ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「させんっ!」
握り固めたバランの拳が、クロコダインのおっさんに届きかけたところで、メラ公の分体が割り込んだ。
「……良かった」
本物の当人は気にいらねえが、その実力は本物でモシャスしたメラ公達にもその強さは反映されている。
「おっさんとヒュンケルに化けたあいつが協力すりゃ――」
少なくとも簡単に負けはしねえ、だから。
「がはっ」
「な」
大丈夫だと続ける前にヒュンケルに化けたメラ公の分体が、バランの蹴りを受けて吹っ飛ばされる。そして、地面にバウンドしたところでぽふっと煙が生じ、転がり出てきたのはメラゴーストだった。
「なる程、一見厄介な相手に見えるがそうでもなかったようだな」
「なっ、そうでもないだと?!」
確かにモシャスは解けちまったが、納得がいかず声に出せば、まあよかろうとバランは語り始めた。
「そのメラゴーストは、呪文を維持できない程ダメージを与えてしまえば元に戻る。変身して戦い続けるのは、一定以上の強さの一撃を一撃もその身に受けることが許されないという意味でもある。本物であれば致命傷で無いからと敢えて敵の攻撃を受けてカウンターを放つと言ったこともできるだろうが、一撃でも身に受けることのできぬそいつでは、同じ方法はとれん。それどころか、常に攻撃を受けぬことを意識して動かねばならんのだ」
「っ」
それがメラ公達の弱点だと言われて、おれは自分の顔が強張るのを止められなかった。あんな短い時間でおれ達の誰もが気づかなかったメラ公達の弱点に気づきやがったんだ、ただ。
「まだだッ!」
おれが驚き慄いている間も、クロコダインのおっさんは動いていた。刃の壊れた斧をバランに投げつけると、腰の後ろに手を伸ばし、投げたのと同じ斧を抜いて自分の投げた斧を追いかけるようにバランに襲いかかていた。
「喰らえッ!」
投げ斧は牽制で、助走をつけての一撃が、本命。おっさんは投げ斧を弾いたバラン目掛けて斧を振り下ろし。
「ダメだ、おっさ」
おっさんと言い終えるより早くバランはおっさんの脇を抜け後ろに回り込むように飛びながらその腕を掴んでいた。
「うおっ!?」
肩を足蹴にされたおっさんが声を上げ、捻るようにして掴んだ腕をバランが持ってゆく様を見ればおおよそ何をするつもりかはおれにもわかる。
「閃熱呪文ッ!」
効かないと聞かされていても黙って見て居られる筈がねえ。俺は呪文を放つが、バランはまるで気にもせず。
「ぐああああーッ!!!」
腕を捻られたおっさんが絶叫を上げた。
「がっ」
バランはおっさんを更に蹴り倒し。
「おっ……おっさあぁーん!」
「……この程度で私をどうにかするつもりだったとはな」
呆れも隠さず倒れ伏すおっさんを一瞥してからその目をメラ公の分体に向ける。
「ち、ちっ……ちくしょう!!! おれはどうでもいいってことかよ」
さっきの閃熱呪文は命中したはずだが、何のダメージにもなっちゃいねえ。だから、変身すればダメージを与えられるメラ公の分体を次は狙うつもりだ。
「姫さんっ! ゴメッ!! おれぁもうガマンできねェ!!」
たとえ何の役に立てなくたって、黙って居られなかった。
「おれは二人の手助けに行くぜ!!」
ダイを頼むとだけ姫さんに言い残しておれは走り出し。
「……なんの真似だ?」
杖を手に駆けつけたところでバランから飛んできた問いに決まってんだろと叫び返す。
「魔法が効かねえんだから、こいつでぶったたくしかねぇっ!!」
正直、震えが止まらねえ。虚勢でもはらなきゃ足も動かねえってのに。
「……ふれたか!? 小僧っ!!」
バランににらみつけられたとたん、まるで金しばりにあったみてえに動けなくなる。ヘビににらまれたカエルだぜ、こりゃ。
「私が初めにクロコダインを叩いたのは、ヤツのようなタイプが一番恐ろしいからだ。あらゆる呪文をはじくこの竜闘気も、それ以上のパワーや闘気をもってすれば傷つけられてしまうからな。その点においてはあのメラゴーストが変身した場合も厄介ではあるが、ダメージを与えることで変身は無理やり解ける」
そこでさっきこいつが言ってたメラ公達の弱点が関係してくるんだろう。おっさんならダメージ覚悟で攻撃を放てるが、メラ公達はそれができない、ただ。
「い……いいのかよ、てめえの弱点ベラベラしゃべっちまってよ……!」
「フッ!! 愚か者め!」
わからなくて聞けば、バランは鼻で笑って言葉を続けた。クロコダインならともかくおれのように非力な魔法使いの一打など蚊ほどにも感じぬわ、と。
「……いや! その程度の力でこの私を殴ったりしたらおまえの腕のほうがへし折れるぞ!!」
「……そうかよ! なら試させて貰ああっ!」
おれだって普通に殴ってどうにかなるなんて思っちゃいねえ。だけど、ダイやメラ公なあ、こんな状況だって諦めねえ。何か活路を見出すに決まってる。
「ただ、殴るだけじゃ……駄目」
言葉を反芻し。
「どうした、臆したか?!」
「違ぇよぉ! メッラゾォォマァッ!」
おれは閃きをそのまま行動に移す。杖が燃える炎を纏い。
「剣でも呪文でも駄目なら、これ、だったよな……ダイ!」
「なあっ?!」
「喰らいやがれぇっ!」
闘気の流れが呪文を弾くなら、直接叩きつけてやればいい。それでも防がれるなら、杖の先端が触れたところで呪文を放つ。クロコダインのおっさんにやったときより至近距離での呪文だ、おれもそれなりに痛い思いはするだろうが。もう逃げねえって誓ったんだ、あの時に。
「がっ」
意地でも当てるそう思って繰り出した一撃だったが、どうなるかを見る前に俺は腹に強い衝撃を受け。
◇◆◇
「……んあっ? うぐっ」
気が付くと、おれはぼんやりと霞むどこかの天井を見ていた。腹が痛え。
「おれ、どうなって」
「ポップ! 目が覚めたんだね」
独言を最後まで口に出来なかったのは、横合いからダイの声が聞こえたからだ。
「目が覚め……ああっ?!」
それで思い出した。
「おれはバランの野郎に」
「うん、殴りかかろうとしてお腹を殴られて……」
気絶し運ばれて今に至るらしい。
「って、それであのバランってやつは?」
「バランなら、帰ったよ。剣が折れてたし、本気で戦う気はなかったみたいでさ……」
「何だよそりゃ……」
助かった、たぶんそうなんだろうが、何と言うか腑におちねえ。
「あ、クロコダインのおっさんは?」
「クロコダインも手当てしてもらって、腕も元通りだよ。今は壊れた斧の刃を拾いに行ってるんじゃないかな」
「ってことは、寝てたのはおれだけかよ」
しまらねえと言うか、何と言うか。
「けど、ポップが無事でよかったよ。あんなムチャしちゃうんだもんなあ」
「悪ぃ」
顔をしかめるダイには謝りつつも、おれは悔しさからベッドの中で密かに拳を握りしめた。
と言う訳でメラゴースト君最大の弱点が明かされるの巻、でした。
次回、番外30「ニアミス(偽マアム視点)」に続くメラ。