ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「まさか、バランがダイの父親であったとは……!!!」
時間は、バランとどこかのメラゴーストの戦いのあった日の夜まで遡る。法衣に矮躯を包んだ老人が一人、混乱と焦りを伴って鬼岩城の廊下を足早に進んでいた。老人の名はザボエラ、妖魔司教ザボエラと言った。
「じゃが、それより何より、あのバランが負けてしまうとは……」
ザボエラは直接それを見たわけではない。ドラゴンが次々倒される戦場に自分の身を置いて危険にさらすなど論外と、情報収集の為に残した悪魔の目玉をもって戦況を眺めていたが、ダイに化けたメラゴーストが額の紋章を強く光らせたと思った直後に悪魔の目玉達からの映像が途切れたのだ。
「バランはあの後姿を見せず、部下を差し向け潜入させれば、あのメラゴーストがかの国の騎士団長と協力して深手を負わせ、退かせたという」
民衆を欺くための虚偽の情報も疑ったザボエラであったが、勝利の知らせが偽りならば、バランはどうしているのかと言う疑問が残る。故にその知らせは真実か真実に近いものとし、慌てて鬼岩城に戻って来たのだった。
「なっ、なんと」
そしてたどり着いた先、魔軍司令ハドラーとその親衛隊、そして魔影参謀ミストバーンが集った場でザボエラが見たのは、三つの光点が消えた六芒星である。
「じゃ、邪悪の六芒星が……三つに!!?」
「ヒュンケル、クロコダインが裏切り……フレイザードが死んだ……!! そのため邪悪の六芒星を形成する三角形が一つ消滅してしまったのだ!」
「なん……じゃと?!」
フレイザードの敗死をザボエラが知ったのは、まさにこの時だった。実際は耳に入れる機会はあったのだが、バランとダイが親子と言う衝撃の事実に加え、それを上回るバランの敗北と言う事態に打ちのめされ、部下の集めた情報を頭に入れるどころではなかったのだ。
「どうした、ザボエラ?」
「いえ、その」
ここでバラン敗退の報を口にすべきかザボエラが逡巡していると、決断に至る前にどこからか笛の音が聞こえ始め。
「このメロディーは……『死神の笛』の音……?!」
ハドラーが視線だけ音の方へと向けようとする一方でミストバーンは沈黙を保ち。
「キャハハッ、キャハキャハ!」
後方の岩肌がむき出しの通路、明かりもない闇の中から楽し気な笑い声があがる。
「ね! ね! だから言ったでしょ!! ハドラーの軍団はガタガタだって……!!」
「いい子だね、ピロロ。よく、このボクに教えてくれた……」
浮かび上がるのは一つ目のピエロを伴い、大鎌の柄に口を当て、笛の様に持つ仮面の道化師。
「……グッドイブニ~~ング! 鬼岩城のみなさん……!!」
「しっ、死神っ……!」
「……キルバーン!」
その姿に、いや鎌に誰かの命を刈り取りに来た死神を連想したのか、思わず漏らしたハドラーの後ろでポツリとミストバーンが呟き。
「こ……こいつがキルバーン……!」
ミストバーンの口にした名に覚えがあったらしいハドラーの顔へ驚愕が張り付いた。
「魔王軍の死神と恐れられ、大魔王バーンさま直属の殺し屋としてその意にそぐわぬ者を闇に葬るという……あの噂に高い男が、こいつか……!!?」
驚きから立ち直ったハドラーだが、その脳裏によぎるのは何故そんな男が鬼岩城へ現れたのかと言う疑問。
「……誰かが不始末でもしでかしたかな……?」
後ろから聞こえるミストバーンの声にハドラーが身をこわばらせることとなったのは、身に覚えがあったからだろう。だが、キルバーンと呼ばれた男が視線を向けたのは、ハドラーにではなく、後ろに立つミストバーンの方へであり。
「……やあ。おどろいたなミスト……君が話してるのを見るなんて、何十年ぶりだろうね。まったくキミときたら、必要がないと百年でも二百年でもだんまりなんだからなァ」
「……フッ、貴様がおしゃべりすぎるのだ、キル……」
「……かもね! ウッフフフフッ……!!」
二人が軽口を叩き合う様をハドラーはただ黙って眺めていた。見たところ顔見知りの様ではあるが、そもキルバーンはハドラーからすれば初めて目にした相手であり、その肩書を鑑みれば、小細工を弄した自覚のある今口を開くべきではないとおもったのかもしれない、だが。
「……ところで、ハドラー君!」
死神はミストバーンとの会話を切り上げるとその視線をハドラーへと向け。
「最近キミは戦績がすぐれないみたいだねェ」
「そうそう! てんでだらしないんだよ!!」
キルバーンがそう評せば、ピョコンとキルバーンの影から一つ目のピエロが顔を出し。
「勇者ダイをうちもらして以来、軍団長は次々と倒されるわ、『ロモス』『パプニカ』『オーザム』を奪還されるわでもうボ~ロボロ! おまけにこの間は全軍総がかりでダイたちにやられちゃったんだよ~! キャハハッ!!」
「だっ、だまれッ!!」
流石に黙して聞き続けるわけにはいかなかったハドラーが怒声を発せば、一つ目のピエロはキルバーンの後ろに隠れ。
「……本当かね? キミ」
「ムウ……げ、現在も抹殺計画は進行中なのだ! いずれ、必ず……」
視線を投げられ唸りつつも言葉を絞り出すハドラーへ、キルバーンはだったら早くすることだねと応じた。
「バーンさまはとっても寛大なお方だけど限度があるよ」
もしまたしくじったらと続ける死神へどうだというのだと問えば、キルバーンはこれだよと自分の首を手で刎ねるしぐさをして見せ。
「……フ、フン! 心配無用だ!! あんな小僧どもなどすぐに始末してやるわッ!!」
「……あ、ぁ」
このオレの手でなと気炎を吐くハドラーを視界に居れ、ザボエラは途方に暮れていた。色々あってバラン敗退の報を伝えるのを切り出し損ねたのだ。脳内ではどうすればいいんじゃあと絶叫していたが、言い出せないままに事態は進行してゆく。
「フ~ン」
その死神が青ざめたザボエラの横顔を一瞥するが、見られた当人は視線を泳がせていて気づかなかったようであり。
「まあ、いいさ。しっかりやってくれるならこちらから言うことはないし……それに、こちらはとり急ぎボクの用件をすませたいんだ」
懐に手を突っ込んだキルバーンは一つの鍵を取り出して見せる。
「そっ、それは……バーンの鍵……!!」
「裏切り者の軍団長たちはこの鬼岩城の場所を知ってるからね。直ちに移動せよとのバーンさまの命令なのさ」
「い、移動じゃと……じゃが」
思いもよらぬ用件に驚きの声を上げ、ザボエラは一つの問題点に思い至ってそれを口にしようとしたところで固まった。
「じゃが?」
「あ、いや、その……」
振り返ったキルバーンに視線で居抜かれたザボエラは、しどろもどろになりつつバラン敗退の報を告げ。
「ばっ、バランが?!」
「なんだいハドラー君、知らなかったのかい?」
動揺するハドラーを呆れた様子で眺めた死神は、それじゃあこうしようと言葉を続け。
「移動についてはとりやめられない。裏切者に場所を知られないための移動だし、バーンさまの命令だからね。バラン君のことはここに監視の使い魔でも置いて、バラン君が現れたら移転先を伝えればそれで済む話だし」
「っ、確かに……」
「それに、キミには都合がよかったんじゃない? 自分だけ失敗続きってのは拙かっただろうし」
「うぐっ」
反論できず呻くハドラーを尻目に、死神は鍵を六芒星の中央にある顔の彫刻の口元へ持ってゆき、差し込んでガチャリと回したのだった。
カールに行った意味、半分くらい消し飛んで原作ブレイクも甚だしくありませんかねぇ?(白目)
と言う訳で、これにてカール救援編は終了です。
お付き合いありがとうございました。
次回からは六巻(であった)編を始める予定でいますが、冒頭はダイ側の視点になる予定なので、おそらくメラゴースト君は合流まで出てこないことになりそうです。(ほぼ番外編で進行してゆく流れ)