ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「……あいつも修行か。なら負けてられねえよなっ」
ことの始まりはメラ公の分体が修行をして来るってここ数日世話になってる占い師のばあさんの家から出ていったことだった。
「悪ぃ、俺もちょっと出かけて来らぁ」
ひょっとしたらもうモシャスの呪文の効果が切れそうってのもあったかもしんねえが、おれがバランとの戦いで使おうとした魔法剣もどきもまだとても完成とまでは言えねえ状況だった。にもかかわらず、いつあのバランがまた襲ってくるかもしれねえんだ。じっとしてなんていられず、おれはダイ達に断りを入れてメラ公の分体の後を追う様に外に出て、迷惑になりそうにないところまで移動して修行を始めたんだ。
「まじかよ……あいつ、本職はおれと同じ魔法使いだよな?」
やがて修行を始めようとしたところでふいに湖の方を見ると、湖面が割れる姿があって、ちらりとだがおれも良く知る先生の必殺技を放った姿勢のヒュンケルの姿がそこにあった。
「モシャスの呪文か」
実際にはモシャスであの野郎の姿をとってるメラ公の分体だということはわかってる、だけど。
「モシャスの呪文が使えたら、おれもああいうこと出来んのかな」
魔法使いは本来遠距離から呪文を用いて戦うもんだ。だからこそ、近接戦闘なんてできやしねえ。実際、バランとの戦いでも拳一発でのされたらしいし。
「呪文が効かねえ相手と戦うなら――」
モシャスの会得も選択肢の一つかね、と思った時だった。さっき、メラ公の分体が修行していた辺りで爆音が聞こえ。
「っ」
たまらずおれは走り出し。
「おい! 何だ今のっ?!」
まだ無事なヒュンケルそっくりの姿を見つけて密かに安堵しつつも声を投げ、少し遅れて気づく。こちらを見て立ち尽くす人物がもう一人いたことに。
「な、なんだてめぇは?!」
敵、おそらくそうだろうってことはさっきの爆発でわかる。だが、ローブを着こんだそいつは初めて見る顔だった。顔の半分を薄布で隠し、フードを被ってるせいで表情もうかがえねえ。メラ公の分体と同じタイミングで漏れた一音からすっと、想定外の事態に驚いてるって風じゃあったけどよ。
「新魔軍司令、だそうだ」
ただ、俺の問いに答えたのは、当人じゃなくてメラ公の分体の方だった。
「なぁにぃ?! 魔軍司令?! じゃあハドラーはどうなったってんだ?」
「んー、ハドラーちゃんならたぶん元気よぉん?」
「なっ」
驚きと同時に疑問もわいて、口から漏れた問いにそいつは顎の辺りにピンと立てた人差し指を添えて首を傾げつつ言う。と言うか、いったが。
「たっ、たぶん?!」
「勇者一行、つまりあなたたちに関してはバラン殿に一任してて、ハドラーちゃんとは今引き継ぎの途中なのよぉん。本当なら、アタシは報告を待ってるつもりだったのだけど、バラン殿に用事があって探しに来ちゃったから」
今もハドラーちゃんはお留守番してるんじゃないかしらぁんとかそいつはふざけたことを言う、と言うか。
「なぁ、何だコイツ」
おれは思わずメラ公の分体にもう一回聞いた。
「新しい魔軍司令でトゥースと言うらしいぞ?」
「だーっ! そうじゃなくてよ、こんなナヨナヨしたヤツがなにをどうしていつの間に魔軍司令になってんだ!」
「まぁ、ナヨナヨなんて酷いわねぇん」
無駄に平静なメラ公の分体に思わず新魔軍司令とやらを指さし叫んじまったとしてもそれはしかたねえだろう。当人が心外そうなことを言ってるが知ったもんか。
「で、てめぇは何しに来やがった?」
「それならさっき言った通りよぉん。バラン殿に連絡事項があったから探しに来たの。さっきのはホンのあ・い・さ・つ・が・わ・り♪」
「なんだと?!」
確かにそんなことも言ってたなとは思ったが、それ以上に後半が衝撃だった。
「挨拶代わり?! これが?!」
周囲を見回せばすぐ見つかる破壊の跡は、極大呪文でもぶっ放さなければ起こりえないモンなんだ。
「少なくとも今はアタシに貴方達と戦うつもりはないわ。バラン殿に勇者一行のことは一任してあるからアタシがしゃしゃり出て行くのは違うと思うのよねぇん。ただ、アタシが連絡取りたがってるってことをバラン殿に伝えてくれたらちょっと嬉しかったりするんだけどぉ」
「たっ、戦わねえ上におれ達をメッセンジャーがわりにするだとぉ?!」
ふざけたモノ言いだが、問答無用で呪文をぶっ放すのもはばかられた。挨拶代わりの跡もあるものの、それ以上にバランの上司ってことになるとこのふざけたヤツはバランより強いかもしれねえんだ。
「仕方ないじゃない。任せるって言ったのにここで貴方達を全滅させたらバラン殿に合わせる顔がないもの。それに、別にボランティアしてくれって言ってるわけじゃないわよぉん? 後払いだけど、そうねぇ、アタシに答えられることなら質問してくれれば答えてあげてもいいわ。これでどう?」
「なに?」
見返りとしては悪くないんじゃないかしらぁんとかのたまうトゥースって野郎は、おれを見ながら首を傾げ。
「その必要はない」
声が空から降ってきたのは、その直後のこと。
「な」
空を仰げばそこには腕を組んだあのバランがおれ達を見下ろしていたのだった。
まさかの時間差。
次回、十四話「やっと会えた」に続くメラ。