ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「……勝った?」
呆然としながら、ポツリと呟き。
(けど、なんで? バランにはまだ奥の手があったはず)
遅れて疑問がやって来た。竜の騎士には竜魔人と呼ばれる最強戦闘形態が残されているのだ。もし先ほどの戦いの中で変身されたら、負けていたのはこちらだったというのに。
(うん、竜魔人? あ、ひょっとして)
変身しなかったのではなく、できなかったのか。竜の紋章をモシャスで化けたニセモノでありながら使って見せたことで、竜魔人も見せたら真似されるのではと危惧したのであれば、あそこで変身しなかった理由として納得がいく。
「そっか。あ――」
疑問に片がついて我に返った俺は周囲を見回し、探したのはダイの形をした炎の闘気。
「居た! A5……勝ったよ」
見つけてそう語り掛ければ、それは頷いたように見え。直後にぽふんと煙を立てて。
「あ……あれ?」
思わず声を漏らした直後だった。急に襲ってきた倦怠感と脱力感に視界が暗くなり。
(そういえば、モシャスしたまま無理に合体しようとし……これ、反ど……)
内心で推測を口にしかけたまま、保てなくなった意識が闇に呑まれた。
◇◆◇
『ん……』
それからどれだけ気を失っていたのか。
『本来なら睡眠も要らないメラ「ゴースト」が気絶するとか、どれ――』
「気が付いたか」
どれだけ無茶やったんだろうという独言へ被せる様にかけられたのは、聞き覚えのある声。
『あ』
身を起こせば、顔面に青あざを作ってはいたが、そこにはA5と俺が救った、カール騎士団騎士団長、ホルキンスの姿があった。
「この顔か? これならおれが自分で殴った」
自身に俺が向けた視線の意味を問いととらえたのか、ホルキンスは語る。先のバランとの戦い、バランを一方的に追い込んだ俺にホルキンスは恐怖を感じたらしい。だが、命の恩人を恐れたことを恥じ、戒めの為に顔面を自分で殴った、とのことだ。
『いや、流石に竜の騎士を一方的に攻め立てるような存在、怖がって当然……って、メラゴーストのままじゃ言葉が通じないか……って、あ゛』
そこまで言ってから、俺は硬直した。そう、今の俺はモシャスが解けてモンスターとしての姿をさらしている。
「あぁ、すまない。恩人を地面に寝かせておくのはどうかと思ったが、ベッドに寝かせるとベッドが燃えてしまいそうでな」
だが、俺の硬直を別の意味に捉えたらしく、申し訳なさそうにホルキンスは頭を下げてきて。
『いやそうじゃな……って、これじゃ、意思疎通できない、モシャス!』
俺は身振り手振りで勘違いを正そうとしかけるも、こっちの方が早いと変身呪文で姿を変えた。
「そうじゃありません、って、あ」
「うおっ」
そして、ダイの姿をとると当然の様に身体を覆う炎の闘気。唐突に変身したからか、炎の闘気が健在だからかホルキンスが驚きの声をあげたが。
「よかった」
俺は安堵した。あのまま消えてしまうかもとも思っていたA5はまだ一緒に居てくれるらしい。
「と、すみません。色々と……それで、申し訳ないんですけど、おれが倒れた後のこととか教えてもらってもいいですか?」
「ん? あ、ああ。もちろんだとも」
だがそれはこちらの話。意識を失った後のことが聞きたいと言えば、我に返ったホルキンスは快諾してくれて。
「まず、君は丸一日眠り続けていた」
「えっ」
いきなり聞かされた一日分の時間のスキップ。
「だが安心してくれ。君のことは俺が保証した。騎士団の者は君がモンスターだろうと何も言わないはずだ。いや、俺が言わせない」
「あ、えっと、どうも」
俺とA5が助けたことに恩を感じてくれているんだろうが、ちょっと照れ臭くもあり、同時にその信頼がちょっと重いなとも思う。今後のことを考えるなら、好都合なはずなのだが。
「それから、北のドラゴン共は苦戦していたがどこかからか攻撃呪文で誰かが援護してくれたおかげで撃退に成功したそうだ。あのドラゴンを率いていた男が去ったあたりでこの辺りに居た生き残りのドラゴン達も統制が効かなくなり、逃げる者は逃げ、逃げなかった者は討ち果たした」
「そう、ですか」
とりあえず、それだけ聞くとカールへの侵攻はひと段落着いたように聞こえる。
(けど、バランは逃げたし……今回見かけなかった三人の側近的なやつらが超竜軍団には居る)
これで安心できないと原作知識で知っている俺の気持ちが晴れる筈はなく。
(というか、撃退しちゃってどうすんの、俺ぇぇぇ!)
まごうことなき原作ブレイクに内心で頭を抱える。
(このままここに居座ってバランの再侵攻に睨みを利かせるわけにはいかないし)
ダイは無事空裂斬を会得、フレイザードを撃破したとは聞いているが、バランが負けたと聞いたら、魔王軍はこの後どう動くかが全くの未知数。
(「バランはアレが本気じゃないので、いったん落ち延びてください」ってここの女王様には伝えてこの国を放棄してもらうってのは無理だよね?)
あれだけ一方的な勝利では信じてもらえるかどうか。
「どうした?」
いつの間にか浮かない顔でもしていたのだろうか。かけられた声で顔を上げた俺の瞳に映るのはこちらを見つめるホルキンスの顔で。
「ええと、実は」
だがすぐに良案も浮かばぬ俺は、先日のバランが本気でなかったという事実を明かすことにするのだった。
次回、十六話「カールを発ちたい(願望)」に続くメラ。