ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「し、しもうたっ」
そこが謁見の間でない、もしくはすでに大魔王がいなければ、残された矮躯の老人はそう叫んで慌てて踵を返していたかもしれない。老人の名はザボエラ、妖魔司教ザボエラといった。先に魔軍司令に任命されたメラゴーストがバランを説得して戻って来ること自体予想外だったのは、ハドラーだけでなくザボエラも同様だった。だが、魔軍司令の座を奪われることとなったハドラーとは違い当事者でないザボエラには些少の余裕があったのだがそれが悪い方へ働いた。
(しくじったわい)
大きく勢力の変わった魔王軍内で取り入る相手を変えることを真剣に考えそろばんをはじいていたが故に、この老人は新しい魔軍司令がこの場を去る時に同行を申し入れそこなったのだ。そもそもメラゴーストとともに去った二人には、引継ぎと防具の管理者と妥当すぎる同行理由がある。これと比べればザボエラが新魔軍司令についてゆく理由は薄く、機を逃したままその背を見送ることになってしまったという訳だ。
(バランを説得してきたということは、六軍団最強をうたわれたバランはあのメラゴーストの軍門に下ったと見て良いじゃろう。それに比べ、ハドラーさまはフレイザードが死に、クロコダインは裏切って従う軍団長は最早ワシのみ……逆説的にワシを頼らざるを得ぬ状況じゃが――)
バランを込みで見れば、新魔軍司令の力はハドラーを上回る。それがザボエラの見解だった。
(しかし、あのメラゴーストに乗りかえようにも絶好の機会はもう過ぎたあと……ワシとしたことが迂闊じゃったわい)
なら、今からでもとメラゴーストを追いかけようかというと、大魔王の御前ではザボエラにできようはずもなく。
(どうする? 引継ぎが終わった後にでも何か手土産でも用意して接触すべきじゃろうか……しかし、あやつの関心をひけそうな手土産とは……うぬぬっ)
ただひたすら考えることしかできない小物を面白そうに眺めるのは、死神と呼ばれる者のみ。場に居た半数の者が去って一人は自身の思量にふけり始め、生じた沈黙が暫し破られることなく続いたのは、この場に残るもう一人、大魔王も今後について何か考えを巡らせていたからか。もし仮にザボエラがメラゴーストへどう取り入るかを考えず前を見ていたとしても、それは薄布に遮られた状態で分かったかどうか。
◇◆◇
「まさか、こんなところでとんぼ返りすることになるとはな」
同刻、ベンガーナ方面へと向かい進む一人の男がいた。ガルーダに姿を変え舞い降りたメラゴーストの分体に偵察なら自分の方が適任だと理由で先にダイ達の元へ戻れと言われたヒュンケルは件の分体からダイ達はテランに居るという話を聞き元来た道を引き返していたのだ。
「しかし、メラゴーストか。あの姿を見ると」
ヒュンケルの脳裏に浮かぶのは、団長と自身を慕っていたかつての部下達の姿。
「父の遺言状を守ってくれたのも、あいつらだった……」
地底魔城で別れた部下のメラゴースト達からの接触はその一度が最後で、ヒュンケルは元部下達がどこへ行ったかもまだ知らない。パプニカの町や村を襲おうとした氷炎魔団の別動隊が同士討ちで壊滅したようだという知らせがもし、パプニカ出立前に届いていれば古巣である魔王軍の本拠地に向かうのをクロコダインに先行して貰い、自身は現地に向かっていたかもしれないが、実際はそうならず。
「急がねば……うん?」
足を進めていたところで、頭上に影が差し。見上げたヒュンケルの瞳に映ったのは下降してくるガルーダの姿だった。
「もう偵察を終えて戻って来たのか……自分が適任だと言っただけのことはある。なら――」
直接降りてくるではなく通り過ぎて去ってゆく姿を目で追ったヒュンケルは止めていた足を動かし始める。
「魔王軍の目もあるかもしれないから」
という理由で接触にはワンクッションを置くと説明されているヒュンケルは、何ら不審に思うことなく鳥の魔物の去った方に進み。
「よぉ」
「なるほど」
向こうから歩いてきた魔法使いの少年の姿に納得しつつ苦笑する。
「あー、なんだ。瞬間移動呪文が使えて町中とかに飛んでも騒ぎにならない恰好って、ポップの姿しかないからな」
「理解はしている。本物でないこともな」
「わかってんならいいさ。こっち来いよ。瞬間移動呪文でついでに送ってやるからよ」
短い間をおいて助かると口にしたヒュンケルは、ポップに姿を変えたメラゴーストへ呪文で運ばれる形で飛び立ち。
「ついたぜ。さてと、悪いが他のやつにも伝えなきゃいけないことがあるんだ。ダイ達と向こうのおれにはあんたの口から伝えてほしいんだけどよ――」
到着後、同行者から驚くべき事実を聞かされることとなるのだが、ダイも大半のメラゴースト達もその内容をまだ知る由もないのだった。
という訳で、元六巻編はこれで終了となります。
お付き合いありがとうございました。
待て、新章!