ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「むぅ」
いつまでもこの漁村に居るわけにはいかない、そんなことは解かっていた。
(回復呪文で傷はそれなりに癒えた)
あのメラゴーストが最後にはなった見知らぬ電撃呪文、あれが呪文による攻撃ではなく竜闘気を用いた必殺技であったらこうもいかなかっただろう。竜闘気には使用者にもそれを用いた攻撃を受けた者にも一時的だが、回復呪文を受け付けなくする作用がある。もっとも、前者の場合、竜闘気を魔法力で圧縮して放つ竜闘気砲呪文を複数回使うくらい竜闘気を行使した場合の反動でだが。
(しかし、あのメラゴースト……)
癒えかけた傷に意識をかたむけたことで思い出した戦いを顧みて、思う。底知れぬ、恐るべき相手だったと。
(格闘戦についてはお粗末だった。あれだけなら、驚きと動揺が無ければああも一方的にやられることはなかったはずだ、だが)
炎の闘気を纏ったあの形態の戦闘力は竜魔人に匹敵する上、敵を倒さねば止まらない竜魔人とは別ものなのだ。
(拙いと判断すれば敵から逃げることもできるのであれば、もしあれが更に竜魔人を模倣できなかったとしても逃げることぐらいはできるやもしれん)
その場で私の竜魔人を模倣できずとも、逃げ延びてやがて竜魔人と化せるようになってしまえば、倒すのは容易ではあるまい。
(それだけではない、ヤツは私の知らない呪文を扱った。まだ奥の手を秘している可能性だってあるのだ)
例えば、真魔剛竜剣の刀身の一部を失わせたもう一匹のメラゴーストが行おうとした何か。オリハルコン製の剣でさえあれほどに損壊させるモノを受けたなら、竜闘気で守られた私とてただではすむまい。
(そして、真魔剛竜剣は自己修復機能を持つがあれほどのダメージを負ってしまっては、残った切っ先と刀身がつながる程にまで回復するのはどれほどかかることか)
もし、あのメラゴーストが私を探しあて、戦いを挑んでくるようなことになった場合、真魔剛竜剣は使えないと考えた方が良い。
(ヤツは炎の闘気で強化され、私は武器を封じられた。先の戦いの様に驚きで不覚をとることなどもうないが)
条件が五分になっただけなどと楽観視するつもりは毛頭ない。
「やはり、ここは発たねば」
傷を癒すだけならここで無くてもできる。そして、この村は我が妻、ソアラを思い出させ、心をかき乱す。長くいていい場所ではない。人間を滅ぼす者としても、ただ。
(ここを出て、傷が癒え切ったとして、その後はどうする――)
選択肢は幾つかある。当初の標的であったカールを滅ぼす、あのメラゴーストが姿を模したと思しきディーノ本人が居るであろう勇者一行の元へ向かう、もしくは。
(報告の為に一度戻る、か)
メラゴーストとの戦いの時に戦場に居たザボエラの使い魔は全滅したようだが、戦いの途中までは見ていたであろうし、その後カールが健在なら、私が敗れたことぐらいは伝わっているだろう。
(だが、直接戦った私にしか知りえないものもある)
あの見知らぬ雷撃呪文は威力で私のギガデインを優に上回った。
(そもそもヤツはメラゴースト、種族本来の戦い方を鑑みれば得意なのは近接戦闘ではなく呪文を用いた遠距離戦)
私に呪文が通用しないからこそディーノの姿で戦っていたという考え方もできるのだ。
(自分のモノでない借り物の戦い方であれだけのことができるというなら)
格闘戦がお粗末などと言う評価も見当外れだ。相手が素人と言う前提で見たなら、驚き動きが止まっていたとはいえ竜の騎士である私に拳や蹴りを当てているというのは充分過ぎる。それが高まった身体能力にモノを言わせてであったとしても。
(ヤツは人間の剣術を使っていた。本来魔法使いであるにもかかわらず)
つまり、あのメラゴーストはモシャスで他者の身体能力を写し取った上で、本人の動きを学習し剣士としての技も自分のモノとしたと言うことだ。同様に教材となる武闘家と出会うことができたなら、次は格闘戦でもあのようなお粗末な攻撃はして来るまい。
「なあ、今、『発つ』って言ったか?」
とんでもない相手を敵に回してしまったようだと思いつつ歩き出そうとした私の足を、一人の男の声が縫い止めた。
「帰ってきたのか」
私がこの漁村を出ようとした理由の一つは、私を助けた男が隣村に出かけて留守だったということがある。だが、決断は遅かったらしい。
「ああ。急いで戻ってきた。奇妙なモンスターを見たって隣村の狩人が言っててな。凄い勢いで飛んでた鳥の魔物が人魂みたいな魔物に変わったかと思ったらまた鳥の魔物に姿を変えて飛んでったとか」
「っ」
話を聞いた私はヤツだと確信した。たまたま付近を通りかかったなどと言うことはなかろう。
「その表情、訳アリか。怪我までしてたんだから、おおかた追われてるってんだろ? なら尚のこと、行かせねぇよ」
怪我人を放っぽり出すわけにはいかないと、男はいい。
「その心配ならいらん。私も回復呪文は使える。怪我なら治した」
「けど、剣は折れたままの筈」
「っ」
やっぱり行かせらんねぇよと男は言って。
「きれいごとは止せ! そこまで言うなら、教えてやろう――」
どこまでも私を気遣うこの人間を黙らせるため、私は名乗った。魔王軍の超竜軍団長と肩書も含め自分の名を。
「魔王……軍?」
「わかったら退くが良い。私はおまえ達の敵だ」
これでいい、そう思った。敵であると知ればこの男も他の人間同様に態度を豹変させるだろうと。
「っ、それがどうした!」
「な、に?」
だが、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「それがどうしたって言ったんだ! 俺達漁師ってのはな、船の上じゃ頼れるのは自分と同じ船の仲間だけ、そんな場所で生きてんだ。だから溺れてる奴を見りゃ助けるのは当然! そして、一度助けたんなら最後まで面倒みるのが大人の男ってもんだ!」
「なに、を」
「魔王軍だか軍団長だか知らねぇが、行かせねぇ。敵だの悪人だのって言うなら、もう悪事を働けなくなる様、ここで俺がぶちのめして性根を入れ替えてやる!!」
理解が、出来なかった。
(力量の差を知覚できてないのか?)
私の言をただのハッタリか何かだと思ったのか。蓄積された竜の騎士としての戦闘経験が物語る、目の前の男に大した実力はないと。
「いいだろう、やれるものならやって見せるがいい」
「へっ、後悔するなよ」
そう言うと、男は荷物から奇妙なモノを取り出した。鉄兜に槌頭をくっつけたような奇妙な物体を。
「先に言っておくが、俺はここに居着く前、元々戦士を目指して修行の旅をしてたんだ。ただの素人だと思うなよ」
男は吠えるも私にはまったく脅威に思えず。
「アルキードのどたまかなづち使い、マイボ、行くぜ!」
男の名乗りを聞いた瞬間、固まった私の顔面に槌頭がさく裂した。
「ぐっ」
私は思わずよろめく。本来なら竜闘気を纏った私を殴ったあの奇妙な兜の方が壊れるはずだが、アルキードと聞いた瞬間、私は竜闘気を維持すら出来なかったのだ。
「アル、キード?」
「ああ、もうなくなっちまったけどな、俺の故郷だ。何があってなくなっちまったかは知らねぇ、けどな、人が死ぬのなんてもう沢山なんだよ!」
ポツリと零れた私の問いに男は吠えて。
「だから、行かせ……っ」
そこまで言いかけた男が視線を私以外に向けて動きを止め。
「っ」
視線を追った私は目を剥いた。そこには炎の闘気を纏いディーノの姿をとったあのメラゴーストが居たのだから。
と言う訳で、オリキャラの名前がようやく出せました。
登場した時点で名前と使用武器及び菩薩メンタルは決まってたんですよね。ただ、アルキード出身は奥さんの方の設定だったんですけど、奥さん出す程尺が無くてやむを得ず、こっちの方に変更した所存。
次回、十二話「誰、この人」に続くメラ。