ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「……グッドアフタヌ~~ン! メラゴースト君」
聞き覚えのある嫌な声にすぐさま顔を上げると、師匠にモシャスした俺がすわった目でこっちを見ていた。キルバーンとして動いてるのが、ただの操り人形でモシャスで化けられないから、声質が同じ師匠の姿をとってるのだろう。
(何でそんなどうでもいいところで創意工夫を凝らしてるんですかねぇ)
思わず現実逃避したくなるが、きっと逃げられない。なぜなら複数の気配が俺を取り囲んでいたからで。
『話を聞いたときは、耳を疑った。耳はないけど』
『ははっ、俺なんて新しく増やした分体に修行を代わって貰っちゃったよ。どうしても、話したいことがあったからね、拳で』
『A、君には失望したよ』
淡々と語る者、笑う者、底冷えしそうな声音で言葉を紡ぐ者。同じ俺の筈なのに三者三様な口を開いた分体に好意的な者はおらず。
『あ、みんなに言っておくね? 血のにじむような修行の成果でべホイミは使えるようになってるんで、死ななきゃ魔法力が続く限りサンドバックは修復できるよ』
『でかした! あ、えっと……偽マァム?』
『さすが偽マァム!』
『偽はやめて!』
称賛された偽マァムがメラゴーストの姿で叫ぶが、どっちかって言うとこれから降りかかってくるであろう暴力の方を俺はやめてもらいたいなと思う次第で。
『あ、あのさ……おれ、分裂出来なくなってるから、いくら殴っても増』
『『黙ってろ元凶!』』
増えないと言う前に、揃った声と敵意の視線が俺の口を閉じさせた。
『こっちが、どうやって原作方向に軟着陸させるかって苦心してたってのにっ!』
『ここまで原作ぶっ壊すとかドン引きだわ』
歯もないのに歯ぎしりとかしてそうな狂相を浮かべる別の俺、生ごみか何かを見るような目をした俺。
『もうさ、総攻撃で大魔王ブチ転がした方が早くないって気がしてきたんだけど』
『それはやめろ!』
「はやまるな!」
ちょっと自棄になって師匠の格好をした俺を含む分体に制止される俺。
(注意がそれた今のうちに逃げられたら、どれだけよかったことか)
今の俺は回りこまれてしまっている。と言うか、包囲の中心で。
『って、あれ? ここあの木こりの小屋じゃ?』
『デルムリン島だよ。Aぶん殴った後にすぐレムオルかけて移動してルーラで飛んだ。どこに魔王軍の目があるかわからない場所でフルボッ……なぐ、話し合いできるはずないだろ?』
口に出た疑問に答えた分体が物騒なことを言いかけて二度ほど修正したのは、俺の気のせいだと思いたい。
『それはそれとして、Aって妙なモノもってたよね』
『あ、確かに。俺も気になってた』
『じゃ、まずはみぐるみを剥ごう』
だが、現実は更に非情で。
『ちょっ、待、落ち着、なにをするきさまらー!』
炎の闘気によるパワーアップは、モシャスで変身している時限定であり。バランやドラゴン達との戦闘でレベルアップしているとはいえ、多勢に無勢。抑え込まれた俺はあっさりと衣の魔杖を持ってゆかれてしまい。
『で、A。この変わった杖は何?』
『うん、俺も知りたい。返答次第では殴る回数を三回くらい減らしてやってもいい』
『じゃ、俺は二回』
魔杖を囲む分体達に問われ、やむなく俺は明かした。ロン・ベルクの作と思しきアイテムの一つで、ダイ達からの身バレ防止に大魔王の許可を得て正式に俺のモノになったという新装備だと。
『は? ロン・ベルクってあの?!』
『と言うことはこれ、ヒュンケルの装備の兄弟か』
『そ、装備してみたい……』
分裂して時間経過していようともそこは俺か。驚く者も多いが、驚きが過ぎやればミーハーな部分を丸出しにして杖に手を伸ばす個体が出始め。
『待て、順番だ!』
『そうだな、じゃあじゃんけんで!』
制止するのかと思えば、自分も装備したい別の俺が口を挟み。
『『じゃんけん、ポン! ……あ゛』』
ほとんどのメラゴーストが手を出して一斉に固まった。
『『しまった、俺ら指ないじゃん?!』』
そう、メラゴーストに腕に見える部分はあるが、短く、指はない。それでも燃えないモノなら腕に見える部分を絡めて持つことは出来るのだが、じゃんけんは不可能だった。
「では、不戦勝と言うことでまず私が」
ただ一人、師匠にモシャスした一個体を除いて。
『『ちょ、ズルぃ!』』
「何を言うんです? モシャスに魔法力を消費してるんですから、これは正当な私の権利ですよ」
こんなみみっちい師匠の姿は初めて見るなと俺が現実逃避する中、他の分体達はなら自分たちもモシャスすると言い出し。
『『モシャス』』
『うわぁ』
見分けがつかなくなると拙いからと同担禁止にしたところ、出来たのは登場人物勢ぞろい的な構図だった。ダイ、ポップ、マァムは当然で、ザボエラ、ハドラー、ヒュンケル、クロコダイン、フレイザードと魔王軍の幹部連中も居るわ、人骨の剣士や見覚えのない人間も幾人か混じっていて、非常にカオス。
『ええと、あそこの見おぼえない人は?』
『ああ、ブラスさんの警備にロモスから来た騎士の人の一人』
『じゃあ、向こうの豪奢な服装の人は?』
『あれはオーザムの王族の人らしい』
聞いてみると、ちょっと聞き捨てならないような人物が混じってる気もしたが、うん。
(下手にツッコんだら、一時的に消えてる俺への敵意が再燃しそうだもんな)
無駄に豪華なじゃんけん大会を俺は黙って眺めることにしたのだった。
次回、七話「代価を払って」に続くメラ。