の女性など、呆れたような表情を浮かべている。
「へぇ、分かりますエクリプス司教。こんな儀式は早く終わって欲しいものです。私も今、黒燐教団をどうやって壊滅させるか考えて居た所でしてね」
唯一同調してくれたのは原理派の男。
いや、そういう意図は無いのですが……。
「では、続いてエクリプス司教猊下による、降臨の儀となります」
「……はい」
気まずい時間が過ぎて、司会に呼ばれたから立ち上がって前に出る。
私の第一印象は最悪だ。もうここで挽回するしかない。
結局のところ、大事なのは実力。司教に相応しい実力を示せば、彼等は必ず認めるだろうとムッシュ司教は言っていた。
そして、それに相応しい場が就任式の最後に用意されている。
【降臨の儀】――それは、太陽神の使徒を降ろす大儀式。
聖職者とは神のために存在し、神に認められる存在でなければいけない。
助祭や修道士、祭壇奉仕者など下位級は例外として認められているが、本来【聖職位】とは人間如きが叙階して良いものではない。
司祭になる時は聖学校の卒業式で校長が喚ぶ使徒から聖職者として"祝福"を受ける。
だが、司教になる時は独力で呼ぶのだ。神の使徒を。
そこで認められれば晴れて司教となれる。司教の就任式最後に待ち受ける、最初にして最大の難関。それが降臨の儀。
「――。」
祝詞を紡ぐ。太陽を讃える唄。
「――。」
降臨の儀は術者によって効果が変わる。
使徒には最下級から上位まで幾つもの段階があり、やって見なければ誰が来るか分からない。
下は自我が曖昧な下級精霊から、上は【第一蒼天】サナティオ・アウローラに代表される光の三使徒まで。
とは言え、人間が最上位の存在を呼べることは無い。
かつて教皇猊下、それも枢機卿団の全面協力の元でも呼べたのは三使徒の一つ下【黄道十二宮】の下位番だったらしい。
歴史的に見ても司教が行う降臨の儀ならば、中位精霊クラスが妥当だろう。精霊の上、天使様が一人でも来てくれれば万々歳。私の地位は盤石になる。
「――。」
あまり珍しい事では無いが数年に一度、司教の代替わりで誰も来てくれず儀式に失敗することがある。つまり実力不足だ。
それだけは避けなければならない。もしも失敗すれば、適正不足と見做されれば幸運。下手すれば背信者、あるいは翻意有りと見做されて破門される事すらある。
ムッシュ司教の時は2人の上位精霊が祝福に来てくれたそうだ。
私には誰が来るだろう? いや、来てくれるのだろうか?
誰でもいい。
できる事なら、ヨルちゃんを守ってくれる……そんな使徒が来てくれたなら。
▼
「はぁ、憂鬱……」
客室のベッドでゴロゴロと。
右へ左へ転がって、布団を蹴っ飛ばして起き上がる。
お腹の上に居たペットのフェレ君――いつの間にか村の礼拝堂に住み着いてた白いフェレット。可愛いから飼うことにした――が布団と一緒に飛ばされた。
「おなか痛い」
ううぅ、結界いやだぁ。
乗り物酔いのまま揺られ続ける苦痛とでも言おうか。気分が悪いのがずっと治らず、そろそろ吐きそうになってきた。
影の中から『壊せ……っ。全てを壊せっ!』みたいに邪念を放ってくる奴等がいるけど、喧しいんじゃぁ。
投げ飛ばされたフェレちゃんが恨めしそうに見てくるけど、申し訳ないんじゃぁ。
「外の空気、吸おう……」
効果があるかは不明だがちょっとはマシになるだろう。
窓を開ければ、大きな中央塔がみえた。付いている鐘は正午になるとメロディーを奏でる仕組みになっているらしい。
青銅製の鐘でどうやって音楽流すの? それも魔法? なんて思ってたら、複数の鐘を調律して組み合わせるという、ただの技術と聖女さんが教えてくれた。
そっか。このカルト集団、技術もあるのか……そっか。
「今頃、あそこで聖女さんは儀式中?」
「きゅい?」
客室の窓から中央塔を眺め見る。フェレ君も気になったのか寄ってきた。
そろそろ儀式が始まる頃だろう。
するとタイミングが合ったのか、大きな聖鐘が厳かに鳴りだした。喧しい音ではない。だけどその音は体の芯まで響き、徐々に街中へと広がっていく。
「はぇ~すっごい」
鐘の音色に合わせて、空の上から光が降り注ぐ。沫雪の様な光の粒。思わず手を伸ばすと融けて消えた。
街の人達が立ち止まって天を仰ぐ。
慌ただしく働いていた職人も、走って逃げていくスリも、それを追う官憲も。みんな揃って空を見る。あんなにも騒がしかった街は、いつの間にか静まり返っていた。
「……なるほど、異世界か」
ゴーン、ゴーンと。
高らかに鳴り響く鐘に合わせ、天から3つの人影が現れる。
薄い布を幾重にも纏った姿はさながら天使の……いや、天使なのか。少年少女のように幼げな彼等は愛に満ちた笑みを浮かべて、楽し気に舞い踊りながら聖堂へと降りてきた。
王権神授じゃないが、どうやらこの世界では宗教の役職は神から直接授けられる物らしい。
そりゃエリシア聖教一強になるよね。国家も別指揮の武力集団とその拠点を自国に置くの認めるよね。だって「神の御使い」が目に見えて現れるんだもの。
俺も拝んどこ。気持ち悪いの助けてー。
「なむなむ……ん、南無はおかしい?」
それじゃあ仏教やないかーい。
……なんて一人ボケ突っ込みが悪かったのかな。ちょっと不謹慎だったかもしれない。ふと天使の一人がこちらを向いた。
『!!?』
口をぱくぱくと開け閉め。
天使は同僚の背中を何度も叩いて、こちらを指さした。
……何だろう。嫌な予感がする。
あぁ、そっか。そりゃそうか。
神聖な光景に我を忘れて拝んでしまったが、そういえば俺は闇陣営だった。むしろそのトップ、邪神だった。
天使が凄い顔して突っ込んでくる。
さっきまで有った、天使達の悠然とした威厳は消し飛んでた。むしろ必死。
え……どうしよ。逃げるべき?
天使1「呼ばれて来たら、なんかヤバい奴がこっち見てる件について」
天使2「あぁ、窓に! 窓に!」
天使3「うわぁああああああ!!(やけくそ)」