ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
『なんか、おかしくないか?』
そう言ったのは誰だっただろう。大魔王の元に戻るAを含む仲間達と別れた俺達は一路テランを目指した。ベンガーナでは騒ぎを起こしていたのであちらは経由地に使えず、透明化呪文とルーラを併用してのものになったのは、きっと致し方ないことだと思う、だけど。
『確かに、湖の湖畔、民家のない方がなんだかかなり荒れてるような』
『ひょっとして、ひょっとしてだけどよ……』
間に合わなかったとか、と口にしたのはさっきまでポップの姿だったメラゴーストだ。ちなみに俺はマアムの姿だったんだけど、うん、いまはどうでもいいことだ。
『じゃあ何、ダイがバランにもう記憶消されてるとか?』
『いや、それはないんじゃないか。Aの話だとバランも色々変わってるんだろ?』
透明のままひそひそと言葉を交わし合う仲間達。正直、テランに至ったばかりの俺達には戦闘があったんじゃないかぐらいのことしかまだ分からない訳だけど。
『あ』
誰かが声を上げた。
『なんだ?』
『どうし』
『空だ、空を』
見ろと続ける声を聞きながら見上げた空にはこの地に向かってくる人影があった。
『バラン?』
『いや違う、あれは』
大魔導士マトリフだ、そう誰かが言う。
『まっ、マトリフ?!』
『アバンの書を持ってきたとか?』
『バカな、タイミングが違う』
騒然とする中、俺も暫し呆けていたけど、ふと我に返り。
『静かに、気取られるよ』
警告が功を奏したのだろう。突然沈黙が訪れる。透明化呪文の残り時間がやや気がかりだが、切れなければ見つからずには済むと思う。しかし、マトリフか。バランの襲撃もAがカールで深手を負わせたり何なりで後方にずれ込んだこともあるんだろうけれど、アバンの書も焼失を恐れて別の場所に移したとAから聞いている。
『はぁ』
見つけるのに手間取って時間がずれたか、それ以外の、例えばAが大魔王に誘われて戻ってこなかったことを聞いて、アバンの書なんて探してる場合じゃないと戻ってきたか。原作でマトリフがテランを訪れたのは夜中のことだったことを鑑みれば、マトリフの行動一つとっても原作通りに動いていないのは明らかで。
『……いったか』
声を潜めていた仲間の一人が口を開いたのは、地面に降り立ったかの大魔導士が民家の方に歩き去ったのを認めてからだった。
『まさかここでニアミスしかけるなんてな』
『けど、問題はあのマトリフがどうしてこのタイミングでテランを訪れたか、だよな』
『うん』
透明化呪文もとけ、深刻そうな顔で発言した別の俺の言葉に頷く。
『アバンの書を持ってきただけならいいけど、Aの行方不明を今伝えられるのは色々拙いよね』
『ああ。まぁ、Aにモシャスしてひょこっと顔出せば一時は誤魔化せるけどな。身ぐるみ剥いだ時にアバンのしるし取り上げておくべきだったかもな』
後悔を口にするメラゴーストの言葉に他のメラゴースト達から同意の声が上がる。
『とりあえず、誰かモシャスしてあっちに合流してくれる? 向こうにも誰かはついてると思うけど、情報把握しておかないと拙いことになるかもしれないし』
何よりマトリフがどんな用で訪れたのかきになると言えば。
『じゃあ君が行ってよ。おれ達だとオリジナルがたぶんあっちに居て混乱を招くし』
『あ゛』
返ってきた意見は、予想外でありながらも至極もっともで。
『モシャス』
俺はマアムそっくりの姿に変身すると、他の仲間へ行ってくるわねと言って歩き出す。
「なんでマアムの姿に変身なんてしたのかしら」
足取りは若干重く。けど、とまる訳にもいかなくて。
「まだマトリフ……マトリフおじさんは見えな、っ」
一応マアムっぽく振る舞おうとしつつ、独言の途中で思い至る。あの大魔導士、セクハラ大魔導士でもなかっただろうかって。
「ああああっ、そうだったーっ!」
やられる、確実にセクハラされる。中身は男の筈だが、だからってセクハラされても大丈夫とはいかない。
「うう」
本日何度目の後悔だろうか。
「……あいつら、まさかこれが解かってて俺、じゃなくて私に行かせたの?」
だとすれば、全員殴るくらいは許されるだろう。
「はぁ」
俺はもう一度ため息をつく。動き始めた足は、何故か先ほどよりもやたら重かった。
次回、十話「バランと合流せよ」に続くメラ。