ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「クエッ」
鳥の魔物に変じた俺が上空で声を上げたのは、まず湖の側に明らかな戦闘痕を見てとったからだった。たぶんバランと一戦した現場なのだろう。加えてその辺りに人影がないことを見るに、戦闘は終わった後の様でもある。
「外を出歩いてる人が居ないのが気になるな」
言葉がしゃべれたら、そう口にしていただろうか。原作でもバラン戦があった後のテランの人達は自宅に引きこもって祈りをささげたりしてる描写があったし、バランがもう一度来るとでも言って、今に至るのかもしれない。とはいえ推測の域を出ず、更に詳しく事情を知るには下に降り、住民や居るならダイ達の話を盗み聞きする必要がある。
『モシャス』
人気のないところを選んで地に降り立ち、変身呪文が切れるのを待って俺は呪文をかけなおす。
「ふむ、考えてみるとこの姿は初めてかもしれんな」
他者に見られることを鑑みて、俺が模すのに選んだのは超竜軍団長バラン。ここへ再訪してもおかしくないというのもあるが、この姿をチョイスした最大の理由は、竜の紋章の波長を利用した内緒話が可能な点にある。それならダイに変身してもいいのだが、衣の魔杖を身に着けて更に正体バレを防ぐ気でいる俺としてはダイへの変身は避けたかったのだ。
「声はそのままだからな」
装備で姿は隠せても、少年特有の高めの声に加え聞き覚えのある声では中身がダイにモシャスした誰かと悟られるかもしれない。だが、バランならば軍団長二人はさておき、ダイ達にとって耳にしたのは、バランと戦った時ぐらいだろう。口調を変えて、声も出来うる限り高いか低いかに調整しておけば、誤魔化せるはずだ。
「こう、一人で複数の役をこなす声優さんの気分だが」
バランは厳格でまともなイメージであることを鑑みると、キャラとしてはふざけて行くべきか。現在の魔王軍の幹部で出来れば被らない方が好ましい。
「むぅ」
すぐに思いついたのは、一つある。だが、あまりにもアレ過ぎてバランにボコボコにされないか不安な感じのキャラだ、それは。
「おネェ」
人はそのキャラだちをそんな風に呼ぶ。
「まあ、見つかると決まったわけでもないし」
あくまで会話の必要が生じた場合の備えだ。むしろ気にしすぎるとそれがフラグになって会話が必要になる事態になりかねない。バラン捜索の時とかもそうだったのだ。俺は過去の失敗に学ばねばならない。
「いっそのこと鏡面衆のふりしてなすりつけてもよかったかもしれんが」
流石にその場合、発覚と同時に部下にボコられる魔軍司令が誕生してしまう。
「いかんな」
ついつい余計なことを考えてしまった。無駄なことを考えている場合じゃないというのに。
「今日もバランが現れる様子はねえ、か」
そんな折だった。一軒の民家の中から聞こえた呟きを拾ったのは。透明化呪文がまだ効いていることを確認したうえで民家の窓近くに移動すれば、そこには外を見るポップの姿があり。
「ダイ、おれはちっと外で修行してくらぁ」
一声かけたポップの姿が窓の側から消える。
「なる程」
バランの再訪はなく、それでいてバランが来るかもしれないからテランからは動けないというのが現状であるらしい。なら、俺としてはダイ達より早くバランを発見できればいい訳であり。出来ることならその前に同行してるであろう分体とも話はつけておきたい。
「師匠――」
どうやって分体と接触するかを考え始めていた俺の口から思わず声が飛び出しかけたのは、民家の中で更にポップの声がしたからだ。
「師匠?!」
俺の師匠でもある勇者アバンのことは先生と呼ぶポップが師匠と呼ぶ人物に心当たりは一人しかない。マトリフだ、大魔導士マトリフがこのタイミングでダイ達に合流しているということで。
「ちょ、どうすりゃいいんだよ?!」
胸中でそう叫んで頭を抱えた。もしマトリフがバランとの戦いに加勢したら勝敗は全く分からなくなる。マトリフには最強の攻撃呪文があるのだ。アレが竜の騎士目掛けて放たれた記憶は原作になく、故にどうなるかが俺にも全くわからない。
「……いそがねば」
一刻も早く分体と接触して情報交換しなくてはならない。俺はすぐに件の民家を離れ、分体を探して周辺を歩きまわった。
「居た!」
ちょうどモシャスが切れるタイミングだったのだろう。人気のない場所へ歩み去ってゆくヒュンケルらしき人物の背中を見つけた俺はその背を追い。
『何が起こってるだと? 何がも何もお前が元凶だろうが!』
モシャスが切れたところで接触を図ったところ、切れられて殴られたのだった。
次回、十二話「もういっそお前がバランのフリすればって言われたでござる」に続くメラ。
夜の更新は出来ても年越しちゃうかもしれないので、ここでご挨拶しておきますね。
拙作をご覧いただき、ありがとうございました。
良いお年を。