ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「っ」
殴り損ねた。それがルーラで逃げていった偽物のポップに俺がまず思ったことだった。
(いや、殴ってモシャスが解けたら大騒ぎだから、殴らないのが正解だったんだろうけどもさ)
前世の記憶はオリジナルから継承してるので、胸を揉まれるなんて状況自体初めてだったわけだが、不快だとか何とか以前に感じたのは痛みだった。とっさに支えとしようとして出した手なんだから、掴むものへの配慮なんてないのだ。モシャスが解けない程度だが、痛かった。
(あー、モヤモヤする)
くわえて、ダイ達には気まずい。原作では本物のポップが何度か本物のマァムにやらかしてる描写があった気はするけど、本物のポップからしても偽物が自分と同じようなことを見せられるのは嫌だろう。自分の失敗する光景を記録されて見せられるようなモノだろうから。
(レオナ姫の方はそれとは別の気まずさだよな、うん)
原作だと他人の恋バナに興味津々だったりしたし。
(まさかとは思うけど、あの偽ポップと俺、脳内でカップリングされてたりとか……うん、やめよう。この推測は危険だ)
見た目はノーマルカップリングだろうが、その実自分同士で同性同士とかどれだけ冥府魔道方向に驀進すれば至れるんだろうか、そんな恐ろしいモノ。
「恥ずかしいところ見せちゃったね。俺はA7」
「あ、えっと」
「ダイ君達の事情は概ね知ってるし、待たせた上でこれ以上時間を割かせるわけにもいかないから、話はデパートに向かいながらでいい?」
気球がとめられたのは、海にせり出した船を泊めるためのバースとか呼ばれてる場所だ。目撃者もあまりいなかったとは思うが、長居はしたくなく。
「そうね、行きましょ」
レオナ姫の同意も得て、促され歩き出した俺達はレオナ姫が借りた馬車に乗りこみ、そこから海沿いの道をデパートへ向かうこととなった。
「これで、ようやく話もできるかな」
「まぁ、そうだな。しっかし、おれの偽物と違ってお前は一人称も俺だったし、マァムの真似はしねえんだな」
「あー、まあ、中身の性別は男だからね、俺。オリジナルから分裂してるわけだし」
荷台に座りこんで口を開くとポップが話しかけてきたので、俺は苦笑しつつ肩をすくめた。きっちり性別を明言したのは、レオナ姫に変な誤解をされないための予防線でもあった。
「あー、メラ公の分体ならぁっ?!」
得心が言った様子でポップは頷こうとし、途中で傾いだ。と言うか馬車がいきなり加速したのだ。
「わわっ」
俺も当然慣性でひっくり返りそうになり。
「あぶねぇっ?!」
「っ」
とっさに伸びたポップの手が、俺を掴んだ。そう、何故か俺の胸を。
「あっ、あの、これは助けようとしたというか、無事で何よりでございましてね」
あたふたするポップを見て、俺は考える。
「本物ならモシャス解けないし、殴ってもいいかな?」
とか。
「本物のマァムなら無言で殴る蹴るしてるかな?」
とか。人は怒ると思ったより冷静になれるらしい。ああ、俺はメラゴーストだったか。
「もっ、もうちょっとスピード落とせよ、姫さんよおッ!!」
「何てことないわよ、このぐらい……! それに、よそ見していていいの? ほら」
「へ?」
矛先をそらそうとしたのかレオナ姫に食って掛かっていたポップは、姫の人差し指につられてこちらを振り返り。
「んぎえええ~っ!」
青い空の下、ポップの悲鳴が響き、悪は滅びた。
「ポップ……」
「仕方ないでしょ、あれは魔法使い君の自業自得でしょうし」
荷台で生まれたての小鹿の真似をするポップを御者台のダイが気遣う一方、バッサリ切り捨てたように見えて馬車の速度が緩む当たりがレオナ姫の優しさなんだろうか。一回は一回、お返しに強めに握ったポップを一瞥してから、俺は前方に視線を戻し。
「あ、アドバルーンが上がってるってことは、あそこがデパートか」
風に揺られるアドバルーンとそこから垂れ下がる幕がつながれた建物を見つけて呟くが。
「良く知ってるわね、アドバルーンなんて」
「あ゛っ」
レオナ姫の指摘に固まった。
(しまった、ここってポップがデパートをお城と勘違いして馬鹿にされた場面じゃん、ダイより師匠に連れられて旅をしてたポップすらお城と間違えたってのに)
前世の知識で不思議に思わなかった何てとても言えない。
(にしてもアドバルーンがあるってことは、空気より軽い気体を作りだすか手に入れる方法が確立されてるのか)
オリジナルが前世の小学校か中学校あたりの理科で水素を作る実験をしたような記憶はあるが。
(それくらいはこっちの世界のベンガーナでも可能な技術があるのかな。まあ、呪文とか存在してる世界だもんな)
きっと前世の常識の物差しで測ってはダメなんだろう。俺は現実逃避がてらそんなことを考えていた。
番外16「デパート1(A7視点)」に続くメラ。